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異世界突撃部隊 ゼロゼロワンワン  作者: 拝 印篭
第三章 【下街出張所】 准尉
39/42

39. 右や左の!

「国家全体主義を、打倒せよー!」

『『『国家全体主義を、打倒せよー!』』』


「国王は、国家財産を国民に分配せよ!」

『『『国王は、国家財産を国民に分配せよ!』』』


「ショウワン文化の荒廃を、許すなー!」

『『『ショウワン文化の荒廃を、許すなー!』』』


「コポルト族以外は王都から、出ていけー!」

『『『コポルト族以外は王都から、出ていけー!』』』



 な、何なんだろうか? ようやく始まったデモを俺達は先導しながら注意深く監視しているのだが、要求している内容がでたらめである。


 確かに右翼のデモだと聞いていたのだが、要求内容が、右も左もごちゃまぜである。

 参加している人達の顔を見ていても、決して追いつめられてデモという手段を取っているというよりは、あからさまにレジャーの一つとして捕えてる感じなのだ。


 だからなのか、先導するアナウンス役のやる気の無い気の抜けたアナウンス。


 それについて回るファミリー層の心ここに非ずなお追従。


 はっきり言って、本気なのは、数十人に一人の割合で列の間に居る黒服の場違いな男達と、普段なら叱られる大声を盛大に張り上げられる障害者たちだけではなかろうか?


 この集団を知らない人が見たら、大声を出している、でかくておっかない男達と、無言で付いてくる黒服の不気味さがマッチして、触れてはならないアンタッチャブル(えんがちょ)に見えることだろう。


 成程、補助金を貰うまでの体裁を整えるのはいいが、実際仕事場で使うとなると、一緒に仕事をするのを健常者、特に体格で劣る女性達が嫌がるから、組合に押し付けてこういう場面に利用しようという訳か。工場内ではほぼ使い物にならないし。


 実際、工場勤務ってのは、彼らの大半には向かない仕事なのだ。

 

 彼らの多くは、微に入り細に入り一つの仕事の一部分に執着する癖があるのである。


 そう聞くと、たとえば検品業務なんかには向くんじゃないか? とか考える浅はかな経営者なんかも居て、自社のイメージアップなんかも狙って精神障害者を雇い入れるお調子者経営者が、現実と理想のギャップに「こんなはずじゃなかった」と、苦しむ場面なんかもあったと聞く。と、いうか、俺が居た印刷会社はそうやって潰れたんだけどな。


 実際は、彼らが関心を持ち、執着する所といえば、もっと原始的な喰う、寝る、笑う、といった感情面か、本当に些末な小さな部分のことのみ、という事である。

 従って、工場などのライン作業をやらせると、一部の適性のある者を除き、どこかで執着してラインを止めてしまうのである。彼らには全体を見て不備を発見するといった行動は向かないのだ。


 そこのところを間違えて「精神障害者」という人に色眼鏡で見てしまう人の何と多いことか。

 例えば、彼らは難しい話には付いて来れない、と勘違いしている人が多いが、そんな事は無く、トクトクと説明する労を惜しまなければ、かなり難しい話題にも付いて来れる場合があるのである。


 例えば、うちの弟の話であるが、比較的典型的な「精神障害者」で言葉を喋るようになるのは、小学校に入った後からだったが、2歳半の時に「霞が関」を漢字で書けたのである。計算もそこそこ早く、普通の人よりも早く九九を覚えたり、何より驚いたのは、郵政民営化の時に、良い事しか言わない首相の台詞に対して、ズバリと問題点を指摘していた事があったのである。


 まあ、そんな弟も、6年程前に両親共々事故で亡くなっているのであるが。


 閑話休題(俺の個人的事情はともかく)


 タローのような特別な才能を持った存在だって珍しい事ではない筈なのだ。それこそ数百人いれば、一人一人がおんりーわんなのに、色眼鏡と無理解がその可能性を潰している事例の何と多いことか。






 約一時間半の行進の後、解散を宣言された後、またぞろ黒服の数人がタローの所に寄って来た。彼らからも良く見える位置で数人の部下と、じろり! とねめつけてやると、流石に何もせずにすごすご退散していったが、こうなると、帰路が気になり出したのか、キシュウは、


「奥様、やはり先程の与太者が気になります。付きましては、自分にご自宅まで護衛をさせていただけないでしょうか?」


 と、奥さんに言っていたので、俺も便乗して、


「宜しければ自分も、伺わせてください。何も無ければいいのですが、道中で悪さをされれば寝覚めも悪くなりますからね」


 と、言うと


「ありがとうございます。ありがとうございます」


 と、何度もお礼を言われた。


 丁度伝令に来たピノ=コカール伍長に大尉への伝言を頼むと、俺とキシュウは、彼らの家まで二人の護衛として付いて行った。




◇◆◇◆



 結局、道中は何も起こらず。僅か10分足らずでサカモト邸へと到着する。


 その名に相応しい建物かと思いきや、普通のアバルトマンであった。


「是非大尉に御線香だけでも上げさせてください」

 

 と、キシュウが言い出した所、快く上げて貰えたので、室内に入らせて貰った。


 キシュウと共になむなむしていると、タローが、俺に、


「おおおおにいさん。まぐだ、らんあげ、る」


 と、8等身マグダランを描いたスケッチブックを一枚切り取って俺にくれた。キシュウからは、物凄い目つきで羨ましそうに見られたが、俺としては、絵以上の価値をこのスケッチに感じていたので、例えタローの絵のファンだとしても、あげる訳にもいかなかった。

 まあ、奴が奥さんと話している間も、俺がタローの面倒見ていたので文句言われる筋合いも無いのだが。


「これは、メロンとマロンに見せる必要があるな。場合によっては改造の必要もあるかも」


 結果として、この決断は吉と出るのであるが、この時点ではそれが今後に及ぼす影響を知る由も無かった。




◇◆◇◆



 翌日、俺は既に日課となっていた王スポを文章解読していると、二面に昨日のデモの記事が載っていた。

 まぁ、当事者として、現場に居た俺としては、平穏無事な記事になっていると思っていた。

 思っていたのだが、どうやら、いくつかの剣呑な単語がちりばめられている。


 周囲が騒がしい中、小一時間かけて解読してようやく内容の持つ言葉の意味が浸みこんできた。そこには、


「母と子の反戦集会で、参加者が自爆テロ!!」


 と、記されていた。

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