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番外編4 冒険者になろう! その1

登場人物


如月 健人(きさらぎ けんと) : 瀬利亜の二つ年下の幼馴染。四年前に瀬利亜が引っ越したのを見送る。異世界に勇者として召喚されたが…。


橋本 太郎 :瀬利亜の元同級生で、モンスターバスター養成機関に所属。お調子者のフツメンだが、人がいい。ツッコミ力が抜群。


銀田一 初 (ぎんだいち はじめ):瀬利亜と同じ年の小柄な女の子。モンスターバスター養成機関に所属。自称『美少女名探偵』。頭はいいが、『妄想力』が高い。


石川瀬利亜  地上最強のスーパーヒロインでモンスターバスター。ゴメラキラー、無敵のシードラゴンの異名を取る。


錦織光一 :瀬利亜の旦那はん。関西弁を操るイケメンで、電子技術のエキスパートにして『サイバーヒーロー・電脳マジシャン』。瀬利亜はんを溺愛していて、『三日離れたら寂しゅうて死んでまうんや!』(確定)。


神那岐千早:  瀬利亜たちと同じモンスターバスター一二星の一人で、『対魔神剣・神那岐の太刀』を扱う、巫女剣士。瀬利亜の三つ年下で瀬利亜はんが大好き。


石川トラミ: 未来の国から来た猫娘型人造人間。善良だが、気ままでウルトラマイペース。スーパーヒロイン・ミラクルキャットとしても活躍。


(SIDE:????)


 「うわあああああ!!!」

悲鳴を上げて目を覚ますと、いつもの自室のベッドだった。


 (よかった。夢だった。)


「いつもの夢」から目覚めて、俺はため息をつく。


 ここのところ、「タイムリミット」が近づいたせいか、「あの夢」を頻繁に見るようになった。


 俺の名はデューク・トウジョウ。いわゆる異世界転生者だ。

 「一周目」の転生時は、一〇歳の時、暴走した馬車に轢かれそうになった幼馴染の少女を助けて体を強打した際に前世の記憶が甦ってきた。


 狩人の息子だった俺はその時から「ステータス画面」を活用する能力が身に付き、前世のVRMMGを遊びこんだ知識生かし、自身の隠れた才能を引き出せることに気づき、有頂天になった。


 前世知識を存分に活用した俺は、一三歳で冒険者になり、俺TUEEE!!の状況を存分に楽しんだ。冒険者になった時分からそこいらの冒険者よりも剣の腕も魔法の威力も桁違いに優れていたのだ。


 仲間と共に充実した冒険者生活を送っていた俺は、しかし、一七歳の時にとんでもない状況に追い込まれた。


 俺たちの町の冒険者ギルドに立ち寄った冒険者の中に魔王軍の先兵が紛れ込んでいたのだ。

 そいつらは駆け出しの冒険者に絡んだ後、それを諌めようとした俺たちのパーティと大きくもめた。

 その時はおれたちが何とか場を収めたが、その際に俺たちの実力に目を付けた魔王軍の幹部が俺たちのパーティに襲い掛かってきたのだ。

 俺たちは必死に戦ったが、魔王軍の幹部のあいつの戦闘能力は文字通り、人知を超えたものだった。

 俺たちをあっさり壊滅させると、ただ一人残った俺を嘲笑いながら、そいつは言った。


 「次はもう少し私を楽しませてくださいね。」


 復讐を誓った俺は必死で剣と魔法を磨き続けた。

 その甲斐あって、二年後には新たな仲間たちと共に魔王をその居城で追い詰めた。


 しかし、魔王のバックにはさらに恐るべき魔神が控えていた。

 魔王こそなんとか仕留めたものの、圧倒的な力を持つ魔神の前に俺たちは次々と倒れていった。

 そして、魔神の持つ凶悪な剣が俺の胸に刺さったところで、俺の意識は途絶えた。



 ……気が付くと、俺は見覚えのある、ベッドの上で目を覚ましたところだった。


 慌てて起き上がると、自分の手足が随分と小さくなっていることに気付いた。


 俺は幼馴染を助けて、前世の記憶を取り戻した場面まで戻っていたのだ。


 今までの事は夢だったのだろうか、それとも『時間の巻き戻し』が起こったのだろうか…。

 いずれにしてもやることは変わらなかった。


 俺は大切な友人や仲間を失わないために7年後までには魔王軍の幹部を、9年後までには魔神を倒せるくらいに自分を徹底的に鍛えなければならないのだ。



 「二周目」は一周目より明らかに成長が早くなった。もともと能力の成長がゲームでやりこんでいたシステムに非常に似通っていた上に、前回の経験が大いに役に立ってくれた。

 そもそも覚悟が根本的に違ったのだ。

 信頼できる幼馴染とは情報を共有したうえで、俺たちは着実に実力をつけていき、魔道戦士の俺と回復・支援魔法のエキスパート・白魔道士のエルザ、重戦士のダイドーの三人で連携を組めば、魔王軍四天王の「あいつ」にも十分勝算が持てるくらいの自信がもてるようになっていった。


 それでも、「あの日」が近づくにつれて、俺の不安は高まっていった。

 あいつがそのままの実力でいるのか?さらにあいつ以外にも強敵がいるかもしれないのだ。


 そして、「運命の一〇月一〇日」、俺たちはメルキドの町の冒険者ギルドに足を運んだ。


 「予定通り」昼食後にギルドの受付に近づいていくと、あの時同様初心者パーティーが冒険者登録をしようとしていた。

 ……え?!あの時とメンバーが全く違うように見えるのだけど…。



(SIDE:瀬利亜)


 モンスターバスター養成機関の実習課題として『異世界で冒険者ギルドに登録』して、冒険を請け負ってみる…をやってみたのですが、始まって早々に大きな問題が発覚しました。


 自身も冒険者としての活動もしてきたという健人に手続きなどをお願いしたのですが、別の大陸の冒険者ギルドでシステムが微妙に違うということ、そして、最初の登録時に健人の仲間のデフォルドさんがてきぱきと手続きを済ませてくれたことから、健人がシステムを碌に把握していなかったことが分かったのです。

 さらに健人は頭は悪くないのですが、話下手なのでさらに苦戦しているようです。


 仕方ないので、受付のお姉さん相手にしどろもどろになっている健人に代わって私と橋本君が交渉にあたることになりました。


 「では、健人の職業は『勇者』ということで…。」

 「いやいや、それたぶん職業じゃなくて『称号』でしょ?!それから、いきなり勇者は目立ちすぎるよね?!」

 私が行動を間違えそうになると橋本君が適切に修正をかけてくれます。

 さすがは『突っ込み王』の異名を取るだけのことはあります。


 いつもなら望ちゃんが修正をかけてくれるのですが、今回は……健人が機能不全になっている現状では橋本君しかいませんね。


 「それからトラミちゃんの『運転手』もおかしいし……銀田一さんの『美少女探偵』てなに?!冒険者としての職業であって、日ごろの行動や、自分の希望を書く欄ではないよね?!

 あと、僕の職業に『突っ込み王』とか書くのはやめて!!」


 「ちっちっち、橋本君。私の場合は『美少女』と『探偵』は切り離せないのよ。銀田一初

といえば、美少女探偵。美少女探偵と言えば、銀田一初と完全に一体化しているの♪」

 「にゃるほど♪では、私も『美少女ドライバー』でお願いするのにゃ♪」

 「二人とも余計なことを言って、さらに事態を紛糾させないでくれる?!!」

 

 橋本君が必死に叫び、受付嬢さんは完全に固まってしまっています。

 ううむ、『セルフプロデュース』はとても大切ですが、この場ではTPOをもう少し考えた方がいいかもしれませんね。



(SIDE:デューク)


「ねえ、デューク。固まってしまってどうしたの?状況はそんなに悪いのかしら?」

 冒険者ギルドの受付カウンターの様子をうかがっている俺の様子がおかしいのに気付いたエルザが訝しがっている。

 近所の神父の娘だったエルザはもともと神官希望だったせいか、しっかり者だ。同い年なのに前世の記憶を取り戻すまでは完全に俺のお姉さんポジだったし、記憶を取り戻した後も、実務的なことも含めてとても頼りになっていた。

 だからこそ、前世のこと、一周目の事もエルザにだけはすべて打ち明けたのだが…。


 気のいい脳筋戦士のダイドーは受付カウンターでの不可思議すぎるやり取りに完全に固まってしまっている。俺すら理解不能なやり取りはダイドーにとってはさらに不可解なはずだ。


 「…ええと、受付に来ていたメンバーが『想定と違う』ようなんだ。もう少し様子を見よう。」

 半ば呆然としながら、俺はエルザに伝えた。


 彼らは確かに初めて冒険者登録をするようではあるものの、年かさの青年を除いては非常に落ち着いているように見える。

 特にリーダーと思しき銀髪の女性はいろいろな意味ですごく存在感を感じる。

 このことが一周目とどういう違いを及ぼすだろうか…。



(SIDE:瀬利亜)


 「そうそう、私の職業は『格闘家』でお願いするわ。」


 いろいろと試行錯誤しながらもなんとか受付が進みだしたころ、近くにいたむさいおっさんたちが私たちに近づいてくるのが見えた。


 「そして、あなたたちは『そんな細腕で、モンスター相手に格闘ができるのか?』と言う!」

 

 ニヤニヤ笑いをしながら私に近づいてきた大柄の戦士風のおっさんを初ちゃんが右手を指さしながら言い放った。

 言われたおっさんが固まった時、初ちゃんはどや顔で笑った。


 「なーに、初歩的な推理ですよ、ワトソン君。そこの筋肉ダルマから見れば、瀬利亜さんは一見細腕のか弱い女性に見えなくもありません。その筋肉ダルマがどや顔で近づいてくれば、口にするセリフなどおのずと似たようなものになるのですよ♪」


 ええと、初ちゃん。某漫画の某シーンを再現させた構成力は確かにすごいですが、どう見ても火に油を注ぐ言動になってますよね。

 と思ったら、予想通りおっさんは顔を赤くして怒鳴りました。


 「だから、どうしたと言うんだ!!その女の細腕で、たとえば俺をどうにかできるとでも?!」


 おっさんは言うなり、私に掴みかかってこようとします。


 こんな素人丸出しの動きをするおっさんをどうこうするのは何でもありませんが、どう動いたら騒ぎが最小限に収まってくれるでしょうか?

 私がおっさんが突っ込んでくるのを待ち構えていると、先にトラミちゃんが動き出しました。


 ゴイーーーン!!!

 「気絶ハンマー♪♪」

 謎の効果音と共にトラミちゃん本人よりもでっかいハンマーを懐から取り出すと、トラミちゃんは容赦なくおっさんの頭をハンマーで殴りつけました。

 おっさんは口から泡を吹いてぶっ倒れて、ぴくぴくと痙攣しています。


 おっさんの仲間を含めて、ギルド内が完全に固まってしまっている中、トラミちゃんはにこにこしながら宣言します。


 「安心するのにゃ♪『峰撃ち』だから、気絶しているだけなのにゃ♪」

 「ハンマーに峰もなにもないよね?!というか、そんなバカでかいハンマーでぶん殴って、本当に大丈夫なの?!!」


 「もちろん、大丈夫なのにゃ♪こんなでかいハンマーで加減なくぶん殴ったらこんなおっさんの頭くらいは卵を割った時のように軽く粉砕されるのにゃ♪」


 さすがはトラミちゃんです。無用な殺生をしないためのモンスターバスター講習をしっかり受けてくれているので、こういう時は安心です。


 さて、この事態を無理なく収拾させることもいい『実習課題』になってくれそうですね♪


(続く)


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