117 怪盗との遭遇 その5
「「「「「ゆるゆる♪」」」」」
「「「「「きゃらきゃら♪」」」」」
人間と同じくらいの大きさの展示室内を埋め尽くしているぬいぐるみのような熊たちが動き出したので、小山内や警官たちはあっという間に身動きが取れなくなった。
「これは一体どういうことだ?!!」
小山内が叫ぶが、人ごみ?の中では誰もまともに動けない。
「「「「「リラッリラッ♪」」」」」
「「「「「くまくま♪」」」」」
そうこうしているうちに熊たちはさらに数を増し、悪魔の絵も熊に埋もれて小山内たちから見えなくなってしまった。
「小早川さん!なんとかできないですか?!!!!」
熊たちに金縛りの術を掛けたものの全く効果がなくて焦った荒神坊が小早川に振る。
「はっはっは…。困りましたね。こんなにかわいいクマくんたちを攻撃するのは心が痛みますよね。」
小早川の『妄言』に小山内たちは固まった。
「彼らは泥棒ですよ!ど・ろ・ぼ・う!!しかも、鑑定した限り、ただのロボットです。
早く何とかしてください!!」
小山内が思わず叫ぶ。
「なるほど。では、仕方ありません。少々心が痛いですが、これを使いましょう。」
言いながら小早川は懐からバズーカを取り出す。
(それ、どっから取り出したんだよ?!!)
小山内が心の中で突っ込むと同時に、小早川はバズーカをぶっ放した。
ズドーン!ドカーン!!
人間大のゆるきゃらたちは次々と吹き飛んでいくが、展示室内の物も次々と壊れていく。
「なにやってんですか?!!下手したら絵を盗まれるよりずっと膨大な被害が出ますよ!!」
小山内の叫びに小早川の手が止まる。
「おおっ?!!クマくんたちがどんどん退却していく!!どうやらバズーカをぶっ放した甲斐があったようだな!」
(そういう問題じゃねえだろ!!!)
小山内がさらに脳内で突っこんでいる間にゆるきゃらたちは潮が引くようにいなくなっていき、その後には悪魔の絵はなかった。
「結局、盗まれたじゃないですか!!!」
思い切り睨みつける小山内に小早川は手を振って答える。
「安心したまえ。こんなこともあろうかと、悪魔の絵にはちゃんと発信機を取り付けてある。あとはそれをたどって追跡するだけさ♪」
「それ、先に言ってください!!というか、それならバズーカを撃つ必要なかったですよね?!」
二人のやりとりを聞きながら荒神坊と下山たちは呆然と立ちすくんでいた。
「ふっふっふ、未来の道具にかかれば、ざっとこんなもんなのにゃ♪
ところで、今度の悪魔はどの程度の相手なのにゃ?」
悪魔の絵を廃屋に運び込んだ三人組は互いに顔を見合わせる。
「まずいです!この絵から発せられる邪気は前回の大悪魔以上です!
普通に解呪しようとしたら前回以上の苦戦を強いられます!」
調べていたミリエルが青い顔になる。
「それはまずいにゃ!すぐにカプセル怪人を用意して、同時にSOSで助っ人を呼ぶにゃ!」
言うなりトラミは窓から花火のようなものを撃ちあげ、懐から小さなカプセルと取り出すと、床に投げつけた。カプセルは煙をもうもうと上げ、煙が消えた後には……。
「日輪の使者!烈光仮面見参!!」
見知ったる往年のヒーロー?が明らかに中年太りになった姿を前にして、都たちは言葉を失った。
「しまったにゃ!!『外れ』のカプセル怪人だったにゃ!!」
烈光仮面を見て、トラミが叫ぶと同時に廃屋の扉が開いた。
「これは驚きました。まさか、あなたも事件をかぎつけて駆けつけられるとは?!」
真っ先に駆けこんできた小早川が感心したように叫んだ。
続いて、駆け込んできた小山内や荒神坊たちがファントムキャットに近づこうとした時、全員が悪魔の絵から発せられる異様な雰囲気に止まった。
「まずい!!この前の悪魔よりさらに強力な奴が出てくるぞ!!みんな離れろ!!」
荒神坊の叫びに全員が飛び退ろうとするが、絵から飛び出してきた黒い手がミリエルを捕まえてしまう。
「はっはっはっはっは!!まさかこんなにうまくいくとはな!!」
ミリエルをつかんでいる右手の持ち主は少しずつ絵から抜け出して、その姿を現していった。
中世の貴族か王族という雰囲気のその男は青白い肌のどちらかというと端正な顔立ちに黒い髭を長々と生やしていた。
冷酷そうな目つきで一同を見やった後、身長3メートルを超えるその男は嗤いながら言った。
「確かに手下たちが多くやられたのは痛かったよ。だがね。ファントムキャットくんが注目を浴びてくれたのは大いに助かったよ。何しろ非常に多くの人の興味・欲望をこの絵や他の美術品に惹きつけてくれたからね。だからこそ、この私、『悪魔王・イブリース』が顕現できるくらいの邪気を集められたのだがね。」
イブリースが話し終えると、いつの間にか都たちの周りが漆黒の空間に囲まれていた。
「さあ、この悪魔王が直々に作った結界の中では助けも期待できまい。さて、どなたからひねりつぶして差し上げようかな?」
イブリースがニヤニヤ笑って、都たち一人一人を舐めるように見回している。
◎イブーリス 11117歳 悪魔 男 悪魔王
レベル:666
HP SS
MP SS
攻撃力: S+
(こいつトンデモなさすぎる!!シードラゴンマスクよりレベルが高いじゃん!!)
鑑定した小山内は愕然となる。
「ふ、この『キャプテンゴージャス』をなんとかできるものなら、やってみるがいい!
見るがいい!この聖剣エックスキャリバーを!!」
小早川がいつの間にか金糸銀糸を使った豪華な衣装を身にまとったキャプテンゴージャスに姿を変えていた。しかも、その手には光り輝く聖剣が握られている。
「喰らえ!!聖剣・エックス斬り!!」
キャプテンゴージャスの剣戟をイブリースは素早くかわすと、左手に持ったハルバードでキャプテンゴージャスを吹っ飛ばした。
キャプテンゴージャスはそのまま十数メートル飛ばされて、地面をごろごろと転がった。
「さすが、悪魔王を名乗るだけのことはあるな!この私の攻撃をかわすとは!!」
(いや、小早川さん!あなた死にそうだよね?!!そんなこと言っている場合じゃないよね!!)
血だらけになって地面に横たわりながら、それでも『強がり?』を言うキャプテンゴージャスを都や小山内たちは絶望的なまなざしで見ていたが、不意に圧倒的な邪気が噴き出すのを感じて、全員が振り返る。
「ふっふっふ!キャプテンゴージャス、よく時間を稼いでくれたのにゃ!おかげで強力なカプセル怪人を召喚できたのにゃ!!」
トラミの言葉と同時に猛烈な煙と邪気があたりを覆いつくし、煙が消えると同時に一人の男が立っていた。
「夜空の星が輝く陰で、退屈の嘆きがこだまする。
都会から田舎にいる人の、ため息背負って怠惰の始末。
這い寄る混沌ニャントロホテップ お呼びとあらば即参上!」
悪魔王にも匹敵しかねない強大な邪気を背負った人影はしかし、見るからに別の意味で怪しかった。
黒いタキシードを着た長身の男は、なぜか和風の黒い猫のお面を被っており、鼻歌を歌わんばかりにリラックスしてトラミの傍に立っている。
「おや、どなたかと思えば、トラミさんではないですか。一体私にどんなご用なのでしょうか?」
今日の天気を聞くようなのほほんとした雰囲気でニャントロホテップはトラミに語りかける。
「あそこにいる悪魔王を倒すのにゃ!!」
「ああ、あれですね。了解でーす♪」
トラミがイブリースを指さすと、ニャントロホテップは近所のお使いを引き受けたような気軽な感じであっさり返答した。
そして、ニャントロホテップはイブリースに向き直る。
「というわけで、そこの悪魔王さん。ちゃちゃっと退治されてやってください♪」
軽い感じで言うニャントロホテップだが…。
◎ニャントロホテップ 22222歳 邪神 男 這い寄る黒猫
レベル:1000から先は覚えていない
HP SSS
MP SSS
攻撃力: SS
(以下略)
(邪神?!しかも異様に強いし!!)
ゆっくり自分に近づくニャントロホテップにイブシースは警戒する。
さすがに悪魔王だけあって、そのオーラから相手が尋常ではないと感知しているのだ。
しかし、はっと自分の右手に握りしめているミリエルに気付くとにやりと嗤った。
「ニャントロホテップとやら、貴様はこの天使がどうなってもいいというのかな?」
「ええええ?!!どうして、私が知り合いでもなんでもない、その天使のことなんか気にしなくてはいけないんですか?」
イブリースを含む、全員が固まった。声の調子から言って、明らかに本気だ。
「ふう、本当に身の程を分かっていない悪魔ですね。では、私が本当の人質というのを思い知らせてあげましょう。」
ニャントロホテップはにやりと笑うと(顔が仮面で見えないので推定)、懐から黒いシルクハットを取り出した。
「この帽子には何も入っていないように見えますが、ジャーン!」
ニャントロホテップが右手をシルクハットに突っこむと、帽子から一人の女性が現れた。
ボンテージのドレスを着こんだ若い女性は頭に二本の角を生やしており、背中からはコウモリのような翼を生やしている。
背中のドレスをニャントロホテップにつかまれた女性はビックリして周りを見回していたが、大悪魔を見つけると叫んだ。
「お父様!!」
(((((なんだってーー?!!!)))))
「では、これよりショータイムの始まりです♪」
ニャントロホテップの哄笑があたりに響き渡った。




