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番外編1.5 こちらにおわすお方をどなたと心得る その1

 バーカトーノ公国の城の奥深く、秘密の小部屋で公王を始めとした、幹部が集まっていた。


 「まずいことになりました。」

 中年のやり手と思しき精悍な顔つきの宰相が眉をひそめて声を出した。


 「我らの崇高な目的の『資金集め』のために動いていたアークダイカーン子爵が『賄賂を受け取った上に、御用商と結託して非合法な取引の数々を行った』…として証拠と共に王都の警察に突き出されていたのです。」

 「いつもなら握りつぶす案件ではないか。それができないなにかがあるのか?」

 鍛え抜かれた武人という風情の公王は不機嫌に顔をしかめる。

 「はい、不法取引の証拠となる書類をミート王国とガルーダ王国の首都にも送りつけてあるとのことです。さらに……。」

 宰相の眉間にしわがより、絞り出すような声を出した。


 「あの『ミツエモン一行』が子爵の手勢を簡単に一掃し、誰も気づかぬうちに王都の警察本部にアークダイカンと手勢が簀巻きにされて放り込まれていたのです。」

 「なんだと?!……では、ミート王国のやつらは『我らの計画』に気付いたうえに、我々の予想以上の能力を持った戦力を保持しているということか…。

 では、計画を前倒しにする必要がありそうだな。」


 「ミート王国の連中風情は『我の力でどうにでもなる』が『アレを呼び出す』までに『白銀の勇者』にかぎつけられるとやっかいだ。

 我も全力で協力しよう。」

 公王のそばに控えた黒いローブをまとった男の言葉にその場にいた全員がうなづいた。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 「女王陛下!緊急事態です!」

 私がゆっくりとハーブティを楽しんでいると、我がミート王国の諜報部隊のエース『ヤシチ』が音もなく、私の椅子の後ろに姿を現した。


 「どうした、ヤシチ?ずいぶん慌てているようだが?」

 私が声を掛けると、跪いていたヤヒチが姿勢を正して答える。

 「バーカトーノ公国の第二の商業都市オウミの街で不正を行ったとしてアークダイカーン子爵と御用商人のジョウシュウ商店が逮捕されました。

 その際、『大量の悪事の証拠』と共に簀巻きにされたアークダイカーン一味が公国の王都の警察の留置場にいつの間にか置いてあったのだそうです。」

 ヤヒチの言葉に私は思わず口に含んでいたハーブティーを噴き出しそうになった。


 「それはおかしくないか?!アークダイカーン一味がいつの間にか悪事の証拠と共に公国の留置場に置いてあるという状況もおかしすぎるし、『公王の命を受けて資金調達』をしているアークダイカーン達が逮捕されるのもおかしい!」

 「はい。アークダイカーン一味を簀巻きにした連中は我が国とガルーダ王国の双方に『アークダイカーン一味の悪事の証拠』を送ってきております。

 両国の保護国である公国はそのことでアークダイカーン一味を逮捕せざるを得なくさせられているのです。

 さらに…。」

 「さらに?!」

 思っていたよりさらに上手な『連中』に驚かされた私は次のヤヒチの一言でさらに驚愕させられることになった。


 「一味を捕縛した連中は『ミツエモン一行』と名乗ったのだそうです。」

 なんだってーー?!!!



 私、ミツリカ・ミートはいわゆる『転生者』である。

 OLになって二年目にブラックな企業で過労死ししたらしい。


 気が付くと、ファンタジー世界のミート王国の王家に転生していたのだ。

 国王ヨーシノーブと王妃サリマンの間の第一子(娘)として生を受けた。


 ヨーシノーブは為政者としては凡庸であったが、個人としても王としても誠実であり、有能な宰相に国政を任せて、大国ではないもののミート王国はそれなりに繁栄した国であった。

 仲の良い両親の元、私は五歳まですくすくと育っていった。


 そして、五歳の教会での洗礼の儀式の際、私の頭の中に前世の体験が急に戻ってきたのだった。

 前世で大学を出て社会人までしたのだから、五歳からの勉強はある意味楽で、そしてとても大変だった。

 ミート王国は男女にかかわらず、基本第一子が王位を継ぐことになっていた。

 そのため、小さなころから帝王学を収めることになり、文武両道ともにいろいろなことをたくさん学ばされることとなった。

 その折についつい『日本の知識』を使ったものだから、いつしか両親のみならず、弟と妹まで私を思い切り尊敬してくれ…そのうち、父王が隠居して、一八歳の時には私は女王になってしまった。


 王位に就いてから四年、二二歳になる私ですが、独身・婚約者なしです。


 これでも妹ほどではないですが、美人と言われて、婚約者候補も何人もいたのですよ!ただ、どの人も『政治がらみでいろいろと黒いとこだらけ』だったので、『政治的に失脚』していただいたり、相手の不誠実さゆえに『強引に破談』にさせて頂いたりしていた結果、未だに身近に男性の影も形もありません。

 これでは前世で仕事の鬼だったころと変わりやしません。


 転生者である利点を生かして、私は剣も魔法もそれなりに使えます。

 だから、きちんと護衛を付けることで『お忍びで出かける』許可を口うるさい宰相やお付きの『じい』から何とか勝ち得たのでした。


 お忍びの際は『ミツエモン』と名乗り、『スケさん』と『カクさん』、それに『ヤヒチ』と『ハチベエ』を引き連れて、領内のあちこちを『視察』しました。

 もちろん、『例の番組』をもじっています。

 もう、わくわくしながら視察に出ましたが……『この紋所が目に入らぬか!』をやったことは片手の数で数えるほどしかありません。

 残念です。番組では週に一回はやっているのに…やはり、物語と現実は違うのですね…。



 さて、現在の近隣の国際情勢です。

 バーカトーノ公国はそれなりの大きさの我がミート王国と、かなりの大国であるガルーダ王国に挟まれた小国です。(それ以外にもいくつかの国と国境を接していますが…。)

 歴代の公王は曲者ぞろいで、いくつかの国と外交を駆使して、我が国とガルーダ王国の両方の保護国という立場ながら独立を維持してきました。

 現在のシムラーノ・バーカトーノ王は表面上は温厚そうな中年の紳士ですが、裏では闇の組織ともつながりがあるという諜報部からの情報が入っており、私が王位に着く前からずっと警戒しております。

 特に近年、『闇ギルド』との関係を深め、資金調達にかなり強引に動き出したことから、国境付近の防衛も含めいろいろと手を打ってきています。



 一方ガルーダ王国ですが、大体は穏健な王が続いていたそうですが、先代の王はかなりの曲者だという情報が私が本格的な情報収集を始めたころから入っていました。

 表面上は穏やかな王ですが、その裏で相当いろいろ画策してるらしいという情報は、『魔王と結託して大戦争を起こそうとした』ことが発覚し、事実だとわかりました。


 その後王を引退させて、新たに王位に付いたラシャール王は……評判そのものはいいのですが、前王の大失策にも関わらず、国の影響力、経済力はどんどん増えているというのが引っかかります。

 特に同じく引退した魔王の国・グリフォン国と協調して動いていて、こちらの国も失策後かえって栄えているという状況は何が裏があるのかと勘繰りたくなります。

 しかも、両国とも表立っては悪い情報が出てこないので、下手すると『前よりもさらに上手の悪党たち』という可能性もあります。

 ゆめゆめ油断しないよう気を付けるべきでしょう。


 そして、ガルーダ王国で一番わけのわからない情報は『白銀の勇者』に関する情報です。

 勇者を召喚した聖女・アリス姫や他の英雄たちとともに先代魔王を倒した…まではまだわかるのです。

 たった一人で大魔王軍とそのバックにいた特大魔王軍を撃ち滅ぼした……いくらなんでも『盛りすぎ』だろ?!!どんなホラ話だよ!!


 とはいえ、白銀の勇者出現後、ガルーダ王国、特に首都のフェニックスタウンが画期的な技術で非常に発展していることを踏まえると、白銀の勇者は転生勇者、あるいは召喚勇者なのかもしれません。

 ということで、白銀の勇者の情報をずっと集めているのですが……どれもこれも『どれだけ盛っているの?!』という内容の情報ばかりです。

 ガルーダ王国は情報操作にも異様に長けているのでしょうか?


 そんな風にガルーダ王国、特に白銀の勇者の情報収集に頭を悩ませているときにアークダイカーン一味の逮捕…という案件が起こったのでした。


 この件は状況的に見て『ガルーダ王国が絡んでいる』と考えるのが自然です。

 では、まずはオウミの街に行って情報収集を図るのが急務でしょう。




 「ミツリカさ……ミツエモンさん!この建物はすごいですね!!!!」

 「「「「………。」」」」

 あの『ミツエモン』と提携しているというオウミの街の『ドナン・ホットスプリングホテル』に来てみたのですが、その外観を見ただけで、ハチベエ以外はあまりのスゴサに固まってしまいます。

 白亜の十階建ての建物はとてもファンタジー世界にあるべき代物とは思えません。


 こわごわ中に入ると…。日本のホテルのようなフロント、さらに……。


 「ミツエモンさま、気持ちいいですね♪温泉と言っても、こんな温泉もあるんですね!極楽、極楽♪」

 ハチベエこと、オワーリ大商会の娘・ハッチ・オワーリがふにゃーっと脱力して、水着でジェットバスに浸かりながら私に語りかけてきた。

 「本当ね♪設備がここまで整っていると、同じ温泉でも何倍も楽しめる気がするよね♪うちの領の温泉でもこういう施設を……。」

 しまったーーー!!!!いつの間にか全力で温泉を楽しんでしまっているし!!!潜入捜査の目的が完全にどこかへ行ってしまってたよ!!



 その後鉄板焼き料理の数々…とくに久しぶりのお好み焼きに嵌まり、冷静さを取り戻したのは夕食後のお風呂を一通り楽しんで、一行が部屋に集まってからだった。


 「どの料理も泣けるくらいおいしかったですね。こんなおいしい料理を頂いたのはミツリカ様ご考案の料理以外では初めてかもしれませんね♪」

 スケさんこと『辺境伯の戦姫』・スケット・ササーキがいっぱいになったお腹をこすりながら話し出す。

 確かにすごくおいしかったけど…。スケさん、今回の目的は潜入捜査なのだから、もう少し真面目にコメントしてほしい。神聖魔法も扱える剣の達人で、辺境伯の次女だが、武者修行と称して冒険者として散々旅に出まくったのはいいのだけど…少々自由人過ぎるのが問題だ。

 私と同い年なのだが、ショートカットの金髪の派手目の美女で、スリーサイズも派手目なので…私に少し分けてほしい。


 「スケさん!もう少し真面目にやらないか!」

 スケさんを嗜めたのはカクさんこと『近衛部隊の赤い閃光』・カクード・アツーミだ。

 侯爵家の長女で、クソ真面目な近衛部隊副隊長だ。

 小柄で細いので、一見か弱い女性と勘違いしそうな外見だが、さまざまな魔法を操り、細剣術、護身術などをいろいろ使う戦闘のエキスパートだ。

 旅で大まかなことは私が決めるのだが、『世直し』の際に悪党を倒す詳細な作戦を決めるのはカクさんなのだ。


 「いいじゃねえか。思い切り楽しんだ方が、ここの真価も見極めやすいと思うぜ。

 ささ、ヤヒチも一杯どうぞ♪」

 スケさんが黒髪の長身の美女・ヤヒチにホテルで入手したワインを奨めていた。

 「…ええと、私はその…。」

 任務の時のハキハキした言動とはうってかわって、蚊の鳴くような声でヤヒチがぼそぼそとしゃべっている。

 東方の島国出身の元暗殺者で、私を暗殺するのに失敗してから、改心し、仲間になってくれたのだ。

 どう見ても『忍者そのもの』であるのだが……人見知り過ぎるその性格は本来の水戸黄門の弥七とは似ても似つかないのだよね…。


 「では、私が頂きます。……少し若いですが、とてもいい出来のワインですね♪これ、銀貨一枚で売っていたのですよね。ここのホテルなかなかいい品を選んでますわね。

 食事、室内の内装、そして、温泉の様々な設備…どれをとっても一級品ですわ。

 ここのホテル、商売に関してもプロですし、技術的にも相当なものを持ってますわね。」

 さすがはやり手の商会の次期会長です。

 普段は割とのんびり屋さんですが、商売が絡むとモデルとなった八兵衛と違って、ものすごく頭が回り、しかもきびきびと動いてくれます。

 また、すごい情報通で、オワーリ商会の情報ともどもすごく重宝させていただいてます。


 「このホテルはガルーダ王国王都・フェニックスタウンの『ミツエモン商会』の技術支援で作られているそうです。ただの一商会がこれだけの技術を持っているとはとても思えないですよね。」

 言いながらハッチは意味ありげに私を見る。


 「そうね。ハッチの言う通りだわ。このホテルはミツエモン商会…つまり、ガルーダ王国の卓越した技術が使われていると思うわ。王都フェニックスタウンが繁栄しているのも、このすご過ぎる技術が使われているからだわ。

 みんなにはそういう視点でもう一度このホテルの中をしっかりと観察してほしいの。」


 「ミツエモン様、了解です。それでは、早速お風呂をしっかりと『観察』して参ります♪」

 スケさんがそう言うなり、すたすたと温泉に向かって部屋を後にした。

 いや、あなたは温泉を堪能したいだけだよね?!



 とか、言いながら、私とハッチも温泉に入って、くつろぐことになった。

 今度はそれぞれの場所を一緒に批評しながら、さらにその技術を冷静に吟味しようというわけだ。


 「しかし、ここ、照明の明るさや設備の雰囲気とか、すごく気を遣っているわね…。ねえ、ミツエ……。」

 ゆったり湯船に浸かっていたハッチがあらぬ方向を見ながら絶句していた。

 いぶかしく思った私がハッチの視線を追うと…。

 なんじゃこりゃあああ?!!!


 特大サイズのバストのワンピースの水着を着た美女がいた。

 なんで、アロハ♪とか英語で書いてあるの?!


 「あらあ?あなたたちはもしかして国外から来られたのかしら♪」

 私たちの視線に気づいた、癒し系の美女が首をかしげながら話しかけてきた。


(続く)


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