番外編4 冒険者になろう! その4
(SIDE:デューク)
魔王ダレス!!そして、魔神バズズ?!!!
のじゃロリ魔王と俺たちの前に現れたのは俺たちが1周目で大苦戦した魔王ダレスと魔神バズズだった。
部下を使い捨ての盾にし、さらにさまざまな凶悪な魔法と剣技で俺たちを苦しめた酷薄な青年魔王のダレス。
そして、ダレスが倒れた際に突如現れ、俺たちをあっという間に蹂躙した魔神バズズ!
ダレスは冷酷そうに薄ら笑いを浮かべ、無表情な青年の風貌をした魔神バズズはのじゃロリ魔王を一見無関心な風に見つめている。
だが、魔神バズズは俺たちを戦闘不能にした後、散々いたぶった上に止めを刺していったのだ!万が一あの冒険者たちが負けたら、あの時の俺たち同様、生きているのを後悔するくらい悲惨な目に合わせられるに違いない!
あの銀髪の女性の強さを踏まえると、今加勢すれば、何とかなるだろうか?!
俺はエルザとダイドーに目配せをすると、突入するタイミングを伺った。
(SIDE:健人)
「叔父上?!そんな変な連中を引き連れて、一体何の用じゃ?特に叔父上の後ろの二人からはすごく禍々しい空気がもれておるようじゃがの!」
まおちゃんが酷薄そうな青年魔族をにらみつけている。
まおちゃんの親族らしき魔族は高位魔族のようだが、まおちゃんよりは格下のようだ。
しかし、その高位魔族の後ろに控える黒ローブの二人の纏っているどす黒いオーラはまおちゃんを大きく上回る。
ローブから顔をのぞかせている青年のような超高位魔族?は残念ながらとても俺の手におえるような相手ではないし、もう一人のまったく表情さえ見えない存在は実力すらはっきりとしない。
それを見ている瀬利亜は……厳しい表情こそしているものの、恐怖や絶望している状態ではなさそうだ。
「いえいえ、魔王様ともあろうお方が魔族を裏切って、人間と講和しようというのが許せなくてですね。諫言申し上げた次第ですよ。」
「ふざけるな、ダレス!例え、魔王様の叔父で現在四天王の筆頭とはいえ、魔王様に対するその無礼な態度はなんだ!!」
おっと、シルバという魔族は魔王に対して忠誠心が高いのだな。まおちゃんをかばうように動いて、ダレスと言う魔族に向かいあっているぞ。
「いえ、まお様が魔王なのは今日までです。今より魔神の力を背景に私が魔王になるのです。
せっかく、まお様が苦しまずに亡くなられるように『回復装置に細工』をしていたのに、邪魔が入ったようですしね。残念ですが、今から逆賊のまお様は苦しんでお亡くなりになられるのですよ。」
ダレスがひどく酷薄そうに笑うと、後ろの魔神と思しくローブの男の顔が残酷そうな笑みに変わった。
まおちゃんとシルバが戦闘態勢に入ろうとした時、瀬利亜が口を開いた。
「私からも聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
全く顔色を変えずに淡々と問う瀬利亜に興味をひかれたのか、ダレスが興味深そうな表情に変わる。
「ほお、お嬢さんは本当に肝が据わっておられますな。それで、一体何を問いたいと?」
ダレスは魔神の実力によほど自信があるのだろう。余裕の表情で返す。
「どうして、こんなところにいるのかしら?ニャントロさん!!」
(SIDE:デューク)
今の短いやり取りで俺が1周目に感じていた違和感の謎が解けた。
俺たちが倒した魔族の中にはあまり戦いたくないと思っていたような連中が何人かいた。また、シルバ始めとする何人かの魔族は冷酷かつ非道な魔王と違い、非常に誇り高い戦い方をしてきた。
本来の魔族はまおちゃんというのじゃロリ魔王のように特に人間に敵対的ではなく、魔王の叔父が魔神と共に人間界を侵略するように動いていただけだったのだ!!
腹の中が煮えくり返り、魔王に向けて突っ込んでいこうかと思った時に銀髪の女性の意表を突く言葉が俺たちの動きを止めた。
(SIDE:健人)
「にゃ、にゃんの話でしょうか?!!人違いです!!他人のそら似と言うやつですよ!!」
もう一人の黒ローブの男(声で分かった)が首をぶんぶん振りながら全力で否定している。
いやいや!!黒ローブをかぶって、全く顔が見えないのにこの男、何を言ってんの?!!!
明らかに自分で正体をばらしているよね?!!!
「本当だあ!!ニャントロだあ♪」
いつの間にか来ていた女神ちゃんが嬉しそうに黒ローブを指さしている。
瀬利亜とニャントロ?と女神ちゃん以外は全員固まってしまっている。
「あのね、まおちゃんが元気になったと聞いて、飛んできたんだよ♪」
女神ちゃんはまおちゃんを見つけると、嬉しそうに飛んでいって、抱きついている。
「め、女神ちゃん?!会えてうれしいのじゃが、今は危険な奴らがいるのじゃ!!」
まおちゃんが慌てて、女神ちゃんを引き離す。
女神ちゃんはまおちゃんの視線を追って、ダレスや魔神を見ると眉をしかめた。
「本当だ。変な連中がいる?!ニャントロ!だめだよ!こんな連中とつきあっちゃ!!」
小さな妹が不良と付き合う兄を叱るような反応だね…。
「こ、これには深い、深いわけがあるのですよ…。」
黒ローブのニャントロは少しずつ後ずさりながら必死で言い訳をしている。
「ふうん、なるほどね…。」
じっとニャントロを見ていた瀬利亜の目が細まったと思ったら、その姿が消えた。
一瞬後には魔神の前に瀬利亜の姿が現れ、魔神は……ぼろきれのようになって、ぶっ倒れた。
い、いつの間に?!!
「せ、瀬利亜さん!!『限界突破』しましたね?!!」
片目で倒れた魔神を見やって、瀬利亜はニャントロに向き直った。
「ええ、こんな『危険物』を放置したらどうなるかわからないからね。逃げられる前に数百発殴って再起不能にしておいたわ。おかげで、あんまり余力がないけどね。」
少し前と違って、頬がこけ、青白い顔をした瀬利亜がニャントロをにらみつけている。本当に余裕がなさそうだ。
後で聞いたら、シードラゴンモードよりさらに潜在力を引き出すそうだが、消耗が酷いのが問題らしい。
「そこで、女神ちゃんの出番なのです!女神ちゃんスーパーリカバリー!!」
女神ちゃんが両手を瀬利亜の方に付きだすと、金色の光線が瀬利亜に向かって放たれ続ける。
金色の光に包まれた瀬利亜の顔色があっという間に元に戻ってしまった。
「女神ちゃん、ありがとう。これでニャントロさんにもリミットブレークが使えるわね。」
完全復活したらしい瀬利亜ににらまれて、黒ローブで顔の見えないニャントロ完全に固まってしまった。
「お待ちください!私にあなたたちに対する敵意がなかったことには気づいておられますよね?!ここで戦う気はにゃかったのです!!」
「ええ、わかっているわ。もし、あなたが戦う気だったら、この魔神よりも手ごわいあなたの方が先にこうなっていたはずだから。」
瀬利亜が冷たい目でニャントロを見やると、ニャントロはさらに後ずさった。
瀬利亜は今、さらっととんでもないことを言っていたよね?!ニャントロは瀬利亜がぼろ雑巾のようにした魔神よりもさらに強くて、そのニャントロを瀬利亜は確実にぼろ雑巾にできるという話だよね?!!!
「実はこのダレスとかいうくそ生意気な上位魔族とさらにそのバズズとかいうすごくむかつく魔神が悪だくみをしていたので、私もひとくち乗ってみたのですよ。
もちろん、後で足を引っ張って、どんでん返しでぎゃふんと言わせる目的でしたが♪」
黒ローブを外し、和風の白い猫のお面をかぶり、タキシード姿の細身の男だったニャントロが涼しい顔で瀬利亜に伝える。
両手をひらひらさせて、「私悪くないんです♪」と全身の仕種で表現しているようだ。
「なるほど、この戦いに於いては確かにニャントロさんは無罪にしてもよさそうね。」
「そうです!そうです!」
思案気に腕を組んでいる瀬利亜の言葉にニャントロがうんうんうなずいている。
そして、四天王ダレスは最大の味方と思っていた二人が居なくなり、どう見ても魔神の二の舞にしかならない現状が見えたせいか真っ青になって固まっている。
「では、あなたたちのせいでまおちゃんが飢え死にしかけた件に対する申し開きはあるかしら?」
瀬利亜の言葉にニャントロが固まった。
「なるほど、まおちゃんのことは全く頭になかったわけね。貴方たちの悪事の仕業でもう少しでこんないたいけな少女が飢え死にするところだったんだけどね…。」
瀬利亜の目つきがだんだんと厳しくなってくる。
「待ってください!!もう少し申し開きを!!」
「女神ちゃん!!」
「あいあいさー♪」
瀬利亜の言葉に応じて女神ちゃんが叫ぶと、女神ちゃんの両手から再び金色の光線が瀬利亜の両手に向かって放たれた。そして、光線は瀬利亜の手の中で金色に輝く野球のバットの形を取った。
「ニャントロさん、言い残すことはないかしら?」
鋭いスイングで素振りをしながら瀬利亜がじわじわとニャントロに近づいていく。
「こ、これからは……女の子にもっと親切にしますうううう!!!!!」
瀬利亜のバットにぶっ飛ばされたニャントロは叫びながら星になって彼方に消えていった。
そして、ダレスと残った魔族たちは……。
「「「我らはダレスと魔神に騙されていました!これからはさらに魔王様に忠誠を誓います!!」」」
「貴様ら!!あっという間に掌返ししやがって!!恥ずかしいとは思わないのか?!!」
ダレスは顔を真っ赤にして叫ぶが、元部下たちは聞こえないふりをして、まおちゃんの前に跪いていた。
「それよりも、かわいい姪っ子を陥れて殺そうとする方がよっぽど恥ずかしいと思うんだけどね。」
言いながら、瀬利亜は金色のバットを持ったままダレスに近づいていく。
「待て!落ち着いて話し合おう!!」
「それはいろいろやらかす前にまおちゃんに言うべき言葉だったわね。
幼女虐待をしてしまったご自身を恨むことね♪」
いい笑顔で瀬利亜がフルスイングすると、ニャントロに続き、ダレスも星になった。
そして、魔族と人間は講和し、末永く仲良く暮らすことになったそうだ。
(SIDE:デューク)
魔王軍の脅威は去り、大陸は平和になった。
しかし、モンスターたちは依然人々の脅威であり、冒険者の仕事は相変わらず忙しかった。
俺たちのパーティは今日も街道の脅威になるモンスターを狩り、生計を立てていた。
「デュークよ、もう少しモンスターの動きを先読みした方が良いぞ。危うく、逆襲を食って大けがするところだったではないか?!」
「…あの、まおさん。どうしてあなたが我々と一緒にいらっしゃるのでしょうか?」
「魔族と人間の友好の証として、こうしてお前たちの仕事を手伝ってやっておるのじゃ。ありがたく思うように。」
「デューク、いいじゃない!まおちゃんはすごく優秀な魔法使いなので助かっているわ。それにとってもかわいいし♪」
エルザはまおちゃんのかわいさに陥落し、あっさりまおちゃんを仲間として完全に認めてしまった。
俺も話下手のダイドーもエルザに丸め込まれて、反対のしようがなくなった。
こうして、俺たち四人パーティは今日も『チート冒険者』として活躍するのだった。
(了)




