106 勇者 VS 魔王軍 その1
聖剣の勇者:中津 豪 元は優しく気弱な男子高校生。現在は正義感の強いしっかりした勇者。男女関係はヘタレ。
エルフの魔術師:リリム・シャトー・グリュエル 強力な魔法弓士。ツンデレ。年齢不詳(笑)の金髪碧眼の美女。
聖騎士:アージュ・パスツール 黒髪のボーイッシュな元気印のボクッ娘。感情表現がすごくわかりやすい(笑)。
格闘の勇者:石川瀬利亜 どんな(大怪獣)ゴメラでも誰よりも早く倒せる無敵のスーパーヒロイン系勇者。熱く燃え盛る正義の心のある限り、24時間戦えます!!
ツッコミの勇者:橋本太郎 三年雪組のムードメイカーのフツメン男子系勇者。実戦経験が皆無なので、応援したり、ツッコミを入れたりと『側面サポート』が役割だ♪(笑)
前回までのあらすじ: 俺は中津豪。ただの高校生だったが、勇者として異世界に召喚されて魔王軍と戦うことになった。
エルフの魔法弓士リリム、聖騎士のナージェの助けを借りて魔王軍を撃破しながら旅を続けていった。
そしてついに魔王を倒した!!
…と思いきや、そいつは魔王軍の四天王に過ぎなかった!!
愕然とする俺たちは自称・邪神に召喚されて勇者同士の対戦を半ば強要されることになったのだが…。
「なるほど。あれが魔王軍四天王の一人、『不死者の王・ノーライフキング』の城なわけね。」
手作りクッキーにハーブティーを飲みながら瀬利亜さんがつぶやく。
…ええと…敵の本拠の一つを前にずい分と余裕をお持ちなのですね…。
というか、リリムとナージェも同じようにくつろいでおられるのですが…。
「君ら!敵の本拠に乗り込む寸前によくそんなに余裕を持てるよね?!」
「豪君。人生にもう少し余裕を持った方がいいと思うの。
大きなことを成し遂げる時に大切なのは『熱い心』と『冷静な頭脳』の両立だわ。
『自らの存在を掛けてでも魔王を倒す!!』という熱い決意も大切だけれども、『冷静な判断』も同じくらい大切なの。
冷静で客観的な視点があればこそ、自分達の力を最大限引き出せるし、敵の罠なども見抜くことができるというものよ!」
言いたいことはわからなくもないけど、どうやったらそんなにくつろいでいられるのですか?!!
「中野、あきらめろ。石川はいろんな意味で規格外だ。特に精神面でのタフさは想像を絶するものがある。だからこそ、味方としてはものすごく頼りになるのだけど。」
橋本があきらめたようにため息をつきながら俺の肩に手を置く。
旅のメンバーが五人になって三日たった。
パーティー内の俺とリリム、ナージェとの仲は深まらず、なぜか、同性同士が仲良くなっているのだけれど…。
「敵の重要拠点に乗り込む前に、皆さんに朗報があります。
なんと、これまで倒した敵のポイントが一定数に達したので、不死王の城に乗り込む前にガチャで短期間ですが、仲間を召喚できます。
強い仲間が召喚できるようにみんなで祈りましょう。
祈りの強い対象が召喚されますので、しっかりとイメージを固めましょう。」
言いながら瀬利亜さんがタブレットを操作している。
なに?!橋本はともかく、瀬利亜さんはものすごく強い。
多分今のパーティで一番強いのは瀬利亜さんだろう。
それに加えてさらに助っ人が来てくれるならとても心強いのだが…。
「まず、一人目は『常に優雅で頼りがいのある仲間』。
ダンディーさを忘れない、『キャプテンゴージャス』…。
ええと、この人は『却下』だわね…。」
金糸銀糸の入ったマントを被った『スーパーヒーロー』に見える人が画面に出てきたのを見て、瀬利亜さんが深いため息をついている。
ううむ…ファンタジー世界ではスーパーヒーローだと十分に活躍できないということなのだろうか?確かに魔法相手だとスーパーヒーローでは苦戦しそうな気が…。
しかし、最新の仮面ライダーとかだと十分に対応できそうな気もするんだが…。
「二人目は『新鋭気鋭の実力者。さらに見た目も人気も絶大』。
沈着冷静でストイックなスーパーヒロイン、『アメリカ最強・ライトニングレディ』?!!
これはお奨めだわ!!!超お勧めだわ!!」
瀬利亜さんが目をきらきらと輝かせて叫んでいる。
ええと、同じスーパーヒーロー(ヒロイン)なのに瀬利亜さんの反応がずいぶん違うな。
一体二人のどこが違うのだろうか?
女性の方がいい?それとも、他に理由が??
そう言えば、橋本もライトニングレディを見てなんだか興奮しているようだ。
「橋本。瀬利亜さんはどうしてこんなに興奮しているんだ?」
俺は橋本にこっそり囁きかける。
「ライトニングレディは前にも説明したモンスターバスター最高の実力者たち、一二星の最高クラスのメンバーとためを張るような実力者だからね。
今回のラスボスクラスでも一撃で倒してしまうんじゃなかろうか。」
なんと、そんなすごい人を召喚できるなんてすごいガチャだな!!
…とはいえ、橋本の話だと、アルテアさん、神那岐さん、瀬利亜さん自体がモンスターバスター一二星の一人だというから、そういう実力者が召喚されるということなのだね。
「そして、三人目が『デビューしたての大型新人!クールビューティーの活躍を乞うご期待』!
鮮烈デビュー!『ブリザードレディ』?!
ようし、彼女に決定ね♪」
ええええええええええええええ???!!!!
なんかいきなり決まっちゃったよ?!!
さっきのライトニングレディもものすごく反応が良かったけど、今回のブリザードレディに即決したのは一体どうして?!
「石川!!!なにやってんの?!!!どうしてライトニングレディにしないの?!!!」
橋本が顔を真っ赤にして怒鳴っている。
一体何がどうしたんだ?!!
「ふ、決まっているじゃない♪『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえ!』て言うわよね♪それでは、太郎ちゃん、頑張るのよ♪」
ちょっと待てい?!!瀬利亜さん、一体何を言っているの??!!!
「おかしいよ!!!石川!今は魔王軍を倒すのを優先すべきだろう?!!こんなことに『私情を挟んで』いいわけがないだろう?!!」
「ふ、橋本君。何を言っているのかしら?こんな時だからこそ『私情を挟むべき』なのよ!
どうせ、今回の相手は『たかが魔王軍四天王』だわ。
豪君、リリムさん、ナージェさんの三人でも十分に切り抜けられる相手だし、いざとなれば私一人でこんな城くらい壊滅させられるから♪」
瀬利亜さん、なにげにすごいこと言ってんだけど?!!!
「魔王との直接対決の時以外は私たちの役割は勇者たち三人のサポート、実力アップのお手伝いだわ。ライトニングレディは確かに魔王くらい一人で粉砕できるくらいの実力者であるけれど、今回のようなサポート任務は……すごく得意だけれど、まあ、今回くらいのサポートなら琴美ちゃんでもなんとかできるはずだわ。
だったら、今回の件は『恋人と一緒にいる機会』を作る絶好のチャンスだと思わない?!!」
瀬利亜さん?!言っていることが支離滅裂なんですけど?!!
というか、この『ブリザードレディ』というスーパーヒロインは二人の反応からして、本名は琴美ちゃんで、橋本のガールフレンド?!!
「待て、石川!!親交を深めたくないわけじゃないけど、それは『二人きりになるチャンスを作る』ことが大切……は?!!」
自爆したことに気付いて真っ赤になった橋本を見て、瀬利亜さんがニヤニヤしている。
「よっしゃ!やっと素直になったわね。それでは、今度こそ真面目に召喚…ああ?!!間違えちゃった!!!」
間違えったって、一体何を間違えたの?!
俺たちの前に閃光がきらめき、あたりが見えなくなった。
しばらくして、閃光が消えると、そこには瀬利亜さんと同じブレザーを着たややきつめの雰囲気のスレンダーな和風美少女が立っていた。
女の子はしばし、呆然としていたが、橋本を見ると、ぎょっとして叫んだ。
「太郎?!これは一体どういうこと?!
…それから、瀬利亜さん?!!え?瀬利亜さん、なんでバツが悪そうな顔をしているの?
一体何があったの?!」
どうやら瀬利亜さんはライトニングレディを召喚する予定が、間違えてブリザードレディこと、橋本の恋人である琴美さんを呼んでしまったようだ。
「琴美ちゃん、ごめんなさい。実はかくかくしかじかというわけなの…。」
琴美さんは瀬利亜さんの説明を聞きながら顔を真っ赤にしていたが、やがて大きくため息をついて言葉を出した。
「まあ、やってしまったことは仕方ないわ。とりあえず、この城をとっとと陥して帰らせてもらうわ。」
琴美さんはスパッと割り切ると、ブリザードレディの扮装に着替えた。
そして……ブリザードレディのサポートは完ぺきだった。
雑魚アンデッドはどれだけ多数いてもブリザードレディが全て凍りつかせて動けなくしてしまった。
それがたとえ霊体であっても吸血鬼であっても凍り付いて動かなくなってしまった。
おかげで俺とリリムとアージェは要所要所のボス敵との戦いに専念することが出来た。
ついに俺たちはラスボスの待ち受ける大扉の前に来ている。
ちなみに俺たちの周りは全て凍りついていて、この城自体がすごく寒い。
琴美さん、パネええっす!!
「太郎、いい?!間違えても私の後ろから動くんじゃないわよ!!」
「俺、彼女に守られっぱなしって、すごく恥ずかしいんだけど?!!」
「贅沢言わないの!!生きているだけで丸儲けなのよ!!」
あなたたち三人はどういう会話をしているんですか?!!
「それはともかく、まず私が扉をぶち破るから、三人は全力でボスに立ち向かってね。
私と琴美ちゃんがサポートに回るから、周りにいるだろう雑魚のことは気にしなくていいわ。」
瀬利亜さんが言いながら、扉の前に立つ。
そして気合を込めて蹴りを放とうとする。
「チェスト!!」
瀬利亜さんの右回し蹴りは扉をぶち抜いて、そのまま扉を室内にぶっとばしていった。
そして、そのまま玉座にいた吸血鬼の王・ノーライフキングを玉座ごと、後方の壁にぶち込んでいた。
「みんな!相手は不死身を誇るノーライフキングよ!この程度のことで致命傷になるとは思えないわ!起き上がってきたときに備えて、冷静に対応するのよ!!」
瀬利亜さんが俺たちの方を見て叫ぶ。
……五分くらい経過したが、扉ごと壁にめり込まされたように見えるノーライフキングは全く動く気配を見せない。
……室内に入る前に感じられた強烈な邪悪な気配や殺気も全く感じられない。
周りにいた、四天王の眷属の上級の不死者たちもこわごわとその様子を見守っている。
「これはきっと、私たちを油断させて襲おうという罠に違いないわ!
私が扉を退けるから、豪たちはいつでも対応できるようにしておいて!!」
瀬利亜さんはふんぬっと力を込めると、扉を壁から強引に外し……吸血鬼だったものの残骸が壁に張り付いたままになっていた。
「おかしいわ!!吸血鬼の親玉には通常攻撃は効かないはずだわ!」
「……ええと、瀬利亜さん。あなた思い切り闘気を右足に込めていたわよね。
扉にその膨大な闘気が残ったままだったからそのままノーライフキングをあなたの闘気が押しつぶしちゃったんじゃない?」
琴美さんの返答で室内が気まずい雰囲気が包まれ、間もなく不死王の眷属どもは玉座の間から全力で逃走した。
その後、約一時間ほど、瀬利亜さんと琴美さんはノーライフキング城跡で、俺たちとの実戦訓練に付きあってくれたのだった。




