29. 士官候補生選抜!
「それでは、今日はこれから全員で殺し合いをしてもらいます。と、いっても本当に殺し合いをする訳ではありませんが」
そう、教官は言った。えーと、つまり?
「実は、この教習の中では、貴族出身者及び一部の成績優秀者を、士官候補生として抜擢する制度があります。今年の抜擢者は既に決定していたが、先日、候補者の一人であるアフーガ訓練生が辞退を申し出た為、急遽補欠で候補者を選出することとなった」
えっと、アフーガって、「豚野郎」のことか! あいつ、今日は来てないと思ったら辞退したってのかよ。貴族枠だから、続けてれば成績に関係なく士官になれたのに……勿体ない。
俺は、なんというか、居心地の悪い視線を感じて後ろを振り返る。案の定、奴の取り巻き共から睨まれていたようだ。俺の所為だってのかよ! なんか理不尽である。
「ともあれ、最後の枠を争ってバトルロワイヤルで決着をつけて欲しい。選ばれた者は、貴族なら中尉待遇で、平民でも準尉待遇での実戦配備となる。もっといやらしい事を言えば、一等兵の給料は、月1200ディナムだが、士官ともなれば、月2ダイナー800ディナムとなる。
貴様等! 高給取りを目指して各自奮闘せよ!」
そこまで言われれば、やはり奮闘しなければならないな。こうなりゃ一丁士官目指してみるか!
◇◆◇◆
と、言う訳で訓練場へと移動してきた。
「試験は最終的に一人となるまで続けられる。途中、複数人でグループを作るもよし、最後の一人となるまで隠れているのも良し、基本、何でもありのノールール戦だ。但し、審判の判断には絶対遵守のこと、違反者は即失格となる。範囲はこのA訓練所敷地内。防壁、瓦礫やトラップ類はそのまま撤去せず使用する。それでは各員スタート位置へと移動!」
とりあえず、俺達ノーラ組は、五人集まって他のグループ殲滅を図ることにした。
相手となるのは、例の「豚野郎」残党チーム12名、そして、どっかの貴族組の6名、あとは平民の2~3人グループが幾つかという展開である。
ウゥ――――!! と、サイレンの音が響いてスタートと相成った。
「ノーラ、悪いが俺が最後の一枠貰うぞ!」
サイトが何やら凄い気迫だ。いつもの陽気さを内に秘め、必勝の気迫で俺に宣言する。
「拙者とて、負けるつもりはござらんよ!」
シロもここは確実に取りに来る気だ。ライバルとしては確かに厄介だが、今現在は曲がりなりにも味方である。こうなってくると頼もしいものだ。アファムは、既に権利を有している筈なので、ここは気楽なものだが、それでも無言で闘志を燃やしている所を見るとやる気なのだろう。ハカセは、まぁ外見ではわからんが、同様に何か考えているかも知れん。
「それとて、先ずは当面の敵を片付けてからの事だ!」
「「「「応!」」」」
レスポンスのいい、実に気持ちいい仲間だ。なんか、この時点であいつらに負けてるかな?
それはさておき、敵総数は32。うち、多数派の「豚残党」が12人。これまで接点のなかった貴族組が6人。奴らのモチベーションがどの程度かで多少楽になるか、苦しいか判りそうだが……それと、残りの14人が多数派グループと対抗するために組んできたらそれなりに厄介だろう。全員庶民だし、給料だけでもモチベーションUPには申し分ない理由となるからな。
そう考えると、初戦は、庶民グループが団結する前に各個撃破するのが吉と見た。まあ、「豚残党」は俺一人でも最悪なんとかなりそうだし、無視でいいかな?
「と、いう感じで行こうと思う。貴族組が不気味だが、まぁ、あそこはほぼ当確だからなぁ」
「とも、言いきれないよ。あそこも、貴族の側近の為にもう一つ士官枠が欲しいと思う。結構優秀な二人だから、それに好きに指揮させると厄介かも」
と、意外にもハカセ情報は貴族組を要警戒と判断した。
「ならば、僕は彼らの動向を探っておこうかな? もしも、他と手を組んだら一気に一大勢力になるからね。幸い僕のスキルは未だ公開してないしね」
と、アファムが、鳥型のフィギュアを懐から取り出す。
「行け! ホークアイ!」
彼のスキルは鳥の目で高高度からの情報を入手するもの。これを使っている間は本人はかなり無防備なので、周りが注意する必要があるが、それでも、ライブでの情報はありがたいものだ。
「どうやら、ダックス達の組はやはり平民組を取り込もうとしているな。四人程と接触している。ただ、他のチームとはかなり遠いから、僕らがそれ以外を早く殲滅すればそれ以上は増えないだろうね」
ダックスってのが、例の貴族の名みたいだ。ならば、
「他のグループは大体どっちに行けば会えるかな?」
「西側の壁沿いにやや離れて2人、2人、3人、3人居るね。こっちに向かってきている」
「じゃあ、迎え撃つでゴザルよ!」
まず、迂回しつつ奴らの後方に出て、3人組の一つを音も無く殲滅する。気が付いた時には奴ら、それぞれ俺、サイト、シロに一人ずつ始末された。そして、その位置から、アファムが虎の子の銃で先ず二人組の一つをぱん、ぱん、と撃つ。あっという間に5人が脱落。異変に気が付いた残る二人組が様子を伺いに来た所で、ハカセが何やら毒を撒いている。すると、風に乗って吸い込んだ二人は、何も出来ないまま朦朧としたまま不自然な形で転倒。計7人。僅か10分足らずで殲滅なら良い方だろう。あと三人、と思ったら、
早々に逃げの一手か。すると、出て来た軍勢は、
「豚残党か!」
最多派閥の12人が逃げた3人を招き入れ計15人。こっちの三倍か。厄介だな、と思っていると、
『『『『『『酷い略称で呼ぶんじゃねー!』』』』』』
おこられちった。
※豚野郎、豚残党
はっきり言って実際オークと戦争しているこの社会では相当洒落にならない悪口である。今までも片鱗位は見せていたものの、ノーラの毒舌は相当な物である。怒られるのも無理なし。




