51 修学旅行 その2
昼食を頂くために海岸沿いに出てきました。
港も近いようです。
お昼にはかなり早いようですが、海岸の散策でもするのでしょうか?
「せっかくなので、みんなで捕まえた魚で昼食にしましょう♪」
ちょっと、ガイドさん?!フリーダム過ぎますから!!
「船で穴場に行って、みんなで釣りをしましょう。ちなみに帆船にのるのですが、私が精霊魔法で風を自在に操りますから、相当早く動けますよ♪」
おおっ?!!それならおもしろいかもしれません。
「では、皆様にはこの『シーサンペント号』に搭乗していただきますね♪」
サーヤさんが示した舟は頑丈でしかもスピードも出そうなそこそこ大きな帆船です。
…ええと、髑髏マークの旗が翻っているのですが…。
「サーヤさん!その船、海賊船にしか見えないんですが?!!」
「おおっと、こいつはいけねえ!!勇者様が搭乗されるというので、ついつい、昔の気分に戻ってしまいました。
俺の名はサーロックという、しがない漁師です。
ええ、元は海賊でしたが、足を洗って、頑張って漁で生計を立てていますぜ!
海賊は時々しかやっていませんから♪」
「いえいえ、時々でもやっちゃだめでしょ!!」
「ご安心を!かたぎの衆は襲わずに、やるのは奴隷商人や悪徳商人、海賊くらいですぜ♪」
いいのか?それで本当に大丈夫なのか?!
私たちが船に乗り込むと、甲板もかなり小奇麗になっています。
「時々お客様を乗せることもあるので、船室もきれいにしてあるのですよ。」
なるほど、多目的船になっているのですね…。
「艦首には女性の像があるようですが、女神像なんですか?」
氷室さんが船首に向かって歩いていく。
「以前は海の女神の像を付けていたのですが、最近のトレンドで『勇者像』を付けているのですよ。どうですか?いい出来でしょう!」
いやいや、何にでも『勇者』を使えばいいというものではないと思うんですが?!!
しかも、この像、ファイティングポーズを取っているよ?!!
意外と紳士の船員さんたちがうまく操船し、船はあっという間に沖の漁場に着きました。
みんなはアルさんが用意していた竿を使い、次々と魚を釣り上げていきます。
さすが穴場と言うだけあってあっという間にみんなが食べる分以上は釣り上げてしまいます。
「よーし、これくらいで良さそうやね。戻ったらみんなで料理や♪ これだけ新鮮な海の幸がいっぺんに食べられるんは貴重な体験やね♪」
光ちゃんの合図で船が港に戻ろうとした時、サーロック船長が遠方に船の影を見つけます。
「む?!あれは海賊船だ!!しかも我が最悪のライバル、ブラックシルバー船長の『キラーホエール号』だ!!」
なんと、この船より一回り大きい帆船がこちらに向かってきています。
それもかなり速い速度で動いています。
「キラーホエール号は魔法力で動くオールで船を漕ぐことができるから、風向きに関わらず、かなりの速度で動けるんだ。
船員たちも鍛え上げた戦闘集団だし、なにより『謎の実』を食べたブラックシルバーの特殊能力は相当ヤバい! サーヤさん、あんたの風の魔法で何とか逃げ切れんか?!」
サーロック船長が厳しい顔でサーヤさんを見る。
「少々の魔法障壁ならこの『対艦ミサイル』は突破できます。敵を一人残らず『殲滅して構わない』のでしたら、いつでも『斉射』できるよう準備をしてますが…。」
望海ちゃんが魔法で『対艦ミサイル』を何十基と用意しているよ!!それ、どう見てもオーバーキルだよね??!!
サーロック船長もサーヤさんもその強大な魔力から『魔法の対艦ミサイル』のヤバさを感じ取ったのでしょう。二人とも顔が引きつって、次の言葉が出てこなくなっています。
「瀬利亜さん!陸地から何かがものすごい勢いで走ってきます!!」
ちーちゃんが『それの気配』を感じて港の方向を指さします。
海面を十本以上の足をものすごい速さで動かして、猫娘バスがこちらに走ってきているではないですか?!!!
「にゃははははははは!!!みんにゃの安全を守るのも『バスと運転手』の役割なのにゃ!!」
猫娘バスはそのままキラーホエール号に突っこんでいくと、甲板に飛び乗って、大暴れを始めます。
おおっと!!武器を構えた水夫たちをたくさんの足で文字通りタコ殴りにしています!ねこパンチの乱れ撃ちだ!!
水夫たちは次々と海面に吹っ飛んでいきます。
ああ?!ブラックシルバー船長が『謎の実の能力』で闇そのものの魔力球を生み出して、猫娘バスに投げつけます!
しかし、闇の球をねこパンチでカウンターにして弾き返すと、ブラックシルバー船長が闇の球に吸い込まれちゃったんですけど?!自業自得とはいえ、大丈夫なのか?!!
…えーと、船長が瞬殺されると、水夫たちは次々に自分から海面に飛び込んでいっています。
おおっ!!さすがトラミちゃん!武士の情けとばかり、救命ボートを水面に投げ込んであげています!……せっかくなら『水夫たちに直撃』させるのはやめてあげよう…。
何人かがそれが原因で生死をさまよっているんですけど…。
水夫たちが何とか全員逃げ出したのを見届けると、猫娘バスはロープを取り出すと、船首にロープをしっかりと括り付けます。
そして、自身が水面に降りると、ロープを持ったまま、港に向かって水上を走り始めます。
速いです!!キラーホエール号が浮かび上がって、ほとんど『水上スキー』です!
シーサーペント号をしり目にあっという間に猫娘バスは港に着いてしまったようです。
港に戻るとキラーホエール号が港に横付けしてあり、猫娘バスから降りたトラミちゃんがどや顔で私たちを迎えてくれます。
「にゃはははは♪みんにゃのいいお土産ができたにゃ♪修学旅行の記念に海賊船を持ち帰るのは歴史上三年雪組が初めてだニャ♪」
「いえいえ、持って帰りませんから!こんなもの一体どこに置くというの?!それに世話をしてあげないと、キラーホエール号は飢え死にしちゃうのよ。生き物を飼うというのは大変だから、むやみに連れて帰ってはいけないのです。」
「石川!途中から捨て猫を拾うような話になってんだけど?!!」
私のボケに橋本君が律儀に突っこんでくれる。
「そうか、残念にゃ。じゃあ、キラーホエール号はリリースしてあげた方がいいのにゃね。」
「ありがとう、トラミちゃん。そんないい子のトラミちゃんに対してはきっとアルさんが『猫娘バス』をさらにパワーアップしてくれるはずよ♪」
「ええ、しっかりきっぱり、パワーアップしておくわ♪」
「本当かにゃ!!うれしいにゃ!楽しみだにゃ!!」
私がアルさんにふるとアルさんは快諾してくれた。
よかったよかった。これで難問は無事解決です。
「……海賊船に無双した猫娘バスがさらに強力になっても本当に大丈夫なんですか?」
橋本君がアルさんに心配そうに尋ねると…。
「ええ、もちろん大丈夫よ。ほら、こんなことわざがあるでしょ。『かわいいから許す♪』て。」
「それ、大丈夫じゃなかった時の言い訳ですよね?!!本当に大丈夫にしてください!!」
海に向かって叫んだ橋本君の願いは果たして叶うのでしょうか?
なお、キラーホエール号の扱いはサーロック船長に一任しました。
お昼の海鮮ランチパーティには雪組だけでなく、シーサーペント号の船員さんも参加です。
刺身、タタキ、フライに鍋に魚のみならず、いつの間にかアルさんがゲットしていた貝類も使って魚介の御馳走食べ放題です。
あまりの量にさすがに余るかと思ったのですが、人造人間のトラミちゃんが余りそうな分は全て完食してくれました。ちーちゃんよりさらに小柄なあの体のどこにあの量が入るのでしょうか?
私たちはお腹いっぱいになると、次の目的地に向かって猫娘バスで旅立っていったのでした。
蛇足ながら、『闇の魔力球』で自爆したはずのブラックシルバー船長は実は生きていて、私たちを陰から見ながら復讐の機会をうかがってました。
こっそり姿を現した時に私やちーちゃんあたりはすぐ気付きましたが、『どうやってこっそり粉砕』しようかと思っているうちに、『雪女の姫』氷室さんがとっとと『氷漬け』にして、海に捨ててしまいました。
ミニ閑話
修学旅行から帰って少し経った後、異世界に謎の巨大ゴーレムが現れて巨悪を粉砕するという噂が流れました。
「 空にそびえる虎縞の城♪ スーパーロボット ニャジンガーZ♪
無敵の力は僕らのために♪ 気まぐれ心で ニャイルダーオン♪
飛ばせ 鉄拳 ねこぱんち♪ おもくそ 蹴飛ばせ ねこキック♪
ニャジンゴー ニャジンゴー ニャジンガーZ♪ 」




