37. 母と子の反戦集会!
「はみこんウォーズがでーるぞー♪」
『『『『『はみこんウォーズがでーるぞー♪』』』』』
「こいつはどえりゃーしみれーしょん♪」
『『『『『こいつはどえりゃーしみれーしょん♪』』』』』
と、こんな感じで俺は「壁」共に混じって絶賛訓練中である。
いよいよ一か月後に迫った栄光の「軍事パレード」
その裏でひっそりと行われる予定の「母と子の反戦集会」での警備に着く為、我が、「ブエナビスタ王都防衛隊デモ警護班」は日夜厳しい訓練を受けているのである。
この集会、何でも、きな臭い噂があるとかで、軍上層部からの特別の指名があったのだとか。もっとも、パレードの方は、0001親衛隊の警護が着くとか。華やかで良い事だが、その裏で軍国主義的なパレードに反対する勢力が、パレードを妨害して自分たちの威を示そうと右翼的な連中を焚き付けて騒乱を計画しているのだとか。どうしてこんな見え見えの計画を実行する勢力の情報を手に入れられたか? というと、ご丁寧にも決起文というのを政府宛てに送ってきているのだとか。なんでまた、悪巧みの予告なんかしてくるのか? 俺にしてみれば理解不能な話である。普通に考えれば、こんな悪巧みは、
「かぁちゃんたちには内緒だぞーっ♪」
『『『『『かぁちゃんたちには内緒だぞーっ♪』』』』』
ってなもんである。つまり、企画してる奴らは悪意の無い「正義の行い」と認識しているからであろうか?
まぁ、正義ってものは、人の数だけある訳であるからして。
「戦争を止めさせる」
って考えも、決して間違ってはいないのである。
ただ、問題は「相手あっての戦」を、攻められる側だけで止められるか? という現実的な問題なのであるが、いずれにせよ、件のデモは、今週末から毎週行われるそうで、暇なことにこんなデモに参加する人達は、毎週参加者を誘いながら拡大していくらしく、パレードの週にはそちらに匹敵する規模に拡大するだろうという予測だとか。何が彼らをしてここまで
「のめりこめる!」
『『『『『のめりこめる!』』』』』
のやら。俺としては理解に苦しむ。
ともあれ、先ずは今週末のデモを無難にやり過ごさねば。それにしても、0011小隊とはニアミスとはいえ、会う事すらままならないのは非常に寂しいものだ。メロンに会いたい。マロンに助言したい事もある。マルティと下世話な話がしたい。レイジィの三下言葉にほっこりしたい。何より、ひなこの飯が食いたい。今となっては僅かな間だったが、あそこが俺がいるべき場所なんだと、本当に思う。
「おーいぇい♡ それじゃあ、訓練終了よ~。 直ちにシャワーを浴びて16:00にブリーフィングルームに集合よーん♡」
このおカマだらけの環境では、余計にそう思ってしまう。くすん。
◇◆◇◆
「それじゃ、週末の警備について、決定事項を伝えるわよ~ まず、第一班、ここは、ノーラ准尉が班長で、総勢15名。次に、ジョセフィーヌが班長の第二班15名、第三班がフランシーン班長の15名。それにあたしのところへの伝令役はいつもどうりコカール伍長ね。おおよその見込みでは約3000人が参加するデモになるわよ。計画的に人員を運用しないと簡単に飲み込まれるわよ。それじゃあ、実際の計画だけど……」
◇◆◇◆
そして、翌々日、遂に俺の警備デビューの日。制服姿でこんな場所に立っていると、向うで警備員のバイトやってた時の事を思い出してしまう。
とはいえ、午前11時現在の所、まだまばらに人がぽつぽつ来ているという程度である。まだ200人程度であろうか? 本当にあと一時間程度で3000も集まるのであろうか? とはいえ、未だまだ仲の良い友達が集まっているだけ、といったほっこりした空気が充満している。
ん? どうやらもめ事が起こっているようだ。端の方で五人程の男達が一人を取り囲んでいる。鑑定!
どうやら、一般人のようだが、どうやら一人を小突き回している。
「ぴぴぴぴぴっ! あー、君達、何か問題でもあったのかね?」
「やべ! 逃げろー」
ばびゅーん! と、あちこちへ別れて逃走する五人の男たち。部下に追跡を命じて俺は被害者の男に近づいて行く。
「一体、何があったんですか?」
と、尋ねたところ、
「あ゛、ありが、とう、ご、ざい、ま、す?」
疑問形で聞かれた。 この瞬間、俺は納得いってしまった。
あ、この人、所謂「精神障害者」だ。
「あの~、何かありましたでしょうか?」
後ろから尋ねられたので振り返ると、彼と同じような耳型の年老いた女性が立っていた。
「いえ、今しがた彼を取り囲んでいた男達が居たので事情を聞こうと思ったところ、逃げ出しましたので」
「ああっ、やっぱり!」
ん? 何か知っているのだろうか?
「彼らは、この子の会社の上役たちでしょう。どうか事を荒立てないようお願いできませんか?」
上役? そんな雰囲気でもなかったようだが。
「わかりました。そもそも、私達に逮捕権はありませんから、ご心配なく。ただ、出来れば少しだけ事情を聞かせてください。彼もね」
「え、ええ。ですが、私はともかく、この子は事情説明など出来ないかと……」
「大丈夫、任せてください。実のところ、私の弟も同じような感じだったので、慣れているのですよ」
「ああ、それなら、どうか宜しくお願いいたします。私も歳を取ってからはこの子の体力が手に余るようになっていて、ほとほと困っておりましたので」
さもありなん。丸々と太った男とやせ細った母親では、本当に大変だったと思う。
そして、俺は、彼女から想像以上にとんでもない事情を聞かされる事となるのだ。
※精神障害
発達上の問題や統合失調症、うつ病や双極性障害といった気分障害や、パニック障害といった不安障害、性機能障害、また薬物依存症といった物質関連障害など様々な症状を呈する状態がある。診断された者は精神障害者と呼ばれる。が、その定義は特に定められている訳ではない。つまりは、精神障害者と診断された者が、精神障害者と呼ばれる事となるのだ。
作者注
この物語は、精神障害者を意図的に貶めたりする意図は全くありません。むしろ、彼らの知性が我々に劣っているという間違った認識を改めて頂きたい、という意図を以て賛否両論ある事を承知の上であえて主題としております。




