55 完璧な美少女の一日 その1
主な登場人物
北川望海: 飛び級で一年生から三年生になった『完璧な美少女』。魔法と戦闘スキルを自在に操る『完璧な兵士』でスーパーヒロイン。瀬利亜をすごく尊敬している。
石川瀬利亜: ある時はハーフの美少女高校生。またある時は百戦錬磨のモンスターバスター。しかして、その実体は無敵のスーパーヒロインにして、異世界召喚勇者のシードラゴンマスクである!
熱く燃え盛る正義の心のある限り、シードラゴンマスクは今日もゆるふわ生活を堪能しながら、戦い続けるのである。
私は朝起きると歯磨き、洗顔などを済ませ、石川邸に自転車で駆け付けます。
到着とほぼ同時に千早さんと瀬利亜さんが庭に出てきてくれるのです。
しばらく一緒に基礎体力作りのランニングやウォーミングアップをします。
その後は地下の『闘技場』へ行って、実戦練習です。
私は主に銃器やその他の武器類の練習をし、千早さんと瀬利亜さんは模擬戦をされています。
お二人の試合は残念ながら私よりずっとレベルが上なので、『見学』が勉強になります。
それでも時々、瀬利亜さんが組手の相手をしてくれて、いろいろ指導してくれます。
一通り訓練が終わると、シャワーを浴びて、一度家まで自転車で戻ります。
お弁当は自作しつつ、同時に家族の朝食も準備します。
中学に入ってしばらくは朝食は母が作ってくれていたのですが、最近は母の仕事も忙しくなったので、私が代わりにやってあげることが多いのです。
しばらくすると両親と幼稚園の年少組の弟も起きてきます。
一緒にご飯を食べた後、両親はそれぞれの会社に出社し、私は弟を幼稚園の送迎バスに乗せて、自分も学校へ向かいます。
学校は休み時間は瀬利亜さんたちといろんな話をできてすごく楽しいです。
授業は……授業そのものは『もう理解していること』の復習になるのですが、『自分が伝える立場、例えば教師になったらどういう風に話すか』のモデルとして観察させていただいているので、意外と面白いです。
また、クラス内の『人間観察』にもなるので、その意味でもいろいろと勉強になります。
授業終了後は生徒会の仕事が週に二日あります。また、週3日ほどアルテア先生の『女性が若さを保つコツ』という実践込の授業を雪組のクラスメイトの女子たちと一緒に受けます。
最近は口コミで他のクラスからの参加される女生徒も増えてこられてます。
私を含め、全員の目が食い入るようにアルテア先生の方を向いて、一言一句聞き漏らすまいと本当に真剣に授業を受けています。
受講生が例えば『呼吸法を腹式呼吸に変えた』だけでも、『疲れにくくなった』という体感する人たちがかなりおられます。
生徒会や特別授業などが終わると、いったん瀬利亜さんの帰宅に合わせて、一緒に寄らせていただきます。
平日は短時間、土日は無理なくいける範囲でかなりの時間をアルテア先生に『実践込みの魔法の講義』を受けさせていただいています。
最近はこちらにもハイエルフのサーヤさんや千早さんも参加されるようになりました。
全体用の講義あり、少人数の一人一人に合わせて『進化するテキスト』も用意していただいての自習&要所で解説を頂く時間あり、実践ありと、すごく濃密な時間を過ごさせていただいてます。
また、週一くらいでモンスターバスター協会へ赴いて講義を受けたり、話し合いをしたりします。
いわゆる休日がほとんど取れず、最近ではサバゲーにも顔を出せなくなりましたが、毎日の充実度がそれ以上なので、一切文句はありません。
来春からは『私立風流院大学』を立ち上げるので、そこの異文化交流学部、実体は『モンスターバスター学部』にどうかという話もあり、早くも来年になった卒業後の進路も悩ましいところです。
…考えてみれば、学校と両親も含めた進路相談が近々あるんでした。
両親にもこの機会に『全て打ち明ける』必要がありますね。
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北川小百合は大学の講義を終えて、街をぶらついた後、帰宅の途に着いていた。
駅から出て、自宅近くに止まるバス停に行こうとした時に叔父の北川洋平の姿を見つけて、首を捻った。
洋平がずいぶん疲れた様子なのだ。
春に逢った時は仕事も順調で、長女の望海ちゃんも志望校にいい成績で入れたとすごく機嫌がよかったのだ。
一体何があったのだろうか?と小百合は疑問に思った。
「叔父様、お加減はいかがですか?」
歩きながらいろいろ考えているようだった洋平は小百合に気付くとなんとか笑顔を作った。
「ああ、小百合ちゃんか…。お久しぶり…。」
目にクマを作った洋平は何とか小百合に返事をした。
「叔父様、顔色が悪いようですが、どうされたんです?なにか悩み事でも…。」
「いやそれが…そうだ!小百合ちゃんは望海と仲がよかったよね!少し話を聞いてもらえないか!」
思い詰めて真剣な顔をする洋平の言葉に気圧された小百合はうなずかざるを得なかった。
「その御様子では望海ちゃんがおかしくなられたことをお悩みなのですね?
一体何があったのですか?」
喫茶店に入って、望海は対面の洋平に問いかけた。
「何があったか……一言では言い尽くせないんだ。一体何から話したらいいのやら…。」
「望海ちゃんが悪い仲間と付きあっているとかですか?」
「…悪い?いや、全然悪い友達と付きあっているわけではない。ただ…。」
「えーと、成績が急に悪くなったとかですか?」
「いや、成績は悪くなったどころか、すごく良くなった…というより、すごく変なんだ!」
洋平の言っている意味がわからず、小百合が目をしばたたかせる。
「変と言うのは一体…?」
「うん、高校にいい成績で入学したということは小百合ちゃんも知っているよね。
単にいい成績と言うだけでなく、500点満点で520点を取って、『学校始まって以来の高成績』だと後で教えてもらったのだよ。」
すごくいい話のはずなのに、洋平は端正な顔を少しゆがませながら話している。
「成績が後で急降下されたとか?」
「いや、望海の教科の習熟度が異様に早いので、『三年生への編入』を奨められてだね、その時の編入試験の成績が500点満点中600点だったんだ。」
信じられないような話に小百合は洋平をじっと見つめ直すが、その真剣そうな表情はどう見ても冗談を言っているようには見えない。
「そして、期末試験の結果が返ってきてさらに仰天したよ。
500点満点中700点だそうだ。国内のどの大学を受けても合格は間違いないだろうし、海外の大学でも選び放題という話だ。」
変だ、確かにすごく変だ。でも、洋平がここまで悩むのは変な気がする。
「…信じがたい話ですが、すごくいいことですよね?では、なにをそんなに悩んでおられるのですか?成績は上がったけれど、家族に冷たくなったり、家事や他のことをまったくしなくなったとか?」
「…高校に上がるまでは弟・大地の世話をよくしてくれたり、家事も積極的に手伝ってくれたりしていたのは覚えているよね。
成績が上がるにつれて今まで以上に大地を可愛がってくれるし、家にいる時間は減ったものの、いる時は家事も今まで以上に丁寧に積極的にやってくれて、私や昌枝にすごく配慮してくれるようになったんだ。
どれだけ感謝してもしきれないと思っているよ。」
「えーと…叔父様が何を悩んでおられるのか全然わからないのですが…。」
話だけ聞いていたら小百合にはそこまで焦燥するような内容にはとても思えなかった。
「おかしいよね。本来なら悩むどころか、娘の成長を歓喜しなければいけないくらいありがたいことだよね。
ただ、今の望海の言動はどう見ても高校生、それも高校一年生のそれとは思えないのだよ。
試験の点数が異常に高かったのは『作文や論文の内容が大学院や博士号を取るレベルの内容ですので、加点させていただきます』ということだったし、テレビを一緒に観ていて、環境問題の話をしたときも『専門家が話すような解決法を提示してきたり』して、うちの会社の若手でも絶対にそこまで踏み込んで話ができないことを簡単に話すんだよ。」
「…確かに変ですね…。一体何があったのでしょうか?」
「何があったのかは全然わからない。でも、どこであったのかははっきりしているんだ。
高校に入る前くらいから親しくなった石川さんの家に入り浸るようになってから望海は急速に大人びていっているんだよ。
最初は『年上のしっかりした人達との交流』が望みを大きく成長させてくれているんだな…と心配どころかすごくうれしかったんだけど、望海のしっかり具合が『人間離れ』してくると、さすがに不安になってね。それとなくいろいろ聞くと内容によっては『企業秘密で今は話せないけど、そのうち話す』みたいなことを言われるとね…。
望海自体は信頼したいのだけれど、ここまでいろいろ信じがたいことが起こると、さすがにね…。
止めは明後日の土曜日に担任の先生たちがうちに来て『進路相談』をしたいのだそうだ。
それも担任の錦織先生と、副担任のアルテア先生まではまだわかるのだけれど、石川さんと、小早川理事長も一緒に来られて『きわめて大切な話がある』とか言われると、一体何が起こるのか心配になってたまらないのだよ。」
それは確かに『何が起こるかわからずに不安になっても仕方ない』と小百合は思った。
「石川さんも不思議な人ですよね。去年の秋に望海ちゃんが知り合った時、なにかにつけて『瀬利亜さんが』て嬉しそうに連呼されてましたからね。」
「うん、確かに不思議な人だ。うちに来てくれたこともあるけど、確かに望海が熱を上げるのもわかったよ。
これでも一応会社の取締役をさせてもらっているから、人を見る目はそれなりにあるつもりだが、あのお嬢さんは『ただものではない』よね。
それもすごく人がよくて、ものすごい熱血漢だから私もすごく気に入っているんだよ。」
「でも、そこまで急にいろいろ成長するなんて、確かに普通じゃあり得ないですよね…。
そうか、ライトノベルとかであるように望海ちゃん、異世界に召喚されたんじゃないですか?
それで、石川さんは望海ちゃんを勇者として召喚したお姫様なんじゃ…。」
気を紛らわせようとして、小百合が軽口をたたくと、洋平がはっと顔を上げた。
「それだ!望海が急に成長したのはそれが原因に違いない!異世界に行って、救国の姫と共にいろいろな体験をしたから、望海が能力的にも人間的にもものすごく成長した…確かにそれなら今までの話に全てつじつまが合うじゃないか!!
小百合ちゃん、ありがとう!」
洋平に手を差し出されて、小百合はさすがに固まった。
今さら単なる冗談なんですけど…とはとても言えない雰囲気だ。
とはいえ、それなら確かに説明はつく。
設定が荒唐無稽すぎるということを除けばだが…。
「そうだ!明後日は小百合ちゃんの都合がよければだが、進路相談の席に一緒にいてもらえないだろうか?小さいころから望海は小百合ちゃんを姉のように信頼してくれているし、私たち夫婦も安心できるし。」
「…ちょうど日程が空いてますので、お伺いさせていただきます。
瞬間、考えた後、小百合は進路相談に同席することに決めた。
そこに行けばこの不条理な件の原因がはっきりして、自分が納得できそうだから。
「ありがとう!本当に心強いよ!」
洋平は嬉しそうに小百合の両手を握ってぶんぶん振った。
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明後日の進路相談に従姉の小百合さんも同席してくれることになった。
小さいころからよく面倒を見てもらっていた小百合さんは父と前の母が離婚後、私たちが大変な時には本当にお世話になった優しい人だ。
今の母と父が再婚後も小百合さんからいろいろと助言をもらって、母とかなり早く打ち解けることができた。
姉に近い存在の小百合さんに全て打ち明けるのもちょうどいい機会だ。
瀬利亜さんにその話をすると、「ああ、小百合さんね。あの人も『ただものではない』わね。いろんな『才能も有りそう』だから、『こちら側に勧誘』するのもありだわね。
私も小百合さんともいろいろお話するのが楽しみだわ♪」と言ってくれた。
明後日の進路相談がさらに楽しみになった。
続く




