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46 あるモンスターバスターの日記 (初めてのホラーハウス) その2

 「…いらっしゃいませ…。」

 門を開けて玄関まで入っていくと、なんと、顔色の悪い執事風のおじさんが出てきました。

 うーむ、この人オーラから判定するに『人間』ですよね?!

 思っていたよりも事態は複雑なのかもしれません。


 実は建物を壊しても構わないとか、説得無用ということであれば、私が『闘気の爆弾』、シードラゴンソニックウェイブを叩きこめば、あたりは悪霊が完全に消え去った『更地』にすることは大して難しくないのです。

 最初にこの任務を依頼された時、支部長にその提案をしたら、『千早君の実戦も兼ねて、なるべく穏便に!!』と泣き付かれました。


 これは『問答無用で行かなくて良かった』わけなのですが、この人が悪霊に操られている…うーーん…だとしたら、目にもっと力がなくなっているはずなのです。


 この執事さん?は初ちゃんが引いているように確かに顔色は悪く、普通の人かどうか怪しく見えるのですが、目に『自分の意志』がしっかり出ていること、生命力がかなりあることから普通の人間とは断言できませんが、少なくとも悪霊に取りつかれているわけではなさそうです。


 「すみません。実は村役場から依頼を受けたモンスターバスターなのですが、こちらのお屋敷に関しまして、いろいろお伺いしたいことがあるのですよ。」

 「ほお、それはどういったご用件でしょうか?」

 私がA級モンスターバスターの身分証明書を見せながら話し出すと、執事さんが不思議そうな顔をします、


 「実はこの土地と建物は持ち主が村に寄贈して、解体されることになっていたそうなのです。ところが、調査に来られた方たちが『なぜか調査がうまくいかない事態』が続いたのです。

 あなたのような方が管理されているのであれば、一体何が起こっているのか確認させてもらえればありがたいのですが。」

 執事さんに私は澄ました顔で『ぼかした事実』を伝える。どういう反応を見せてくれるかで対応を変えるのですが、執事さん、私の話を聞いても顔色が変わらないですね。


 「なるほど…では、少々主に事情を聞いてまいりますので、応接室でお待ちいただいてよろしいでしょうか?」

 「ええ、構わないわ。行き違いや『書類のミス』とかがあったのであれば、役所で調べ直してもらう必要もありそうですしね。」


 私たちは執事さんに続いて屋敷の中を歩いていきます。

 外がボロボロな割には中はちょっと手入れが行き届いていない…くらいの感じで内装もあまり汚れずにかなりまともな感じです。

 しばし歩くと立派な応接室に到着します。

 ここは廊下とは違い、かなり小奇麗にされており、時代を感じさせる立派な応接セットがあります。

 執事さんは私たちにコーヒーを用意してくれると、立ち去っていきます。


 コーヒーは香りもよく、どうやらちゃんと挽いたばかりの豆から抽出しているようです。


 執事さんが行ってしまうと初ちゃんが口を開きます。


 「ふっふっふ、思った通りですね。」

 「初ちゃん?その『思った通り』と言うのは何を根拠にされているのかしら?」

 「ええ。この格式家の事件に関しては不思議なことが多すぎるのです。

 事件のことを聞いてもおじい様も口を濁すようなことばかり言われるので、何かあると思って、家にあった独自資料や当時の記録を徹底的に洗ったのですよ。

 瀬利亜さんは殺人事件が起こったと聞かれてますよね?」

 「ええ、役場の課長さんはそうおっしゃってたわね。」

 「ところが、当時の警察の記録を『ハッキング』してみたら、この事件は死者は出ていないのよ。 さらに、格式家は旧家だけど、『血塗られた歴史』どころか、割と領民や家族同士との間も良好で、歴代当主は温厚な人が多かったらしいわね。

 つまり、この館に『大量の悪霊が出るのはおかしい』わけなの。

 さらに、過去の資料を徹底的に当たって見た結果『格式家の隠し財産』の地図を手に入れることができたわ。これで隠し財産を見つけたりした日には……ああ!!私は世界的に有名な美少女名探偵として認知されるのだわ!!」

 ……えーと…初ちゃんはご自身のビジョンに酔っておられるようです…。


 確かに不可解なことが多すぎるのは確かなのです。

 屋敷の外からはあれだけ『悪霊ぽい気配』が多々感じられたのに、中に入ると、『人間』らしき存在の気配がいろいろ感じられるのですが、悪霊の気配がピタリとしなくなったのです。

 …これはどういう仕掛けなのでしょうか?

 さらに、この屋敷を調べたB級モンスターバスターにして『退魔僧侶・荒神坊』さんが『悪霊にやられた』と証言されているので、間違いなく『悪霊自体は出た』はずなんですよね…。


 「瀬利亜さんはA級モンスターバスターで、そちらの千早さんがB級モンスターバスターなのですよね?でしたら、悪霊以外の何かが来てもぜんぜん大丈夫ですよね?」

 「確かにそうです。私もA級ですし、ちーちゃんもこの任務を適切にこなせば、A級に昇格する予定なんです。つまり実力的にはA級です。ですから、少々の敵が来ても全然問題はないですね。ただ…。」


 私がそこまで言った時、壁をすり抜けて大量の悪霊が飛び出してきた。

 「「「…出ていけー!!」」」

 真っ黒なオーラを纏った悪霊たちを見て、初ちゃんが腰を抜かすと同時に私はちーちゃんを制して、懐からあるものを取り出して振り抜いた。


 「馬鹿言ってるんじゃありません!!!」

 私に『ハリセン』ではたかれた悪霊たちは吹っ飛んでふらふらしている。


 どうにかハリセンを躱した一体の中年男性の悪霊が叫ぶ。

 「ねえちゃん、おかしいやろ?!なんで我々をハリセンではたけるんだ??!!」


 「知らなかった?世の中にはいろいろと理屈では説明できないものがあるのよ♪」

 「全然説明になってねーよ!!」

 ドヤ顔で言う私に悪霊が突っ込んでくる。


 「そんなことより、悪霊さん♪あなたの『使役主』のことを教えてくれるかな♪」

 「…え…。」

 私の指摘に悪霊さんのただでさえ悪い顔色が真っ青になる。


 「…ナ、ナンノコトデショウカ?…。」

 「んん?とぼけても駄目よ♪この屋敷は確かに空間が不安定な場所ではあるけれど、歴史的な経緯や場の状態を見て、悪霊が大量に住み着くような場所ではないの。さらに、あなたからはこの場所に対する執着らしきものが全然感じられないし、あなたたちの背後に妙なエネルギーの糸みたいなものが感じられるんだけど?

 あなたを操っているのは陰陽師か何かじゃないのかな?」



 「「そこまでだ(よ)!!」」

 悪霊さんが追い詰められたとき、応接室の扉がバーーンと開いた。


白と紫の衣装を着た陰陽師風のむさいおじさんと、真っ白な衣装を着て髪まで真っ白な雪女風の若い女性が立っていた。


 「俺の操る悪霊を簡単に追い詰めるとは大したもんだね。」

 おっさん陰陽師はそれでも余裕ありげに話している。


 「ここには私クラスの妖怪はたくさんいるの、大人しく引いてもらえるとありがたい…。」

 美少女雪女はそこまで言って、私たちをじっと見て固まっている。


 「…ちょっと、急用を思い出したわ!すぐに代理を連れてくるから、待っててもらえる?」

 雪女は急いで引き返そうとする。


 「氷室さん♪どこへ行くのかな?」

 「…な…何をおっしゃっておられるのかしら…人違いだと思います…。」

 うん、それだけぎこちない対応をしたら、『もろバレ』なんですが…。


 ちーちゃんもしっかり正体に気付いて目をぱちぱちさせています。


 「風流院高校二年雪組、氷室琴美さん。1か月前に北海道から転入されました。

 成績は優秀で、文学や詩集を読むのが趣味です。ついでのBL系も♪」

 氷室さんの顔色が真っ青になります。


 「やや言動がつっけんどんですが、クラスの子の落とし物を積極的に拾ってあげたり、迷子の子犬の里親探しをしたりと、実は優しい子だとみんなが気づいて評判が上がってきています。

 身長一六五センチ、体重は五二キロ。スリーサイズは……。」

 「やめてーー!!全部白状するからそれ以上言うのはやめてー!!」

 氷室さんは『陥落』し、一緒にいた陰陽師のおっさんは固まってしまっています。


 「氷室さんは『雪女化』するとそんな感じになるんだ♪顔のつくりは変わらないけど、イメージがだいぶ違うよね。

 ところで、あなたが協力するくらいだから、『邪悪な意図がない』のは想像できるのだけれど、一体何がどうなっているのかしら?」

 「…そ、それは…。」

 少しホッとした表情になった氷室さんが話を始めようとする。


 「そこから先はわしが説明しよう!」

 「お…おじいちゃん??!!」

 氷室さんの後ろから出てきた老人を見て、初ちゃんが愕然としている。

 さらにお爺さんの後ろから髪がぼうぼうになった人のよさそうな三〇くらいの作務衣を着た男性も姿を現す。


 「初、そしてモンスターバスターの皆さん。紹介しよう。

 この人が格式家の後継者、格式春麻呂(かくしきはるまろ)さんだ。」

 な、なんですって?!!


続く。


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