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107 勇者 VS 魔王軍 その2

 「なんだと?!あの不死身のノーライフキングがもうやられただと?!!

 四天王最弱のゴルダムに苦戦の末ようやく勝ったはずの勇者どもがどうしてそんなに急に手ごわくなったのだ?!」

 玉座にいた魔王は端正な顔をゆがめて、側近の部下の報告に声を張り上げる。


 「助っ人が現れたようです。しかも、逃げてきたノーライフキングの残党の話だと、一人は城中を凍らせうるような強大な氷結魔法を使い、実態を持たない不死者どもも凍りつかせて行動不能にしてしまったのです。」

 頭に牛のような日本の角を生やし、背中に蝙蝠のような翼を生やした以外は人間の老人の風貌をした側近は魔王淡々と告げる。


 「…それは規格外の魔法使いだな…。で、ローライフキングはそいつと勇者どもの連携攻撃にやられたのか?」

 「いえ、それが…。そこから報告者が混乱しており、今一つ何が起こったのかはっきりしないのです。ただ、奴らの別の助っ人がたった一人で倒したらしいことだけはわかりました。」

 「勇者どもはパーティで動いていたのではなかったのか?」

 「…ええ、そのはずなのですが、どうしてたった一人で倒すような状況になったのかもはっきりしないのです。」

 「…おそらく不死者に対して絶大な効果を持つ武器でも持っていたのだろう。それにしても非常に強大な敵が二人増えたのはまちがいない。どうやって対処する?」

 側近の説明に魔王は顔をしかめて考える。


 「それならば、私にお任せを。」

 魔王に跪く多くの影の中から一際大きな存在が立ち上がる。


 「獣王ベヒモスか。何か考えがありそうだな。」

 言いながら魔王がにやりと笑う。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 パーティメンバーが大きく入れ替わりました。

 瀬利亜さんはそのまま残りましたが、橋本と琴美さんのカップルは元の世界に戻りました。

 そして代わりにやってきたのが…。


 「ふっふっふ。久しぶりやね、瀬利亜はん♪」

 関西弁を操る、長身のイケメンだった。


 「いえ、こっちではまだ三日しか経っていないのだけれど、そちらはどうなの?」

 「なんと、恐ろしいことに『一日も』経ってしもうたんや!!」

 ええ?!そっちの世界の方が経過した日数が少ないの?!

 それでどうして『一日も』とか、『久しぶり』とかいう表現になるの?!!


 「せやから危うく死ぬとこやったんや!!」

 「光ちゃん!!人前で何を言いだしているの?!!」

 この二人一体どういう関係なんですか?!!


 「ああ…。みんなびっくりしているわね…。彼は私の旦那で、錦織光一です。」

 なんだって?!!瀬利亜さん、既婚者だったの?!!


 「瀬利亜はんをサポートする技能をいろいろ持つ、仕事上でのパートナーでもあるんや♪」

 「なるほど。ところで、危うく死ぬところだったというのは?」

 光一さんに俺がさらに問いかける。


 「ステータスを鑑定してもらえればわかる思うんやけんど。実は…。」

 「そんなもの公言しなくていいからね!!!」

 なに?!一体どんな事情が?!!

 …後でリリムが光一さんを鑑定して絶句していた。

 『【特記事項】瀬利亜はんを愛するあまり、三日離れたら寂しくて死んでまうんや!(確定)』……本当に大丈夫なんでしょうか…この人達。



 光一さんは様々な魔道と科学の合成道具を扱い、旅の間の利便さと、敵からの防御や攻撃に多彩に活躍できることがわかり、俺たちは色めきたった。

 『携帯用移動式住宅』は旅の快適さのみならず、疲れが取れることで旅自体が非常にスムーズに進んだ。


 ただ、移動式住宅には『防音が完璧な』部屋が三部屋あり、それをどういう部屋割りにするかで大きくもめた。

 瀬利亜さんは一応男女別で二部屋使うことを主張し、光一さんは『自分たち夫婦』と他の三人で寝ることを主張した。


 「こんな時のために部屋を『完全防音』に設計したんや!!!」

 「……気持ちは分からなくはないけど、おそらく明日には敵の重要拠点に突入するのだから、ゆっくり休むべきだと思うの。豪さんたちの『変な想像を煽らない』ことも大切だと思うのよ。」

 結局瀬利亜さんが論争に勝ち、男女別の部屋割りになった。

 くーーー!俺もアージェかリリムと恋人になっていれば、『完全防音の恩恵』を受けられたかもしれないのに!!


 そして翌日、深い森の中を敵の本拠の一つと思しき場所に近づく前に瀬利亜さんが警戒信号を発する。

 「敵がたくさん近づいてきているわ!それも相当な大物が来ているわ!」

 俺たちはその言葉にしたがって、臨戦態勢に入る。


 「ほお?!全員かなりの実力者のようだな。これほどの猛者相手なら早速戦いたいのだが…。」

 俺たちの眼前に突然巨大な影が姿を現した。

 身長は5メートルを軽く超える、二足歩行の熊と虎の合いの子のような姿をした獣だ。

 全身から滲み出す殺気は最初に戦った四天王のゴルダムを大きく上回る。

 こいつも四天王に間違いない!


 「ふーーん。それで攻撃もせずにのんびりと姿を現したのにはどういう意図がおありなのかしら?何か交渉でもしたいわけ?」

 強敵を前にして、瀬利亜さんが全くおじずに一歩前に出る。


 「ほほお…。わしが殺気をちらつかせてもまるで動じないとは、思ったよりもさらに強そうだな。 貴様がノーライフキングを一人で倒したというわけか…。」

 「へええ、そんな情報まで入手していたんだ。それで何を話したいのかしら?」

 瀬利亜さんと四天王らしき獣が睨みあっている。


 「貴様らに四天王が二人やられたとは言え、魔王軍はほんの一部がやられたにすぎん。親衛隊や精鋭は丸ごと残っている。ここで我らに帰順する気はないかね?

 わしは四天王の一人、獣王ベヒモス。四天王、そして獣たちの王の名にかけてお前たちが帰順した場合は厚遇することを約束する。」

 瀬利亜さんの堂々とした態度を見ても獣王ベヒモスは全く臆することなく言葉を続ける。


 なんだと?!俺たちがそんな甘言に乗るわけが…。


 「悪いわね。今のあなたたちの行状を聞いていて、私たち『モンスターバスター』がその提言に乗るわけにはいかないのよ。『相互不可侵の停戦』を提案してくるとか言うのであれば、話は別だけどね。」

 涼しい顔できっぱりと瀬利亜さんが言い切った。この人カッコいい!!


 「そうか、それは残念だ。」

 言った後、ベヒモスはにやりと嗤う。

 その瞬間、俺たちの背後から背筋を凍らせるような凄まじい殺気が襲い掛かってきた。

 駄目だ!速すぎて対応が?!!


 「シードラゴン昇竜拳!!!」

 瀬利亜さんの叫びと同時に漆黒の巨大な影が宙をくるくると舞い、地面にたたきつけられた。

 竜と獅子の合いの子のような鱗と毛に包まれた怪物は完全に息絶えて横たわっていた。


 「なるほど、あなたが会話で私たちの注意を引いているうちにこの怪物が私たちに忍び寄って、いつでも攻撃できるような態勢を作っていたわけね。

 危うく、誰かが怪我をするところだったわ!」

 いえいえ!!こいつの殺気からして、戦闘力ではベヒモスも上回るような怪物だよ?!!

 怪我どころか以前のうちのパーティなら全滅だよね?!!


 獣王ベヒモスの後ろで、「まさか、あのリヴァイアサンが…。」とかつぶやく声が聞こえる中、獣王ベヒモスが一歩前に出てきた。


 「勇者殿、『犬』とお呼びください!」

 獣王ベヒモスは瀬利亜さんに対して完璧な土下座をしてのけた。


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