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番外編1 この紋所が目に入らぬか その3

 『ドナン・ホットスプリングホテル』は予想以上に大盛況になりました。

 一階~三階の温泉街もお客様は大入りですし、地下一~三階の買い物&レストラン街も大盛況です。

 そう、地下街にはジョウシュウ商店一味にお店を安く買い取られた人たちにテナント出店してもらっています。

 また、予想以上に宿泊客が増えそうだったので、宿泊室も増え、四~八階が宿泊スペースとなりました。

 最上階には『露店風呂付のスイートルーム』もあります。


 おや?ホテルのフロントに妙な雰囲気の集団が入ってきました。

 『悪事の黒幕』達が現れたようです。




 「これは一体どういうことだ?!」

 若くて顔立ちは整っているものの目つきの悪い貴族…おそらくアークダイカーン子爵がフロントに近づいて声を張り上げました。


 「こ…これはアークダイカーン様!どういうこととは一体…」

 ドナンさんが少しびくっとしながら答えている。


 「誰に断って、こんなことをしているのだ!」

 額に青筋を立てて、アークダイカーン子爵がドナンさんに詰め寄ってきます。


 「断ってもなにも、元々宿もレストランもお風呂も営業許可は頂いとるやん♪」

 涼しい顔でドナンさんをかばうようにタキシード姿の光ちゃんが前に出てきます。


 「無礼者!貴様は一体何者だ?!」

 「これは失礼しました。」

 同じくタキシード姿のラシャール王がやはり涼しい顔で前に出てきます。

 「私はガルーダ王国『公認商人』の『ミツエモン』と申します。王都フェニックスタウンで服などを扱わせていただいております。」

 『王国の公認証』を見せながらラシャール国王がニコニコしながら答える。


 国王直筆の公認証をアークダイカン子爵とジョウシュウは目を白黒させながら見入っている。

 我々が屋台村をプロデュースする際も折衝がうまくいくように『王国公認証』を出してもらった覚えがあります。

 『王家の紋章』を使った公認証を偽造したらえらいことになりますし(ガルーダ王国以外の多くの国では死罪ものです。)、ラシャール陛下や光ちゃんのあまりにも堂々とした態度に二人は悔しそうに黙りこみます。


 「では、もうよろしいでしょうか?」

 ニコニコしているラシャール陛下にアークダイカーン一味は「く、行くぞ!」というアークダイカーン子爵の声とともに引き下がっていきます。



 「すごい!ここまで予測してここをスーパー銭湯ホテルにしたんですね!!」

 橋本君が感嘆の叫び声を上げます。


 「ええと…この前夫婦でスーパー銭湯に行ったら、なんだかよかったから『試作として』作ってみたかっただけなの♪」

 アルさんの告白に橋本君の顎が落ちます。


 「で、今回ここで十分な手ごたえが得られたから、今度は瀬利亜ちゃん家をスーパー銭湯化するね♪」

 いえ、そこまでしていただかなくても結構ですが…。

 「それは名案や!わてもいろいろアイデアを出させてもらうで!!」

 ……旦那様も超乗り気になったことで、石川家のお風呂がスーパー銭湯になることは確定してしまったようです。


 それはともかく、アークダイカーン&ジョウシュウ商店一味の悪事の証拠がいろいろ集まってきたと忍者さんから連絡が入りました。

 今度はこちらからの逆襲が始まります。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 「また、失敗しただと?!」

 シューセンド・ジョウシュウはうなだれるゴローザ一家を叱りつけていた。

 「建物の中で暴れるのは難しいが、ドナンホテルに向かう客を脅して、評判を落とせばいいんだぜ!!」

 「…それが、少し離れた場所で暴力を振るおうとすると、そこになぜかあいつらの仲間が現れて、ぼこぼこにされた挙句、衛兵に突き出されるんです。

 衛兵がこっちとつながっていてすぐに釈放してくれなかったら、我々全員、留置所に入れられていたはずです。

 それでうちの一家はどいつもこいつもボロボロで、恐喝すらできる状態ではありません。」

 自身も傷だらけになったゴローザ親分が何とか言葉を絞り出す。


 「くそ!こうなったら、『アレ』を使うぞ!」

 まなじりを決してシューセンドが叫ぶ。

 「しかし!あれは扱いを誤ればオウミの街にすら大きな被害が出ます!」

 ゴローザが慌ててシューセンドを諌める。


 「なあに、奴らは相当腕が立つようではないか。多くの被害が出て、建物を大きく破壊した後、アレを始末してくれればちょうどいい。治安組織は全てこちらの手のものだ。イチャモンを付けられてもしらばっくれればいい。」

 シューセンドは暗い笑みを浮かべた。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 「GYOOOOON!!」

 大通りに突如凄まじい叫び声が上がります。

 そして、漆黒の巨大な魔物が姿を現しました。


 「GWAAAAAAAN!!」

 象ほどの大きさの三つの頭を持つ漆黒の犬型の魔物が吠えると、付近にいた人達は慌てて周りに逃げ出します。

 そして、三つ首の犬型の魔物・ケルベロスはホテルに向かって疾走します。


 「シードラゴン昇龍波!!!」

 その三秒後には私の拳にかかって、あっという間に上空に舞い上がります。

 そして、落ちてきた魔物は私のかざした巨大な傘の上に乗っかり……。

 「いつもより大目に廻しております!!」

 私が回す傘の上でぐるぐると廻りつづけます。


 そうこうするうちに私が傘の上でケルベロスを廻しているのを『ホテルの客寄せ興業』だと思われたのでしょう。

 逃げていたたくさんの人が戻ってきて、さらに私の周りに見物人の輪ができてきます。


 「続きまして、『馬車』を廻します♪」

 「「「「おおおーー!!!!」」」」

 見物していた人たちからやいのやいのの歓声が沸き上がってきます。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 「また失敗しただと!?どこまで無能なのだ、貴様らは!!!」

 再び、領主の館でアークダイカーンがシューセンド達を怒鳴りつけています。

 シューセンド達は完全に焦燥しきっており、反論の言葉もまともに出てきません。


 「くそう、かくなるうえは、最後の手段として…。」

 「最後の手段として何をされるおつもりなのでしょうか?」

 アークダイカーンの言葉に冷え切った望海ちゃんの声が掛け返されます。


 「お、お前たちは?!」

 私と望海ちゃんを先頭にして、ラシャール王、橋本君、トラミちゃんが領主の部屋に乗り込んでいきます。


 「お、お前はミツエモン?!く…一体何の権限があって、領主の館に入ってきたのだ!!」

 想定外の事態に必死で頭を働かせながらアークダイカーンが叫びます。


 「ふ、今回の悪事はこいつが全てしゃべってくれたわ!!」

 私は気絶したケルベロスを連中の前に突き出します。


 「一体何を突き出しているの?!というか、これまでどこに隠していたわけ?!」

 おっとっと、なんということでしょう?!よもや味方の橋本君からツッコミが入るとは完全な想定外です。


 「ふ、ふざけるな!お前たち、こいつらを取り押さえろ!!」

 ぶるぶる震えながら、アークダイカーンが叫び、子爵の手下の衛兵やゴローザ一家のごろつきたちが…うん、怖がって動かないですね…。


 「かまいません!助さん、格さん、()っておしまいなさい!」

 ラシャール王が叫びます。

 「「はい!!」」

 私と望海ちゃんが即答し、橋本君は……。


 「いやいや、漢字変換がおかしいよね?!それとどう見てもオーバーキルにしかならないよね?!!」

 なんということでしょう?!!橋本君がしばらくツッコミしかしてくれません。

 これでは、『うっかり八兵衛』ではなく、『つっこみ八兵衛』と改名しなくてはいけません。


 その時、窓ガラスが割れ、巨大な物体が高速で飛び込んできました。

 直径二メートルはある巨大な十字手裏剣が窓を突き破って、壁に突き刺さったのです。

 さらに、窓から音もなく、巨大な人影が部屋に舞い降りました。

 人影は舞い降りると同時に四股を踏み、部屋がぐらぐらと揺れます。


 「風車の弥七、参上!!」


 「ちょっと待って?!巨大な手裏剣を投げておいて、どこが風車なの?!」

 「ふっふっふっふ、八兵衛どの!手裏剣をよくご覧じろ!!」

 なんと、巨大な手裏剣の真ん中に小さな風車が付いて、回っているではないですか?!


 「それ、どう見ても『アリバイ』に風車を付けました、ていうことだよね?!風車が付いている必然性はまったくないよね?!」

 「ちっちっち、それは違いますよ。『風車の弥七』は男のロマンなんです。つまり、『原作に対するリスペクト』で、風車をつけているのですよ♪」


 忍者さんと橋本君が妙なやり取りをしている間にアークダイカーン一味は……。

 「ああ?!貴様ら、どこへ行くんだ!!逃げるなー!!!」

 アークダイカーンの叫びもむなしく、衛兵、ゴロツキ連中ともども全力で逃げにかかっています。


 「にゃははははははは!!!逃がすわけがないのにゃ!!!」

 言いながらトラミちゃんは持ち出した重火器を撃ちまくります。

 そんなことをしたらもちろん…。


 「トラミちゃん!なにやってんの!?建物が崩れるよ!!!」

 「ふ、このメンツなら建物が崩れても全く問題ないのにゃ!!」

 いやいや、確かに『ミツエモン一行』は建物が崩れても問題はないですが、アークダイカーン一味は……。



 数時間後、我々は気絶したアークダイカーン一味を『大量の証拠と共に』バーカトーノ公国の都の警察本部に叩き込みました。

 もちろん、移動には猫娘バスを使用しました。

 なお、間違っても握りつぶされないために『同じ証拠をガルーダ王国とミート王国の両政府にも送付』しておき、そのことを公国にも手紙で伝えておきました。

 子爵邸をいろいろ調べていたら、バーカトーノ公国自体もいろいろと後ろ暗いことを多々やっていることがわかってきたからです。



 「さて、次の旅の目的地は決まったとはいえ、これにて、一件落着ですな♪」

 上機嫌でラシャール王がみんなに告げます。


 「……あのう…今回紋所を使ってませんよね。」

 「大丈夫なのにゃ。今回使わなかった分、次回たくさん使えばいいのにゃ♪」

 橋本君の言葉にトラミちゃんがニコニコしながら返します。


 「といいますか、この世界に紋所なんかありましたっけ?」

 「ふっふっふっふ、こんなこともあろうかと、例の番組を参考に作っておいたのですよ♪」

 橋本君に問われ、ラシャール王がにっこりしながら『神鳥ガルーダの紋章入りの紋所』を懐から取り出して、みんなに見せます。


 「私も預かったのよ。」

 「実は私も預かりました。」

 「私も預かったのにゃ♪」

 「実は某も預かったのだ♪」

 私、望海ちゃん、トラミちゃん、忍者さんも紋所を取り出します。


 「ねえ、なんでそんなもの作ってんの?!それから、僕だけ仲間はずれなの?!!」

 悲痛な橋本君の叫びがこだまする中、我々は次なる目的地に向けて旅立つのでありました。


(続く)


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