表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/155

103 勇者 VS 勇者 その1

 ザシュッ!聖剣の一撃は『魔王』の胸に突き立ち、その巨体が音を立てて倒れた。

 エルフの魔導弓士のリリアは魔力、気力とも尽き果て、入り口近くで横たわっている。

 勇者たる俺も、聖騎士のアージュも満身創痍で何とか立っている状況だ。

 魔王城でのギリギリの戦いの末、俺たちはなんとか勝利を得たのだ。


 だが、倒れ伏した魔王の次の一言で俺たちは勝利の安ど感から一気に絶望に突き落とされた。

 「…さすがは選ばれし勇者。…よくぞ我を倒した。

 だが、わしは魔王ではない。魔王四天王の一人、『戦慄のゴルダム』だ。

 まだ、我の他に三人の四天王とそれよりさらに強い魔王様がおられるのだ。

 我ごときにギリギリでしか勝てないお前たちに果たして勝機があるかな?」

 ゴルダムはにやりと笑うとそのまま息絶えた。



 俺の名前は中津豪。一年前、この世界に魔王軍の侵略から世界を救うために勇者として召喚された。

 平和な日本から召喚された際、いわゆるチートな技能が目覚めたのだった。

 しかし、技能はともかく、平和ボケの日本で生まれ育った俺は最初は魔王軍の下っ端とすらまともに戦える状況ではなかった。

 だが、面倒見のいい聖騎士のアージェやその後仲間になってくれたリリムとの旅の中でなんとか魔王軍とまともに戦えるくらいに鍛え上げられた。


 幾多の戦いを乗り越えてついに魔王城に到達した…そう思ったのだが、倒したのは魔王四天王の一人に過ぎなかったのだ。


 酷い疲れと、傷の痛みと絶望で動かなくなりそうな心と体を必死で叱咤して、俺とアージュは倒れているリリムの元に歩いていった。

 俺がリリムを抱えて介抱し、アージェが回復魔法をかけると、なんとかリリムの意識が戻った。

 リリムに魔王四天王との戦いとその顛末を話したところ、やはりリリムも酷く落胆した。

 だが、まもなくその瞳に強い光を取り戻した。

 「大丈夫!私たち全員生き残ったじゃない!残りの四天王も魔王も倒すわよ!」

 「そうだな!」

 「そうだね!」

 さすがは最年長(失礼!)のリリムは精神的にも非常にタフだ。

 俺たちは何とか立ち上がり、城を後にしようとした時…不意に足下に強烈な魔力を感じた。


 「これは?!転移の魔方陣だわ!!」

 俺たちの足元に現れた魔方陣を見て、リリムが叫ぶ。


 俺たちはまばゆい光に包まれると、三人とも意識を失った。




 俺たち三人が気づくと、巨大な闘技場のような場所に倒れていた。

 倒れているのは俺たちだけではなく、全部で10人前後の若い男女が倒れていた。

 そして、俺たちとほぼ同時に彼らも目を覚まし、あたりをきょろきょろと見回している。


 『はっはっは、聖なるコロッセウムへようこそ!勇者諸君!

 それももう少しで魔王に手が届くという実力者ぞろいだ。

 今から勇者同士の世界最高の決戦を始めようではないか!!』

 コロッセウムの中心にいる漆黒のローブをまとった男が俺たちの心の中に直接語りかける。

 こいつが俺たちを転移魔法で呼び寄せた張本人の魔術師のようだ。

 …いや、この気配は人間ではない?!

 この濃密な魔力、それも魔王四天王のそれを大きく上回る魔力を纏っているこいつは一体何者だ?!!


 「貴様は一体何者だ!そして何を企んでいる!」

 俺が口を開こうとした時、それに先んじるように俺の前にいた剣士の格好をした青年がローブの男に向かって叫んだ。


 『ふっふっふ、そんなに警戒しなくても大丈夫さ。

 わが名は『這い寄る黒猫』ニャントロホテップ。

 少々トリッキーなことが好きなただの邪神だよ。

 別に君たちを取って食おうというわけではない。さらに、イベントが終われば全員無事に元の世界に返すことは保障しよう。

 その上で、優勝チームには素晴らしい賞品、それも魔王を倒すのに非常に役立つアイテムを贈呈しようというのだよ。君たちにとって悪い話ではあるまい♪』

 男の声色からはあからさまな敵意や悪意までは感じられない。

 だが、自称邪神であることと、纏っているオーラからして、とても信頼できるような存在でないことを俺の六感ははひしひしと感じている。アージュとリリムも男に厳しい目線を向けており、それは他の召喚された(?)人たちも同じように感じているかのように全体を緊張した空気が包んでいる。


 バシーーーン!!

 「何バカなことを言っているのよ!!」

 俺たちはローブの男を巨大なハリセンでひっぱたいた女性を唖然と見つめていた。

 銀髪のブレザーを着た女子高校生?!しかも、長身のハーフの美少女だ。


 「待ってください!!なぜあなたがここにいるのですか?!!!」

 「あなたが召喚したからに決まっているじゃない!!ね、ニャントロさん!!」

 「うそーーん!!!召喚相手を間違えました――!!」

 「間違えましたじゃないわよ!!!この事態をどう収拾するのよ?!!!」


 ブレザーの女子高生はなんか、自称邪神と知りあいらしい。

 それも魔王四天王を上回るような実力者と対等な関係を築いているようだが、一体何者なのだろうか?


 「はっはっは、瀬利亜さん。ご安心ください。今回私が召喚したのは瀬利亜さんたちを除けば『そのまま闘い続けたら魔王に大苦戦間違いなし』という勇者パーティばかりです。

 私が召喚したことにより、勇者たちは『いい気分転換』をされ、ここで英気を養われることで魔王を無事退治してもらおうという寸法なのですよ♪」

 先ほどまでの重々しい雰囲気から一転して、自称邪神のニャントロの話し方が友人に語りかけるかのような軽い口調に変わっている。

 しかも、内容が突っ込みどころ満載なのだが…。


 「へええ。『勇者同士の決戦』て見学者にとってはともかく、戦う当人たちにとってどこが気分転換になるというのかしら?」

 「…ええと、それはですね……。」

 冷や汗をだらだらかきながら瀬利亜という女子高生?に詰め寄られてじりじり後ずさっている自称邪神が別の意味で胡散臭く見えてきている。

 ここはどういった対応を取るべきだろうか…。

 ううむ、アージェとリリムも事態の意外な展開にどうしようかと迷っているようだ。



 「待て!そんな茶番で俺たちを騙そうというのか?!

 先ほど真っ先に声を上げた剣士らしい男が邪神ニャントロホテップを睨みながら叫ぶ。

 「大方そこの女とグルで芝居をして、お前さんが悪役になり、女の方を信頼させようということだろ?」


 剣士の言葉に確かに…と思いかけるが、銀髪の女子高生?は人を騙すどころか、ものすごく『馬鹿正直』な女の子にしか見えないのだが…。


 「ほらあ、ニャントロ君が召喚した人達をないがしろにしているからそんな風に疑われるのよ。怪我をしている人たちが何人もいるからまずはその人達の回復をしたら?」

 瀬利亜という女性の後ろから長身の女性が歩み寄ってきた。

 ゆる系の超絶美女だ!!しかも超巨乳だ!!

 思わず目が胸に釘付けになってしまった俺は、背後からの鋭すぎる殺気二つに我に返る。

 恐る恐る振り向くと、アージュとリリムが二人とも絶対零度の視線で俺を睨みつけている。

 ……アージェはボーイッシュの、リリムはたおやかな美女だが、二人ともスレンダーなのだ。このゆるふわ系の超ボリュームと比べると…二人の視線がさらに厳しくなった。

 なぜだ?!二人ともテレパシーでもあるのか?!!



 「あら、ニャントロ君たらいいもの持ってるじゃない♪ちょっと借りるね。」

 女性は邪神ニャントロホテップの持っていた杖をひょいと取り上げると呪文を唱えた。


 呪文の詠唱が終わると同時に杖が白銀色に輝き始め、周りに柔らかい光を放った。

 光は俺たち全員を包み込み、気が付くと、あれだけ重かった体がものすごく軽くなり、気力が満ち満ちた状態になっていた!

 女性が使った杖も非常に強力な回復の魔力を秘めた杖のようだが、その杖に膨大な魔力を注ぎ込んだ女性も只者ではない!!

 というか、自称邪神のことを『君』呼びしているということは一体何者なのだ?!


 「俺たち全員を心身ともに回復させてくれたこと自体には礼を言いたい。

 だが、俺たちの目的はあくまでも魔王を退治することだ。

 早急に元の世界に戻してもらえるとありがたい。」

 またもや先ほどの剣士がゆるふわ美女に語りかける。


 「そうねえ…戻ってもらうこと自体は当然のことなのだけれど…。」

 言いながらゆるふわ美女は懐から水晶球を取り出すと、呪文を唱えてじっと見やっている。

 魔法で未来のビジョンでも見ているのだろうか?


 「うーーーーーん…今の状態のまま元の世界に帰ってもらったら私たち以外の三組の勇者グループは大苦戦間違いなしだわ。下手するとあっさり魔王に返り討ちになる可能性まであるわね。」

 なんだってーー?!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ