32 異世界帰りの勇者 その3
「勇者饅頭はいかがですか?」
「勇者ぬいぐるみ特別バージョンはいかがでしょうか?」
翌日、カソノ村は『大勇者祭り』開催で、各地からのお客様でごった返していた。
うん、アリス姫や『執事さん』、『ロリ女神さま』、『例の侍女さん』を始めとするガルーダ王国の面々も来てくれてますね♪
サーヤさんやミーシャさんと一緒に楽しそうに『いろいろな出し物』を廻っておられます。
伊集院君は……おお、魔王を倒した仲間たち(推定)と一緒に話していますが…事態に付いていけず、説明がちぐはぐになっています。
一緒にいるのはサーヤさんそっくりの魔法使い…穏やかなサーヤさんと違い、少々つんつんされた感じです。まあ、人はよさそうです。
スーパーマッチョな騎士さん…人のいい、豪快系のおじさんのようです。
温厚そうな司祭風のおじいさん…この方が西方大陸最高の癒し手なのですね。
うん、有能だけど『わがままな勇者』と『ツンツン系のエルフの魔法使い』でぎくしゃくしかねないパーティを豪快で人のいい騎士さんと、包み込むような優しい癒し手のおじいさんがうまくパーティバランスを取った…そういう流れですか。
パーティ全体としてはいいものの、流行の?ハーレムパーティでは全然なくて、普段からモテモテの伊集院君にとってはさぞや居心地が悪かったでしょうね…。
私はサーヤさんと一緒に会場の様子を視察してました。
そして、もう少ししたら始まる『本日最大のイベント』に備えているところです。
あ、サーヤさんが妹さんのことに気付いて、走り寄っていきました。
しばし、サーヤさんは妹さんと話していますが、私に気付いた伊集院君が私に向かって歩み寄ってきます。
「これは一体どういうことだ?!」
「これ…とはどの件のことかしら?」
「なんで、各国からこんなにゲストが来ている…というか来れるんだ??!!」
「臨時に各国向けに『双方向ゲート』を設置したからね。サーヤさんはグルフォン国、ガルーダ王国、それからあなたのいたオータム国の王室と知り合いだから。」
「というか、どうして『至高の魔術師サーヤ』さんと知り合いなんだ?!」
「どうしてと言われても…以前召喚された時に仲良くなった…それだけの話なんだけど…。」
「なんで、勇者が『シードラゴンマスク』なんだ?!それからどうしてシードラゴンマスクのぬいぐるみがこの村の特産品になっているんだ??!」
「…聖女アリス姫がシードラゴンマスクを勇者として召喚したらしいわね…。
それから、前回うちのクラスが召喚された時に『たまたま』アルテア先生がシードラゴンマスクのぬいぐるみを持っていたから、それをモデルにして『勇者の仲間』のサーヤさんがそのぬいぐるみを作る…という話になったの。
ぼったくっているならともかく、元の世界でもシードラゴンマスクのぬいぐるみは困った子供たち支援に使われたりしているそうだから、こちらでも『村おこしの手助け』に使われても文句は出ないんじゃない?
本人の事後承諾も取れたそうだし…。」
私の返答に伊集院君は口をぱくぱくさせている。
はい、光ちゃんと橋本君の発案で、『ギリギリまで伊集院君に私の正体がばれないようにする』プランが進行しております。
光ちゃんは単に『おもしろそうだから』、橋本君は『自分だけ最後にわかってビックリさせられたのが悔しい』という理由で始まりましたが、クラスの『女性陣が軒並み賛成』したので、プランは実現しました。
うちのクラスの女子はシビアだねえ。
「…ま、まあそれはいいとしても、最後のイベントの『勇者対決』はなんなんだ!!
どうして私があんな小さな女の子と戦わなければならないんだ!!!」
「…いろいろあるけど、『見栄えとイベント時間の問題』かしら。
『東洋の勇者・神那岐千早と西洋の勇者・伊集院聡の対決!!』
これだけでものすごく盛り上がるじゃない!
そして、勝者はさらなる猛者と戦い、勝利者には栄光の美酒を与えられる…ほら、イベントの題材としてはカッコいいでしょ♪」
「テレビのヤラセ番組とどこが違うんだ?!」
「大丈夫、みんなが納得できる仕掛けがあるから♪」
「…というか、私が勝ったら本当に君を口説いていいんだろうな?」
「…本来は不本意だけど、『私に勝てれば』口説くのは構わないわ。約束します。」
私の返答にようやく伊集院君が胸をなでおろします。
伊集院君が私に勝つことは絶対にありえないとわかってこのイベントを組んでいるので、結果的に完全に騙しているわけですが、『イベントを盛り上げる』のに格好の題材なので、乗せているわけなんですよね。
ちなみにミーシャさんと光ちゃんは私の説得で勝負から引いてもらいました。
ミーシャさんは下手な勝負になるとオータム国とグリフォン国の遺恨になりかねないし、光ちゃんは『イベント全体のバックアップ』に専属で付いてもらいたかったのです。
おや?サーヤさんに連れられて妹さんたちが私の方に歩いてきます。
「へえ、この人がお前の信頼する…。」
「そうです♪瀬利亜さんにはとってもお世話になってます♪」
妹さんの問いにサーヤさんが私の後ろからすがりついてくる。
「うわあ!サーヤが人間になついているのを始めて見たよ!!」
妹さんが目を丸くして私たちを見ている。
「ああ!!サーヤさん、ずるいです!!私もします!!」
「私もさせてください!」
「じゃあ、私もお願いね♪」
いやいや、ちーちゃん、遥ちゃん、アルさん、イベントはどうなったんですか?!!
『おしくらまんじゅう』してる場合じゃないですからね??!!
その光景を妹さん(アーリャさん)と伊集院君がうらやましそうに見ています。
アーリャさんは『みんなが仲がいいこと』をうらやましそうに見ており、伊集院君は『ハーレム状態』がうらやましく感じたのだと思います。
そして、ついにメインイベントの時間です。
『大魔法使い』のアルさんが急遽作ったスタジアムで数千人の観客が大騒ぎしております。
スタジアム中央では勇者装備を身に付けた伊集院君と、巫女風の服装をし、杖を装備したちーちゃんが向かい合っている。
伊集院君は赤く燃えるような全身鎧に、巨大な盾と大きな片手剣を構えている。
対してちーちゃんは白を基調にした赤い袴の巫女衣装に可愛らしい杖を左手に持ち、背中には不釣り合いに大きな太刀を背中にくくりつけている。
会場の空気は『楽しい演技イベント』だな…と受け止めて、この前座の後、『烈火の勇者がぬいぐるみの勇者(つまり私)と戦う』のだと予想している感じだ。
うちのクラスのメンバーも半分くらいはそう思っているようだが、残りの半分は興味深々に眺めている。
「なあ、神那岐…怪我をしないうちに…。」
「ふっふっふ、伊集院さん。『魔法少女』神那岐千早を甘く見てはいけませんよ♪」
伊集院君の問いに対して、ちーちゃんは『本物の魔法の杖』を手にしてニコニコと笑っている。
伊集院君は呆れたような、少し申し訳ないような表情をしている。
ううむ、伊集院君は思ったより人は悪くないようですが、『真贋を見抜く目』はまだまだのようです。
サーヤさん、アーリャさんあたりは魔法の杖が本物だと気づいて、ちーちゃんを見る目が少し変わってますから。
「それでは、いよいよ、『東洋の勇者・神那岐千早』と『西洋の勇者・伊集院聡』の対決が始まります!!
それでは、試合開始!!」
実況の私の声で、二人とも動き出します。
ちーちゃんを峰打ちにして…くらいに考えていたと思われる伊集院君はちーちゃんがいつの間にか魔法の杖と背中の太刀を入れ替えているのを見て仰天してます。
ちーちゃんの最初のほわーんとした雰囲気が一気に抜身の刀のようになっているのにようやく気付いたようです。
とはいえ、気付くのが遅すぎて、ちーちゃんからの白刃の一閃に伊集院君は身動き一つ取れませんでした。
「それが勇者の装備ですか?もう少し丈夫な方がよさそうですね…。」
淡々とちーちゃんが語ると同時に、伊集院君が構えていた巨大な盾の上半分がカラーンと大きな音を立てて、地面に落ちました。
「おい…この盾は『魔法・物理とも絶対防御の魔法』がかけられているのに…なんで、斬れるんだ??!!!」
伊集院君が半ば恐慌状態になっているようです。
「ええ、『その程度の結界』ならこの刀で簡単に切り裂けますよ。」
ちーちゃんはあくまで淡々と語っている。
会場がしんと静まり返る。
少し前までふわふわした優しい雰囲気の女の子が、氷のような雰囲気を漂わせ、勇者を『獲物を狙う鷹』のような冷たい視線で見ているのですから。
「おい、瀬利亜!!あの子、それからあの武器はなんなんだ??!!」
ミーシャちゃんが泡喰って私の席に寄ってきます。
「あの刀は『世界のひな形である日本の国を守る神刀にして対魔神刀・神那岐の太刀』で、彼女はその『歴代最強』の後継者よ。
だから、生まれながらの勇者にして、『勇者の中の勇者』というべき存在だわね。
使い手の霊力を威力に変える刀で、魔王などの闇の存在に対しては絶大な威力を発揮するから例えば、魔王や大魔王なら『一刀両断』できるんじゃない?」
「いや、そんな勇者がなぜこんなところにいるんだ??!!」
「…そうね、だからこそ、今回勇者召喚されたんじゃないかしら…。」
私はふっといかにも意味ありげに笑う。
もちろん、実際は『村おこし』のために適当に召喚されただけですが、会場のみんなは私のでっち上げを信じたようで、しんと静まり返ったままだ。
その時、半ば呆然としかけていた伊集院君が我に返ると抜刀して叫んだ。
「私は烈火の勇者だ!!こんなところでは負けん!!」
伊集院君が気合いを振り絞って動きますが、その横をちーちゃんが素早く通り過ぎます。
伊集院君が慌てて振り向くと、ちーちゃんが納刀すると同時に、伊集院君の掲げていた剣が斬られて、地面に落ちてしまいます。
伊集院君はそれを見て、膝をついて動かなくなってしまいます。
「勝者、東洋の勇者、神那岐千早!!烈火の勇者も決して弱くはなかったのですが、東洋の勇者があまりにも強すぎた!!皆様、二人の勇者の敢闘に拍手をお願いします!!」
私のアナウンスの後、会場は温かい拍手に包まれた。
そして、勝利者のちーちゃんは私を強い視線で見て言った。
「瀬利亜さんにも必ず勝ちます!!そして、瀬利亜さんと絶対に『デート』するんです♪♪」
きらきら目を輝かせて宣言するちーちゃんを見ながら私は何かを根本的に間違えたことを悟りました。
続く




