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番外編5 魔王さまと最初のズットモ その2

 (SIDE ギガンテック帝国)

「どうした。ルブランはまだ戻らんのか?」


 アイーダ大陸最大の国であるギガンテック帝国の最大権力者である皇帝マーベラス・ド・ギガンテックに問われ、帝国軍元帥ドルツは返答に窮した。

 ルブランをはじめとした『暗殺部隊』が戻らないどころか、『軒並み行方不明』などという凶報を知らせたら、非常に専制的なマーベラス皇帝が激怒するのは間違いないからだ。

 しかし、遅かれ早かれ皇帝の耳には届くのだから、知らせないことなどありえないのだ。

 ドルツ元帥は肚をくくってから、口を開いた。


 「大変遺憾なことに、ルブランをはじめとした『例の部隊』の一行そのものが消息不明なのです。現在、情報部を総動員して全力で行方を追っています。」

 「なんだと?!一体何が起こっている!!」

 

 ドルツのただならぬ様子にマーベラス皇帝は驚愕した。


 『非常に優秀な冒険者三人』とはいえ、帝国選りすぐりの暗殺部隊が本気で暗殺しようとしたら逃れるのは事実上不可能のはずだ。

 帝国情報部が全力を挙げて、『彼ら』の情報を徹底的に洗って念入りに計画を立て、過剰戦力と思えるくらいの部隊を送ったのだ。

 

 本来なら『あの娘』だけを暗殺すればいいのだが、余計な騒動を起こさないためにも『パーティごと事故で全滅』してもらうのが望ましいと首脳部全体で計画を立てたのだ。


 (あの娘は自分の本当の素性を知らないはずだ。『やつら』があの娘の生存を優先して、赤ん坊だった娘の正体を完全に隠して逃がした後、まったく無関係の他国の司祭に身柄を預けていたからだ。

 おかげでほんの数カ月前まで俺でさえあの娘が生きているとは気づかなかったからな。)


 本来は前皇帝の弟だったマーベラスは次期皇帝ではなかったのだ。

 しかし、クーデターで政権を取ったマーベラスは兄である皇帝と、その皇太子である息子、さらに血族などをすべて粛清したのであった。


 そして、ただ一人皇太子の娘が生きていたというのだが…。



 「大変です!例の娘とその仲間が宮殿に向かってきています!」

 情報部の幹部が大慌てで執務室に駆け込んできた。


 (どういうことだ?!我々が狙ったことが分かったとはいえ、敵の本拠地に乗り込むのは自殺行為のはずだ!)

 

 疑問を抱いたマーベラス皇帝は情報部幹部の次の言葉でさらに混乱することになった。


 「しかも、魔国のシルバ元帥他数名と同行しているのです!!」

 「なんだとう!!どういうことだ??!!!」


 人口及び、領土はギガンテック帝国がアイーダ大陸で最大の国なのだが、こと軍事力においては魔国の方が上回ると推定されている。

 

 先代魔王グリュエールはすさまじい個人の武力の持ち主であったが、個人同士、特に魔族同士の戦闘以外にはあまり興味がなく、武力侵略を仕掛けてこなかったのは幸いだった。


 グリュエールがいつの間にか引退し、次の魔王が跡を継いだらしいという情報が入ったあたりから、なにやら武力侵攻の兆候があり、各国ともに警戒していたものだ。

 

 だが、その侵略は内紛が原因だったようで、内紛が収まった後、魔王直々に『他国への軍事侵略は行わない』と明言し、各国と融和政策を行っていると聞く。

 領内で種族による差別を行わず、新技術の導入などで魔国が経済面やインフラなどが急速に発展しているという情報まで入り、各国は魔国を警戒対象から、交流対象に切り替えつつあるそうだ。


 今宮殿に向かっているというシルバ元帥はひと月前ほどに帝国近海を超級モンスターの複数のリヴァイアサンが暴れまわっているときに退治の『助力に来てくれた』のだ。


 帝国海軍が苦戦していたリヴァイアサンたちを同行していた隣のウルティマ大陸(と言っても非常に離れていて、交流らしい交流はないが…)の勇者たちと一緒にさくさくと退治していく様に帝国軍の幹部たちは唖然とし、魔国が融和政策に変わったことにひどく安堵したものだ。

 

 「まずいです。今回はシルバ元帥だけでなく、文官などと一緒に先日のリヴァイアサン掃討作戦に来たウルティマ大陸の勇者二人も同行しているそうです。

 シルバ元帥が激怒しているそうですから、これだけの『戦力』を前に下手な対応をすれば、帝国がひっくり返りかねません!」

 「待て!それはおかしい!!魔国に対して敵対行動など一切取っていないぞ!魔国が激怒する理由も『あの娘たち』とシルバ元帥が同行する理由も全く分からないのだが!!」

 

 マーベラス皇帝はあまりの非常事態に胃がきりきりと痛んだ。

 魔国と『魔王を退治した勇者たち』の両方をまともに敵に回すわけにはいかない。

 帝国の最精鋭でも彼らを完全に抑えきることは不可能だ。


 近衛騎士団と魔法部隊の精鋭を総動員すれば、あるいは勝ち切れるかもしれない。

 しかし、皇帝自身が死んだり、あるいは即時撤退された後、シルバ元帥以上に強いという魔王が魔国の主戦力を引き連れて攻めてこられては目も当てられない。

 

 なんとしても外交交渉で落としどころを見つける必要がある。


 

 

 帝国は『魔国の外交上の抗議』にきちんと応えるために、翌日、外交会議場を設置した。

 帝国側にはマーベラス皇帝や宰相、外務大臣などが軒並みそろい、魔国あらため、『陽だまり国』側はシルバ元帥、異世界からの勇者、勇者パーティで賢者のエイムス王女、ラムダ外相(エルフの男性)、付き添いあるいは護衛と思しきローブをまとった魔族の少女?の5人だった。

 例の娘とその冒険者仲間は護衛二人と一緒に控えの部屋にいるそうだ。


 マーベラス皇帝は軍人や外相までも実力で経験してきたことから、人を見る目はあり、現在でも帝国でも有数の剣士でもあることから、相手の実力もかなり正確に把握できる自信を持っている。


 先代魔王グリュエールと直接会ったこともある経験から、シルバ元帥、勇者、エイムス王女ともに魔王に匹敵しかねない戦闘力を持っていると感じた。


 外相は戦闘力はさほどでもなさそうだが、おそらく頭がよく、交渉力に長けているのだろう。

 ローブを被った少女?は身にまとった雰囲気から一見普通の少女にしか見えないが…様々な修羅場をくぐったマーベラスの直感が警戒信号を発していた。

 気配を消す魔道具を使ったかなり使い手の魔法使いではないだろうか?他の3人が警護の必要がほぼないことから、外相を警護するためにいるのだと判断するのが妥当ではないだろうか?


 

 「それでは、一体どういう件でお越しいただいたのでしょうか?」

 会談が始まるにあたり、帝国の外相が恐る恐る口を開く。

 

 圧倒的な国力を背景に強気に出ることが多い帝国の通常の外交では考えられない事態だ。


「それでは言わせていただこう。」

 厳しく、明らかに怒りを伺わせる表情でシルバ元帥が椅子から立ち上がる。


 帝国最強の近衛騎士団長を明らかに上回るオーラを発しながら立つシルバ元帥の姿に帝国首脳部全体が緊張に包まれた。 


「シルバ、待つのじゃ。ここは当事者である妾が話した方が話が早いのじゃ。」


 ローブの少女がシルバ元帥を制して立ち上がり、ローブを外してしゃべり始めた。


 「帝国の工作員が妾の大切な友人を攻撃したうえに、妾が心を込めて作った貴重な魔道具の数々を壊した件は一体どういったわけなのじゃ?」

 声に乗せた怒気が静かに、しかし、しっかりと部屋中に響き渡った。


 マーベラス皇帝は目の前の少女が瞬間に見せたその圧倒的なオーラから、誰がここに来たのかすぐに悟った。


 「ギガンテック帝国皇帝、マーベラス殿よ。陽だまり国国王、マオ・サットバ・ブラックサンの問いに答えていただけるかの?」


 マオの厳しい問いかけに帝国首脳陣は全員固まった。

 『そんな話聞いてねえ!!』と全員叫びたい気分だった。


 マーベラス皇帝、宰相、その他の一部情報部の幹部は『放っておけばなんでもなかった娘』を無理に消そうとしたばかりに『藪をつついて蛇を出した』結果になったことに顔面蒼白となった。


 マーベラス皇帝は目の前の『魔王』が武勇を謳われた先代魔王グリュエールをはるかに上回る化け物であることをはっきりと感じ取った。

 万が一戦闘になろうものなら、目の前の魔王に自分がさっくりと殺られる未来しか見えなかった。

 前皇帝にクーデターを起こした時すら、ここまでの危機感は覚えなかった。


 「お、お待ちください!いろいろ間違いがあったようですが、すぐに事実を検証します!」

 魔王に完全に気圧されながら、マーベラスは必死で頭を回していた。


 

 その時、情報部の一員と思しき男が、宰相に手紙らしきものを渡し、何かをささやくのがちらりと見えた。


 「おおっ?!なんということでしょう!!

 我々は凶悪犯を追っていたはずが、こともあろうに人違いでマオ陛下のご友人を襲ってしまったようです!!

 我々の重大な過失がマオ陛下のご友人に危害を加えそうになったばかりか、マオ陛下のおつくりになられた魔道具までも破壊してしまうとは?!!

 まことに申し訳ありません!!手違いとはいえ、必ず相応の償いをさせていただきます!」

 宰相がマオ国王に向けて心底済まなそうに頭を下げた。


 (でかした、(宰相)ダラス!!あの娘を消しに向かわせた工作員たちには『娘の素性を明かしていなかった』のがこれで効果が出てくる!)


 「マオ殿!本当に申し訳ない!宰相の申す通り、完全にこちらの過失だったようだ。

 必ず、償いをさせていただく!」

 マーベラス皇帝はダラスの機転に乗っかって、事態を収拾させにかかった。

 

 魔王の機嫌さえ収めてしまえば、あとは金銭や財宝などで何とかなる。

 あれだけ怒っていた魔王も、考えるような表情になっている。


 あの娘にはもう手は出せないが、秘密を知る者だけ消してしまえば、事実を知らない本人が名乗り出ることもなく、ここを乗り切れば危機は脱せられるはずだ。


 マーベラス皇帝が少し落ち着きを取り戻したとき、扉がバーンと開いて、女性の声が室内に鳴り響いた。


 「残念だったわね!あなたたちの悪事はこいつが全て吐いてくれたわ!」

 『それ』を引きずって表れた銀髪の女性の姿に、会議室にいた全員が驚愕に固まった。


(続く)


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