番外編4 冒険者になろう! その2
(SIDE:デューク)
受付に戸惑っていた初心者パーティの神官の女の子を無理やり引きずっていこうとしたマッチョの戦士に、パーティリーダーの戦士が体当たりをかました。
しかし、マッチョの戦士はびくともせずに、軽く腕を振り払うと、逆にリーダーの若い戦士が数メートルも吹っ飛ばされていった。
マッチョ戦士は見た目よりもさらに頑強だったのだ。
後で分かったことだが、マッチョ戦士は魔族の仲間の強化魔法で大きく強化されていたのだった。
幸いなことに戦闘経験までかさ増したわけではなかったので、歴戦の仲間のエルザとダイドーとでその場を収めること自体はそれほど苦労はしなかった。しかし、本当の問題はその後起こったのだった。
……それが、「二周目」だとあの猫の獣人の女の子がアホみたいにでかいハンマーでぶん殴って簡単に気絶させてしまっているんだけど…。
というか、どこからあんなバカでかいハンマーを取り出したんだ?!!
アイテムボックスを持っているのか?!
(SIDE:健人)
「くそ!この獣人風情が!!」
マッチョ戦士の仲間と思しき細マッチョの斥候職らしい男がマッチョを抱え起こしてトラミちゃんをにらみつけている。
完全に震え上がっていて、歯をがたがた言わせている。
「ふ、にゃにを言っているのにゃ♪私は獣人ではないのにゃ♪未来の世…。」
「トラミちゃん、何を言いだそうとしているの?!!確かにトラミちゃんはただの獣人ではないけれど、それ言ったら絶対まずいよね!?」
トラミちゃんが「禁句」を言おうとしたのを橋本が慌ててさえぎっている。
確かに橋本を瀬利亜が『突っ込み王』と評しているのは適切かもしれない。
「太郎、ありがとうにゃ。確かにできる女には秘密が必要なのにゃ♪」
うん、トラミちゃん。その発言がさらに事態をカオス化させていることに気づけばもっといいのだけれど…。
「そうそうトラミちゃん、発言には気を付けてね。
そもそも論として、そんなおもちゃでそこのごついおっさんの頭を壊すとかできるわけがないじゃない♪」
冷や汗をかきながら瀬利亜が事態を収拾しようとしているね。
でも、今までの経験だと瀬利亜がそういうことをしていると、大概は事態をさらに悪化させただけのような…。
「ほら、このハンマーはでっかいけど、私でもこんなに簡単に振り回せるのだから、そこまでの破壊力は無いはずよ♪」
瀬利亜が涼しい顔でまるでバトンを振り回すかのようにでっかいハンマーを振り回している。
…でも、よく見ると冷や汗だらだらなんだよね。
普通ならそのままうなずいてしまいそうなんだけど、魔王に近い力を持った怪物を簡単にボコれる瀬利亜だから、実際はどうかはわかんないんだよね…。
ズドーーーン!!
ハンマーが受付カウンターに当たったら、カウンターが一撃で崩壊しているね…。
慌てて俺がハンマーを抜こうとすると……全く動かないんだけど?!!!
「にゃっはっは、健人。それは本来はパワードスーツを着た機動歩兵が暴徒鎮圧用に使うもので、馬鹿力が必要なのにゃ。普通の人間にはとても扱える代物ではないのにゃ♪」
トラミちゃん、なんつーものを使ってんの?!!というか、そんなものを軽々扱える瀬利亜はもちろんのこと、トラミちゃんもそのままでものすごい規格外なんだよね?!!それからパワードスーツとか言ったらだめだからね?!!
「にゃはははは!こんにゃこともあろうかと、アルテアさんからこんにゃものを預かっていたのにゃ♪『スーパーリペアキッド』♪」
トラミちゃんがいくつものマジックハンドの付いた道具を取り出すと、マジックハンドはものすごい高速で動き出して、あっというまにカウンターを元に戻してしまった。
「…ええと、それではパーティ受付の続きをして頂こうかしら。」
冷や汗をだらだら流しながら、瀬利亜が言うと、受付嬢も顔を真っ青にしながらこくこく頷いている。
例のちゃちゃを入れてきたパーティは瀬利亜がカウンターを崩壊させたのを見て、あっという間に逃げていったようだ。
この後、俺たちはつつがなく?受付を終わると、実習の一環としてパーティクエストを受けることにしたのだが…。
「よし、冒険者ギルドで最初の依頼を受けるとしたら、薬草採取が基本ね。私の推理力が大きく貢献しそうだわ!!」
「銀田一さん!僕たち全員、薬草の事は全く知らないよね?!かといってトラミちゃんの道具に頼ったのでは何のために依頼を受けるのか、よくわかんないよね?!」
「それでは、こちらの山の奥に棲むドラゴン退治とかちょうどよさそうなのにゃ♪」
「なんで、そんな上級者向けの依頼をしれっと受けようとしているの?!ほかの三人はともかく、僕と銀田一さんにどうしてドラゴンなんて危険な相手にぶつけようとしているわけ?!」
…ええと、橋本…。突っ込み自体はかなり適切な気がするけど、大声で拙い情報を垂れ流しにしているようにしか聞こえないのだけれど…。
そんな中、いろいろな依頼に目を通していた瀬利亜が嬉しそうに声を上げた。
「この『隠された妖精の里で“妖精たちのしずく”を手に入れる』とか、どうかしら?
妖精の里を探したり、アイテムを手に入れる交渉自体がすごく勉強になると思うの。」
さすがに瀬利亜は目の付け所が違うようだ。どう見ても初心者向けではないものの、モンスターバスターとしての実習と言うことであれば、いい勉強になりそうだ。
(SIDE:デューク)
「二周目のパーティ」は猫耳の女の子が『パワードスーツ』とか言っていることから、『転移者』と考えた方がいい気がする。
きっと転移元の世界は科学技術が俺が元いた世界よりずっと進んでいて、その技術を使って身体強化や強力な武器を使っているのだろう。
それにしても、どう見ても危険な相手を涼しい顔であしらったり、こちらの世界では超上級者しか受けないようなドラゴン退治を平気で受けようとしたりとか、とんでもない異世界転移チートぶりだ。
並みの魔族の攻撃なら彼らは跳ね返しそうな気はするが、あの時出会った魔族の幹部は桁違いの怪物だった。
今の俺たちならヤツにも引けを取らないはずだ。
俺たちはお互いに視線で合図をすると、依頼を受けた彼らの後をつけていった。
(SIDE:健人)
俺たちは街道を外れて、森の中の道なき道を歩いてる。
先頭ではトラミちゃんが二本のL字型の針金のような棒を持って鼻歌を歌いながら歩いている。
「ええと、あれは何をしているのかな?」
俺は瀬利亜に囁く。
「ダウジングと言って、あれで妖精の里の方角を検知しているのだそうよ。
二本の棒の先端が妖精の里の方を随時指し続けるから、その具合によって方向と大体の距離が測定できるそうなの。」
うん、未来の道具やアルテアさんから借りた魔法の道具は使わずに、ずいぶん原始的な道具を使うのだね。
そんな感じで森を進んでいると、木の少ない開けた場所に入っていった後、瀬利亜が声を上げた。
「このまま目的地に近づいたら依頼の達成に影響しそうだわね。
つけてきていたのは分かっているから、隠れていないで出てきなさい!」
俺たちの後ろがしばしざわめいた後、何人もの男たちが姿を現した。
どうやら冒険者たちのようだが…冒険者ギルドで俺たちに絡んできていた連中じゃないか?!
彼らは一人を除いて、瀬利亜とトラミちゃんを見ながら、がたがた震えている。
うん、そんなに怖いならつけてこなければいいのに…。
一人怖がっていないのは…黒いローブをかぶって顔の見えないやつだ。
体から滲み出す雰囲気から察するに魔族だな。
それなりの強敵のようなので、銀田一さんと橋本には少々荷が重そうだ。
「さあ、せっかくの雪辱のチャンスですよ。いろいろお貸ししたのですから、もう少し積極的に動かれてはいかがでしょうか?」
黒ローブが仲間たちに声をかけるが、連中はすぐには踏ん切りがつかないようだ。
「なるほど、この美少女名探偵を追ってわざわざ森の中まで来たわけね。この灰色の頭脳の方ではなく、美貌の方を狙われるのは少々残念だわ。」
「ちげーよ!!俺たちはおめーらみたいな成長途上には興味がない!!」
トラミちゃんにぼこられたマッチョ戦士がキレ気味に叫ぶ。
「なんですって?!!世間は色気たっぷりの人妻の方が需要が高いわけ?!」
銀田一さんがちらっと瀬利亜を見ながら叫ぶ。
うん、それも全然違うと思う。
「ええい、もういいわ!!トラミちゃん!やっておしまいなさい!!」
「あいあいニャー!!い出よ!石人二八号!!」
謎の効果音と共にトラミちゃんがポケットからひょいと取り出したのは石でできた巨大なゴーレム……なぜか、形が某アニメのガ◎ダムに酷似しているんだけど?!!
「燃え上がれ♪ 燃え上がれ♪ 燃え上がれ♪ ニャンダム♪」
いやいや、さっきは石人二八号て言ったよね?!!
「くそ!まさかこんな化け物がでてくるとは?!!食らえ!『炎獄撃』!」
冒険者たちが我先に逃げ出す中、黒ローブが呪文を唱えると、巨大な火球が現れて、猫耳の巨大ゴーレム・ニャンダムに直撃する。
すさまじい爆音と光が辺りを覆った後、傷一つないニャンダムは再び歩み始めた。
「馬鹿な?!炎系の上級魔法が全く効果がないなんて?!」
黒ローブが後ずさり、ニャンダムがにじり寄っていったとき、俺の背中を寒気が襲った。
濃厚な闇の気配が急速に近づいていたのだ!
漆黒の翼を生やした人影はニャンダムの正面に舞い降りると、両手から衝撃波を放った。
ニャンダムはすさまじい勢いで弾き飛ばされて、森の木をなぎ倒しながら数十メートル転がっていった。
そして、しばし、手足をバタバタ動かしていたが、まもなく動かなくなった。
「にゃー!ニャンダムがやられたにゃ!!」
ニャンダムを吹っ飛ばした人影は俺たちの前に音もなく舞い降りた。
長身で細身のその女はドラゴンと思しき鱗で作られた鎧を身にまとい、俺たちを無感情な瞳で見ていた。
圧倒的な強者のオーラをまとった青白い肌の美人ににらまれて、俺はいつでも剣を抜ける体勢に入った。
こいつはおれの闘った魔王軍六魔将クラス、いや、それよりもやや格上だろうか?
魔王に近い実力者であることは間違いない。
今の俺で勝てるかどうか…。
そして、その視線が瀬利亜に向いた途端、女は叫んだ。
「き、貴様がどうしてここに?!!!」
えええええええ?!瀬利亜さん、顔見知りですか?!!!
(続く)




