60 熱血教師は報われない その2
ため息をつきながら校門を出ると、誰かが電話をする声が聞こえた。
「え?仕事が増えたんだ。じゃあ、一緒に帰ろうかと思っていたけど、私だけ先に戻るわね。
えええええ!!そんなに嘆かないの。夜はしっかり時間を取ってあげるから♪じゃあ、また後で。」
ええと…校門の傍に昼間いろいろあった石川がスマホで誰かと電話を終えたところだった。
石川は俺の視線に気づくと声を上げた。
「えっと、確か東村山先生?!」
「東山田!!…それから、どうしてこんな遅い時間に学校に?誰かを迎えにでも来たのか?」
「ええ。仕事が終わったから、光ちゃ…錦織先生と一緒に帰ろうかと。」
ん?錦織…てさっき会った三年雪組の担任で……石川と結婚したばかりだと『注意事項』に書いてあったのを思い出した!!
こんな『宝塚美人の女子高生と新婚』とは、なんて羨ま…けしからん!!
「そういや、石川は錦織先生とは結婚していたんだよな。いや、高校教師と教え子が在学中に結婚とかよく問題にならなかったよな。」
「問題になるといけないから、本来は退職予定だったの。
ところが、『三年雪組を制御できるのは錦織先生しかいない!』と校長から強烈な引止めが入って、一年間延長になったの。」
石川が少し遠い目をしながら言う。
そうか、三年雪組は学校一の『問題クラス』なのだな…。問題と言うより『不条理』な気がするのだが…。
「…ところで、昼間の『用事』てどんな用事だったんだ?今しがた『仕事』と言っていたように聞こえたんだが…。」
俺の言葉に石川は少し驚いて、目をしばたたいた後、ため息をついた。
「まったく、あの校長は東山田先生にうちの学校の『特殊事情』を全然話していないのね…。
相変わらずふざけた校長だわね…。」
「いや待て!一体何を言っているんだ?!」
「そうねえ、話さないと話が進まないようだから…。」
慌てる俺に石川が口を開きかけた時、石川の携帯に着信音があった。
「ん?この着信音は校長からだわ。はい、もしもし。え?東山田先生にはまだ詳しい事情は話さないでくれ?どうしてですか?!
はい?適性検査とこれからの先生の将来がかかっているから?
せめて、明日校長の話が終わった後ならいい?
あ、切れた…。」
校長?!!一体どんな電話をしてるの?!どうして石川にこのタイミングで電話できるの?!!
「…ええと、と言うわけなので、詳しい事情は明日の校長の話が終わった後ならいろいろお話しできますので。」
「待て、石川!ということはお前さんは学校の事情に詳しいのだな?!」
「ええ、そうだわね。多分、生徒の中では一番詳しい方だと思うわ。教師なら、校長は別にして、錦織先生か、山縣先生、アルテア先生…いえ、アルさんはやめた方がいいわね。あの人に話させるとかえってわけがわからなくなりそうだわね。
ということで、校長の話の後は教師だったら物理教師の錦織先生か、国語の山縣先生がかなりわかりやすく説明してくれると思うわ。」
クラスメートの信望が厚そうだと思ったら、確かに石川は親切なようだ。
ただ、昼間の猫耳の女の子のことがすごく気になるのだが…。
「ところで、例の猫耳の子は一体…。」
「え、あの時話したまんまだけど。もっと詳しい事情が聞きたい?」
…石川はどう見ても『真剣な表情で』話しているよな…。
「二三世紀に工場で生まれたけど、欠陥品で売れ残って危うく廃棄処分寸前だったそうなの。
そこをマルシアちゃんという女の子が買ってくれた後、そこのお父さんが腕のいい『ロボット職人』だったから手を入れてくれて、ちゃんと動くようになったのだそうよ。
命を救ってもらったうえに、かわいがってもらった恩義を感じたトラミちゃんはやりくりが大変な工場を何とかしたいと思ったの。
そこで、マルシアちゃんの先祖が失敗した過去を改善するためにご先祖のところへタイムマシンで行ったそうなのよね。」
ふむふむ、『例の話』をちょっともじった設定だね…。『設定』だよね?!!
「そしたら、ご先祖さまから『宝石セット』を頂いて帰って、マルシアちゃん一家はその宝石を元手に工場を持ちなおして、今ではすごく生活が楽になったのだって。
お父さんも新しくなった工場で嬉しそうに作業していたわよ♪」
「待て!ちょっと待ってくれ!!どうして『作業していたわよ』てまるで見てきたようなコメントなの?!」
「うん、トラミちゃんにタイムマシンで連れて行ってもらったからね♪
なんなら東山田先生も今度一緒に行ってみる?
ほらほら、その時の写真♪」
言いながら石川が嬉しそうにタブレットのデジタル画像を見せてくる。
はああああ!!すごく『未来的な工場』で石川が雪組で見た何人かの生徒と錦織教師と、アルテア教師と気のよさそうな夫婦とお嬢さんと一緒に写ってるよ?!!
合成写真だよね?!!
石川は一点の曇りもない笑顔で話しかけてきている…。うん、『ほら話』だとわかっているから『楽しく演技』してくれているんだよね?!お願い、神様、そういうことにしてください!!
「ねえ、東山田先生。なんか疑ってない?信じられないようならトラミちゃんに連れて行ってもらおうか?タイムマシンだから、ちょうど『今の時間』に戻ってくることもできるわよ。」
「いや、もちろん、信じているとも!でも…相手の方の都合も考えないといけないだろ?」
「あら、タイムマシンを使うから『相手の都合のいい時間に合わせる』ことは楽勝だわ♪」
「いや、石川とトラミちゃんの都合がよくないないだろ?」
「あら、それなら『都合がいい時間帯のトラミちゃん』に来てもらえばいいし、私だったら『今の時間に戻してもらえば』全然問題ないから♪」
ねえ、この人なんでこんなに『口が立つ』の??それから、『ドッキリカメラのフリップ』はいつ出てきてくれるの?!!
「先生、さては『未来へ行くのが不安』なのね。大丈夫よ!一度行ってしまえばこっちのものだから♪やらない後悔の方がやった後悔よりずっと大きいと言うし、バンジージャンプよりはずっと怖くないから♪」
待ってくれ!!心の準備が!!!
「瀬利亜はん、お待た♪」
そんな俺に助け舟の声がかかってきた。
え?この声は錦織教師…。
「あれ?光ちゃん、仕事どうしたの?」
「いやあ、ちょうど仕事が終わった時にトラミはんがいてくれはったんで、一時間半前に戻してもろうたんや♪ホンマにトラミはん、助かったで♪」
「ふっふっふ、任せるにゃ♪光一さんも台所に立ってくれた方がさらにおいしいご馳走を頂けるにゃ♪」
錦織教師だけでなく、例のトラミちゃんも一緒…ということは今までの流れからすると…。
「ちょうどいいわ!このメンバーでマルシアちゃんのパパの工場へ見学に行くというのはどうかしら♪」
うわーー!!やっぱりそう来たか!!
…それから、『1時間半前に戻った』とかタイムマシンだよな…。
「ええと、瀬利亜はん…?」
「あ、光ちゃん仕事で疲れてるんだよね、ごめんごめん。じゃあ、もしかして東山田先生も疲れているのよね。気が付かなくてごめんなさい。」
…えーと、素直に引き下がってくれました。
優しいおじょうさんで助かりました…。
「あれ、東山田せんせやん。瀬利亜はん、どないしてん。」
「ほんとだニャ、東国原先生だニャ♪」
「いやいや、東山田だから!」
「私が光ちゃんを迎えに来た時に校門のところで鉢合わせたのよ。
じゃあ、私たちはトラミちゃんに送ってもらって帰るから、東山田先生お疲れ様です。」
「そうや!東山田せんせも途中まで乗っていかれまっか?」
「それはいいにゃ♪せっかくなのにゃから私の運転する送迎バスに乗ってみるにゃ♪」
うん、なんか、また『スゴイピンチ』が訪れたような気が…。
「うん、みんなの気持ちはありがたく受け取っておくから。
ただ、『道を覚えたい』から、今日は歩いて帰らせてもらうよ。」
「にゃはははは♪遠慮はいらにゃいのにゃ♪道は明日から覚えればいいのにゃ♪」
遠慮じゃないから!!!そっちに行ってしまったらもう二度と戻って来れなくなる気がしてるだけだから!!!
「まあまあ、トラミちゃん。今日一日あったことを歩きながら頭の中でまとめたいのよ、きっと。今日は放っておいてあげる方がいいみたいよ。」
「そうなのにゃ?人間は難しいのにゃね。」
こうして、風流院高校での初日は無事…無事じゃないけど終わった。
ゆっくりと今日一日あったことを振り返りながらゆっくりとアパートへの道をたどる。
途中、バスのように見える物体が建物の屋上を飛び越えながら突っ走るのが見えたような気がするが、きっと気のせいだ。
猫バスは映画『隣のトトロ』にしか出てこないのだ。
現実に似たようなものが存在するわけがないのだ。
間違っても、それを猫耳っぽい女の子の運転手が運転していてはいけないのだ。
さらに間違っても、カップルぽい美形の男女が客席に乗っていてはいけないのだ。
おい、『未来から来た猫娘型人造人間』と言っていたよな?!ファンタジー?物の猫バスを運転してんじゃねえよ!!!
続く。




