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冬童話参加作品

ネガイとイノリ

作者: 調彩雨

 

 

 

 あなたにもこんなけいけんはありませんか


 とてもとてもかなしいときや

 とてもとてもくるしいときや

 とてもとてもつらいときに

 ふと

 なにげないことで

 えみがこぼれたこと

 しあわせをかんじたこと


 あなたの

 かなしさや

 くるしさや

 つらさにくらべれば

 あまりにも

 ささやかなしあわせなのに

 そんなちいさなしあわせに

 どうしようもなくすくわれた


 そんなけいけんはありませんか


 じつは

 そのささやかなしあわせは

 あなたにみえない

 ちいさなちいさなそんざいが

 はこんできてくれているのです


 ちいさないちさなみかたが

 あなたのまわりに

 こっそりとかくれていて

 あなたにそっと

 しあわせをはこんでいるのです


 きょうはその

 しあわせをはこんでくれる

 ちいさないきものについて

 おはなしさせてください




 これは

 とおいみらい

 あるいは

 ちょっとしたかこ

 あるいは

 すぐそこのあした

 もしかしたら

 いま


 ここか

 あそこか

 べつのセカイでおきた

 こころやさしき

 ちいさないきもののおはなし




 ネガイのしごとはみんなにしあわせをはこぶこと


 しあわせをはこべなくなると

 ネガイはしんでしまいます


 しあわせをはこぶために

 ネガイは“しあわせのたね”をそだてます


 “しあわせのたね”がないと

 ネガイはしあわせをはこべません


 だから

 ネガイは“しあわせのたね”を

 とてもとてもたいせつにしています


 けれども

 ネガイをしらないニンゲンが

 なにもしらずに

 “しあわせのたね”をやいてしまいました


 たくさんのネガイが

 “しあわせのたね”をうしないました


 たくさんのネガイが

 しんでしまいました


 それでも

 ネガイは

 みんなにしあわせをはこびます


 なぜ?


 それが

 ネガイのしごとだから


 しあわせをはこばないと

 ネガイはしんでしまうから


 でも


 それだけではありません


 ネガイは

 “みんなのえがお”がだいすきだから

 “みんなのなみだ”がだいきらいだから―


 だから

 ネガイは

 きょうもしあわせをはこびます


 なのに


 ニンゲンは

 “しあわせのたね”をやいてしまいます


 みんなみんな

 やいてしまいます


 たくさんのネガイが

 しんでゆきます


 それでも

 ネガイはみんなにしあわせをはこびます


 みんなのえがおが

 たいせつで

 だいすきだから―


 どんなになかまがへっても

 ネガイはしあわせをはこびつづけます


 だから

 みんなしあわせでいられました


 さいごのネガイになっても

 ネガイはしあわせをはこびつづけました


 けれど

 とうとう

 さいごのネガイがしんでしまいました


 もう

 だれもしあわせをはこんではくれません


 だんだん

 だんだん


 セカイからしあわせがなくなってゆきました


 だんだん

 だんだん


 セカイにフシアワセがふえてゆきました




 そして


 みんながフシアワセになりました





 ニンゲンたちはあわてました


『どうしてこんなに

 フシアワセになってしまったのだろう?』


 けれど

 そのなぞがとけるニンゲンは

 どこにもいません


 ニンゲンたちは

 ネガイのことを

 しらないのです




 むかしむかし

 まだブンメイカイカなんて

 されていなかったころなら


 ニンゲンたちも

 ネガイのことをしっていました


 むかしむかし

 まだモノノケたちが

 ムラにいたころなら


 ニンゲンたちは

 ネガイとなかよくしていました


 むかしむかし

 まだクニなんて

 ないころなら


 ニンゲンたちは

 ネガイといっしょに

 “しあわせのたね”をそだててさえいました


 けれど

 クニがうまれ

 ムラからモノノケたちがさり

 ブンメイカイカがすすむうちに


 ニンゲンたちは


 “しあわせのたね”のそだてかたを

 ネガイとなかよくするほうほうを

 そして

 ネガイのことを


 わすれて

 ゆきました


 いまでは

 ほんのひとにぎり


 せかいのすみっこにすむ

 としおいたろうじんたちが


 むかしがたりにかたるばかりで


 そして


 そんなはなしは

 だれもしんじはしないのです




 だから


 ニンゲンたちはこまりはてました


 ダイガクキョウジュも

 コッカイギインも

 ソウリダイジンも

 ダイトウリョウも

 コッカシュセキも


 ショウグンサマも

 テンノウヘイカも

 ジョウオウヘイカも

 コクオウヘイカも

 ホウオウサマも


 どんなヒトも


 だれひとり


 どうしてこんなにフシアワセになったのか

 わからないのです


 そして

 こまりはてているあいだにも


 どんどん

 どんどん


 フシアワセになってゆくのです




 ニンゲンたちは

 つゆほどもしらなかったことですが


 それが

 このセカイの

 ほんとうのすがたでした


 なぜならそこが

 イキモノたちにあたえられた

 シレンのセカイだから


 ほんとうなら

 しあわせなんて

 そんざいしないセカイなのです


 でも

 それではあまりにあわれだと

 あるひとりのカミサマがあたえてくれたジヒが

 ネガイなのです


 そのネガイをしなせてしまったのだから

 もうにどと

 しあわせなんて

 てにはいるはずがないのです




 それでも

 そんなことはしりようもない

 ニンゲンたちは


 ひっしになって

 しあわせをとりもどそうとしました


 あるヒトは

 とにかくオカネをかせぎました


 あるヒトは

 カミサマのすくいをねがいつづけました


 あるヒトは

 まわりじゅうにおんなのヒトをはべらせました


 あるヒトは

 シンコウシュウキョウにのめりこみました


 あるヒトは

 ただただシゴトにぼっとうしました


 あるヒトは

 いえにひきこもりました


 あるヒトは

 クスリにてをだしました


 あるヒトは

 あびるようにおさけをのみました


 あるヒトは

 カソウゲンジツのセカイにとじこもりました


 あるヒトは

 ジョウドをしんじてジサツしました


 あるヒトは

 あるヒトは

 あるヒトは―


 そんなたくさんのあるヒトのなかの

 あるヒトがいいました


『ネガイとかいうヤツをつかまえると

 しあせになれるらしい―』




 それは

 まちがったかんがえ


 いちどはだれもしんじなかったかんがえ


 そして

 もうかなうはずのないかんがえ


 ネガイはもうどこにもいないし


 もしみつかったとしても


 “しあわせのたね”がなければ

 ネガイはしあわせをはこべません


 それに

 しあわせはネガイをつかまえてえるものではなく


 ネガイがはこんできてくれるものです




 でも

 ニンゲンたちはそんなこと

 しりませんから


 そのコトバは

 あっというまにひろまり


 たくさんのヒトが

 そのコトバをしんじこみ


 そのコトバにすがりつき


 そして


 ちまなこになって

 ネガイをさがしはじめました


 みつかるはずもないネガイを


 ネガイがどんなそんざいかも

 しらないで


 いないネガイをとりあって

 せんそうさえもおきました


 たくさんのちが

 ながれました


 そしてみんな

 ますますフシアワセになりました




 もう

 みんな

 あらそういみさえわからないまま


 しあわせになるために

 フシアワセになりました




 そんなとき


 フシアワセなセカイのかたすみで


 あるヒトがなみだをながしました


『わたしはどれほどフシアワセになってもいいから

 どうかあいするひとをしあわせにしてください』


 そのヒトがくちにしたのは

 ひっしの

 いのりでした


 ジブンではないダレカの

 しあわせをねがう

 いのり


 ただただむしんにいのるそのヒトのなみだが

 ぽたぽたとじめんにおちました

 かたちのないしずくのはずのそれは

 いつしかかたちをもち

 ぱらぱらとじめんをころがりました


 そのヒトのひっしないのりがかたちになり

 “しあわせのたね”にかわったのです


 そのヒトは

 それにきづかず

 いのりつづけてしにました


 そうしてたおれたそのひとのそばで

 たくさんこぼれおちた“しあわせのたね”は

 めぶいて“しあわせのき”になりました


 “しあわせのき”はだれにもきづかれることのないまま


 すくすくとそだち


 せいぼくとなり


 はなをさかせ


 みをみのらせ


 そして


 あたしい“しあわせのたね”がうまれました


 けれど

 ネガイはもういません


 “しあわせのたね”があっても


 はこんでくれるネガイがいないのです


 だから


 あたしい“しあわせのたね”は


 だれのてにもわたらずに

 じめんにおちました


 そしてそのたねもおおきくそだち


 たくさんの“しあわせのたね”をうみだしました


 そのたねもまたじめんにおちて


 “しあわせのたね”をうみ


 またたねがじめんにおちて―


 いつのまにか

 おおきな“しあわせのき”のもりが

 できあがりました




 そんな

 もりでまた

 あるヒトがなみだをながしました


『ずっとずっと

 じぶんのしあわせばかりかんがえて

 まわりをフシアワセにしつづけてしまった

 たにんのしあわせをうばっても

 じぶんがしあわせになりたいと

 たくさんのひとをフシアワセにしてしまった

 どうかじぶんがふりまいたフシアワセよりもたくさん

 みんながしあわせになってほしい』


 それは

 コウカイとザンゲのまじった

 いのりでした


 くちびるをかみしめてなくそのヒトのなみだは

 ほおをつたってながれおち

 いつしかかたちをもって

 ちいさなあしでちょこんとたちあがると

 ちいさなめで

 そのヒトをみあげました


 しかし

 そのヒトは

 じぶんをみあげるちいさないきものにきづかず

 かなしみにくれてしんでしまいました


 コウカイといのりのなみだからうまれたいきものは

 ジブンをうみだしたそのヒトのいのりを

 しっかりとうけとめました


 さいわいにもそこは

 “しあわせのき”のもり


 いのりをかなえるためのしゅだんは

 すぐそばにおちていました




 そうして

 ネガイにかわって

 イノリがうまれました


 イノリたちは


 みんなにしあわせをはこびはじめました


 セカイじゅういたるところに

 しあわせがとどきはじめました


 すこしずつすこしずつ

 セカイにしあわせがもどってきました


 それは

 ほんのささいなすくい

 みのがしてしまうような

 ちいさなしあわせ


 それでも

 ちいさなしあわせは

 せかいをあかるくそめました


 みんなにえがおがうまれ

 えがおになったヒトは

 やさしいきもちで

 そっと

 ジブンではないダレカの

 しあわせをいのりました


 そのいのりがまた

 “しあわせのたね”を

 イノリを

 うみだしました


 うみだされたイノリが

 またしあわせをはこんで

 しあわせのれんさが

 せかいをおおいました


 なきながらひつうにいのるのではなく

 あたたかなきもちでいのることが

 できるようになったのです


 セカイはフシアワセなセカイでは

 なくなりました




 もちろん

 このセカイから

 フシアワセがきえることは

 ありません


 けれど

 どこかでだれかが

 だれかのしあわせをいのるいのりが

 “しあわせのたね”を

 そして

 しあわせをはこぶイノリを

 うみだします


 だからきっと

 あなたのもとにも


 ほら

 イノリ


 しあわせをねがうだれかのいのりが

 しあわせをはこんできましたよ




 おはなしは

 これでおしまい


 おはなしをきいてくれた

 あなたが

 どうかきょうもしあわせでありますように

 

 

 



つたないおはなしをおよみいただき

ありがとうございました


漢字のありがたさが身に染みました

ありがとうチャイニーズキャラクター


どうかあなたのもとにも

ネガイとイノリがおとずれますように

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全部、かななのが良いですね。 漢字で書くと生々しく深刻で、反発すら招きそうなモノが、オブラートで包まれすっとのどに入ってくるようです。 悲しくて、悔しくて、でも最後に希望が持てる、そんな…
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