23. 神喚者!
「そう言えば、二人はファミリーネーム、ミリスって名乗ってたよなぁ? あれは何だったんだ?」
「ああ、それはやな、お父さまの実家の名前なんやよ」
「お恥ずかしい話、私は入り婿でね。元々は只の武器商人の出なのだよ。あれは、20年程前、初めて社交界に出入りを許された時、この娘たちの母親に舞踏会で出会ってね。その白百合のような可憐さに一目惚れしてしまったのだよ。幸い彼女の方も私を憎からず思ってくれていたようで、その日のうちに、東屋で愛を囁き合う間柄になったというわけさ」
国王や連隊長は、またか、という感じで我関せずを決め込んでいる様である。国王は出てくる料理に気が行ってるだけかもしれないが。むしろ、娘二人が居心地が悪そうにじたじたしているのだが。まぁ、年頃の娘が親のそういった話を聞かされたらこんな反応を示すしかないだろうな。
「き、貴族でこそないけれど、ミリス家は古くは悪の宰相が国を支配していた頃、ミリシャ、すなわち民兵を支援して悪い宰相を懲らしめる手助けをしたという、由緒正しい家柄なのよ。勿論ワントナックの家もそうだけど、元々の家柄から見たら釣り合う訳が無いのよ。お姉ちゃんに懸想するなんて、分不相応の夢なんて忘れてさっさと王都を出て行ったらいいのだわ!」
ふんす! と鼻息も荒く俺に決断を迫るマロン。だが、俺とて、ようやく寄る辺を見つけた訳であるから、そうそう簡単に諦めるわけにはいかない。
「マロンちゃん、お願いやから、うちとノーラさんの仲を認めてよ~」
いや、メロン。その言い方は火に油だから…… しかし、俺への援軍は意外な所からやって来た。
「レディ マロン。そんなに毛嫌いするほど不相応な事も無いかもしれませんぞ」
と、マロンに声をかけたのは、ブル連隊長であった。
「? どういう事でしょうか? ブルーノおじさま?」
ぶっ! ブルーノおじさま!? 連隊長に向かってその発言はどうなんだ? だが、マロンのそんな暴言にも心を揺らさず丁寧に語り掛ける連隊長。思った以上に器の大きな御仁であるようだ。
「彼のステータスを先程拝見しましたが、どうやら彼の出自に関する重要な情報が記載されていましたぞ。そこには、彼の出自に『神喚者』と書かれておりました」
「「「「ええええええっ!」」」」
テーブルに着いていた0011小隊のメンツがこぞって俺の顔を覗き見る。なんかはずかちー!
「あのー、『神喚者』って、なんですか?」
「ふむ、その反応こそ正に『神喚者』の証明であるな。この世界の者ならば知らぬ者など居る筈もない事であるしな」
国王にまで確信されてしまったようである。ヤバいか? いや、ある意味チャンス、なのか?
「余から説明しよう。そもそも『神喚者』とは……」
「お待たせしました、陛下。先ずはアミューズから、スモークした鱒を昆布で〆て表面だけを炙りました。付け合わせは芽キャベツの酢浸けと白アスパラガスを特製の桃のソースで」
「ほう! これは、見た目にも美しく爽やかな。しかも皮を残した燻製をあえて表面だけ炙るとは……皆も早く頂くが良いぞ!」
完全に皿に心を奪われてるな。だが、ごくりっ! そんなもの見せられてお預けとか、無理に決まってるっ!
早速鱒を一切れナイフで切り分け口の中へ。じゅわっ! 適度に乗った油とスモークチップの香りが口の中に広がるっ! そして、香ばしい皮の旨さ。俺は正直魚の皮は苦手な方なのだが、これはいくらでも食べたいと思わせる逸品だ。
メロンもマロンも例によってこの瞬間は正に双子という感じで揃ってほにゃら~ としている。流石に正式なディナーとあって、はむはむもぐもぐごっきゅん! は、自重しているようだが。他の皆もそれぞれに料理を堪能している。特に国王、って、こいつがはむはむもぐもぐごっきゅん! してるのかよっ!
「うむ。正に至高! だが、未だアミューズなのだ。次の皿が待ち遠しい!」 じたじた
「えーと、陛下?」
「ん? おお! そうであった。『神喚者』であったな。『神喚者』とは、文字通り神に喚ばれた者という意味でな、数十年に一度程度の割合で別の世界から神に呼ばれてこの地へやってくる英傑のことである」
「続きまして前菜です。春筍と牛蒡のキッシュです」
ひなこが、国王の台詞に被らない様配慮しながら、二皿目を配膳する。目の前の御馳走を恨めし気に見る国王相手にお預けを出来る者などここには居る訳も無く、
「陛下が最初おっしゃっていた様に、頂きながらお教え願えればと思います」
そう言うとぱぁぁぁぁぁっ☆☆☆ と、咲き誇るようないい笑顔で食事を再開した。
「うむ、筍のえぐ味とフォンの香りがまた、何とも言えず癖になるっ! この出汁はもしや?」
「はい、陛下。7年物の鰹でとったフォンです。ノラマロ様直伝の味を再現したものです。今日この日には最も相応しい味かと存じます」
「うむ、ひなこよ。見事!」
そして、もう一つの食材である牛蒡も素晴らしい味である。きんぴらに近い味付けではあるが、これは間違いなくご飯ではなくパイ生地に会わせた味付けだ。砂糖の代わりにメープルシロップで味付けしてるのだろうか? 荒く挽いた牛肉と、トッピングされたチーズの味との相性も抜群である。日本人の性として、白米が欲しくなるっ!
だが、透き通るコンソメスープの次に出された三皿目を見た瞬間、俺は更に白米への欲求が渇望となるのを感じた。
「魚料理は鰻の蒲焼でございます」
そう。白い大皿の真ん中にぽつんと一切れ置いてあるだけのそれは、まぎれも無く鰻の蒲焼であった。
添えられているのは山椒ではなく西洋山葵ではあったが。
「ふぉーっ! 続けざまに『神喚者』由来の料理とは。ひなこよ! 余を悶え殺す気かっ!?」
そう言いながらもすっげー顔がにやけている。かくいう俺も、もうさっきからよだれとにやけが止まらない。ここに来るまで食べていたあの料理も旨かったが、今なら判る。本当にありあわせで作った料理だったんだなぁ。
「なぁ、ひなこ。これが『神喚者』由来の料理なんだな?」
「はい。初代『神喚者』と言われるノラマロ様が、伝えたと言われるレシピをひなこクラウドから引っ張り出してきました。次の料理はノーラ様にとってはお待ちかねの逸品ですよ。出来れば鰻を一口だけ残しておいてくださいね」
そう言って一度厨房へと戻るひなこ。マロンメロンは既に腰砕け状態のふにゃふにゃだし、マルティ、レイジィも、涙流しながら恍惚の表情である。なにげにエロい!
「ちょっ! ひなこよ。余はもう全て平らげてしまったではないか!」
「陛下、某の鰻がまだ残っておりますゆえ」
ブル連隊長殿。つくづく苦労人だなぁ。
「ご安心を。陛下の分は別に取り置きしております」
「でかした! ひなこ!」
完全に行動パターンを読まれてるな。ひなこ、恐ろしい子。
そうして出て来た四皿目は……
「お待たせしました。エイジング シャトーブリアンのロティ丼です。メロンちゃんの捜索に出る2週間前に仕込んでいたものです」
その花のような肉の盛り付けは……
「にくみぃ――――――――っ!!」
思わず叫んでしまった。だからって、みんなビクッとし過ぎ!




