64 異文化交流のすすめ その3
その後『本物のお化けが出るホラーハウス』を巡ったり、お土産屋さんでSDシードラゴンマスクや他のヒーローぬいぐるみやリアルタイプフィギュアをみんなで『大人買い』したりして、あっという間に夕方になりました。
「それじゃあ、今晩はガルーダ王国の王城に泊まりましょう♪」
ニコニコしながらアリス姫が提案されます。
「じゃあ、次の日はグリフォン王国の王城に泊まろうね♪」
ミーシャさんが嬉しそうに話を継ぎます。
あっという間に『二泊することが確定』しました。夏休みが減るわけでもないので、みんなも特に反対しないようです。
王城ではまたまた大歓迎で、みんなでまくら投げをしたりしましたが、今回は翌日に備えてほどほどのところで『アルさんの睡眠魔法』で強制的にお開きになりました。
翌日は朝食後ガルーダ王国首都フェニックスタウンの冒険者ギルドへみんなでぞろぞろ歩いていきます。
街中を歩くときも私たち一行は異様に目立っていましたが、ギルドに入ると大人数なのとアリス姫やサーヤさん、ミーシャちゃんまでおられるので、建物内が騒然となります。
「こ、これはアリス姫様!!一体どのようなご用件で?!」
ギルド長さんと思しき壮年の男性が慌てて出てきます。
「ええ、こちらの『冒険者の方たち』がこちらのギルドで仕事を引き受けたいそうなの?何か適切なお仕事を紹介していただけないでしょうか?」
ギルドの中がさらに騒然となります。
姫様自ら『こんな話をする』とかおそらく前例がないのでしょう。
ギルド長もスタッフの人達も大慌てです。
「こちらでお話をお伺いしますので、どうぞお越しください。」
スタッフの方たちに案内されて広めの応接室にみんなが入っていきます。
「そちらの方々は以前確かにこのギルドに登録していただいてます。この方たち全員でできるお仕事をお探しということなのですね。」
秘書の若い女性と冷や汗をだらだら流しながらギルド長さんがなんとか話を切り出す。
「ええ、私たちを含めたここにいるメンバー全員がやってちょうどいい仕事があればいいの。」
「まあ、体験することが大事やから、難易度はあまり気にして貰わんでもええんや♪」
アリス姫と光ちゃんの話を聞いてギルド長さんが卒倒寸前になっておられます。
アリス姫とサーヤさんとミーシャさんの正体を知っているギルド長さん取ってはとんだ爆弾発言だよね。
「……そ、それでは……魔王軍を倒した勇者パーティーで、勇者様だけおられない3名様がおられるメンバーで、お仕事を探されているわけですね…。」
「いいえ。勇者様も入っておられますから♪」
涼しい顔で返すアリス姫に、ギルド長さんは青白かった顔が白くなってきた。
「そうだ、ギルド長!例の件はいかがでしょうか!!」
同じように青白い顔をされていた秘書の女性(20歳くらいのできる系の美女だ)が何かに気付いて、声を上げた。
「確かに、あの件はこの方たちくらいにしか頼めない!
済みませんが、聞いていただけないでしょうか?」
ギルド長と秘書さんが話を始めた。
なんでも、ここから二週間くらい馬で行った山奥に『竜の谷』と呼ばれる場所があり、たくさんの竜が住んでいるのだそうです。
そこの竜が最近急に増えてきたという目撃情報がたくさんあり、詳細の調査をお願いしたいというのです。可能ならば、竜たちを何とかしてほしいという話です。
うん、『どこかで体験したような』話ですね。
「なにしろ、そこの竜たちの長は『大魔王軍にも参加していたドラゴンロード』ですから。勇者様にでも頼むしかないと、頭を痛めていたのです。」
ギルド長さんは私たちに必死で頭を下げてきます。
どう見ても『先日修学旅行で廻った竜の谷』のことだよね。
私が口を開こうとした時、アルさんがスマホを取り出して会話し始めた。
ええ?!アルさんが電話する相手って?
「はーい、お久しぶりです。お元気ですか?ええ、私たちは元気ですよ♪
なんか、最近そちらの『人口が増えた』という話があるんだけど、状況を教えてもらえない?
え?『勇者の精神』をたくさんの竜に伝えたいから、集めて回ったわけなのね?
了解しました。じゃあ、後でみんなで寄ってみるね♪
ええ?!そこまで感激してくれなくても大丈夫だから。うん、歓迎してくれてうれしいです♪」
ギルド長と秘書さん以外にはアルさんがどこに電話したかがすぐに分かったようです。
「じゃあ、今から竜の谷に行って状況を確認してきましょう♪」
アルさんはそういうと、『大きな扉』を懐から取り出した。
「じゃーん、どこでもゲートです♪この扉をくぐれば竜の谷に到着です」
ニコニコ笑って扉を示すアルさんにギルド長と秘書さんは完全に固まっています。
そして、困ったようにアリス姫を見ると、アリス姫は嬉しそうにうなずきます。
「大丈夫です。彼女たちに付いていけば全て解決しますから。」
私たちが扉を開くと目の前に全長二〇メートルはあろうかという真っ赤な巨竜がいて、私たちの姿を見てびっくりしています。
周りにも何十匹という竜がいて、私たちをしっかり認識すると同時に全員が腹を見せて『服従のポーズ』を取り出します。
「いやいや!友達になったのだから、そんなポーズとらなくていいからね?!」
私が思わず叫ぶと、竜たちは起き上がり、ドラゴンロードは目に涙を浮かべて言いました。
「思わず反射的に服従のポーズを取った我々に対し、なんと思いやりに満ちた言葉を掛けていただけるのでしょう!さすがは勇者様!」
ドラゴンロードに従って、他の竜たちも私たちに頭を下げてきます。
その後、さらにたくさんの竜が集まってくれた後、彼らは次々と人間の姿に変わります。
竜でも年齢を経て力をつけると『人化の魔法』が使えるようになるのだそうです。
「それでは、あなたたちは人間界に侵攻されるようなことはないと。」
「もちろんです。『大恩ある勇者様』の意向に沿わない行動を取ったりはしません。」
ギルド長の問いに筋肉質の初老の男性の姿を取ったドラゴンロードがきっぱりとうなずく。
「それに君たちの国は『勇者様のご友人』が姫様でいらっしゃるとか。可能な限り友好関係を築いていきたい。」
聞いていて背筋がむず痒い発言が飛び交います。
この後、話が弾んで竜の谷との交易がはじまることになったようです。
数年後小早川理事長が『竜の谷テーマパーク』を設立し、観光地として竜と人が共存するモデルケースになったとか。
「というわけで、あまりにもあっさり案件は解決してもうたわけなんやけど、他にいい依頼はお持ちではないんでっか?」
結果としてアルさんがあっという間に一人で解決してしまったので、『社会研修』の続きをしようということになりました。
「ええと…そうだ!このオータム国からの依頼があった!!
先ほど入ったばかりの話で、本来なら『勇者様が来られでもしない限り無理』だと思っていた依頼だけれども、こうして勇者様がお越しいただいたのも天のおぼしめしに違いない!」
聞いていて、『嫌な予感』しかしないのですが、どういった依頼なんでしょうね?
「実は西大陸のオータム国からの依頼なのです。」
「待ってくれ!それって、俺が召喚されていた王国だよ!」
ギルド長の話に伊集院君が叫ぶ。
そうでした、伊集院君はオータム国で召喚された『烈火の勇者』だったのですよね。
「なんですと?!それではますます適任ですね!実はオータム国…正確には西大陸に今度は『暗黒魔王』と名乗る存在が現れて『降伏勧告』をしてきたのだそうです。
各国の精鋭が直ちに調査に向かったのだそうですが、あっさり返り討ちにあって、各国とも次の手を打ちかねている状態なのです。
どうか、暗黒魔王を倒し、西大陸に平和をもたらしてください!!」
ギルド長が私たちに頭を下げる。
…えーと、『異文化交流研修の授業』で魔王退治とかすごすぎる状況ですね…。
「じゃあ、オータム王国へ行って詳しい状況を確認しましょう。」
アルさんがまたもや『どこでもゲート』を取り出します。
そして、私たちはゲートをくぐって、冒険者ギルドを後にします。
「ただ今戻りました。事件は無事解決です♪」
半日後、ゲートをくぐってギルドに戻るとアルさんがニコニコして報告します。
「はやっ?!どんだけ仕事が早いんですか?!それで暗黒魔王は?!」
「もちろん、『改心』して、これ以上悪さをしないと誓ってくれたわ♪」
「すばらしい!!さすがは勇者様だ!あなたたちにお願いしてほんとうによかった!!」
ニコニコしているアルさんにギルド長は思い切り頭を下げている。
ちなみに他のメンバーはみんな思い切り疲れた顔をしている。
「なるほど、暗黒魔王は皆様を困窮させるくらい手ごわい相手だったのですね…。」
ギルド長が感慨不陰に私たちの顔を見る。
本当は違う意味でいろいろあったのですが、その話をしても長くなるだけなので、適当に相槌を打つことにします。
なお、『暗黒魔王編』はまた後日詳細をお伝えする日もあると思います。
「じゃあ、今日は適当に夕飯を食べたらどこに泊まりましょうか?」
「はい!グリフォン王城へお願いします!!実はすでに連絡して料理の準備もできています!」
アルさんの問いに元気を取り戻したミーシャさんが声を上げる。
うん、さすがはグリフォン王国女王です。仕事が早いです。
もちろん、その晩もグリフォン王城で『まくら投げをして、みんなで夜更かし』です。
翌日の朝、『暗黒魔王を倒したのだから、仕事休ませて~!』と叫ぶミーシャさんを大臣が引きずっていき、ミーシャさんとは別行動を取ることになりました。
その後もハワイへ行ったり、ペルーのマヤ文明の遺跡を見たり、有意義な時間を過ごしました。
単に観光しただけ…という話もありますが…。
旅が終わったのはなんと二週間後でした。
戻った時間が『猫バスが出発してすぐ』の時間だったので、長ーい夏休みが丸ごと残っています。
では、私も最後の夏休みを謳歌させていただくことにします。




