42 新婚旅行が思ったよりも…。その2
私たちが到着してすぐにバーーンと音を立てて扉が開かれました。
「宇宙船の扉なのに、どうして簡単に扉がひらくの?」
「ええ、外部に出るのに不自由だったので、簡単に開くようにしたのが失敗でした。」
ううむ、遭難後に変な改造を行ったのだね…。
「わっはっはっは、今日こそこの場所を渡してもらうぞ!」
「あなたたちは何者かしら?」
入ってきた三人組に向かって私が一歩足を踏み出す。
「ほお、臆病者のぴかちゅう星人たちはとうとう助っ人を頼んだか?!!
いいだろう!教えてやろう!我らは泣く子も黙る宇宙の地上げ屋!バケット団だ!!」
リーダーらしい赤髪の女が腰に手を当ててポーズを取りながら叫ぶ。
その後ろにはクール系でヘタレオーラのお兄さんと、コミカルな猫っぽい獣人が同じく腰に手を当ててポーズを取っています。
ううむ、どこぞのアニメで見たような連中ですね…。
「どうでもいいのだけど、『この場所を明け渡せ』の意味が解らないのだけれど。
この人達の故障したちょっとボロっぽい宇宙船を明け渡せとはどういうことかしら?」
「ふ、それはね…。私たちの宇宙船も故障して動かなくなっているのよ!
そして、私たちの宇宙船の遭難した場所よりここの方が日当たりもよく、交通の便もいい場所にあるの!さらに宇宙船も私たちの方がおんぼろなのよ!さあ、その宇宙船を渡して、私たちと場所を交換なさい!!」
「あほかーーい!!」
バケット団のリーダーに私のハリセンがさく裂します。
「他人の宇宙船を強奪しようというその根性もそもそも論外だけれども、そんなことをしている暇があったら、助けを呼べばいいじゃない!!
みんな、このヘタレ三人組にお仕置きの『電撃』を浴びせてあげなさい!!」
私はぴかちゅう星人たちにはっぱをかける。
「どうして見抜かれたかはわかりませんが、私たちの先祖には『電撃を発する能力』があったと聞いております。しかし、今の世代の私たちにそんな能力は…。」
「ぐだぐだ言い訳をしない!!そんな根性だから遭難した後、こんなところでくすぶる羽目になるのよ!!今こそ気合を込めて全身全霊で電撃を出す時だわ!!」
「「「「「「わかりました!やってみまちゅ!!」」」」」」
ぴかちゅう星人たちがそれまでのおどおどした態度から、一気にやる気に変わります。
そして……ピカっと光ったかと思うと、ぴかちゅう星人たちの全身が発光し、雷撃がバケット団の三人組に向けて放たれます。
「「「のわーー!!」」」
三人組は電撃をくらって、そのまま卒倒してしまいます。
「すごいわ!!みんな、やればできるじゃない!!とりあえず、先に料理を完成させてご飯を食べてしまいましょう!!」
そして、光ちゃんと一緒に作った飲茶とともにみんなで飲めや歌えやの大騒ぎです。
「瀬利亜さん、どうして私たちに電撃能力があると見ぬかれたのですか?」
「…ええ、正義の直観だわ。」
私はすまし顔で答えます。名前が『ぴかちゅう星人』だから、電撃が出るに違いない…と思ったからだということは当然内緒です。
しばし、みんなで歓談していると、スマホに着信が入ります。
「瀬利亜ちゃん、結婚式当日からお仕事とは大変ね。とりあえず船内にいれてくれる?」
おおっ!!ザップマンこと誠也さんだけでなく、奥様の美夜さんもご一緒だったようです。
扉を開けると、『妊娠6か月』でかなりお腹の大きくなられた地球防衛軍日本支部副隊長にして、誠也さんの上司兼奥様の土御門美夜さんが入ってこられた。
続いて、誠也さんと、同じく防衛軍技術担当の『マッドサイエンティスト』出田哲也隊員も入ってこられました。
なるほど、技術担当が来てくれればさらにやりやすいよね。
「出田隊員、これくらいならあなたでも直せるんじゃない?」
「そうですね…確かに故障個所くらいなら修理できると思いますよ。ただ、この場所では無理なので、地球防衛軍本部まで行く必要がありますが…。
ところで、どうして私だけ独身なんでしょうか?なんで、俺だけ『バカップル二組』に挟まれて仕事をせねばならんのでしょうか?」
美夜さんの言葉にタブレットを操作していろいろ調べていた出田隊員はいきなり愚痴り始めた。
ううむ、そんなことを言われているからモテないと思うのですが…。
ともあれ、そんな軽口が出てきたということは修理はそんなに難しくはないということなのだね。
「なに言うてんねん。そんな他人をうらやむような言動やからモテへんのんや♪ただでさえ、オタクはもてにくいんやから、その辺から改善せな未来はあらへんで♪」
「なんだと!貴様のような電脳オタクに言われたくはないわ!!
…ところできれいな女性にもてもての瀬利亜ちゃん、だれかいい子を紹介してくれない?」
オタクのいとこ同士でじゃれ合っていると思ったら、今度は私に矛先が来ましたが…、さて、何と答えたらいいでしょうか?
「…そうね…知り合いに『マッドサイエンティスト』の三〇がらみのおじさんが好きな子がいるようだったら紹介するわね。」
「そんなレアな趣味の女の子なんかいるわけないじゃん!!ほら、おじさま趣味の女の子とかいるでしょ?」
「ええと…単なるおじさま趣味の女の子はいないわね…。昔の私だったらダンディー系が好きだったけど。…鑑賞限定なら今でもダンディー系は好きだわ。
あと、鑑賞限定なら可愛い女の子とか美女も大好きだけど♪」
「くっ!瀬利亜ちゃん、なんか今回辛辣でない?もう少し希望の持てるような話をしてくれないと、おじさんへこんじゃうよ?」
「可能性のない『偽りの希望』を持たせることはかえって残酷だと思うの。
哲也さんは素材と人間性は悪くないのだけれど、余裕がないせいか、『若い女性に対してギラギラしすぎ』だと感じるわ。
若い女性に興味があるのは男性のサガとわかっていても、『若い女性全体にギラギラした視線』を向ける相手に対しては普通の女性は引くからね…。
光ちゃんは女性全般ではなく、『私個人が大好き』だと言ってくれたし、誠也さんも『美夜さんが大好き』だと伝えたからうまくいったのよ。
そうねえ…まずは鑑賞を兼ねて、『お友達から始めましょう』くらいでいいんじゃないでしょうか?」
哲也さんがショックを受けたのか、しばし固まっている。
光ちゃんのいとこだけあって、本来は優しいいい人なのだから、もう少し『社会性』を身に付けられたらいい相手も見つかると思うんですよね。
「あの?どの方がザップマンさんなんでしょうか?」
おっと!ぴかちゅうリーダーのソフィアさんがおずおずと声を掛けてきたよ。
「そちらの地球人名誠也さんがザップマンです。そして、その隣の女性が奥様の美夜さんです。もう一人の眼鏡の男性は地球防衛軍技術担当の哲也さんです。」
私のセリフにぴかちゅう星人たちがざわつく。
「ザップマンさんはご結婚されているんでちゅか??!!」
「そうなの。素敵な女性を伴侶にされて、奥様のお腹の中には『愛の結晶』である双子の赤ちゃんまで居られるわ。宇宙の英雄ザップマンさんは地球で愛する女性と結ばれて家庭を設けられ、『地球に骨をうずめる覚悟』までされているの!素晴らしいことだと思わない??!!」
「「「「おおおおーー!!!」」」」
私のセリフにぴかちゅう星人たちは感動に身を震わせておられるようだ。
美夜さんはとても嬉しそうにほほ笑まれ、当の誠也さんは苦笑されている。
…誠也さんが美夜さんを心から愛されているのは本当のことですが、実力的に言えば、世界最強の陰陽師の美夜さんの方が『圧倒的に強い』ですからね…。
ついでに言えば、自分が宇宙人だと煮え切らない誠也さんを『説得』するために美夜さんが『できちゃった婚』に持ち込んだのでありました。
それを言うとぴかちゅう星人のみなさまはがっかりされるのが見えているので、もちろん内緒です。
「じゃあ、宇宙船を基地まで運べばいいのよね。ん?もう一機、損傷した宇宙船があるようだけど、これはなんなの?」
美夜さんがタブレットを操作しながら私に聞いてくる。
「ええ、実は…。」
私はバケット団の宇宙船のことも説明する。
「じゃあ、二機とも運べばいいよね。ことの顛末をザップマン星に報告した後、両方とも修理すればいいね。バケット団の三人への対応はザップマン星からの情報次第だね。
では、式神召喚!!」
美夜さんが叫ぶと、宇宙船の外に『強大な存在』が現れたのが私のセンサーに感知された。
この宇宙船にも感知されたようで、まもなくモニターに巨大な銀色の巨大な翼を広げた怪獣らしきものが映し出され、ぴかちゅう星人たちが大騒ぎになる。
「大丈夫。あれは美夜さんが召喚した、式神だから味方だわ。…にしてもでかいわね。翼長二〇〇メートルを超えるんじゃない?」
私たちが新婚旅行の続きに戻るため車を出すと、銀色の翼竜のような怪物が牽引光線を出すと、二機の宇宙船は地面を割って、空中に浮かびだすのが見えた。
美夜さん達は乗ってきたスーパーファルコン号に乗り、宇宙船を曳航する怪鳥と一緒に富士山麓に向かって飛んでいった。
いやあ、一件落着でございます。
なお、宇宙船が直った後、バケット団の皆様は母星に強制召喚され、ぴかちゅう星人たちは無事に……観光を継続しておられるそうです……。
きみら、のんきすぎない?!!
私たちはエアカーで、津軽海峡を越えたところで、一泊することにします。
函館で100万ドルの夜景を楽しもうというわけです。
近場に温泉も多いし!海の幸もたくさんあるしで、わくわくです!!
温泉宿にチェックインし、温泉にゆったり浸かった後……気が付くと次の日の昼間になってました…。どうしてこうなった?!
エロ光ちゃん!100万ドルの夜景を見損なったじゃないですか!!(苦笑)
え?『新婚旅行の初夜は最高の記念なんや♪♪』ですか?
夜景を見る時間くらい取れるよね?!……まあ、『流された』私もあまり強く言えたものではないですが…。
終わったこととぐじぐじ言っても仕方ないので、お昼は新鮮な海の幸をたらふく頂いて、次の目的地に向かって旅立ちました。
続く




