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35 転入生が多すぎる その2

 「伊集院はん、楓はん、積もる話はあとでゆっくりしていただくとして、とりあえず楓はんの自己紹介しようか♪」

 「はい、三條院楓と申します。皆さんよろしくお願いします。」

 楓さんは優雅に礼をし、にっこりと周りを見回した。


 もう、ほれぼれするような上品で素敵な笑顔です。

 先ほどの爆弾発言が無ければたくさんの男子生徒がメロメロになっていたことでしょう。


 「あれ、先生、以前どちらの学校におられたどうこうは?」

 橋本君が立ち上がって口を開く。


 「橋本はん、うちの学校でそれは禁句や。今ならわかってくれてる思うんやが、想定範囲外のところから転入してはる生徒さんも何人もおらはるさかいな♪」

 橋本君が光ちゃんの言葉に固まる。

 はい、確かに元の高校とか言えない生徒も『たくさん』います。

 私の後ろの席のちーちゃんは学校自体通っていなかったし、その左隣でうちの同居人のバネッサちゃんも学校に行っていなかったんだよね。


 「さて、楓はんの席やねんけんど、ちょうど瀬利亜はんの隣の席が空いてるから、そこでお願いや♪」

 はっ!!言われてみれば、年度末に隣の子が九州に転校していったんだよね。

 はい、めっさまずいです!!しかし、どちらにしても説明する必要はあったので、必要があれば、光ちゃんやアルさん(催眠魔法付き)を交えて説得してもらおう。うん、そうしよう!


 ちなみに、楓さんが私の隣になるという話に教室が固まった。

 女生徒の大半がうらやましそうに楓さんを見ているが、非難の声は上がらない。

 それはさすがに不条理だとわきまえておられるのでしょう。

 みんなさすがに大人なのですが、別に私の隣なんざ大したことはありませんよ?ええ。


 楓さんは席に着かれると私を見て、にっこりとほほ笑まれます。

 なので、私も笑顔でお返しします。動揺はおくびにも出さずに鋼鉄の意志で笑顔を貫きます。


 「『あの』石川さんのお隣の席に着けるなんて光栄です♪」

 半ば予想通り、この子私の『正体』を知っているようです。

 「『どの』石川かわかりかねますが、そうおっしゃっていただけるとは光栄です♪」

 後程の『説得』に備えて、鉄の意志で笑顔のまま微笑みかけます。


 それとなく、後ろの席のちーちゃんを見ると…笑顔がひきつってます。

 うん、この子は基本的な意志力は私が舌を巻くくらいスゴイですが、『腹芸』はまだまだ全然できないようです。


 「楓、お前、石川さんの正体を知っているのか?」

 「あら、ちょっとでも情報にさといなら当然じゃない。ええ?まさか、聡は知らなかったの?次期伊集院グループ総裁ともあろうものが??!!」

 伊集院君、言われて口をパクパクさせています。うん、完全にやり込められていますね。伊集院君が苦手そうにしているわけがわかります。


 「伊集院、婚約者にそれじゃあ、すぐに尻に敷かれそうだな…。それじゃあ、石川のとこと同じじゃないか!!」

 橋本君、なにを変なことを言いだすんですか!!


 「ふ、橋本はん!アホなこと言うたらあかん!確かに瀬利亜はんは頭のキレ具合や意志力はわてを大きくうわまわっとるようや!せやけどな、瀬利亜はんはいざとなったらわてをめっさ甘やかしてくれはるんや!!尻に敷かれる関係やあらへん!!!」

 光ちゃん!何を言いだすんですか!!ほら、教室の雰囲気が一気に生暖かくなったじゃないですか!!嗚呼…女性陣が一斉に光ちゃんをめっさうらやましそうな顔で見ているよ!!

 男性陣もそれなりにうらやましそうな顔をしてますが、女性陣の方がヒートアップしているのはどうしてなんですか!!


 「それから、遅くなりましたが、先日はありがとうございます。確かにあれくらいの連中を自力で撃退するのは難しくはないですが、どうしても必要以上に目立ってしまいます。おかげで助かりました。」

 楓さんは嬉しそうに笑って頭を下げてくれました。

 いや、良かったです!!あのロボットのことは『闇に葬って』しまいましょう♪

 ええ、モンスターバスター協会の方にはもちろん、伝えてあって、『始末書』も何枚も書かせていただいてます。被害がなかったので、その程度で済みました。


 「あの、石川さん。もしよろしかったら相談させていただきたいことがあるんですが…。」

 ん?私の正体を知っていて、この流れは?


 「わかりました。では、メアド交換をしましょう。詳細はメールにて。」

 私が楓さんとメアドを交換するとその場は何とか収まったのでした。




 楓さんは女性陣とはあっさり仲良くなって、すぐに放課後が来ました。


 楓さんの指定された校舎裏に私は望海ちゃんと二人で訪れます。

 「あら、かわいいアシスタントさんですね。でも、あなた一人でも恐縮しそうなくらいなのに、『片腕』の方まで連れてきていただくとは本当にうれしいですわ。」

 知っていたのか、見抜いたのかはわからないですが、望海ちゃんの正体がわかっておられるというのはこのお姉さん本当にただものではないですね。


 望海ちゃんもそれを聞いて、表情がかわいい優等生から一瞬プロの表情に変わるが、またもとの優等生の表情に戻った。

 ああ、望海ちゃんも『二人の存在』に気付いているのだね。


 「楓、お前石川さんを校舎の裏なんぞに呼び出して何をするつもりだ!!」

 伊集院君が心配そうに姿を現した。

 「あら、心配して来てくれたのね。伊集院君は思っていたよりずっといい人だわ。そこに隠れている橋本君もだけど♪」

 私の声に伊集院君がぎょっとして後ろを振り返ると、橋本君がバツが悪そうな顔をして校舎の陰から姿を現した。


 「橋本、いつの間に?!」

 「すまん、伊集院が思いつめたような顔をして出ていくからついつい…。」

 「まさか、素人に尾行されて気付かないとは…。」

 伊集院君ががっくりして肩を落とす。


 「わっはっは、これでも『異世界召喚勇者』の一人だ!!」

 得意げに笑う橋本君にさらに伊集院君がうなだれる。


 「あらあ、聡、『異世界召喚勇者』じゃなかったの…。」

 楓さんがわざとらしくため息をつき、さらに伊集院君がうなだれる。


 そんなとき、私、望海ちゃん、楓さんがはっと身構える。

 この妙な雰囲気は…。

 「ちょっと待って!!何も伝えてないのに、まだ早すぎる!!」

 ん?楓さんが足元を見て叫ぶ。なるほど、足元の『召喚用魔方陣』は楓さんの関係者のフライングなのだね?!


 「ちょっと待て!この魔方陣は!!」

 「ご安心ください。これは『同じ世界の間を行き来するための召喚陣』です。

 同じ世界を行き来する魔方陣『通称ゲート』なら、私でも扱えます。

 必要ならいつでも帰還できます。」

 「「はい??!!」」

 淡々と語る望海ちゃんに男性陣の目が点になる。


 とか言っているうちに周りの景色が薄れていき、場面は暗転した。


 


 「地底王国『科学研究所』へようこそ!!」

 五〇代半ばに見える『頭髪の後退した』優しそうな白衣のおじさんががっはっはと笑って私たちを出迎えてくれました。


 今いる場所は『地球防衛軍基地日本支部(何度か遊びに行きました)』によく似た雰囲気の制御室のような場所だ。


 「おじ様!話をつけたら合図をするから召喚してくださいと言ったじゃないですか!!」

 「はっはっはっは、すまんすまん!くしゃみをしたらつい、手が滑ってしまってね。タブレットに当たってしまったのだよ♪」

 目を吊り上げて楓さんが怒っているが、おじさんは涼しい顔でスルーしている。


 「すみません、『地底王国』とか、突っ込みどころが満載のセリフをそちらのおじさまから聞いたのですが、状況を教えていただいてよろしいでしょうか?」

 「ああ、失礼。では、それは楓の口から言ってもらった方がよさそうだな。」

 おじさんが促すと、楓さんが背筋を伸ばして口を開く。


 「まず、私は三條院楓というのは地上で過ごすための仮の姿です。本名はカエデ・エターナル。地底王国の第2王女です。」

 「待ってくれ!そんな話は聞いたことがないぞ!親父はそのことを知っているのか?!」

 「ええ、優おじさまはご存じで、私たちに多大な協力をしていただいております。正確には地底王国自体がここ数十年衰亡の危機にあったものを伊集院家に支援していただいていたのです。」

 楓さんの話に伊集院君は呆然として聞き入っている。

 「そして、伊集院家やその他の方たちのご支援で地底王国は何とか危機を乗り越えつつあったのです。

 ところが、同じく危機にあった『地底帝国』は我が国を侵略することでその危機を乗り越えようとしたのです!!

 瀬利亜さん、いえシードラゴンマスクさん、地底帝国の侵略を食い止めるお手伝いをしていただけないでしょうか!お願いします!」

 楓さんは必死に頭を下げてきます。


 「わかったわ。あなたたちが嘘をついていないのはオーラから読み取れるし、『さまざまな超常トラブル』を解決するのがモンスターバスターの仕事だわ。

 その仕事受けさせていただきます!」

 私が快諾すると楓さんとおじさんの顔色がぱっと明るくなる。


 「あのシードラゴンマスクに助けていただけるとは光明が見えてきたよ。本当にありがとう。

 しかし、地底帝国の繰り出す兵器は実に恐るべきものだ。

 機械人形である『地底戦闘員』は常人の一〇数倍の戦闘能力があるし、巨大な戦闘メカである『地底巨人』は大怪獣ゴメラに匹敵する戦闘能力がある。

 シードラゴンマスクさんにいていただくのは非常に心強いのだが、一緒に来ていただいた素人さん達には帰ってもらった方が安全そうだね。」

 「…突っ込みどころ満載の敵のメカの名前は置いておいて、ここには素人は一人もいないわ!全員が異世界勇者だから、必ず何らかの役に立ってくれると思うわ!!

 ちなみに今からはシードラゴンマスクではなく、瀬利亜とお呼びください。」

 「おおそうかね!!瀬利亜さんが太鼓判を押されるのだったら安心だ!

 そうそう、自己紹介がまだだったね。私はマグナ・エターナル。現王の弟で、この科学研究所を任されている『地底科学者』さ。」

 うん、マグナさん、何にでも『地底』と名付ければいいというものではないと思います。


 「瀬利亜さん、待ってくれ!君と楓、私はともかく、そこの女の子と橋本は一般人ですよね?!戦いに出すのは危険なのでは?」

 「伊集院君。あなたがツンデレ系でとても思いやりがあるのはわかったわ。でも、橋本君も望海ちゃんも異世界召喚勇者だから十分に活躍してくれると思うの。望海ちゃん、鑑定結果をみんなに見せてあげて!」

 「わかりました!では、早速!」

 言うなり、望海ちゃんは素早くタブレットを取り出すと操作を始める。



橋本太郎 男  人間 17歳

レベル 30

HP 330 

(中略)


◎ツッコミLV15 ボケLV10 説得LV8 喧嘩LV1 古文LV5

【称号】異世界召喚勇者 雪組ツッコミ王



 「ほら、素晴らしい能力じゃない♪♪」

 「「「「………。」」」」

 「石川!待ってくれ!!確かに異世界召喚勇者だし、レベルも高いけど、この技能はなに?!戦闘系が全然ないじゃん!チート魔法とかどこいったの??!!」

 「石川君、なにを言っているの?魔法の練習をしたことがなくて、魔法を使えるわけがないじゃない。それから『ツッコミ』は素晴らしい技能だし、レベルは高いし、ヒットポイントもかなり多いから、すごくタフだわ!!」

 「全然褒められてる気がしないよ!!」



 さて、今回は前回鑑定してレベル88だった伊集院君は省略して…。


三條院楓カエデ・エターナル 女 地底人 17歳

レベル 155

HP 780 

(中略)


【魔法】精霊魔法LV60 理論魔法LV55  

【称号】異世界召喚勇者 地底王国第二王女 ツンデレ王女



 「えええっ!!楓は俺よりずっとレベルが高いのか??!!」

 「ええ、いろいろあったのよ…。ところで、この『ツンデレ王女』てなんなの??!」

 「…申し訳ありませんが、意図したわけではないので、お察しください。」

 楓さんのツッコミに望海ちゃんが謝っている。



マグナ・エターナル 男 地底人 50歳

レベル 234

HP 880 

(中略)


【技能】地底科学LV80 地底魔法LV50  

【称号】異世界召喚勇者 地底王国王弟 地底科学研究所所長



 「……地底科学とか、地底魔法とはどんなものなんでしょうか?」

 「瀬利亜さん、ご覧いただいてからのお楽しみだよ♪」



北川望海 女  人間 15歳


レベル 299

HP  1420 


(中略)


【技能】◎銃器全般LV130 ◎剣及び近接武器全般LV65 ◎爆発物全般LV108 ◎トラップ作り&解除LV105 ◎サバイバル術LV60 ◎情報収集&分析LV111 ◎軍隊指揮能力LV66 ◎魔法いろいろLV123

【称号】異世界勇者  戦場を選ばない完璧な兵士パーフェクトソルジャー 銃の魔法少女



 「「………。」」

 うん、橋本君と伊集院君は完全に固まってます。相変わらずスゴイ技能だよね…。

 「はあ…。スーパーヒロイン『マジカルコンバットガール』は凄まじいわねえ。一緒に来てもらって助かりました。」

 楓さんの言葉にマグナさんがうんうんうなずいています。


そして、え?私も鑑定ですか?私は鑑定には嫌な思い出しかないのですが…。



石川(いしかわ) 瀬利亜(せりあ) 女  人間 18歳


レベル さらにパワーアップです!!

HP  基本も高いですが、闘気バリアーでバッチリです♪ 

MP  魔法は使えないけど、正義の精神力は無限大さ♪

(中略)


【称号】 異世界召喚勇者 地上最強のスーパーヒロイン 奥さまはモンスターバスター 

【特記事項】 どんなゴメラでも誰よりも早く倒せます! 昨夜もお楽しみでしたね♪


 

 待てい!!基本突っこみどころしかないけど、最後の『お楽しみでしたね♪』はなに??

 みんなの視線が生暖かくなっているんですが??!

 『新婚さん』の時から冷え切っていたら、夫婦終わっちゃうんですよ!!!


 「とりあえず、『昨夜のこと』は置いておいて皆さんに見てもらいたいものがあるんだ。

どうぞ、こちらへ。」

 まだ、微妙な空気のまま私たちがマグナさんに案内されていくと…おおっ?!これは!!


 私たちの目の前にスゴイものがあったのでした。


続く


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