62 異文化交流のすすめ その1
※忘れた人のための登場人物紹介
アリス・デ・ラ・マクベイン :異世界の姫。聖女。 少しウェーブのかかった金髪を腰まで伸ばした癒し系の美女。真面目で一生懸命な人。現在三年雪組に留学中。
サーヤ・エレメントリー・ガイア :ハイエルフの魔法使い。きれいな銀色のストレートの髪を膝下まで伸ばしたはかなげな超絶美女。実はマイペースで、強心臓。三年雪組に留学中。
ミーシャ・アウル・ダレス :元魔王の娘で現在は女王。ゴーレム使いで肌が褐色のかわいい系のロリキャラ。人のいいさばさばした体育会系。
石川トラミ :未来から来た人造人間の猫耳娘。好奇心旺盛なウルトラマイペース娘。三年雪組専属運転手で、スーパーヒロインミラクルキャット。いつの間にか石川家の戸籍を取得。
橋本太郎 :お調子者のフツメン高校生。行動的で面倒見がいい。いじられキャラ。
氷室琴美 :『リアル悪役令嬢』の異名を取る釣り目の美人のお嬢様で、ツンデレ系の雪女の姫。ツッコミが得意。
小早川充 :風流学院高校理事長で、天然の超絶イケメン。歯を光らせるのが特技。『あくまでも華麗に、そして軽やかに!キャプテンゴージャス!ただいま参上!』
石川瀬利亜 :ある時は長い銀髪のハーフの美少女高校生!またある時は交渉から戦闘までなんでもござれのA級モンスターバスター!しかして、その実体は『大怪獣ゴメラ』を素手で瞬殺する無敵のスーパーヒロイン、シードラゴンマスクである!
熱く燃え盛る正義の心のある限り!シードラゴンマスクは今日もゆるふわ仲間とと共にさまざまな『おもしろ事件』に立ち向かうのであった!
無事期末試験も終わり、本日は三年雪組は『海外…もとい、異世界からの留学生のための異文化研修授業』を行っております。
トラミちゃんの運転する猫娘バスに乗って、さまざまな場所を訪れ、留学生のアリス姫、サーヤさんはもとより、クラスの全員がいろいろ体験学習しちゃおうという授業であります。
猫娘バスの機能とトラミちゃんが持参したタイムマシンの機能をアルさんが『大魔女専用魔法』で合体させたので、時間や世界を超えていろいろ体験できるそうです。
もう、ドラ◎もんのタイムマシンをクラス丸ごとで体験できるというインチキチート仕様です。ただ、タイムマシン仕様を機能させる際は『アルさんが同乗』することを必須条件にしたので、暴走はかなり食い止められる…と信じたいです。
最初の目的地は…どうして、近場のテーマパークの『わくわくランド』なんですか?!
選択が間違ってます!!
え?留学生のお二人の希望を最優先したから…ですか?
ええと…なぜかグリフォン国女王のミーシャちゃんまで搭乗されているのですが…。
ミーシャちゃんは完全にうちのクラスの溶けこんでわいわい騒いでおられます…。
まあ、いいんですけど…。
わくわくランドの入り口では着ぐるみたちが迎えてくれます。
アニメや特撮系のヒーロー・ヒロインだけでなく、往年の、そして現在の実在のヒーロー・ヒロインの可愛らしい着ぐるみキャラもあちこちにたむろしてます。
巨大ヒーローザップマンや、烈光仮面、SDシードラゴンマスクやSDシードラゴンザップマン、SDシードラゴンマスク・コンバットバージョン……SDシードラゴンマスク系が多すぎるんですが?!!
「はっはっは、シードラゴンマスクがあまりに人気があるからさ♪どうしても種類が多くなってしまうんだよ♪」
歯をキラッと光らせながら小早川理事長が私たちを出迎えてくれました。
充さんはわくわくランドを始めとするテーマパーク事業を展開されているのです。
「まあ、先日のスーパーヒーローオリンピックのおかげでシードラゴンマスクだけでなく、大会に参加したヒーロー関連の商品は全体に大人気なんだ。
ほら、あっちでは『ライトニングガール』や『電脳マジシャン』『マジカルコンバットガール』『ミラクルキャット』の着ぐるみキャラがいるんだ♪」
充さんの指さす方を見ると、確かに大会に出たスーパーヒーローたちの着ぐるみが子供たちの相手をしていた。
それを見て、光ちゃん、トラミちゃんはすごくうれしそうだ。自分を模したキャラが人気があるのは嬉しいのだね。私は…ここまで来ると気恥ずかしいのですが…。
おおっ?!SDマジカルコンバットガールの着ぐるみを見て、望海ちゃんが恥ずかしそうにしているぞ!この子のこんな姿を見るのは初めてなので、妙に新鮮です♪後でネタにしてちょっとからかっても面白いかもしれません。
「小早川理事長!どうしてSDミラクルファイターがいないんだ??!」
…もしもし、齊藤警部?!どうしてあなたがこんなところにおられるのでしょうか?ミラクルファイターはヒーローとしては『いぶし銀の渋いキャラ(本人は刑事コロンボ似)』なんですから、着ぐるみになっていないからと言って、文句をつけられるようではいけませんよ。
「いえ、ヒーローオリンピック終了後、最初はいたんですよ。ただ、しばらくしてあまり人気が出ないので、キャプテンゴージャスともどもお蔵入りになってしまったのです。」
言いながら充さんの表情はすごく寂しそうだった。
「…そ、そうか…なら仕方ないな…。」
自分以上に残念な空気を出している充さんにそれ以上どうこう言えずに齊藤警部は沈黙する。
「にゃはははは、最近のトレンドはかわいい女の子なのにゃ♪地味なおじさん達は『キャラクター商品』には向かないのにゃ。」
トラミちゃんがいつの間にか『SDミラクルキャットのぬいぐるみ』をゲットしている。どうやら充さんにもらったらしい。
トラミちゃんのセリフに齊藤警部、充さんはさらに落ち込んでいるようだ。
うん、しばらく放置しておいてあげよう。
「うわー、いいなあ、それかわいい♪」
「私もそれ欲しいなあ♪」
うちのクラスの女の子たち(アリス姫、サーヤさん、ミーシャさん含む)がうれしそうにトラミちゃんの持っているぬいぐるみに群がっている。
「あら、SDミラクルキャットにSDマジカルコンバットガールのぬいぐるみもここの売店に売っているわよ♪」
アルさんのセリフに女性陣が一斉に売店に向かおうとする。
いやいや!どうしてテーマパークに来て、いきなり売店なんですか?!
「ほら、買い物は一番最後だから!ちゃきちゃき廻らないと時間がなくなるわよ。」
「あら、瀬利亜ちゃん、大丈夫だから。せっかくの研修旅行だから、いざとなったらタイムマシンを使えば、時間を気にせずに済むようにできるよ♪
それから眠たくなったらイギリスのお家に来て昼寝してもらえばいいし♪」
アルさんがとんでもないことを言いだしたよ?!!
「それから、泊まりたくなったらいつでもガルーダ国王城に泊まっていただいて大丈夫ですから♪
お城のみんなも皆さんが来られるのを楽しみにしてますし♪」
アリス姫!そんなことをしていたら修学旅行の第二弾になっちゃうよ?!!
その気になったらエンドレスの研修になるのですが…。
「でも、今回は半日の研修だと思っておこずかいをあまり持ってきてないんだけど…。」
橋本君が不安そうにアルさんに語りかける。
「それなら全然問題なしや。実はうちのクラス全員ガルーダ王国の冒険者ギルドに登録済みやから、いざとなったら『冒険者ギルド』で仕事を請け負えばいいんや。
『異世界の仕事体験研修』なんてなかなかできへん貴重な体験や。
実入りもかなりありそうやしね。」
光ちゃん、あなたなんていうことをしてくれるんですか?!
トラブルを起こさないために校長は光ちゃんを引きとめたはずなのですが、あなたの方がトラブルを作りだしてどうするんですか!!
「あと、二度にわたるカソノ村の村おこしでクラス全体にかなりの報酬がもらえとるんや。
宿泊費や食費はそこからとして使わせてもらうから、そっちはみんな気にせんでええで♪」
光ちゃんの説明にみんなから歓声がわく。
ううむ、これは今回も『長期戦』が予想されますね。肚を括っておいた方がよさそうです。
そして、いよいよわくわくランド内を私たちは進むことになった。
「これが世界最大の観覧車。スーパーひまわりくんや♪
高さ六六六メートル。観覧部分の直径が六六〇メートルいう規格外の観覧車や。
こんだけでかいのに一周するんが二〇分しかかからへんのもすごいやろ♪」
「光ちゃん、それ、技術的におかしくない?」
「さすが、瀬利亜はん。よう見抜きはったね。いろんな超技術が使こうてあって、早い割には乗り心地もすごい快適なんや♪
さあ、みんな、乗ってみまひょか♪」
はい、八人乗りのキャビンに誰と誰が乗るかですごくもめました。
スリムな女性だから大丈夫だろうということで九人乗ってます。
アルさん、曲がりなりにも教師なのですから、あまりわがまま言わないで下さい。
ちーちゃんと遥ちゃんはキャーキャー言いながらは私にすがりつかずにちゃんと外を見ましょう。
ジェットコースターやお化け屋敷ではないんですから。
アリス姫、サーヤさん、ミーシャちゃんはすごく興味深々に周りの風景を一生懸命見回されてます。うん、そこまで風景が気になるなら無理に私と一緒でなくてもよかったのでは?
「やはり、トラブルに備えて我々が乗りこんだのは正解でしたね♪」
「全くだニャ―。任せるにゃ♪」
望海ちゃん、トラミちゃん、会話の意味がわかりません。
アルさん一人いてくれればアルさん自身がトラブルのもとでない限り大丈夫です。
「すげーー!!ここから海がみえるんだな!!」
ミーシャちゃんが大はしゃぎです。確かにこれくらい高いと太平洋がきれいに見えるのです。
「ほらほら、向こうには富士山も見えるよ♪」
アルさんが富士山を指さし、みんながそちらを嬉しそうに見ている。
さすがにこの季節だと雪はないものの、三角のきれいな山形は美しいです。
「ほらほら、富士山麓には怪獣も来ているようだよ♪」
みんなが嬉しそうに怪獣を見て…ちょっと待てい?!!それ、ヤバイじゃん!!
「ええ?!瀬利亜ちゃん、大丈夫だよ。富士山麓には地球防衛軍の基地があるから、すぐに退治してくれるよ♪」
おおっと、一瞬ドキっとしましたが、確かにそうです。まもなく巨大ヒーローザップマンが到着し、怪獣と戦い始めます。
みんなはテレビ番組でも見るような感じで観戦してますが、よく考えると『リアルバトル』なんですよね…。まあ、あの状況なら街に被害が行くようなことはないでしょうけど…。
ちょっと?!!ザップマンさん、負けてんじゃん!!!
まもなく双子が生まれて正式にパパになるんだから、簡単に負けてちゃダメじゃん!!
そして、気絶したザップマンに怪獣が迫ってきた時、怪獣の上に巨大なクラゲのような怪物が急に姿を現した。
「あらあ、美夜さんの式神だわ。さすがに本部が近いと展開が早いわね♪」
アルさんの言うように世界最強の陰陽師にして、防衛軍副隊長の美夜さんの操る式神はザップマンの『数十倍以上強い』ので、見ていて安心感が全然違います。
巨大クラゲの放つ電撃で怪獣はあっという間に黒こげになると、その場に崩れ落ちました。
そして、クラゲ型式神はザップマンを抱えると、飛び立っていきます。
「なるほど、ザップマンが時間を稼いで、その隙に美夜さんの式神が倒したのね。最初から計算ずくの素晴らしい連携プレイだわ♪」
巨大ヒーローが倒れるという展開に少し不安げだったみんなはアルさんの解説で明らかにほっとした顔になります。
…嘘も方便ですからね…。どう見ても『ザップマンさんは倒す気満々』だったのですが、単に返り討ちにあっただけですよね…。
それに気づいているちーちゃんと望海ちゃんは微妙な顔をしています。
まあ、ザップマンさんの不名誉になることを言いふらしても仕方ないので、黙っておくことにします。
一〇分後観覧車から続々みんながおり始めて、再び合流します。
ん?光ちゃんや橋本君、伊集院君、楓ちゃん、氷室さんは同じキャビンに乗ったのですが、なぜか、男性陣だけが顔色がスゴク悪いです。
何があったのでしょうか?
「瀬利亜はん、ザップマンはんの戦いに『男が弱いと立場がない』実例をしみじみ感じてもうたんや…。」
さいですか…。そっちのキャビンでは『ザップマンさんをフォローする人がいなかった』ので、男性には厳しい現実が見えてしまったのですね…。
「にゃるほど、そちらのメンツは全員、片思いや両想いの相手が『男性より強い』から、他人事じゃなかったのにゃね♪」
おいおい!!トラミちゃんのセリフに光ちゃん、橋本君、伊集院君の三人が地面にのの字を書きだしたよ??!!
結局三人の『説得』に一五分かかった後、研修は再開されたのでした。
それにしても橋本君は『トラミちゃんにすら片思い相手がモロバレ』とは、気の毒ですね…。
しかもその相手と同じキャビンで『男性がふがいない状況を一緒に観るとは』…おっとっと、これ以上は橋本君の名誉にかかわりそうです。
続く




