表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/155

番外編2 魔王退治の勇者と幼馴染 その4

 異世界チートに目覚めた?瀬利亜は俺を刺してしの直前にまで追い詰めた暗黒の魔力を纏った呪われた短剣を持っても涼しい顔をしている。


 その状況に動転していた俺は不意に襲ってきたすさまじい気配に対して対応するのが一瞬遅れた。気付いた時には瀬利亜に向かって、暗黒の雷が落ちていたのだ!

 瀬利亜は漆黒の雷の層とも呼ぶべきものに覆われて姿が見えなくなってしまった。


 「ぐわっはっはっはっは!!『絶殺の呪いの短剣』を持っていてくれたおかげで、我が暗黒の雷を避けようがなかったようだな。」

 振り向くと、身長が五メートル近いローブをまとった魔族が立っていた。

 肌の色が青く、やや細めの壮年の男性の姿をしているが、全身から凄まじい闇の闘気を纏っており、六魔将以上の大物であることがうかがい知れる。


 「我は魔王アルティメイトメイジ。貴様らが倒した魔王によって封印されていた先代の魔王というわけだ。貴様たちがあの魔王ジェイクを仕留めてくれたおかげで、こうして無事にこの世に再臨できたというわけさ。

 残った魔族たちは我にしたがって、再侵攻の準備を整えつつある。

 勇者健人よ!貴様らを倒せばこの世界で我らを止められるものはいなくなるということだ!」


 こいつは強い!魔王ジェイクも俺たち三人がかりで倒せたが、ほぼ同クラスのこいつを俺一人でなんとかできるのか?!!そして、瀬利亜は……。


 「そうそう、お前の『大切な人』は間もなくこの闇の雷の力で闇の存在に堕ちる。そして、我の支配下に入るのだ。さあ、どんな魔族に生まれ変わって、勇者をいたぶってくれるかな?」

 酷薄な笑いを浮かべた魔王の言葉に俺は唇をかんだ。

 そして、漆黒の雷が姿を消した時、そこには……漆黒の短剣が地面に落ちているだけだった!!そんな?!瀬利亜は一体?!!


 「そんなばかな??!闇の雷を受けたからといって、存在がなくなるなんてことはあり得ないはず?!!」



 「愚かなり!!」

 俺たちが愕然としているとき、遺跡の上の方から女性の声が響き渡ってきた。

 

 「魔王アルティメイトメイジ!!その(ほう)勇者の大切な友人にそっくりの刺客を送り込んだだけでなく、あまつさえ、その友人そのものを傀儡として勇者を苦しめんとする卑怯な振る舞いを取るなど、不届き千万!!」

 白い遺跡の石柱の上には 銀を基調としたボディスーツ(しかもへそ出し)とアイマスクをかぶり、銀色の髪をなびかせた女性が立っていた。

 女性はふわりと魔王の前に舞い降りると叫んだ。


 「シードラゴンマスク、ただいま推参(すいさん)!!

 天に代わって悪を()つ!!」

 えええええええええええええええええええ??!!!!!なんで、あのシードラゴンマスクがこんなところに出てくるの?!!!!


 「ふ、ふざけるな!!!暗黒火炎撃!!」

 魔王アルティメイトメイジが業火の魔法をシードラゴンマスクに向かって放つ。四方から襲い掛かる魔法は、まともに喰らったら俺たち勇者パーティでも全滅しかねない凄まじい魔法だが、シードラゴンマスクはその魔法をすり抜けるように素早く動くと、魔王の眼前に躍り出た。

 「シードラゴン百裂拳!!!」

 シードラゴンマスクの連続した拳撃が怒号のごとく魔王に押し寄せる。あまりの拳撃の速さに拳が何百とあるかのように見えるほどだ。

 しかも、その一撃一撃に凄まじい闘気が乗っているようで、見ているだけで背筋に寒気が走ってくる。

 

 魔王は後方に吹き飛ばされて、地面をごろごろ転がっていく。

 よろよろと立ちあがった魔王はあちこち傷だらけだったが、あっという間に傷がふさがっていった。


 「やるな!だが、我が魔王結界は魔法や物理を完全に無効化する無敵の結界だ!!そして、我が再生魔法はバラバラになった状態からすら急速に我を再生させる。

 結界を切り裂く勇者の剣を使いこなせるならともかく、いくら勇者以上の力を持つとはいえ、貴様には俺は倒せん!」


 そう、俺たち三人が魔王を倒す切り札になったのはやはり勇者の聖剣だった。もちろん、エイムスとデフォルドの魔法やマジックアイテムを使ったサポートはとても助けにはなったが、止めを刺すのは俺の持っていた聖剣でしかできなかった。

 では、今俺が持っている聖剣をシードラゴンマスクに渡せば、もしや……。


 「シードラゴン『二百』列拳!!」

 またもや、魔王の眼前に素早く移動したシードラゴンマスクは先ほど以上のスピードで拳撃を連打すると、魔王が遺跡を壊しながら、吹き飛んでいった。


 魔王はさっき以上によろよろしながら立ち上がってきた。もはやズタボロになっていた魔王の傷はまたしてもどんどん回復しているようだ。だが、魔王の顔色は悪く、涼しげに立っているシードラゴンマスクを睨みつけている。


 「くそ、いくら無限の回復力を持っているとはいえ、無敵の魔王結界を通してこの魔王にここまでのダメージを喰らわせるとは……。だが、我が魔力は無限大!!貴様には万が一にも勝ち目はないぞ!!」

 憎々しげに魔王が再び魔法の詠唱に入ろうとした時、シードラゴンマスクは笑った。


 「やれやれ、あなたは魔導師タイプの魔王で、かなりの魔法の使い手のようだけれども、実戦経験は乏しい頭でっかちタイプのようね。

 結界は無敵に近いようだけれども、『通常の魔法や物理攻撃をほぼ無効化』するから、無敵に見えるだけで、結局は自然の法則にしたがった単なる『スゴク強い結界』に過ぎないわ。

 だから、あなたの結界がどういうものかをしっかり把握できたらそれはもはや無敵の結界とは言えなくなるわ。」

 シードラゴンマスクは自信満々に静かに魔王に歩み寄っていく!!


 すごい!!これが『世界最強のスーパーヒロイン』・シードラゴンマスクか…。


 

 俺が最初に『銀髪のスーパーヒロイン』シードラゴンマスクのことを知ったのは、シードラゴンマスクが『海の大怪獣ゴメラを単身で退けた』という事件があってから半年後のことだった。

 その見た目から、正体は瀬利亜か?!!と驚愕したものの、ネットで少し調べて、『シードラゴンマスクは変身前は黒髪の一見地味な女性』という信頼できる情報筋からのいくつもの共通情報で、違うとわかり、少し安心すると同時にがっかりもしたものだ。


 とはいえ、約一〇年前に消息を絶った伝説のスーパーヒーロー・スーパージャスティスにも匹敵しかねない圧倒的な存在感をもつこのスーパーヒロインに俺はあこがれ、非公認のファンクラブにも入り、精巧なフィギュアもいくつか衝動的に買ってしまった。

 

 …いや、状況的にどう考えても、瀬利亜=シードラゴンマスクだよね?!!もし、地球の俺の部屋に戻れたら、すぐに机の上のフィギュアを隠さねば!!



 俺が馬鹿なことを思っているうちに、魔王が再び放った雷撃の魔法をシードラゴンマスクは難なくかわし、魔王の前に立っていた。


 「さて、その結界なら…ちょっと気合いを込めて、聖剣並みかそれ以上の闘気を拳にまとってぶん殴れば、終わりそうだわね!!」

 ちょっと待て?!あれだけ、論理的にいろいろ言ってたけど、解決は脳筋なの?!


 見る見るうちに瀬利亜の右拳に膨大な闘気が流れ込んでくる。

 俺が聖剣を使った必殺技を放つ時より、はるかにすごい圧を感じ、俺は呆然としながらその光景を眺めていた。

 魔王の顔は青を通り越し、白くなって、ガタガタ震えている。


 「待て!!貴様ほどの力があれば、どんな敵でも打ち破れよう!!

 わし組めば世界征服などたやすい!わしと一緒に世界征服をして、世界を半分こしようではないか!!!」

 魔王が懇願するようにシードラゴンマスクに言うが…。


 「笑止!!あなたも『世界の支配ごっこ』に興じる俗物に過ぎなかったわけね。

 人間の世界でも多くの独裁者が『世界征服』という寝言を言っているようだけど、ようは人間たちの『支配ごっこ』の延長に過ぎないわ。

 あなたの場合はそれに魔族も追加されるだけの話。そんなつまらない遊びに巻き込まないでほしいわね。

 じゃあ、辞世の句はそれでいいようね!!」

 シードラゴンマスクがそう言うなり、拳圧はさらに爆発的に高まった。


 「シードラゴン・昇龍波!!!」

 シードラゴンマスクのアッパーカットを喰らった魔王はそのまま星になって飛んでいった。

 …一体どこまで飛んでいくのだろうか…。


 「この世に悪の栄えたためしなし!!!!」

 シードラゴンマスクは高笑いをすると、そのまま何度も数メートル以上の跳躍を重ねて、あっという間に姿を消してしまった。

 唖然としながら俺はその姿を見送り…そして…。



 「びっくりしたわね!!通りすがりのスーパーヒロインに助けてもらうなんて、私たちはなんて運がいいのかしら?!!」

 「いつの間に戻ってきたの??!!!それから、『通りすがりのスーパーヒロイン』て何?!!最近は自作自演が流行っているわけ?!!!」

 涼しい顔をして、いつの間にか俺の傍にいた瀬利亜に思わず突っ込みを入れる。

 

 「驚いたわね。まさかあっという間に私の正体を見ぬくとは…。さすがは健人!異世界で魔王を倒す勇者をやるだけのことはあるわ!!」

 「ねえ、どうしてあれで正体がばれないとか思えるわけ?!!俺が勇者であるかどうかとか全然関係ないよね?!!!」

 

 俺が中一の時、瀬利亜と別れたわけだが、大人になった時にはお互いに大きく成長すると思っていた。

 瀬利亜は俺が想像を絶するほどすごく成長したわけではあるが、突っ込みどころ満載なところは別れた時よりはるかに悪化しているんだけど?!!!


 

 「…健人、これはどういうことか説明してもらっていいか?」

 遺跡の影からデフォルドとエイムスが姿を現した。

 愕然とした二人の状況から瀬利亜が魔王をボコるところを見たのだろうと推察できた。


 「あら、エイムス王女、実はね。通りすがりのスーパーヒロインが…。」

 「その設定はもういいからね?!!全部話さないと話がややこしくなるだけだからね?!!」



 「なるほど…瀬利亜さんに違和感をいろいろ覚えたのはそういうわけだったのね…。」

 エイムスが疲れたような顔で力なく言う。うん、俺もその気持ちはよ~くわかります。

  

 瀬利亜は『正義の直観』で何か起りそうな気がしたから、妹のようにかわいがっている千早ちゃんと一緒に山の中に入っていくと…腹にナイフが刺さって死にそうになっていた俺を見つけたのだそうだ。

 で、そのナイフをさくっと抜くと、『治癒魔法の心得』のある、千早ちゃんが治療して事なきを得たのだという。

 それでも体力を消耗した俺を病院に連れ込んだその晩に俺が目を覚ましたのだそうな。

 元いた世界に戻ったのは女神の腕輪の力だったようだが、俺を助けてくれたのは瀬利亜と千早ちゃんだったのだな。


 

 「あれ、健人君じゃない?!!久しぶりだね。元気そうで何よりだね♪ずい分立派になったよね。」

 遺跡の影から姿を現した女性は……アルテアさん?!!

 瀬利亜の家でときどき見かけた長身金髪の超絶美女はニコニコしながら俺たちに近づいてくる。

 相変わらず揺れる巨大な胸は目の毒だ…。


 「アルさん?!思ったより早かったけど…。それより、どうして一目で健人だとわかったの?別れた時はこ~んなに小さかったから私はすぐにはわからなかったんだけど?!!」

 「あら、瀬利亜ちゃんらしくないわね。魂の色を見れば一発じゃない♪人の見た目にごまかされちゃだめだよ。」

 ちょっと待て!アルテアさんがすごく怪しいことを言っているんだけど?!!それからどうやってここに来たんだ?!!!


 「確かに見てすぐにわかるアルテアはんはスゴイと思うんや。まさかあの健人が短期間にここまで立派な男に成長するとはわても想定外や!!」

 ええええ?!!光一まで来ているんだけど?!!!


 「せやけどな、健人!成長するんが少しばかり遅かったようやな!!」

 光一がドヤ顔で悪役笑いをしている。

くそ、昔から光一のことは俺は少し苦手だった。

…光一は俺に悪意とかはないみたいだったけど、瀬利亜と兄妹のような関係で、俺よりずっと大人でしかもイケメンだった。なにより言いたいことを素直に口に出していた光一をうらやましく思っていた。やたらもてていたしね。

 

 「光ちゃん、何が言いたいのかよくわからないのだけれど…。」

 言われて瀬利亜は困惑しているが…。



 「…そうね…。健人君、確かに見た目も中身もすごくいい男に成長したようだけれど、ある意味光一君の言うように遅かった…というのは正解だわね。

 成長するのがというより、告白するのがだけれど。」

 アルテアさん、あなた、一体何を言っているのですか?!!


 「健人、前からわてがよう言うたやん!どんなに思っていても『言葉に出さんと相手はわからへん』て。わても自分の気持ちを自覚したときはすぐ『全力でプロポーズ』したんやで。せやから素敵な嫁はんをゲットできたんや!!

 健人も『次の相手』には躊躇(ちゅうちょ)せずにすぐ告白しはるんをお奨めするわ。」

 プロポーズ…プロポーズ…て…。


 俺が光一の言葉を受け止めきれずに震えていると、アルテアさんが困ったような顔をして言った。


 「一年ちょっと前に光一君が瀬利亜ちゃんに熱烈なプロポーズをして、結婚したのよ。まあ健人君は見た目通りのすごくいい男になったからすぐに素敵な女性が見つかると思うわ。」

 なんだってーーーーーー?!!!!!!!!!!!


 こうして、俺の初恋は想像を絶する展開を経て終わった。


(続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ