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27 小さな恋の物語 その3 (出会いからゴールインまで)

 「なるほど、あのレジウスと戦うまでは瀬利亜さんと光一さんは『気心の知れ過ぎた家族同然の幼馴染』みたいな関係だったのですね。

 私はお二人が恋人になられてからお会いしたので、スーパーラブラブカップルとしてしか認識していなかったのです。」

 トレーニングが終わってからの雑談で、望海ちゃんが興味深そうにいろいろと尋ねてくる。


 「そうなんですよ、望海さん。私がお会いした時は光一さんは『瀬利亜さんのお兄さん』という雰囲気だったんです。その時から『夫婦漫才』みたいな会話をされてましたけど、今のようにカップルという空気ではなかったですね。」

 ちーちゃんも望海ちゃんの言葉に相槌を打つ。


 今から半年近く前にアルさん曰く『世界を掌握しようとする神話クラスの強敵』と私たちはやり合う羽目になり、初戦で私は完膚なきまでに叩きのめされてしまったのです。

 なんとかアルさんと巧さんに戦場から救い出してもらったものの、心身ともに衰弱してしまった上、ショックで記憶が飛んでしまった私は光ちゃんとちーちゃんに看病してもらう羽目に陥ってしまったのです。




 体も頭もすごく重たく、気分が悪かったものの、『起きなければいけない』ような気がして、私はベッドの上に体を起こした。

 どこかで『これは夢だ』とわかっているものの、なにがなんだかわからない状態というのはとても不安にさせられるのだね。

 

 「よかった、瀬利亜ちゃん。気付いたのね。」

 とても優しそうな金髪の美女に声を掛けてもらって、少し安心した私はとんでもないことに気付いた。どこかで見たことのあるような人だが、『この人は誰』?いやいやそもそも自分自身は誰なのだ??

 この女性は私のことを瀬利亜と呼んでくれているようだが…。


 この後、私を家族同然に大切にしてくれているらしい『光一さん』という関西弁を使うイケメンの男性と、『千早さん』という日本人形のような可愛らしい女の子が心身とも消耗しきった私を一生懸命看病してくれました。

 断片的によみがえった記憶だと、二人とも兄や妹同然に私生活を送ると同時に過ごしていたようですが、二人とも料理がすごく上手で、できた料理を『はい、あーんして♪』という感じでベッドで食べさせてくれるのです。


 私はこんなに自分を大切にしてくれる『家族』がいてくれることをとても嬉しく思うと同時に、『とある記憶』が酷く自分を悩ませることに気付きました。


 「瀬利亜はん、今度の人にはそろそろ婚約指輪を渡そう思うんや。どんな指輪がええかなあ。こんなこと恥ずかしゅうて、瀬利亜はん以外には相談でけへんわ。」

 私をとっても信頼してくれている『家族』の思いそのものはすごくうれしいのですが、その女性に『嫉妬している』自分に気付いてしまいました。

 なんということでしょう!!

 私は親身になって看病してくれる『光ちゃん』を好きになってしまった…いえ、異性としても大好きだったのです。

 しかし、この発言は『信頼する妹』に対するものであっても、『好意を持つ異姓』に対する発言ではありません。

 夢の中とはわかっていても、気持ちがどきどきして落ち着けないのです!


 その後、なんと、記憶をなくして無力になった私を恐るべき漆黒のドラゴンが襲ってきました!

 奴がこちらに牙をむく寸前、光ちゃんが私と竜の間に割り込んできた。

 「瀬利亜はん、危ない!!」

 うわーーー!やめてーーー!!!


 ……というところで目を覚ましました。


 「瀬利亜はん?大丈夫なん?」

 目の前に心配そうに光ちゃんが立っています。

 …昼食後、ソファの上で居眠りしていたようです。

 この夢心臓に悪すぎです!!


 夢の話をすると、光ちゃんが笑いながら言います。

 「以前の記憶を夢に見はったんやね。今やから言うけんど、記憶をなくしはった瀬利亜はんがあまりにはかなげできれいやったんで、どうしようか思うたんや。」


 なんでも、光ちゃんはこの事件までは私のことを『見た目も中身もめっさかっこよくて、人間的にも絶対的に信頼できる妹にして親友』みたいに認識していたそうです。

 それが、記憶を失って、悩んでいる私が『はかなげな超絶美少女』に見えたそうで、それから私に対して強烈に異姓を意識するようになったのだとか…。

 特に月明かりの中でたたずむ私の姿を見た時は『心臓が止まるかと思うた』のだそうです。

 いやあ、そんな話を聞くとすごくうれしくなりますね♪


 なお、蛇足ながら、この時の漆黒の竜は私が『無意識に放ったかかと落し』で自力で粉砕してしまい、その拍子に私は失われていた記憶を取り戻したのでありました。

 『瀬利亜はんをとっさに助けるつもりが逆に助けられて恥ずかしかったわ!』と光ちゃんは言ってましたが、体を張ってまで助けようとしてくれていることで、さらに光ちゃんを大好きになったことは言うまでもありません。



 「なるほど、それは『吊り橋効果』というやつですね。」

 おやつタイムに『光ちゃんから聞いた話』をすると望海ちゃんが冷静に指摘する。

 「ええ??!!じゃあ、私たちは『吊り橋効果』で恋に落ちただけなの?」

 私が動揺して叫んでしまう。


 「瀬利亜さん、落ち着いて下さい。確かにお二人が『異性を強く意識されるきっかけ』は吊り橋効果です。でも、お二人がそれまで信頼関係、愛情関係を築いて来られたから、健全な恋愛に発展したのだと思われます。

 その証拠に今もお互いの長所、短所を冷静に見ておられるではないですか。

 その上でお互いをすごく大切にされていますので、私たちもそういう恋愛をしたいと思えるのですよ。」

 望海ちゃんの発言にちーちゃんもうなずいている。


 「光一さんが瀬利亜さんを公平に大切に扱っておられることがわかるから、私たちは『特別に身を引いてあげている』んです。万が一、光一さんが変なことをされたら、いつでも強奪する準備は整ってますから♪」

 いやいや、ちーちゃん!その発言はおかしいですから!!そして、『私たち』には一体誰が該当するんですか??! 


 「あら、瀬利亜ちゃん、ちゃんとそのことを『光一君も認識している』から、生きている限り光一君が瀬利亜ちゃんを粗略に扱うことはないと思うの。」

 いつの間にか寄ってきていたアルさんが会話に入ってくる。

 「…えーと、アルさん。その『意味深なセリフ』はどういう意味なのでしょうか?」


 「それがね。光一君がプロポーズに成功した後、こんなことがあってね…。」



 「光一君、プロポーズ成功おめでとう!光一君のことだから、瀬利亜ちゃんを一生大切にしてくれると思って安心しているんだけど、『万が一』があったら、私が瀬利亜ちゃんをもらっていっちゃうよ♪」

 「アルテアはん、それなら安心して欲しいんや。わてが『世界の至宝』を手放すわけがあらへんやん!めっさかっこよくて、しかもありえへんくらいに可愛らしいいう、『究極のギャップ萌え』はこの世で瀬利亜はんしかでけへん芸当や!!

 わてとしては『瀬利亜はんから見放されんように』自分磨きを続けるだけや!」


 …えーと、そんなことがあったのですか…。


 「さすが、光一さんですね。瀬利亜さんファンクラブ会員第1号なだけはありますね。」

 いえいえ、望海ちゃん何を言ってるんですか?!!


 「そうなのよね。旦那さんである、光一君に敬意を表して、私は2号になったのよね…。」

 いえいえ、アルさん、ファンクラブの存在なんか聞いてないですから!!


 「それで、私が3号で、遥さんが4号、望海さんが5号なのですよね♪」

 ちーちゃん、いつの間にそんなものが出来て、会員さんがそんなことになっているのですか?!…ということは先ほどの『私たち』は会員さん達4人が該当する…そういうことですよね??!!


 「ふ、瀬利亜はん、安心しいや!『既成事実』を作ってしまえば強奪される心配はなくなるさかい!」

 光ちゃんまで会話に加わって変なことを言いだしたのですが?!


 「あら、どういう既成事実を作るおつもりかしら?」

 アルさんがニコニコしながら光ちゃんに返す。


 「おちろん、『愛の結晶』を数人こさえてしまえば、夫婦ラブラブなだけでのうて、『子はかすがい』効果も出るはずや!!」

 「あらあ、光一君甘いわね♪瀬利亜ちゃんの子供達ならみんな可愛いすぎて本人と一緒に喜んでお持ち帰りするに決まってるじゃない♪

 ほらほら、『パパ』、しっかりなさいませ♪」

 「うかつやったーー!!!わては最悪の場合は愛妻だけでのうて、愛息や愛娘も一緒に失う羽目になるんかーー!!」

 光ちゃんの表情が苦悶に打ち震えている。


 「お二人とも『あり得ないことがわかっていて』ああいう行動を取られるのはある意味さすがですね…。

 どう考えても光一さんは子供さんが生まれたら今まで以上に瀬利亜さんも大切にされて、お子様もろとも溺愛される未来しか見えてこないのですが…。」

 望海ちゃんが感心するように光ちゃんとアルさんのやり取りを見ている。

 うん、私の未来予知(ビジョン)にも光ちゃんが私や子供たちを溺愛してくれる未来しか見えません。


 子供たちも光ちゃんと私のことが大好きでいてくれて……。

 「「お母さんの男前なところが大好き♪♪」」

 ……待てい!!この未来予知(ビジョン)おかしいから!!絶対におかしいから!!!!


続く


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