104 勇者 VS 勇者 その2
「アルテアさん!何てこと言うんですか?!!」
えええええええ?!!!!自称邪神がそんなことを言い出したよ?!
「せっかくトーナメント参加を渋る勇者たちに出場を迫るネタにしようと思っていたのに、あっさりばらしちゃダメじゃないですか!!
頑張って『今のままだと敗北の可能性の高い勇者チーム』ばかり選択して召喚したのに…。」
ぽろっととんでもないことを暴露したよ!この邪神!
「ニャントロくんたら、とんでもないことを画策していたのね…。少し『お話』しようか?」
はあああ?!!アルテアさんが顔は笑っているのに、笑っていない両目が青白い光を放ち、とんでもない殺気を漂わせているんだけど?!!!
先ほど戦った魔王四天王なんざ、この人の漂わせているオーラからするとただの雑魚だよ!!
「アルテアさん!落ち着いて下さい!
勇者パーティがこの闘技場で魔王を倒せるようになるための作戦を考えましょう!!」
邪神が土下座をし、この後、勇者パーティ強化作戦会議が開かれた。
結局、四組の勇者パーティによるトーナメント大会が開催されることになった。
実戦は最高の訓練だから、勇者同士が真剣勝負をすることでお互いを強化しようというのだ。
俺たちは二人の王子と王女の三人とも勇者というパーティと対戦し、アルテアさんチームと最初にいろいろ発言した剣士のいるチームが対戦することになった。
最初のニャントロ邪神の発言と異なり、各チームの参加賞としてニャントロ邪神と強大な魔法使いたるアルテアさんからそれぞれ強力な魔法のアイテムを一品ずつ贈呈され、優勝者にはさらに強力なアイテムが一品ずつ贈呈されることになった。
「うーーーーん……。アルテアさんは規格外すぎるうえに、本気で全力の魔法を使われたら闘技場の防御結界が吹っ飛んでしまいます。
アルテアさんはチームから外れて結界強化をしていただいてよろしいでしょうか?」
「そうだねえ。じゃあ、私は闘技場の結界を思い切り強化すると同時に、試合の解説をするね。
ニャントロくんは実況をよろしくね。」
「了解です。それでは、アルテアさんチームの欠員補充は私が行いますね。」
「いいけど、あまり変な人を召喚したら、いろいろ『お話』させてもらうよ?」
「了解しました!!必ずや戦力的にほどほどで、勇者パーティ同士の戦いでお互いのいい訓練になる人材を選ばせていただきます!!」
明らかに邪神より立場が上のアルテアさんは本当に何者なのだろうね…?
「ちょっと待てい!自称邪神は黒ローブをまとったまま顔を全く見せないが、それで他の人間の信頼を得られるとでも思っているのか?!」
おっと、押しの強い例の勇者剣士のクリムトがニャントロ邪神にまくし立てている。
「はっはっは、邪神は簡単には正体を現さないもの…ああああ!!瀬利亜さん、ローブをはがないで下さいよ。」
瀬利亜という銀髪の女子高生が手早く邪神のローブをはぎ取ってしまう。
「いえ、ニャントロさんはその状態でも十分すぎるくらい怪しいからとっとと素顔を晒した方がいいと思うんだけど…。」
……ローブを取った細身の長身の男は、タキシードをきれいに着こなし、顔に和風と思しき黒猫の仮面を被っていた。
「這い寄る黒猫」…て猫のお面を被ってんですけど?!!
怪しいよ!!『千◎千尋』の映画とかに出てきそうだよ?!!
「いえいえ、この猫の仮面は私のトレードマークで…ちょっと!!あっさり剥がさないでください!!」
「人間、まあ、あなたは邪神だけれど、その人の目が見えないと他の人はすごく不安に感じるものなの。あきらめてしばらく素顔で過ごしてください!」
ニャントロ邪神の素顔は短く刈りそろえた銀髪の怜悧な雰囲気の超美青年だった。
なんで仮面なんか被ってんの?!
普段はイケメンにも全く見向きもしないアージェとリリムが呆然として見つめているよ!!
しばらくして、俺の視線に気づいたアージュとリリムが気まずそうな表情に変わる。
「大丈夫!男の価値は顔じゃないからね!!」
アージェ。それ、ニャントロ邪神より俺が明らかに容貌で劣るという話だよね…。
「そうよ、豪。顔がいいだけの男はエルフの村にいくらでもいたわ。あなたの真価は顔じゃないのだからね。」
リリム、持ち上げているのか貶しているのかわからない発言は止めてほしいのだけれど…。
試合の際はアルテアさんが対戦者全員に強力な防御の魔法結界を張り、行動不能になったり、死亡するダメージを受けた場合は実際にはダメージは防いでくれるものの、自動的に全員にわかるように反応するようにしてくれていた。
相手チームの三人のうち二人が死亡、又は行動不能になったと判定されたら試合終了となる。
おかげで全員心置きなく全力を出せるのだが…アルテアさんの魔法がどれだけ桁違いなのかがわかり、アルテアさんチームと当たるのがすごく不安になる。
第一試合は俺たちと王子・王女チームの対戦となった。
勇者の剣と鎧をまとい、純粋な剣士として一流のアレン王子。
魔法剣士として多彩な働きのできるコナン王子。
そして、攻撃・防御・回復魔法を扱えるプリン王女。
確かに手ごわい相手だった。
ただ、実戦における熟練度と連携の差が俺たちに勝利をもたらした。
魔法剣士のコナン王子はやや器用貧乏であり、神聖魔法で徹底強化されたアージェの猛攻に耐えきれずに陥落し、一人抜けた後、プリン王女に致命的なダメージが行くのはあっという間だった。
戦闘終了後、俺たちは健闘をたたえ合い、元の世界に戻った後の魔王戦について語り合った。
その際、アルテアさんとニャントロ邪神からもいろいろとアドバイスがあった。
「やっぱりコナン君が少々器用貧乏で、今すぐ魔王に突っこむにはチーム全体が力不足みたいなのよね…。
そうだ!ニャントロ君、この杖を彼らにあげちゃいましょう♪これだけ強力な回復の杖があれば、長期戦に於いて大幅な戦力増強につながるわよ♪」
アルテアさんがあっさり超強力な回復の杖をプリン王女に手渡ししてしまう。
「アルテアさん!その杖、超貴重品なんですが…。」
「あらあ、勇者の使命と世界の命運がかかっているのよ。費用対効果を考えると、おつりがたくさん出るわ♪」
やさしく、しかし有無を言わせない口調のアルテアさんにニャントロ邪神は首肯せざるを得なかった。
「それからこれは私からだけど、『真・勇者の剣』だよ。今使っている勇者の剣と比べて『当社比約1.25倍』の威力があるよ♪」
さりげなく、とんでもない武器を渡しているんですが?!!
超強力な武器と回復アイテムを手にした王子・王女勇者一行は気勢を上げて、元の世界に帰還した。
そして、せっかくの武器とアイテムを充分に活用し、見事魔王を撃ち滅ぼしたと後で便りが届いたのだった。
え?異世界に戻ってしまったのにどうして後日談がわかったのかですか?
それは、また後程説明させていただきます。
第二試合はいかにも西洋風のイケメン勇者と二人の仲間のチームとアルテアさんチームの対戦だ。
イケメン剣士の勇者・クリムトは様々な魔力を纏った強力な勇者剣・魔剣フレイム&ブリザードソードを扱う、実質的な魔法剣士だ。
ただし、剣の腕は凄まじいようで、先ほどのアレン王子がさらに魔法を扱うようなもので、一人でも相当な強敵とやりあえるようだ。
アダルトな女性賢者(僧侶にして魔法使い)のマライアは魔法の威力を強化し、さらに魔力消費を抑制してくれる強力な魔法の杖を自在に扱い、強力な攻撃・防御・回復・補助魔法を素早く自在に扱うようだ。
そして、三人目の竜人のドゴンはそもそもの肉体的な能力が人間を遥かに上回っている。
長さ三メートルを超える超巨大な青竜刀のような刀を軽く振り回し、口から魔物を焼き尽くす炎を吐いたり、短時間なら空を飛翔できたりと存在そのものがチートだ。
…ええと、この人達と当たったら全然勝てる自信がないんだけれど…。
それに対するアルテアさんチームはというと…。
銀髪の長身の美少女、瀬利亜さん。ブレザーを着ているが、格闘系の勇者…らしい…。
二人目は小柄で十代前半に見える癒し系の美少女・千早ちゃん。背中に長い日本刀を背負っていて、巫女剣士ということらしいのだが…。
三人目は男子用ブレザーを着た、男子学生の橋本君だ。
特に何も持っていないのだが、一応勇者らしい。どんな勇者なんだろう。
「待て!!なんだ、このメンツは?!我々を馬鹿にしているのか?!!」
対戦メンバー同士が顔を合わせてクリムトが怒り狂う。
確かに見た感じでは勝負どころか、まともに戦闘にすらなりそうにないように見えるのだが…。
「クリムトさん、ちょっと早計ですよ。超絶強力なアルテアさんを外したとはいえ、戦力的にいい勝負になるように、そこの三人目の橋本君(男性18歳)をわざわざ新たに召喚したのです。あまり甘く見ない方がいいですよ。」
涼しい顔でニャントロ邪神が答える。
「そうよ。三人ともこれでも異世界召喚勇者なのよ。見た目だけで相手を判断しているようだと、魔王戦に余計な苦労をする羽目になりかねないわよ。」
おおっと?!瀬利亜さんが自信たっぷりに胸を張っている。
確かに瀬利亜さんはニャントロ邪神から手早くローブをひん剥いたり、仮面をはぎ取ったりと、ただものではないことを示していたよね。
「石川と神那岐はともかく、僕はどうして呼ばれたのかさっぱりわからないから!!
勇者同士の対決なんて、僕が参加してどうにかなるものじゃないでしょ!!」
……後で追加で召喚された橋本君は全く自信がなさそうなんだけど…。
「橋本さん、大丈夫です!召喚されたみんなで村おこしや町おこしをいっぱいしたじゃないですか!! それと、橋本さんのツッコミ勇者としての活躍はみんなの心に完全に焼きついてますから!!」
「神那岐までボケている場合じゃないからね?!!」
…橋本君はともかく、二人の女の子は自信満々に相手チームを見ている。
この勝負、一体どうなるんでしょうね…。




