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108 勇者 VS 魔王軍 その3

 「なるほど、もう一人の四天王は力押しのタイプなわけね。」

 「そうです。魔王様…もとい、魔王は自身が策士なことから、あまり策を弄するタイプを好まないのです。私も本来は瀬利亜様と出会って、ぜひ一戦交えたかったのですが、立場上、戦場での勝利を優先させていただきました。

 だが、戦士としての強さもさることながら、将としての器も魔王を大きく上回るとは…。」

 魔族というのは力を信奉する種族だそうで、瀬利亜さんの圧倒的な強さを見て、獣王ベヒモスはあっさり瀬利亜さん個人の軍門に下ってしまった。


 瀬利亜さんはかなり迷惑そうな顔をしていたが、放っておくわけにもいかずに『魔王を降伏させるまでの期間限定』でとりあえず部下という扱いにすることにしたようだ。

 獣王軍はベヒモスの指令があるまで、いつでも『魔王軍と戦えるよう』臨戦態勢にして、居城に戻らせ、今は人化したベヒモスが俺たちに同行している。

 ベヒモスの人化した姿は毛皮の服を纏った二メートル近い、ひげもじゃの大男だ。


 「ところで、魔王はあなたの離反にとっくに気付いているわよね?」

 「我が軍にも魔王の監視の目は入っていたでしょうから当然でしょうね。

 ですから、すぐに次の手を打ってくると思われます。

 まあ、瀬利亜様に対して有効な攻撃を加えられるようなものが今の魔王軍にいるとは思えませぬが、同行者の方たちに対しては何らかの絡め手を使う可能性が十分考えられます。

 早めに動いて、魔王の打てる手を潰すべきでしょうね。」


 俺たちはベヒモスの助言に従って剣王ギルガメシュの城に向かっている。

 四天王すべてが敗北、又は離反すれば、魔王軍全体動揺し、いろいろやりやすくなるだろうと推測できる。

 まずは魔王の手足を全てもいでしまおうというわけだ。




 剣王の城までははぐれた魔物以外の襲撃はなかった。

 おそらく物理的な戦闘力では魔王にも匹敵しかねないリヴァイアサンを一撃で葬ってしまった瀬利亜さんを警戒して、戦力を小出しにしないことにしたのだろう。


 剣王の城を眼前にしたとき、俺たちを遠巻きにするように戦士系を中心とした魔物の群れが姿を現し、警戒しながら俺たちを睨みつけている。

 その中から一際大きな人影が俺たちに近づいてくる。


 身長は三メートルくらいの六本腕の全身鎧の騎士で、全身から放つ殺気が尋常ではない。

 勇者パーティの一つにいた竜人の戦士ドゴンをも上回るかという闘気を感じる。

 こいつが剣王に間違いない!


 「ベヒモスよ!たかが人間に尻尾を振るようになるとは、お前もやきが回ったものだな!」

 平原全体に大きな声が響き渡る。

 声から出る威圧感だけでも相当なものだ。


 「貴様ならそう言うと思っていたよ。だったら戦ってみるがいい。」

 ベヒモスは肩をすくめながら言う。

 もう、剣王と瀬利亜さんが戦うことは確定事項なのだね。


 「小娘よ!あの魔獣リヴァイアサンを倒したという力を見せてみよ!!」

 剣王は六本の大剣を抜刀し、それぞれの腕に握って構える。

 一振り一振りがどれも大きさが人間の扱う大剣ほどもあり、刃の魔力のこもった輝きから、どれも相当な魔剣であることがわかる。

 剣王は猛スピードでダッシュすると同時に全ての剣で瀬利亜さんに斬りつけてきた。

 一撃だけでも俺でも躱すのに苦労しそうな斬撃を一度に六本の腕で行うのだ。

 こいつとまともにやりあっていたら以前の俺たちではギリギリの勝負だったかもしれない!


 「シードラゴン・スピンキック!!」

 剣王の斬撃のラッシュを瀬利亜さんはすり抜けると、強烈な左回し蹴りを剣王にかました。

 剣王は自らの城の城壁にまで吹き飛ばされて、壁を崩しながら埋まってしまう。

 その光景を見て、剣王の手下たちは固まっている。


 だが、しばらくして、崩れ落ちた城壁の残骸が動き出し、剣王が立ち上がってきた。

 よろけてはいるものの、致命傷ではないようで、ゆっくりとこちらに向かってくる。

 それを見ている瀬利亜さんは涼しい顔で自然体に構えている。


 剣王は瀬利亜さんに近づいてくると、不意に膝まづいた。

 「勇者殿、『下僕』とお呼びください!」

 剣王は完ぺきな土下座を披露してくれた……。




 「なんだと?!剣王もあっさり勇者に帰順しただと?!」

 「ええ、ノーライフキング、リヴァイアサンを一人で倒したという『勇者』がまたして、剣王を一撃でのしたそうです。」

 魔王の問いに側近が淡々と答える。


 「くそう!こうなったら魔王城の罠を全開にして…。」



 「そんにゃことだろうと思って、魔王の間までショートカットしたのにゃ♪

 瀬利亜ちゃん強いからとっとと降伏した方が身のためなのにゃ♪」

 ガチャ、パネえっす!!

 ガチャで召喚した猫耳娘のトラミちゃんは、猫◎ス仕様の謎の乗り物に俺たちを乗せると、魔王の間の前まで、あっさりと連れてきてくれた。

 魔王が新たに罠を仕掛ける前からてんこ盛りだった魔王城の『デストラップ』を猫娘バスは隠密仕様でひょいひょいとかいくぐってしまったのだ。


 さすがの魔王も剣王が帰順した後、たったの半日で自らの本拠に乗りこまれるとは完全な想定外だったようで、口を開けてパクパクさせている。

 こいつもニャントロ邪神ほどではないものの、相当なイケメンだ。

 だが、その顔が台無しになるくらい間抜けな顔になってしまっている。

 ちょっとだけ爽快な気分になる俺。

 空しい……。



 「なるほど、貴様が四天王どもを一撃で倒したという勇者……どこへ行った?!!」

 なんとか立ち直った魔王が瀬利亜さんに何か言おうとした時には瀬利亜さんの姿は消えていた。一体どこへ?!!


 「魔王オクトザイム!!」

 不意に天井付近から瀬利亜さんの声が魔王の間に響き渡る。


 「その方、魔族の神からの神託があったと偽り魔国の全権を掌握し、あまつさえ人族の国に侵攻し、世界全体を征服しようとは不届き千万!!」

 全身を銀色のボディスーツ、アイマスクに身を包み、天井から下がった豪華なシャンデリアの上に立った瀬利亜さんがふわっと魔王の眼前に舞い降りる。


 「シードラゴンマスク!ただいま推参!!

 天に変わって悪を撃つ!!」

 魔王に右手の指を突きつけながら瀬利亜さんが叫ぶ。


 「証拠も全部掌握済みや!観念したらどうや!!」

 青を基調としたヒーロースーツに身を包んだ光一さんがにやりと笑う。

 あなたたちは夫婦でスーパーヒーローですか?!!!!

 道理でガチャで選べる候補にやたらスーパーヒーローが多いと思いましたよ!!!



 魔王の間にいた側近たちや一緒に来ていたベヒモスや剣王がざわつく。

 なるほど、魔王は魔族全体を欺いていたのだね。


 一瞬苦渋に満ちた顔になった魔王が不意に嗤いだした。


 「大したものだよ。召喚勇者たち。だがな、俺には最後の切り札がある。

 神託は嘘だが、今のような緊急事態に備えて強大な力を持つ邪神をいつでも召喚できるよう準備しておいたのさ!!いでよ邪神!!」

 魔王が叫ぶと、瀬利亜さんと魔王の間に魔方陣が現れ、膨大な魔力と禍々しい雰囲気があふれだす。


 「はっはっは!これを止めることは誰にもできない!!貴様らは狡猾で強大な力を持つ邪神にどう対抗するつもりかな?」

 魔王が言う間にも瘴気はさらにあふれ、一つの人影が姿を現す。


 「天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!悪事をなせと俺を呼ぶ!!

 破滅と狂気の神!『這い寄る黒猫』ニャントロホテップ見参!!」

 俺たちを散々引きずり回してくれた例の邪神が猫のお面を被って立っていた。


 あっけにとられる俺たちを見て、邪神は神速の動きを見せた。

 「勇者殿!『犬』とお呼びください!!」

 ニャントロホテップは瀬利亜さんに向かって、完璧なまでの土下座を敢行していた。


 「あなたは猫でしょうが!!!!」


 魔王の間に瀬利亜さんの使ったハリセンの音が一際高く響いた。



エピローグ


 魔王は戦争犯罪者として拘束され、新魔王は人間たちと講和を結んだ。

 蛇足ながら魔王の犯罪行為はアルテアさんの魔法で調べ上げたそうだ。


 俺は瀬利亜さんたちに猫娘バスで元の世界に送ってもらった。

 異世界を渡り歩く能力まであるとは、どんだけチートな乗り物なの?!!


 その途中で、ニャントロ邪神に召喚された他の勇者の世界に寄り道し、事態をさらに引っ掻き回し……もとい、勇者たちと少し親交を深めた後、俺は無事に日本に帰りついた。


 ようやく家族や友人と会える。

 猫娘バスから降りて、俺は万感の思いで山の上から自分の生まれ育った町を見下ろす。


 「いろいろご迷惑を掛けたお詫びにこの『透明マント』を寄贈しましょう♪

 姿を消すだけでなく、音や気配すら遮断するという優れものです♪」

 ニャントロさん!!俺に何をさせようというの?!!

 日本では平和に生きるの!!アサシンやスパイになる気はないからね!!

 それと、薄い本だと一八禁な展開になってしまうよね?!!


 「あらあ、そんな『犯罪誘発装備』はダメだよね♪

 いざという時のためにこちらの『スーパー勇者の剣』と、『ハイパー勇者の鎧』をプレゼントするわ♪

 スーパー勇者の剣はあなたが使っていた聖剣の約1.5倍の力があって、ハイパー勇者の鎧には飛行機能も付いてるわよ♪」

 アルテアさんも何を渡そうとしているのですか?!!

 平和な日本でそんなものを使うことはありませんからね?!!


 …数か月前にはそんなことを思っていました。

 まさか、勇者の剣と鎧のおかげで何とかなるような事態の連続になるとは夢にも思っていませんでした。

 その話はまた後日。



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