番外編3 栄冠は君に輝くか?! その5
(SIDE健人)
さて、聴衆も参加者も驚かせた『レッツ!クッキング!!』だったけど、いい食材を手に入れるためには魔法で作られたダンジョンの中にある仕掛けを潜り抜け、番人であるモンスターを倒す必要があるということだった。
競技場は世界最高の魔法使いであるアルテアさんと、意外に話のわかる邪神ニャントロホテップさんがつくりあげた異空間内にあるダンジョンで、森林あり、湖あり、砂漠あり、海中あり、など様々な場所を俺たちは用意されたエアカーに乗って移動していった。
「この森林エリアでは守護者を倒せば、最高の『山の幸』が手に入るということね♪
むっ?!どうやら守護者のお出ましのようね!!」
瀬利亜の警告の声に俺たちが身構えると、森林の中にあった山の洞窟の中から巨大な熊の怪物が現れた!
身長は五メートル近い巨体で、刃のような鋭い爪を生やしたその熊の化け物は、発する雰囲気はラスボスらしく強者のものだが、見た目が九州の某県のゆるきゃらに酷似しており、少しだけ戦意が萎えそうになった。
「く、さすがだわ!!私が可愛いもの好きだとわかっていて、こういう倒しにくいラスボスと配置したわけね!!」
いやいや、まさかそんな?!……設計者のアルテアさんとニャントロさんの人となりを聞く限り、それは大いにありそうだよな…。
「シャイニングソード!!」
俺が全力で斬りかかるが、くま○んはなんと、真剣白羽取りで勇者の剣を両手ではさんで受けてしまった!!
なんだって?!こいつ、思ったよりずっと技巧派だ!!
「健人、下がりなさい!私がやるわ!!
シードラゴン・唐竹割り!!」
瀬利亜がかかと落しをすると一撃だった。相変わらずスゲーな!!
「これで松茸とかいろんな食材をゲットしたにゃ♪」
トラミちゃんがいそいそとアイテムバッグにいろいろと収納していく。
「幸先がいいわね♪」
「ふっふっふ、私たちも料理が食べられるので、とても楽しみです♪」
すっかり仲良くなったエイムスと女神ちゃんが笑い合っている。
「よし、この調子で次の食材をゲットしに行くわよ!」
瀬利亜の声に従って再び俺たちはエアカーに乗り込んだ。
「この大洋エリアでは守護者を倒せば、最高の『海の幸』が手に入るのですね♪」
大海の大渦を巻く地点にたどりついたエイムスは興味深そうにあたりを見回している。
俺たちが渦の近くに着いたのを見計らったように大渦が轟音と共にさらに大きく回り始めた。
「KISHAAAAAA!!!!!」
凄まじい雄叫びと共に恐ろしく巨大な怪物が渦の中から浮上してきた。
海の大怪獣ゴメラよりさらに二回りくらい大きな巨体のドラゴンと思しき怪物の前足と後ろ足はそれぞれが大きなひれになっていた。
「海の大怪物リバイアサンと言うそうよ!!」
鑑定魔法を使ったエイムスが俺たちに警告する。
聖書に出てくる終末の怪物と同じ名の化け物は大怪獣ゴメラを遥かに上回る大物のようだ。
「よし、今回は勇者である健人にこの化け物を倒してもらうわよ!
みんな、サポートに入って!!」
「「「ラジャー!!」」」
ええ?!この魔王を遥かに上回るような化け物を俺が倒すの?!!
とか思っていると、エイムスが俺の聖剣(アルテアさんが強化済み)に雷撃を纏う魔法を掛けてくれた。
さらに、トラミちゃんが『空を自由に飛びたいにゃ♪はい、◎◎コプター♪』みたいな背中に装着することで自由に空を動き回れるアイテムを付けてくれた。
そして……。
「女神ちゃん、バリアー!!」
女神ちゃんが神通力を使って、俺の防御力を大きく底上げしてくれた。
そして、瀬利亜は……。
「フレー! 健……もといブレイブ!!フレーフレー!!ブレイブ!!!」
危うく健人と言いそうになっているのも問題だけど、可愛いウサギさんの旗を振りながら応援団をやってどうするの?!!
「KISHAAAAAAAAA!!!」
リバイアサンはただでさえ存在感のある瀬利亜に向かって一直線に噛みつき攻撃を仕掛けてきた。
「シードラゴン・クロスカウンター!!」
「GUGAAAAAAA!!!!」
リバイアサンは瀬利亜のカウンターパンチを鼻先に喰らって、悶絶している。
「ブレイブ!今がチャンスだわ!!」
いまいち釈然としない気もするが、俺は女神ちゃんの加護の力で空中を走りながら、リバイアサンに突進する。
「ブレイブショット!!」
千早ちゃんの指導で相手の弱点を心眼で見ぬき、そこに神速の突きを叩きいれる技を身に付けた。 『勇者の突き』ということで技の名前をなぜか瀬利亜が付けていたが…。
雷光を纏った剣は正確にリバイアサンの心臓を貫き、リバイアサンは一気に崩れ落ちた。
「やったわ!これで食材ゲットだわ!!ブレイブの技も実に見事だったわ!!」
瀬利亜の声に他の三人も賛同して、俺にやいのやいのの拍手を送ってくれる。
みんなの気持ちは嬉しいのだが、瀬利亜がワンパンで悶絶させた相手に止めを刺しただけなので、非常に複雑な気分だ。
しかし、これで海の幸も手に入り、いよいよ料理するだけになってきた。
「さあ、各チームがいよいよ仕上げに入ってきたで!!どんな料理ができたか、ぎょうさん楽しみや!!」
いくつかの例外を除いて、参加した各国チームは我がうさぎさんチームを含め、どこも料理の手際が非常にいいように感じる。
中国チームは……四川料理だ!!俺や瀬利亜より少し年下くらいの女の子がメインになって、中華鍋を振っているよ!!
インドチームは……カレーだ!!ナンを焼いて、いわゆるスープカレーを何種類も作っている。香辛料の香りが非常に食欲をそそる!!
え?なんで、俺が悠長に解説をしているかだって?!……俺がうさぎさんチームの中では一番料理が下手なので、うかつに手伝えないので…。
既にエイムスには完全に料理の腕は抜かれているし、瀬利亜はまだしも、トラミちゃんや女神ちゃんの足元にも及ばないのは…一人取り残されたようで、なんだか悲しい気がする。
その状況で、みんな「戦闘で頑張ったから、料理は見ているだけでいいよ♪」とか、心の底から言ってくれるのが返って堪えるんだよね。
戦闘で圧倒的に貢献していたのは明らかに瀬利亜だよね?!
しかも、どう見ても料理でも神のような手さばきでメインシェフだよね!!
各国チームの料理がいよいよ完成した。
どこのチームの料理も非常においしそうだが、日本チームは日本料理は和食をメインにしつつも、洋風の料理もあるみたいな感じでとてもおいしそうだ。
えええええ?!!!メインのシェフは千早ちゃんなの?!千早ちゃん、すげえ!!
そしてサブシェフがマジカルマザー…小さなお子さん二人を背負った世界最強の陰陽師弾だよね…。
子供二人を背負っておきながら、すごく手際がいいのは本当にビックリだ。
そして、アメリカチームは……イタリアン?!!しかも、メインシェフがライトニングレディだって?!!!アメリカ最強ヒーロー(ヒロイン)は料理まで最強なのか?!!
そして、肝心のわれらがうさぎさんチームだけど、シェフが瀬利亜で内容が…。
「おーーーーっと?!!うさぎさんチームの料理内容はなんや?!!」
「はい!リバイアサン尽くしコースです!!」
なんで、ラスボスを食材に使ってんの?!!!
しかも、ご丁寧にリバイアサンの生け作りまで作っちゃってるんだけど?!!!
「前菜はリバイアサンの生け作り風たたきです。
しょうが醤油とおろしポン酢で召し上がっていただきます♪」
百歩譲って、たたきにするのは構わないんだけど、どうして、超巨大な頭まで飾ってんの?!
審査員の皆さんはおいしそうに食べているよ?!!すごい形相のでっかい頭が傍にあっても食欲が減退しないんだね?!!
「続いて、リバイアサンのテリーヌとソーセージの盛り合わせです。」
ちょっと待って?!テリーヌやソーセージってそんなにすぐに作れるものなの?!
なに?トラミちゃんのタイムマシンを使って仕込む時間を作った?!!
なに、特殊能力の無駄遣いしてんの?!!
「メインはリバイアサンのしゃぶしゃぶ鍋です。
新鮮な野菜や松茸と一緒にゴマダレとポン酢だれを使い分けてお召し上がりください。」
山の幸の松茸をこんなところで使っていたよ?!!
熊を食材に使わなくて本当によかったよ!!
「〆は鍋のだし汁を使った雑炊です。リバイアサンのガラスープがしっかりと効いた濃厚な雑炊をお楽しみください。」
ここでもガラスープを作るためにタイムマシンを使っているよね?!!飯テロ小説と違って、チート能力の使い方を完全に間違えているよね?!!
「デザートはリバイアサン・酒蒸し饅頭です。」
饅頭って、リバイアサン、全然関係ないよね?!!
え?リバイアサンのひれ酒でまんじゅうを蒸したから関係がある?!
なに言ってんの?!!!まんじゅうを蒸すのにひれ酒にしても特においしくなるわけじゃないよね?!!
「うさぎさんチームは非常に独創性にあふれる料理やったね!オリジナリティなら全チームダントツや!!」
うん、独創性だけなら確かに断トツだよね!!他にはここまでぶっ飛んだ料理を出しているチームは見当たらないんだけど?!!!
「結果発表や!!
一位は……アメリカチームや!!!
イタリアンの奥深さをしっかりと見せつけてくれてはるで!!
二位は日本チームや!!
手堅く、上品な料理できれいなコース料理にまとめてはる!
三位はうさぎさんチームや!!
トンデモ素材をコース料理にまとめる手腕はスゴイの一言や!!
素材の特製が十分に生かせておられたら一位やったかもしれへん!」
うん、よく三位に入れたよね…。
それから、料理をきちんと公平に審査してたのがはっきりしたね。
「みんなの協力で三位に入ることができたわ!ありがとう!!
ただ、私が素材の良さを十分生かしきれなかっただけに、申し訳ないことをしたわ。
もっと、食材について精通して、完成度の高いリバイアサン料理を提供するわ!!」
「精進するって、リバイアサンなんて、一体どこに生息しているの?!
いつ、どうやって精進するわけ?!!!」
「大丈夫。あれだけでっかい素材だから、アイテムボックスに入れておけば、相当な期間素材を調べて、適切な調理で提供できると思うの。
頭も生け作り用に何回も使い回しすればいいわけだし。」
確かにすごい量だけど、リバイアサン料理をどこで提供しようというの?!それから頭も何度も使いまわすの?!!
後日談だけど、フラムス王国の王城ではリバイアサンコース料理がもてなし料理の定番になった。『勇者が止めを刺したリバイアサンの料理』ということで、各国の評判になったのだ。
評判になりすぎて、リバイアサン素材が足りなくなった時はアルテアさんがそのためにリバイアサンを召喚してくれ、その度に俺が止めを刺すことになったのだ。
そんな感じでスーパーヒーローオリンピックの一日目は終わり、俺たちはいよいよメイン競技のある二日目を迎えることになった。
※飯テロファンタジーものと違い、高レベルモンスターだからと言って、食材が特においしくなるわけではありませんでした。
(続く)




