47 あるモンスターバスターの日記 (初めてのホラーハウス) その3
初ちゃんのおじいさんの銀田一京助さんは、小柄で痩せたすごく温厚そうな男性だが、放っているオーラからしてただものではないのがはっきりしている。
同じく格式家の当主だという春麻呂さんも単なるお人よしのおじさんでもなさそうだ。
「さて、何から話したものかな…。」
京助老人はニコニコしながら口を開いた。
「概略は想像が付くのだけれど、肝心なのはこれからどうしたら、『共存がうまくいくか』という点なんですよね。」
私の話を聞いて、京助老人の瞳がきらっと光る。
「そちらのお嬢さんは非常に優秀なモンスターバスターらしいな。一番大切なことに気付いておられるようだ。よろしかったら『推理』を話して頂けるかな?」
「まずは格式家ですが、『人ならざる種族』と人との懸け橋となる役割を代々はたしてこられたのですよね?違いますか?
ちなみに、そちらの陰陽師の方は春麻呂さんの血縁の方ですよね?」
「ご名答。素敵なお嬢さん♪ちなみに僕の弟で冬治というんだ。」
「へえ、似ていらっしゃらないですね。春麻呂さんはきちんと整えたらかなりかっこよくなりそうですが、冬治さんは……むさいままの感じが…。」
「よけいなお世話だ!!」
私のツッコミに冬治さんが憤慨する。
「ところが、戦後に何らかのトラブルがあって、事業がうまくいかなくなった。
そこで、京助さんの協力を得て、事件で一族が散りじりになったという形にして、屋敷を『ホラーハウス』仕立てにして、人が近寄らないようにしつつ、『人外の人との交流場所』としての役割を果たし続けた。
ところが、形として遺産を継承された方の子孫がここを村に譲ってしまったものだから、調査員やモンスターバスターがここを調べに来てしまい、どうしたものかという状態になっている……そういうことなのですね?」
「いやあ、お見事!!ほとんど正解だよ!初、推理とはこんな風にするものだよ。」
京助さんがニコニコしながら告げ、初ちゃんは…なんか、私を見る目が尊敬するような視線になっているのは気のせいなのでしょうか?
「で、初に頼みがあるのだが、お前さん、確か『格式家の隠し財産』の地図を入試しているはずだ。それを見せてはくれないか?」
「え?持ってますけど…。それはもしかして…。」
「そうじゃ。この屋敷を買い戻して春麻呂氏に『人外の人との交流場所』を維持してもらうのじゃよ。」
「わかりました。これです。」
京助老人に言われて初ちゃんが取り出したのはいろいろ暗号のようなものが記述されたこの屋敷の見取り図であった。
そして、私、ちーちゃん、初ちゃん、春麻呂さん、氷室さんの五人が屋敷内を探索していた。
「こ、これは…。」
部屋の中のその光景を見て、全員が息を飲んだ。
なんと、部屋の中を水深の深い川がゴーゴーと音をたてて流れているのだ。
いずこからともなく空いた空間から部屋に流れ込んだ川はいずこへかと空いた空間へ流れ去っていた。
そして、川には欄干の付いた橋が架かっているのだが、手前に立札が立っていた。
『この【はし】わたるべからず。』
……えーと……これはもしかし有名な『◎休さんの逸話』でしょうか…。
「ふ、ここは美少女名探偵銀田一初の推理が必要なところね。簡単ね。この【はし】は建造物の橋ではなく…。」
初ちゃんがニコニコしながら話し始める。
「とうっ!!」
そして、私はふわっと飛び上がると、向こう岸に着地した。
「うん、飛び越える分には特にペナルティーはなさそうね。さあ、みんなも!!」
ここで、私はちーちゃん以外の三人が固まっているのに気付きます。
「ここは橋の端っこではなく、真ん中を渡るところでしょ?!!」
「初ちゃん、それは私も考えたわ。でもね、その話自体がよく知られているから、『ひっかけのリスク』も考えて安産策を取ったのよ。」
「確かに安全策かもしれないけど、飛び越えられるのはあなたくらいでしょ?!」
「ええ?ちーちゃんも楽勝なはずだけど…。まあ、いいわ。次善の策があるから。」
そして、私は手前の岸に飛んで戻ると、初ちゃんを抱えて再び川を飛び越えた。
そして、氷室さん、春麻呂さんを抱えて飛び、残るはちーちゃんだけが残された。
「さあ、ちーちゃん。こっちに飛んできてくれる?」
「…ダメです…。急に怖くなってきました…。抱えてください。」
え?見た感じ心身ともに調子は悪いようには見えないのですが…。ただ、なんか『期待するような視線』は感じますね…。さては…。
「…じゃあ、ちーちゃん。うまく飛び越えてくれたら『ほっぺにキス』してあげるね♪」
「はーい、わかりました♪がんばります!!」
『予想通り』ちーちゃんは涼しい顔で軽く川を飛び越えてしまいました。
そして、ニコニコしながら可愛らしいしぐさで左ほっぺを差し出してきます。
みんなの生暖かい視線の中、にっこり笑ってほっぺたにキスをしてあげると、ちーちゃんは本当にうれしそうです。
『予想通り』とはいえ、それをどうこう言うと『ちーちゃんがものすごくへこみそう』だとわかるので、適当にスルーすることにします。
「今度は屏風に虎の絵が描いてあるね。これはもしかして…。」
「その通り!」
部屋の中央に虎の絵の描いた屏風があり、屏風の傍には丈夫そうなロープが置いてある。そのことを初ちゃんが口に出すと、どこからともなく男の声が響いた。
「その虎をロープで縛るのだ。」
初ちゃんが動こうとした時、私はちーちゃんに合図をする。
「ちーちゃん、あなたの刀で屏風から虎だけを切り抜いてくれるかしら?そうしたらそこにあるロープで『虎の切り絵』を縛ることができるわ!」
「その方法は却下する!!頼むから屏風を壊さないでくれ!!」
「じゃあ、これでどうかしら?」
私は懐のモンスターバスター御用達ツールから油性のマジックペンをいくつも取り出す。
「このペンでその屏風にロープを描きこんで『縛られた虎の絵』にすればいいのよ♪これでも美術は五段階の三だから、一応ロープくらいは描けるわ♪」
「それも却下!!その屏風は骨董に出したらそれなりの値の付く貴重品だから、そういう解決法はやめて!!」
「…こほん、では、この美少女名探偵・銀田一初が解決するわ。
さあ、その虎を屏風から追い出しなさい!そうしたらロープで縛ってあげるから!」
初ちゃんが高々と宣言する。すると…
ガオーー!!
叫び声と共に虎が屏風からひょいと抜け出した。
「うそん?!!こんなのどうすればいいの??!!」
「縛りました♪」
私が虎を『亀甲縛り』にすると、謎の声を含め、部屋は沈黙に満ちた。
「…石川さん、発想力、行動力、交渉力、全部すごいのだけれど、『亀甲縛り』だけはやめてほしかったわ…。」
氷室さんが半ば呆然としながらつぶやく。
「……認めるから、虎をほどいてくれる?虎が出たままじゃ、その屏風の価値がなくなるんで。」
謎の声に従って、ロープをほどくと、虎は慌てて屏風の中に逃げ帰った。
「さあ、どんどん行きましょうか!!」
「どうやらこの金庫の中に財宝があるようね。」
私たちはものすごく丈夫そうな隠し金庫を見つけ、初ちゃんが目をらんらんと輝かせている。
「さあ、ちーちゃん!いよいよ神那岐の太刀の威力をみんなに見せる時よ!!
魔王すら切り裂き、この世に斬れないものはないという神那岐の太刀ならこの程度の金庫の扉を切り開くくらい楽勝だわ♪」
「その方法は却下です!!隠し金庫すごく高額なんですから!!もっと正攻法で攻略してください!!」
またもや謎の声が聞こえてくる。仕方ないですね…もう少し『正攻法』を使いますか…。
そういうわけで、私はモンスターバスター御用達ツールからいろんな道具を出して、金庫のチェックを始める。
「さあ、いよいよ最後の関門だ。この金庫はかの怪盗ルパンの息子の二世すら開くのに失敗したという恐ろしく頑強な金庫だ。だが、開ける方法がないわけではない、この部屋にそのためのヒントがたくさん転がっている。では、第一のヒントだが…。」
謎の声がいろいろと語り始める。
バターン!
「よし、開錠成功です!!」
私が金庫の扉を開くと、ちーちゃん以外が完全に固まってしまっている。
「どんな手段を使ったんですか??!!」
氷室さんが信じられないものを見る目で私を見ている。
「え?だから正攻法で。モンスターバスター協会で潜入・工作術も徹底的に身に付けているから。 少々のセキュリティシステムは力技なんか使わなくても突破できるわ♪」
「見せ場が、最後の最大の見せ場が!!」
嘆く謎の声はスルーして、私は金庫の中にあった高級な作りの寄木細工の箱を取り出した。
そして、いよいよ箱を開けると中には一枚の紙が…。
『 おもいやり 』
「「「「「……。」」」」」
「ねえ、なんなの?!これ!!……待って?!確か一休さんでは……。」
初ちゃん?!そこまではっきり『一休さんネタ頼み』でいいんですか??!!
「春麻呂さん!この屋敷に『スゴク重たい槍』はないでしょうか?」
初ちゃんは『一休さんアニメネタ』の話の例を元に春麻呂さんに話しかける。
「そうだね…。確か屋敷の中庭に…。」
春麻呂さんの言葉に従っていった中庭では、ギリシャの英雄アキレウスが巨大な槍を持った像が立っていた。
像自体の大きさが普通の人の倍くらいの大きさなので、確かに『重い槍』の条件にはかないそうな気はします。
私が槍を調べると、槍の柄の端が開くようになっており、そこに巻物が入っていた。
それを開いて読んでみると。
『おめでとう!君たちは様々な知恵を出し合ってみんなで協力した結果、素晴らしい宝物を手に入れた。そうそれは、『友情』、そしてお互いに対する『思いやり』だ!思いやりこそがこの世のすべての金銀財宝に優る最高の宝物だ!!』
重い槍の中に『思いやり』が入っているとか、どんなオチですか??!!
はい、私以外はあまりの結末に全員うずくまってしまったじゃないですか!!
「び、美少女名探偵として大活躍する夢が……。」
「…すまない!みんなすまない!!!」
嘆いている皆さんに声のかけようもないので、とりあえず『ある人』に電話をしてみることにしました。
何ということでしょう!!!私から連絡を受けた、『テーマパーク再生王・小早川充理事長』は格式家の屋敷を『第三セクター方式』でテーマパークとして活用することを提案してくれました。
『格式家のからくり屋敷』としてその場所と『人外の従業員たち』の活躍で、古ぼけた屋敷は見事にテーマパークとして復活を遂げたのでした。
『格式家のからくり屋敷』は村おこしにも成功し、物語は大団円を迎えたのでした。
なお、美少女名探偵とは再会し、いろいろあったのですが、その話はまた後日。
了




