37 転入生が多すぎる その4
シードラゴンZの改造は4人のエキスパートの共同作業により、着々と進んでいきました。
ロボットの基本設計をドクターフランケンがマグナ博士と相談しながら進めていき、細かい制御システムを光ちゃんが調整し、作業用のミニゴーレム達(どうして、恰好がSDシードラゴンマスクなんですか?!)の提供をアルさんが行った。
そして、要所要所で望海ちゃんが適切な助言を入れていった。
おかげでたった二時間程度でシードラゴンZは見た目からして全然違うロボットに進化していた。
「よっしゃ!『グレートシードラゴン』の完成や!!」
光ちゃんが喜んで叫んでいる。うん、嫌な予感しかしませんが…。
「なんと、グレートシードラゴンの主題歌まであるんや♪」
あの、もしもし??
『 グレートシードラゴンの唄
ダッシュ ダッシュ ダンダンダダダン♪ ダッシュ ダッシュ ダンダンダダダン♪
ダッシュ ダッシュ ダンダンダダダン♪ シードラゴン ダッシュ♪
私は涙を流さない ダダッダー♪ ロボットだから マシンだから ダダッダー♪
だけどわかるわ正義の心♪ あなたと一緒に悪を撃つ♪」
いやもうこれ以上『グレートマジ◎ガー』の替え歌を歌わなくていいからね??!!!
完成したグレートシードラゴンはシードラゴンZより一回り大きく、鋭角的なデザインをしております。
その上、手足が長く、『スリムでアダルトな感じ』(BY光ちゃん)に仕上がっています。
武装も純粋に破壊用のものから、敵を無力化するもの、拘束用のものまで多岐に渡っているようです。
また、搭乗者の闘気を増幅・活用するシステムまで組み込んであります。
アルさんの見立てによると、『闘気システムを使わない』場合で、シードラゴンZの約三倍強の戦闘力になり、私が搭乗し闘気システムをフル活用したら一〇倍くらいになると推測されるようです。
それならば、もともとのシードラゴンZの戦闘力がどれくらいだったかということが大切になります。
先ほど私が粉砕した『地底くも巨人』あたりの通常の地底巨人と比較すると、攻撃力、防御力が約五倍くらいになるようです。
なお、シードラゴンZの攻撃力がだいたいシードラゴンマスクとほぼ同じくらいになるようなので……私は乗る必要が全然なかったわけですね…。
先ほどはそのまま敵巨人をさっさとぶん殴っておいて正解だったようです。
「ようし、早速シルフ号に乗って搭乗や!!」
え?やるんですか?まあ、この流れでやらないというのはありそうにないですね…。
私はシルフ号に乗ると、グレートシードラゴンに向かって走らせます。
ある程度近づいたところでボタンを押しながら叫びます。
「シードラゴン、オン!!」
するとグレートシードラゴンの胸部が開き、牽引光線がシルフ号に向かって放たれます。
シルフ号はそのままグレートシードラゴンの胸部に吸い込まれていき、なんだかあちこちをぐるぐる動いた後、操縦ステージにたどり着きます。
操縦ステージでは上からロープのようなものがたくさんつながっている『マリオネット』のように手足を入れるパーツがあるので、それに両手両足を突っ込みます。
あとは私が動く通りにグレートシードラゴンが自在に動いてくれるようです。
早速いろいろ動いてみることにします。
おおっ!!思ったよりずっとスムーズにロボットが動いてくれます。
ついでに訓練用の標的に色々と武器を使ってみます。
「ロケットキック!!」
いや待てよ!!そんなことをしたらバランスが悪くてすぐひっくり返るでしょ?!!
「さすが瀬利亜はんや!!片足でも全然バランス感覚がええし、移動力も大きく低下されてへんやん!!
脚力は腕力の三倍いうからロケットパンチの三倍の威力なんや!」
いえいえ、人間の場合は『体を支える筋力』の問題で、脚力が三倍になっている…そういう話でしょ!!
ロボット、それも飛ばす武器に当てはまるのは全然違うよね?!!
続いて『闘気』を活用した武器も使ってみる。
「シードラゴン流星拳!!」
おおっ!!おそらくアルさん提供の闘気変換システムがうまく働いているようで、強力なエネルギーの奔流がグレートシードラゴンの腕からいくつもほとばしっています。
そんな感じでいろいろグレートシードラゴンの性能テストを終えました。
「瀬利亜さん、すごいです!瀬利亜さんとグレートシードラゴンの相性が非常によかったみたいで、闘気を活用した場合はシードラゴンZより約一〇倍ではなく、一五倍以上の戦闘力アップだと推計されています。
つまり予定より『当社比約1.5倍』アップだったのですよ!」
望海ちゃんがタブレットを見ながら興奮している。
ふむふむ、それくらいグレートシードラゴンが大きな『抑止力』として機能するという話なのだね。
そんな感じでグレートシードラゴンの運用テストを終えて、みんなが満足そうに話している時のことだった。
「大変です!!地底帝国首都から地底巨人が多数出撃してきました!あと、五分ほどで、我が国の首都、つまり、この研究所の近くに到達予定です!」
研究員が慌てて格納庫に飛び込んできた。
「ちょっと待って!!出撃からこの国の首都到達までやけに時間が短くない?!!一体敵の地底巨人はどれだけ移動速度が速いわけ?!!」
「いえ、違います。敵国首都とうちの首都が一〇キロしか離れていないんです。」
いやいや、首都と首都が近すぎるよね?!!
「それっておかしくない??!!どうして敵国同士の首都がそんなに近くにあるの?もっと距離を取った方が安全でしょ!!」
「いえ、地底の空間は狭いものですから、両国とも国土が小さいんですよ。あと、最近まで兄弟国だったので、近くても問題がなかったのです。」
研究員さんの言葉に地上組はアルさんを除いて、愕然とした表情をしている。
地底の皆さん、おかしすぎますから!!
「まもなく、敵先遣隊が地底王国首都に到着します!」
ええい!もう、ロボットに乗っている暇はありません!!
私はまたもや速攻でそのまま飛び出していった。
「わあ!またもや瀬利亜さんがそのまま行ってしまわれた!」
「大丈夫じゃ!シルフ号がロボットになって、そのまま操縦してもらうこともできるのだ!」
マグナ博士が叫ぶと、ドクターフランケンがとりなすように答えた。
「シルフ号よ!セリア嬢を助けて、地底帝国を殲滅してくれ!」
「了解しました!」
シルフ号が搭乗すると、グレートシードラゴンは私の後を追って出撃していった。
私が出撃するのと一〇〇体を超える地底巨人たちが首都に入ろうとするのがほぼ同時だった。
「シードラゴン流星キック!!」
私が三体くらい一気に粉砕すると、巨人たちは標的を首都から私に向けて変更した。
私を倒さないことには首都進攻どころではないと判断したようだ。
うん、作戦成功です。私に敵を引きつけて首都の被害を減らすこともとても大切なことです。
そうやって私が敵巨人を粉砕していると、グレートシードラゴンが応援に来てくれて、殲滅作業がどんどんはかどるようになります。
おおっ!グレートシードラゴン強いじゃん!!
シルフ号が戦い方も学習したのか、先日の海岸でのでたらめな戦いではなく、市街地へ被害が出ないようにきちんと配慮しています。
今回の敵は先ほどのくも巨人よりずっと強い敵ばかりですが、グレートシードラゴンはそれを大きく上回って敵を圧倒しています。
よっしゃあ!だんだん先が見えてきました!
敵が1/4を切った時、グレートシードラゴンは地底帝国首都の方向へ飛んでいきました。
新たな敵が現れたのでしょうか?
こっちの敵を殲滅したら応援に行った方がよさそうです。
数分で残りの敵を完全に粉砕すると、私はグレートシードラゴンを追うために『個人飛行システム』を装着します。
そして、光ちゃんに連絡を入れます。
「グレートシードラゴンはどうなの?敵巨人はどんな感じなの?」
「今首都の宮殿に到着して、防衛の巨人を圧倒しているとこや。
では、わてが中継するから瀬利亜はんは追っていって!」
「了解」
私は飛行システムに『闘気エネルギー』を注ぎ込んで、浮遊を開始する。
「おおっ!あっという間に敵の巨人を殲滅しはったわ!
えええ!!そのまま宮殿やらなんやらを無差別に攻撃始めたで!!
マグナ博士!!どういうことや!!!」
なんだってーー???!!!!
「ああ、『セリア嬢を助けて、地底帝国を殲滅してくれ!』と指令を出したから、当然だろう。」
いやいや、マグナ博士!!当然じゃないじゃん!!!!
その命令じゃあ、地底帝国の人達全員殲滅されちゃうよ!!!
「「「「博士!!攻撃ストップ(や)!!!」」」」
「え?だめなの?」
「「「「ダメにきまってるでしょ(やろ)!!!」」」」
「…仕方ないなあ…。シルフ号、攻撃中止。後はこちらが…。」
博士はしぶしぶ攻撃中止の指令を出す。
「ダメだ!!通信を一切受け付けない!!どうやら攻撃に夢中になってしまっているようだ!!良かれと思って『緊急時用』に狂戦士化する代わりに攻撃力を上げるバーサーカーシステムを組み込んだのが失敗したようだ!」
そんなもの組み込むんじゃありません!!
「じゃあ、説得(物理)しかグレートシードラゴンを止める方法はないわけなのね!!」
「…そうみたいや…。くう、わてらは愛し合うべきやったんやー!!」
光ちゃん!!某アニメの名シーンをぱくっている場合じゃありませんから!!!
数分後、グレートシードラゴンだったものの瓦礫の中から動きを止めたシルフ号を抱えて歩く私の姿がありました。
結局、地底王国と地底帝国は私の説得(物理)に応じてくれて停戦に持ち込めました。
懲りないマグナ博士はさらにドクターフランケン達と『ゴッドシードラゴン』を作ろうとされていたので、説得(物理)して、停止してもらいました。
楓さんはそのまま雪組に滞在し、相変わらず伊集院君にちょっかいを掛けています。
……伊集院君のことが好きならもう少し優しくしてあげればいいのに…と思います。
そして…。
「今日もすっごい可愛らしい美少女転入生の紹介や!!期待しいや♪」
男性陣は大いに盛り上がり、なぜか女性陣もすごく盛り上がっています。
うん、うちのクラスはなんか変だよね…。
そして、扉を開けて入ってきたのは…。
「北川望海です。よろしくお願いします♪」
いえいえ!!なんで望海ちゃんが入ってきているの??!!!
「知ってはる人もおられるけんど、望海はんは元々は新入生として入ってきてはったんや。
ところが、あまりにも優秀過ぎて『教師が教えられる』事態が多発したので、教師たちが泣き付いて、三年に変わりはることになってもうたんや。
みんな、かわいがってあげてえな♪」
教室のみんなは固まりました。みんな望海ちゃんがスーパーヒロイン『マジカルコンバットガール』だと知っているからね…。
「あの、望海ちゃん…。せっかく高校に入ったのに、いきなり三年生にさせられるなんて災難だったよね…。」
私が望海ちゃんに話しかけると、望海ちゃんは涼しい顔をして首を振ります。
「瀬利亜さん、なにをおっしゃいます。普通の三年生になるだけならともかく、瀬利亜さんと一緒のクラスになれるのでしたら、大歓迎です!!
一年間よろしくお願いします!!」
望海ちゃん、満面の笑顔で言い切ってくれました。
…嬉しいと言えば嬉しいのですが…頭痛の種が増えたような気もします。
後日、アルさんと光ちゃんの調べで望海ちゃんの転入の理由が判明しました。
グレートシードラゴン事件で、雪組をさらに制御する必要を感じたモンスターバスター協会が『制御要員』として望海ちゃんに『他言無用の条件で』雪組編入を拝み倒して頼んだのだそうだ。
…ええ、『正解』だと感じます。
なぜなら、雪組はいつ『第二第三の異世界クラス召喚』があるかわからないのですから…。




