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112 風流院大学入学式 その2

 「せっかくなので、神那岐講師を始め、講師陣の紹介をしたいと思います。」

 瀬利亜学部長が壇上に上がった千早講師を紹介する。


 言われた千早講師は緊張に顔を赤くしながら必死で平静を保とうとしているようだ。

 可愛らしくて萌えてしまいそうだが、周りの女子生徒たちは俺以上に千早講師をキラキラした視線で見つめている。


 「神那岐講師はわずか九歳にして【対魔神刀・神那岐の太刀】の継承者になった、天才中の天才です。

 いわゆる勇者の中の勇者とも言えるかもしれません。

 その後も常に精進し続け、世界を揺るがす大事件だった『星舟事件』や『アノニマス事件』解決にも非常に多くの貢献をされています。


 学校では厳しい訓練と実践を通して鍛えられた『刀剣術』のほか、『巫女技能』や『身体操作』、『モンスターとの戦い方』など様々な講義を担当していただきます。」

 なんと、千早講師は小さなころから『退魔剣士』としての技能と知識を徹底的に身に付けてきたエリート中のエリートだったようだ。

 見た目はすごく素朴な年下の女の子なのに人は見かけによらないの典型だったのだね。

 …とはいえ、あとで講義を受けているとき、人柄は本当に純朴なお嬢さんだとわかり、非常に人気のある講師になったのだった。特に女性から。


 そんな講師紹介が続く中、後ろの父兄席をちらっと見やると、うちの両親が呆然自失の状態になっていた。…ただの普通の大学だと思っていたもんな。



 「さて、そして学部長である私ですが…。」

 瀬利亜学部長が自身のことを説明しだした時、講堂の扉がバタンと開き、大男が駆け込んできた。


 「待ってくれ!!俺が風流院大学の講師になっていないのはどういうことだ?!!」

 身長2メートルを超える筋骨隆々の大男が叫んだ。


 男全身からにじみ出るオーラはただものではあり得ず、瀬利亜学部長を睨みつけている。


 「ええと、マル…もとい、兜さん。あなたの戦闘能力は確かに全モンスターバスター中トップクラスであり、身体の頑強さは間違いなく最強です。

 ですが、あなたの戦闘はあなたの特別な身体の頑強さによるものが大きく、生徒たちに伝えたり、真似できるものではないのです。

 『名選手、必ずしも名監督ならず』同様、あなたの戦い方は他の人が真似できないので、講師という立場には不向きなのですよ。」

 瀬利亜学部長が淡々と伝える。


 「なんだって?!!でも、瀬利亜嬢。あんたなら俺と同じような戦い方ができるし、俺に素手の殴り合いで重大なダメージを与えられるではないか!」

 「いえいえ!私は身体を『闘気で強化』しているからそれができるのであって、身体強化しないままあなたを殴ったら、自分の手と腕がぐしゃぐしゃに壊れるからね?!!」

 「え?そうなの?!」

 「そうなんです。あなたは自分の規格外さをもっと自覚してください。」


 瀬利亜学部長に言われて、兜さんという人は呆然となってしまっている。


 「よし、それでは単位を取るのに俺と戦って勝てばいいとか、そんな感じで♪」

 「いえいえ!そんなハードルの高過ぎる試験に通る学生はいないから?!!

 あと、マリーザさん!!どうしてあなたが生徒の席にしれっとして座っておられるのですか?!!あなたが座るのは講師側です!!!」

 いつの間にかあのライトニングレディが俺たちに交じって席にいたのだけど…。


 「それから、ケツアルコアトルさん!!あなたまで父兄席に座っておられるのはどうしてなんですか?!!」

 瀬利亜学部長が見据えた先にはネイティブアメリカンの扮装をした…いや、どう見てもネイティブアメリカンの人のよさそうなおじさんがニコニコしながら父兄席に座っているよね。


 「はっはっは、これでも孫の晴れ姿を見に来たのですよ♪」

 ケツアルコアトルさんは涼しい顔で肩をすくめて見せる。


 「……。なるほど、お孫さんは推薦生徒の中に『日本人の振り』をして紛れ込んでいたわけですね。

 アルテア学長、気付いておられたでしょう?」

 学生たちをしばし見た後、瀬利亜学部長はアルテア学長を見やって言った。


 「もちろん、気づいてたよ♪ただ、『自己申告』してくれるまで待つ方がいいのかなと思っていたの。」

 ニコニコしながらアルテア学長が言う。


 「……望海講師と並んで、モンスターバスター12星の有力候補がもう一人おられるというわけですね。これは楽しみです。」

 生徒の一人をじっと見た後の瀬利亜学長の言葉に生徒たちがざわめいて周りを見回す。

 残念ながら誰だか見当もつかないのだけれど…。


 「その様子だと、生徒で気付いたのはブリギッタさんだけですね…。ちなみにマリーザさんとは顔見知りなのでしょ?」

 ライトニングレディはニコニコしながら瀬利亜学長に手を振っている。


 「よし、その生徒さんと俺が模擬戦を行うということで!」

 「だから、その人でも無理ですから!!!」

 兜さんは非常にあきらめが悪い人のようです。



 その後、瀬利亜学部長とアルテア校長がさらっと自己紹介を終えた。

 二人ともあまりにもあっさりと自己紹介したので、俺の両親は二人が何者か全くわかっていないようでぽかーんとしている。

 後で質問を山のようにされた時に本当のことを明かしたら、さらにすごいことになりそうだ。



 「それでは、オリエンテーションを行いますので、生徒さん達は7人ごとのグループに分かれて各教室へ行ってください。」




 「というわけで、皆様自己紹介をお願いします。ここは『モンスターバスター学部』でもあるので、それぞれの得意分野も一緒にお願いします。」

 異文化交流学部では7人ごとに一人の指導教官(チューター)が付くそうなのだが、瀬利亜学部長がなんと俺たちのチューターだった。

 さらに瀬利亜学部長、つまりシードラゴンマスク様も俺たちと同じ年齢というのは本当にびっくりした。


 「はい!銀田一(ぎんだいち)(はじめ)です!

 見ての通りの『美少女名探偵』です♪」

 この子何言ってんの?!!


 「そして、その名探偵ぶりに目を付けてくれた魔法の妖精がパートナーになってくれたので、現在は『美少女魔法名探偵』やってます♪」

 見た目だけなら魔法『少女』で通らないこともないけれど、18歳だよね?!

 ニコニコしながら自己紹介をする合法ロリの『美少女魔法名探偵』をみんなが生暖かい目線で見ている。



 「引田天空です。陰陽師をやっています。」

 俺はかなり緊張しながら話をする。

 「それで、私は天空の守護霊の空海ね♪」

 ええええ?!!空海姉が姿を現して、俺の肩の上で話し始めたよ!!

 …まあ、ここにいるメンバーにはいずればれるのだから、今自己紹介して正解かもしれないね。



 「伊集院聡だ。勇…もとい、魔法剣士だ。」

 少し気恥ずかしげにイケメンが自己紹介をしている。

 勇…とは何を言いかけたのだろうか?



 「三條院楓です。魔法使いです。それと、聡とは婚約しています♪」

 凛々しい美女が涼しい顔で自己紹介をする。

 そして、最後の『婚約』で教室が大きくざわめく。

 この伊集院というイケメンはこんなにきれいな女性が婚約者なのか?!!


 「楓!いきなりそれを言うのか?!」

 「あら、事実を伝えたまでだけど?

 それとも婚約を解消したいとでも言いたいのかしら♪」

 「…むむむ…。」

 慌てた伊集院を楓さんが軽くいなしている。

 これは夫婦になった後の力関係が見えているような…。



 「小林良雄です。アカシックレコード解読を得意とする、陰陽師です。」

 やや、ぶすっとした感じで小林が自己紹介をする。

 眼鏡を外すと意外とイケメンかもしれない。

 そうか、小林も陰陽師だったのか…。



 「鈴木次郎…いえ、アロ・カレタカ・ケツアルコアトルです♪」

 すごく優しそうな小柄な美少年がニコニコしながら自己紹介する。

 空海姉や銀田一さんが見とれるように美少年を見ているが…ケツアルコアトル?!


 「精霊術師です。支援、サポート、癒しが得意です。」

 この人、もしかして…。



 「あの!彼女さんとかいらっしゃいますか?!!!」

 ええええええ?!!!!銀田一さんがいきなり喰いついているよ!!!

 明らかにこの人がどういう人か全然分かっていないよね?!!


 「…ええと、今は修行中なので、あまりそういうことは考えられないかな…。」

 アロくんは少し困惑しながらなんとか答えている。


 「おいおい、名探偵殿は相手が何者かわかっていて口説いているのかな?」

 小林が苦笑しながら口をはさむ。


 「なによ!アロさんに彼女がいるかどうかが眼鏡くんになんか関係があるわけ?!

 すっごい美少年だから気になっただけじゃない!!」

 「眼鏡くん言うな!!それとアロの正体が全然わかっていないじゃないか!!」

 いきなり『頭脳派』同士が険悪になっている。

 それにしてもこの迷探偵さんは大丈夫なのだろうか…。



 「二人とも喧嘩はやめるのにゃ♪

 これから仲間として仲良くする必要があるにゃ。」

 全員、この一四歳位に見える猫耳娘さんのことが気になっていたけど…怖くて突っ込めなかったのだよね。ちなみに講堂にはいなかったよね。


 「私は石川トラミというにゃ。22世紀の未来から来て、なんだかんだでここに居ついているにゃ。学生と異文化交流学部のイベント用のバスの運転手を兼ねているのにゃ♪

 みんな、よろしく頼むにゃ♪」

 満面の笑顔でトラミちゃんが我々に話しかける。


 「学部長。突っ込みたいことが山ほどあるのだが、とりあえずトラミさんが学生と運転手を兼ねているというのはどういうことなのでしょうか?」

 小林が代表して全員の疑問を口に出してくれた。


 「文字通りの意味だわ。トラミちゃんは基礎能力はかなり高いのだけれど、『社会常識が皆無』だから、学生になっていろいろ学んでいただこうという親心なのよ。」

 うんうんうなづきながら瀬利亜学部長が言い切る。

 親心ってなに?!それと、『社会常識が皆無』て、本当に大丈夫なのか?!!


 こうして、我々の大学生活は初日から不安だらけで始まったのであった。


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