30. 神様仏様!
『『『『『『酷い略称で呼ぶんじゃねー!』』』』』』
至極真っ当な怒りによって戦意を高揚させた「豚残党」こと旧アフーガ派閥の12人、いや、俺達の取りこぼしを吸収して今や15人となった一大勢力は、どうやら、指揮してる奴がアフーガよりも頭がいいのか、なかなかどうして、采配が上手い。
「アフーガ様の弔い合戦だ! 戦力は、どうせノーラとサイト、シロの三人だけだ。先ず残りの二人を始末してから、それぞれ各個撃破すれば勝てない相手じゃない!」
うん、完全に見切られてるな。してみると、奴の采配がへぼ過ぎて勝てなかったんじゃなかろうか? 今みたいな攻撃なら、一回位はやられてたかも知れないな。しかし、
「殺してねーぞ!」
と、指揮してる奴に言ってみる。
「当たり前だ! どこまでも残虐非道な奴め! ぼっちゃまは只今皮膚科に入院中だ! お可哀想に、お前の付けた火傷の痛みに怯え、とうとう闘う事に対しトラウマを持つに至った。武門の出であるぼっちゃまがだ! これでは最早死んだも同然。かくなる上は、貴様の首を手土産にぼっちゃまの心を慰めるしかあるまいっ!」
「……いや、訓練だぞ! 首まで取ったら駄目じゃんか」
「あ」
そこまで考えていなかったんだろうか?
と、まあ、そんな事を言いあってるうちに、半包囲をしかけてきているので、こちらも、アファムとハカセを内側に密集隊形を取っている。幸い、銃を主武器にする奴は相手に居ないらしいので、乱戦を仕掛けて一点突破するのが一番確実にダメージを負わせられるだろうな。
「やっちまえー!」
と、言う山賊まがいの敵の大将の声で戦闘が始まった。が、ある一点をハカセが指し示したのを見た俺達は、そこを目がけて一点突破を図る。その近辺に居た三人程の男達は、自分が標的になるとは考えても居なかったのだろう。慌てて武器を構え直すが、時、既に遅し、行掛けの駄賃にサイトとシロにあっさりと討ち死にさせられた。
「ぴっ!」「ぴっ!」「ぴっ!」
審判の笛の音に、指示された三人が戦場を去ると、早くも包囲陣形が綻びを見せ始める。どうやら、思った以上に簡単に勝てそうであるなと、楽観していたが、どうやらそう甘くはなかったようだ。
「突撃開始!」
短い雄叫びと共に、もう一人の貴族軍、えーと、名前なんだっけ?
「ダックスの部隊だ! しまった。行軍速度を見誤った!」
アファムが指摘してくれた。考えてみれば当然か? 何しろ奴らの仲間以外は全員ここに集まってる訳だし。仲間内で戦闘するわけじゃなければ、索敵してここに来るよなあ。
ともあれ、側面を突かれた「豚残党」は大慌てである。一気に乱戦に持ち込まれると当たるを幸いと、ばった、ばった、と打倒される。俺達に一点突破されるまでは圧倒的優位を確信していた副指揮官は、
「こ、こんな、ばかな! ここは、ノーラ組を揃って征伐するのが筋だろう!」
などと、酷い事を言いやがった。それに対するえーと、「ダックス軍」の指揮官たちの台詞は端的だった。
「邪魔なんだよ! てめぇら!」「戦場を乱す愚か者め!」
男女のペアがあっさりと「豚残党」の指揮官を打ち取ってしまい、僅か一分もしないうちに、12人の「豚残党」は二人だけ残して降伏した。その間、俺達も楽をしていたのかというと、さに非ず。次々と襲いかかる「ダックス軍」に対処するため、連戦を強いられていた。なにしろ、奴ら、次々と交代で襲って来ては、こっちが剣を向けるとあっさり撤退し、次の相手が攻撃してくるという、非常に厄介な攻撃をしてくる。しかも、ある程度開けた場所での多対多の乱戦である。
はっきり言って俺のプロレス技に出る幕は無かった。おかげで、下手な剣を振り回しながら近寄った奴に蹴りを入れる程度しか出来なくて、サイトやシロの負担を増やしてしまった。
そして、五分程が経った頃、俺達、「ダックス軍」共に脱落者は居ないものの、明らかに俺達の疲弊度がヤバ目になってきた。ああ、シャ●ロ軍に包囲されたダンク○ガチームの気持ちが良くわかるぜ。
「もう、降伏しろ! お前たちに勝ち目はないぞ!」
そう、俺達に降伏勧告をしてきたダックス(だろうと思う)軍の男指揮官に対し、ハカセは、ある決意をしたようで、俺達に、進言してきた。
「自分が一発逆転の策を使ってみる。ただ、MP、HP共にゼロになるから、自分が生き残る目は無くなるし、敵の中心まで行く必要があるから……」
「ならば、僕がエスコートするよ。こっちは君ら三人が居ればまだ逆転の可能性はあるしね」
そう、言ってアファムが、ハカセと共に突出していく。ハカセは、
「神様、仏様! 何卒、ノーラ達に勝利を!」
そう、一言だけ祈りながら、敵司令部に向かって突撃を開始した。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」
二人の突撃に面喰ったのか、慌てて敵の陣が乱れる。アファムは虎の子のマスケット銃で、二連発すると、ダックスの傍にいた敵兵を二人倒した。そして、ハカセは、ダックスに取りつこうと最接近する。
しかし、
「そうはいくか! 愚か者め!」
女指揮官に捕えられ、あと2m程の所で打ち倒される。
「ふふん。ここでよかったのですよ」
「なに!?」
ハカセの言に不吉なモノを感じた女指揮官は、
「ダックス様、お逃げください」
「遅いっす。ブローアップ!」
ドッカァァァァァァン!!
ハカセを中心に半径10m程の位置に居た者は全てその爆発に巻き込まれた。その中には、勿論ダックスも、そして最後まで護衛していたアファムも居た。
※ ブロウアップ
早い話がウルトラダイナマイトである。ウルトラマンタロウの必殺技で、自らを炎に包み自爆する技。
他に同様の技にメガンテなどがある。




