番外編3 栄冠は君に輝くか?! その1
(SIDE健人)
魔王を倒す以前から朝早く起きて剣の修練をするのは俺の日課になっていた。
二人の魔王が倒れた後からは時々『もう一人』と一緒に模擬戦をするようになった。
以前はデフォルドと一緒に模擬戦をよくやっていたのだが、俺の方がかなり強くなってからは模擬戦をあまり行わなくなっていたのだ。
とはいえ、純粋な剣の腕以外にデフォルドは魔法や様々なアイテムをうまく使ったトリッキーな戦いができるので、魔王軍との戦闘に於いては最後まで非常に頼りになる仲間だったのだ。
そして、俺の新たな模擬戦の相手は…。
「健人さん、すごいですね!日に日に剣筋が鋭くなってますよ♪」
俺より年下のとても可愛らしい女の子だ。
千早ちゃんから剣術に関して一緒に修練するごとにいろいろなことを教わっている。
普通に模擬戦をしたのでは俺に全く勝ち目がないのだ。
なので、俺が普通の木刀、千早ちゃんが脇差を思わせる短めの木刀で試合をするのだが、俺の方は千早ちゃんの素早過ぎる動きに対応するのが精いっぱい…いや、千早ちゃんの動きに翻弄されて終わってしまうのだ。
なんでも瀬利亜によると、『生まれた時から日本を守る勇者のような立ち位置』で、ずっと『聖剣』を扱って日本を悪魔などの存在から守るための修練を積んできたとのこと…。
だから、千早ちゃんに歯が立たなくても仕方ない…ということなのだが、理屈ではわかっても感情が納得できないでいる。
それをデフォルドに言うと、「俺はいつの間にか剣の腕をお前に抜かれてすごく悔しい思いをしたんだ。人にしたことが自分に返ってきただけだから、それくらい我慢しろ」とか「まだ腕が上がっているんだから、そのくらい納得しろ」とかボロクソに言われてしまった。
そしてエイムスは…。
「望海さんと一緒に鍛錬すると本当に勉強になります!これで健人の足をひっぱらずにすみます!!」
「いえいえ、私もエイムスさんから本当にいろいろ学ばせていただいてますよ。
そして、元々サポーターとしてはすごく優秀で足を引っ張るどころか、すごく役に立たれていたはずですが、いくつも『裏技』や『必殺技』を身に付けられた現状だと、下手すると健人さん以上に活躍されるかもしれませんよ♪」
望海ちゃん、君はエイムスに一体何を仕込んでくれているのだ?!
望海ちゃん及び、エイムスの服装と装備がコンバットスーツに様々な銃器というのが俺の不安を煽る。
「あのう、望海ちゃん?どうしてファンタジー世界なのに、近代戦の装備と服装で、エイムスと一緒にトレーニングしているのかな?」
「はっはっは♪ファンタジー世界の常識を破る装備と戦術を扱ってこそ、魔王軍やその他の脅威が復活した際に対応の幅が広がるというものですよ。
現時点で魔王そのものが仮に復活してもエイムスさんに授けた『秘策』で一人でも魔王を打ち取れるはずですから♪」
俺の疑問に望海ちゃんは最高の笑顔で返事をしてくれる。
その答えにますます不安が大きくなるんだけど?!!
「エイムスがあそこまで頑張っているのは国のためはもちろんだが、大半はお前のためだからな…。そこはちゃんと考えてやれよ。」
デフォルドに言われた言葉が俺の脳裏によみがえる。
それはわかる。わかるのだが…なんだかがんばる方向が違うような…。
笑いあっている望海ちゃんとエイムスの様子を俺は冷や汗をかきながら思った。
「それでは、三日後には健人さんたちの今までの成果が見えるいい機会がありますから。
お互いの健闘を祈ります!」
「そうです♪がんばりましょう!」
千早ちゃんと望海ちゃんが笑顔で手を振って去っていく。
三日後にどんなことがあるのだろうか?
俺とエイムスは今までのことを振り返りながら、そのことについて話し合った。
「明日から私たちはチームでイベントをこなしていくのだけれど、初顔合わせが何人かいるわね。」
二日後に瀬利亜が二人の女の子を引き連れて王城に来た。
「あの、私たちって…瀬利亜さんも一緒にチームを組まれるのでしょうか?」
エイムスが恐る恐る…と言った感じで瀬利亜に問いかける。
「そうよ♪数日間一緒にすごすチームメイトたちだから、今から自己紹介していきましょう。」
瀬利亜が言うと、女の子二人が俺たちの前に歩み出る。
「こんにちは。私はトラミと言いますにゃ。お二人の話は瀬利亜ちゃんからいろいろ聞いてますにゃ。みんなで優勝目指してがんばるにゃ♪」
一五歳くらいに見える猫耳でしっぽの生えた美少女がニコニコしながら俺たちに話しかける。
「トラミさんは獣人の方なのでしょうか?それにしては何か違和感を感じるのですが…。」
エイムスが首を捻るように言うと…。
「ふっふっふ♪私は獣人とは違うのにゃ。
実は二三世紀の未来から来た猫娘型ロボットなのにゃ。瀬利亜ちゃんを救うためにタイムマシンに乗ってきた…はずだったのにゃが、瀬利亜ちゃんができる女過ぎて助けの必要がないことが判明したのにゃ。でも、居心地がいいので、常駐させていただいてるにゃ♪」
どこぞの未来の猫型ロボットの設定をぱくったような話だよね?!
「え?助ける必要がなくて、現代にとどまっていてタイムパトロールとかからクレームが入ったりしないの?」
原作…ごほんごほん!…タイムマシンに乗って過去へ行って未来を改変していいのかどうかという話はよくSF小説でテーマになっているのだけれど…。
「その件だったら、一度タイムパトロールが我が家に来たことがあるのよ。
その時アルさんがいろいろと『お話』したら、簡単に説得に応じてくれたわ。
なんか、よくわかんないけど、『あの【大魔女】のおっしゃることでしたら、了解しました!』ととても歯切れのいい返事をしてくれてたわよ。」
瀬利亜さん!アルテアさんは一体何者なの?!『世界最高の魔法使い』はタイムパトロールにも政治的な影響力を行使できるわけ?!!
なお、エイムスは何がなんだかわからない…という顔をしていたので、説明するのにずいぶんと時間がかかってしまった。
「私は『女神ちゃん』です!!よろしくね♪」
一三~一四歳くらいに見える金髪の美少女がニコニコしながら言っている…。
何を言っているのかよくわからないんだけど…。
完全に固まってしまっている俺とエイムスを見て、瀬利亜が口を開く。
「二人が理解しがたいのはわかるわ。女神ちゃんは異世界の女神様の…いうならば『幼生』のようなもので、もう少ししたら、本格的な女神に進化する予定なの。現状では『準女神』くらいの段階になると思ってもらえばいいわ。
それでね…。」
瀬利亜の話がずいぶん長くなったので、はしょると…。
瀬利亜の別のファンタジー世界の知り合いの王様(どうしてそんな知り合いがいるのかはこの際突っ込まないでおいて…)のところにいろいろあって、進化途上の女神…つまり女神ちゃんが滞在することになったそうな。
そして、完全な女神に進化すると、外見も大人になって『正式な名前』が付くのだそうだ。
それまで仮の名前で『女神ちゃん』とお城のみんなが呼んでいるのだそうだが…。
この話自体も突っ込みどころが満載だよな…。
「女神ちゃんも最初に逢った時はこ~んなに小さくて可愛かったの♪」
瀬利亜が手を自分の膝くらいに手をやりながら話す。
いやいや?!それ、俺の時も同じことをしていたよね?!
「でも、半年前に『進化』して、今くらいの思春期の女の子みたいな感じになったのよね。
小さな時からすごくかわいかったけれど、将来は超絶美女神になるのは間違いないわね!」
瀬利亜がすごく嬉しそうにうんうんうなずいている。
元気いっぱいな雰囲気で、たしかにものすごく容姿端麗だよね…。
しばらくトラミちゃん、女神ちゃんとエイムスがお茶をしながら仲良く談笑していた。
王女という立場でほとんど友達のいなかったエイムスに友達が増えるのはいいことだなあ…と思いながら、俺の個人的な事情に思い至った。
「明日からはスーパーヒーローオリンピックが始まるんじゃなかったっけ?
ぜひTVで見たい…。」
そこまで言って、俺は思い出す。
「瀬利亜、お前、出場者じゃん?!!こんなところでのんびりしていていいのか?!」
思わず俺が叫ぶと、瀬利亜がちっちっちと指を振る。
「『明日から私たちはチームでイベントをこなしていく』て、言ったじゃない。
当然『全員で参加する』に決まっているじゃない♪」
この人何を言ってんの?!!!
俺が愕然とする中、事情のわからないエイムスは俺と瀬利亜をきょとんとしながら不思議そうな顔で見ている。
「安心するのにゃ♪私が『先輩』としていろいろ心構えを教えてやるにゃ♪」
トラミちゃんが先輩…ああああああ!!!!ミラクルキャットだよ?!!!トラミちゃんは日本チームの一員として活躍したミラクルキャットじゃないか!!
「そうかあ、トラミちゃんよろしくね♪」
「大丈夫だにゃ。泥舟に乗ったつもりで安心するのにゃ♪」
にこにこしながらエイムスはトラミちゃんの手を取っている。
一ミリたりとも安心できねーよ!!!!
スーパーヒーローオリンピック…それは二年に一度行われる世界中のスーパーヒーローたちの世界的な祭典である。
某アニメの類似の祭典と違い、各国五人の参加者のチーム力(個人の力が問われる競技もあり)が問われるイベントである。
参加するのがスーパーヒーローだけあって、フェアプレー重視は当然のことながら、『ヒーローらしい様式美』を非常に重視するのもこのイベントの特徴である。
前回『第一回スーパーヒーローオリンピック』が開催され、ロシアチームやアメリカチームという超強豪チームを躱し、シードラゴンマスクをリーダーとする日本チームが優勝を飾ったのであった。
各国と言いながらなぜか『マジカルキングダム』チームや『忍びの国』チームとか、どこの国なのかよくわからないチームも参加していたけど…(しかも、両チームともかなり強かった)。
「ちょっと待て?!!俺たちはもしかして日本チームか??!!」
さらなる驚愕が俺を襲う。瀬利亜=シードラゴンマスクなのだから、当然俺たちも日本チームということに…。
「それが今回は事情が違うの。私たちは謎の特別チーム『チームU』として参加するわ。」
ドヤ顔の瀬利亜にトラミちゃんと女神ちゃんはわくわくしながら、エイムスは不思議そうな顔をし、俺は不安いっぱいで用意されたヒーローのコスチュームを着ていった。
(続く)




