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52 修学旅行 その3

 みんなお腹いっぱいになったので、今度は観光にしようということになりました。

 せっかくファンタジー世界に来たので、それっぽいところを観光しようという話になり、私が最初に召喚されたガルーダ王国の城下町をみんなで散策することにします。


 猫娘バスがゲートを使った移動をするので、あっという間にガルーダ王国首都、フェニクスタウンに到着します。

 大陸でも最大級の町で、洗練された中世ヨーロッパ風の街並みです。

 人口が一〇万人と、現代日本の基準で言えば小さな地方都市くらいの規模ですが、この世界では大都市に分類されるのだそうです。


 「アルさん、ずいぶんあちこちゲートで移動しているけど、通常はゲートの魔法は『行ったことのある場所』にしか転移できないんじゃなかったけ?」

 「ぴんぽーん♪正解です。トラミちゃん運転の猫娘バスはサーヤさんと一緒に世界のあちこちを旅行済みでした♪

 猫娘バスは乗客を乗せた巡航速度は時速三〇〇キロだけど、最高速度は時速七〇〇キロだから、二人だと最高速度近くまで出して、あまり日数はかからずに世界中を巡ったみたいだよ♪」

 「……えーと、それでもそれなりの日数をこの世界で過ごしたわけなのね…。

 サーヤさん、トラミちゃん、なにかアクシデントは起こさなかった?」


 「……重大な政治問題になるほどのアクシデントはありませんでした…。」

 サーヤさん!!視線を明らかに逸らしているよね?!!『重大な政治問題』にならないくらいのアクシデントは(推定複数)あったということだよね?!!


 「大丈夫にゃ。最後は全て力ずくで解決したにゃ♪」

 それは、大丈夫と言わないからね?!!アクシデントを全部力づくで解決したことをドヤ顔で自慢してもらっても困るからね?!!


 「では、城下町を案内されたい方たちが来られてますので、その御案内に従いましょう。」

 『ご案内されたい方たち』というサーヤさんの微妙な表現に疑問がでましたが、間もなく姿を現した人達は…見たことのある人達ばかりです。


 「瀬利亜さん、お久しぶりです♪」

 集団の先頭にいたガルーダ王国第一王女のアリス姫がニコニコしながら小走りに駆けてきます。

元特大魔王の『執事さん』とロリ女神ちゃんも嬉しそうにその後ろから歩いてきます。

 ロリ女神ちゃんはちょっと見ないうちにかなり背が伸びた感じです。

 『いつもの侍女』のフラウさんとグリフォン国の『褐色の合法ロリ少女』ミーシャ女王も来てくれているね。


 みなさん、城下町を案内してくれる気満々で、そのお気持ちは嬉しくなってきます。


 街の門をくぐる時から町民の方たちからいきなり大歓迎です。お城までの大通りが人が一杯で『歓迎!勇者御一行様!』の垂れ幕が街のあちこちに飾られています。

 …ええと、修学旅行の光景じゃないですよね…。


 「申し訳ありません。気が付いたら『瀬利亜さんとご友人達が旅行に来られる』という情報が漏れていたようで、気が付いたらこんなことになっていました。」

 アリス姫が私たちに謝っておられます。

 「え?ばらしたらまずかったんですか?」

 フラウさん、犯人はあなただったのですか?!!


 気を取り直して、お城の方に向かいます。

 白い城壁の非常に美しい西洋風の城です。


 現役で活躍している城を見学するのは私やモンスターバスター組、伊集院君以外は初めてなので、みんな興味津々です。


 城門もアリス姫やロリ女神さまがおられるので、顔パス…というか、私とも顔なじみの門番さんでした。

 えーと、お城の中でも城兵、武官や文官の方たちが『歓迎!勇者御一行様!』の垂れ幕とSDシードラゴンマスクのぬいぐるみを掲げておられます。


 「こちらが『会談の間』でございます。名だたる勇者様が召喚されて、魔王軍や大魔王軍への反攻への足掛かりになった記念すべきところです。」

 …えーと、サーヤさん、なにを解説されておられるのでしょうか?

 『私』が召喚されただけで、特に記念どうこうの意味があるのでしょうか?

 少なくとも私たちにとって、観光名所のような扱いをする意味が……。


 みんなが『記念写真』を撮っているのですが?!!

 光ちゃん!等身大シードラゴンマスク・フィギュアを出してポーズを付けさせて写真を撮るのはやめてください!!

 みんなも、フィギュアと一緒に記念写真を撮ってどうするんですか?!!


 それから、王様まで出てきて、一緒に写真に写っておられるんですが?!!


 さらに王城内を王様が一緒に案内してくれることになりました。

 王様は光ちゃんよりさらに背の高いイケメンなので、女子生徒たちがきゃあきゃあ言っています。

 図書室とか玉座の間はいいですが、宝物庫まで案内されて大丈夫なんでしょうか?

 え?大魔王撃退のお礼が出来ていないから、宝物庫から宝をいくつか持って帰ってもいい?…ですか??!!

 いえいえ!!あれは『モンスターバスターとしての任務』なので、報酬を頂くわけにはいかないのですよ……橋本君!!勝手に持ち出さないように!!


 結局みんなで宝を持って『記念写真』を撮ることにします。

 これをSNSに投稿したら面白いことになりそうです。


 庭園やいろいろなものを見た後、今度は街をゆっくり回ることにします。


 え?屋台に行くんですか?お昼に大量の魚介類を食べたばかりなのでは?

 なるほど…食べ盛りなのですね…。


 「世界のあちこちの料理や皆さんに教えてもらった『地球の料理』のお店もいろいろあるんですよ♪」

 アリス姫が嬉しそうにレストラン街の方へ案内してくれます。


 ガルーダ王国の伝統料理以外に……ラーメンやうどん、パスタなんかもありますね…。

 この国は麺文化が進んでいるので、いろんな麺を採り入れているようです。

 おおっと!お好み村まであるんですか?!お好み焼きの屋台がいくつも入った集合体なのですね。

 なになに、『元祖お好み村』と『本家お好み村』と二つあるんですか…。


 「瀬利亜さん、お好み村に関しては『元祖』が関西風、『本家』が広島風なのだそうです。

 そして、それぞれのお好み村に入ったら間違っても関西風、広島風と言う言葉を使ってはいけないのだそうです。

 どちらも自分のところの焼き方が『お好み焼き』だと主張されています。

気を付けて入りましょう。」

 いつの間にか望海ちゃんがリサーチしてくれていました。 


 うーむ、こだわりがあるのは悪いことではないのですが、他の人にまで『言い方を強要』までするのはさすがにどうかとも思います。私は両方とも気にせずにおいしく頂きますが…。


 ええと、どうして異世界まで来てみんなお好み焼きを食べているのでしょうか?

 え?豚玉の豚がイノシシになっているのですか?卵も有精卵を使っているから味が濃いのですか? さすが、光ちゃん、少し目の付け所が違います。

 「お好み焼きはご飯にもおかずにもおやつにもおつまみにもなる『万能食』なんや!!」

 そうですか、そうなんですね…。

 石川家でも光ちゃんがでっかいホットプレートでよく関西風も広島風も作ってくれてます。


 「ええと…お好み村のアイデアを出してくださったのは光一さんなんですが…。」

 おおっと?!アリス姫の爆弾発言が!!

 「ふ、アリス姫♪ばらしてしまわれたらあかんやん♪

 こういうもんは『イベント的に対抗させる』方が盛り上がんねん♪」

 やられました…。まさか、仕掛け人がこんな身近にいるとは完全に想定外です。



 屋台でおやつを頂いた後は大聖堂やお土産屋さんを廻った後、サーヤさんが支援されている孤児院に着きました。

 町はずれにある古い教会を孤児院にしてあるのだそうです。


 「みなさん♪魔王たちを倒した勇者の皆さんが遊びに来てくれましたよ!!」

 サーヤさんの声に優しそうな中年の女性司祭さんと、小さい子から一〇歳過ぎくらいの子供たちが五〇人くらい歓声を上げながら出てきました。


 「サーヤさん、いつもありがとうございます。おかげさまで、ひもじい思いをする子がいなくなって本当に助かっています。」

 司祭さんが本当に嬉しそうに私たちに笑いかけてくれます。


 「ねえねえ!どの人が本物の勇者様なの??」

 元気のよさそうな一〇歳くらいの男の子が『勇者のぬいぐるみ』を抱えて目をキラキラさせながら私たちの前に飛び出してきた。


 「全員ほんまもんの勇者やで♪

 こっちが『格闘の勇者』、わてが『電脳の勇者』、こっちが『烈火の勇者』で、こちらが『ツッコミの勇者』、こっちが『ゆるふわの勇者』で…。」

 光ちゃんがみんなを示しながら『適当な勇者の名前をでっち上げ』て行きます。

 ちなみに格闘の勇者は私、烈火の勇者は伊集院君、ツッコミの勇者は橋本くんで、ゆるふわの勇者はアルさんです。

 伊集院君以外は全部でっち上げですね…。さすが過ぎです。

 橋本君はまたも『ツッコミの勇者』扱いされて悲しそうな顔をしています。」


 「それじゃ、どの人が本物かわかんないよ!!魔王や大魔王を倒した勇者はどの人なの?」

 今度は赤毛の八歳くらいの女の子が不満そうに言っている。


 「しゃあないな…。じゃあ、ヒントや♪ここに、魔王を倒しはった勇者はんの人形があるんや♪これをここにプレゼントさせていただくさかい、どの人が勇者はんか見破ってみいや♪」

 光ちゃんがそう言いながらまたもや『等身大勇者フィギュア』を取り出します。

 それ、いくつ持っておられるんですか??!!


 光ちゃんが結果的に私の正体をばらしたもので、しばらく子供たちにまとわりつかれることになりました。

 ……どさくさに紛れて、ちーちゃん、遥ちゃん、サーヤさん、アリス姫まで私にまとわりついているのですが…。


 この後、光ちゃん主導で孤児院で『お好み焼きパーティ』が行われ、子供たち自身が特大の鉄板の上で関西焼きを焼いて食べるという楽しいイベントになりました。

 とても楽しかったし、有意義な時間を過ごせたと思うのですが、みんなお好み焼きでお腹いっぱいです。

 今晩はもう食事はよさそうですね…。



 そして、再びお城に戻って宿泊することになります。

 「ええ?お城に泊まれるんですか??!!」

 雪組のみんな全員歓声を上げます。


 修学旅行なので、四人泊まれる豪華客室に分散して泊まることにします。

 教員である、アルさんと光ちゃんは一人部屋だそうです。

 「なんで、わては瀬利亜はんと一緒やないんや――!!」

 …修学旅行ですから…。あきらめてくださいませ。


 なお、私と同室はトラミちゃんとアリス姫とミーシャさんと……全然修学旅行じゃないじゃん!! それから、サーヤさんと望海ちゃんが寝袋持参で入ってきているんですが…。

 「こういうカオスなのが修学旅行の醍醐味なんですよ♪」

 望海ちゃんがドヤ顔で語っています。

 それでいいのか?!生徒会書記!!


 こうして修学旅行1日目の長い夜が始まりました。


続く。


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