3.太陽にほえてみたり!
「俺の名は野浦九郎判官義経! プロレスファンだ!」
「ノーラ? クーロン??? ぷろれすはん?」
「で? 俺の晩飯を粗方食っちまった君は?」
「あ! 申し遅れました。うちは、メロン……ミリスです。うさぎさんおいしゅうございました」
お顔を真っ赤に染めてちっちゃな声で名乗る少女は、長い青色の髪と、同じ色の尻尾をふるふるさせながら、食べ物の御礼と、ぺこりと頭を下げた。大きな瞳が俺を上目使いに見上げる様は、捨てられた子犬が遂に拾われた事を喜んでいるような、そんな彼女の様子に萌え魂を刺激された俺は、あの名作「光る女」の名台詞を思わず呟いて前のめりに求婚してしまった。
「俺の嫁さんになってくれ!」
「は?」
「ところで、人里ってどっちに行ったらいいのかな?」
「ええええっ! あんな情熱的な求婚しといて返事する前にスルー!?」
言った後で恥ずかしくなって思わずスルーしちゃったけど、思ったよりノリがいいな。このルックスでこのノリに付いて来れるとか、是非欲しい逸材である。やっぱ何とか騙して、嫁としてスカウトできないだろうか?
「で、人里の方ってどっちに行ったらいいかとかわかる?」
「ごめんなさい~ 実は分からないんやよ。私自身昨日の夜から迷子な訳でして。てへっ!」
てへっ! って、昭和のアイドルかっ! くっそう、かわいいじゃねーか! えせ京都弁がまた、メニアァァァァァァック!! まあ、分からないなら仕方ないが。
「せめてここはどこだか、わかる範囲だけでもいいから教えてくれる?」
「ん~と、ここは、通称【大森林】で通ってる森の中やよ~ この辺は何千年も前からハイエルフさん達が植林してきた森で、自然に極めて近い植生の森なんやけどね~ 百年程前にハイエルフさんたちがこの森を捨てて姿を隠してしもうてからは、隣国のエースコック帝国との間の国境地帯になっちゃって、この50年程は戦争の最前線になってるんやけどね。と、いうか、民間人さんがそれを知らずに入りこめる事もほとんど無いから、こんな所に人が居る事自体めずらしいんやけどね~」
「そ、そんな危ない場所だったんだ!? と、いうか、君は大丈夫なのか?」
「ふふん! まあ、そういう訳やよ。本来こんな所で民間人保護したら、うちのようなエース軍人としては、命に代えてもお守りして、面倒も見てあげなきゃいけない立場なんやで~」
「いやいや、さっきから君は俺の食糧やら食べまくってむしろ面倒見られてる方だと思うんだけど、本当に軍人さんなのか? こんなかわいいのに?」
と、持ち上げてみると、かわいいって所に反応してやたらテンション上げてキャーキャー言ってじたじたした後、きりっ! と切り替えて意外にもきちんとした敬礼をして自己紹介を改めてしてくれた。
「うちはショウワン王国連邦陸軍第0011分隊所属のメロン ミリス一等兵で~す。【大森林】内での通常訓練中に分隊とはぐれて遭難中でした~。たった一人でどうしようかと思っとったけど、頼りがいのあるお仲間さんが出来て心強いわ~ 仲間に救助されるまでの間、よろしゅうお願いしますね~」
って、マジか? このゆる~い女の子、本当に正規の軍人!?
「って、仲間に救助されるまでって、迷子じゃないかっ! 遭難してたんなら、その場所から動かない方が良かったんじゃないの?」
「あ! 確かに教本にもそう書いてありました~! なかなかやりますな~」
「君がやらな過ぎるだけな気がするけどな」
「がび~ん!」
いや、がびーんって? ともあれ、同行する人が出来たのは心強い。ウサギさんは寂しいと死んでしまうのだ。さっきも言ったが。
「じゃあ、改めて、俺は野浦義経。さっきの名乗りは与太だと思って聞き流してくれ。人間の38歳。独身だ!」
「へ?」
「へ? って?」
「38? どう見ても十代だと思うんやけど? それに、人間なんて、伝説上の生き物やで! 君、普通にうちらと同じコポルト族の子やよねぇ? 黒毛に普通に犬耳も付いてるし、もしかして、中二病罹患してる!?」
は? なんですとっ!?
恐る恐る頭頂部を丁寧にまさぐってみる。そういえば、昨日から容姿なんか全く気にしてなかったよなぁ。
そこには、あるはずの無いものが鎮座ましており、ふにふにとした感触がとっても気持ちよかですたい! そして、本来耳の付いてる場所を弄っても感触が無い。と、いうか、完全に無くなっている。それでも聞こえる木々のざわめき。
サーっ! と血の気が引く音がした。おちけつ、いや、おちつけ!
深呼吸を一回。ひっひっふー!
準備が出来た所で一つ行ってみよー!
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
松田U作殉職! かと思う程絶叫した。
んじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
じゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
こりゃー
こりゃー
はぁ~こりゃこりゃ
木霊が【大森林】に響き渡った。
※光る女
武藤敬司主演の映画。あまりと言えばあまりな怪演に著者悶絶。