21. 鑑定LV9!
八広で「喫茶のらくろ」なる店を発見!
「さて、それじゃあ拝見させていただこうか」
面談室に着席するやいなや、ランカー(兄)は、切り出した。
「こちらです。脇に色々落書きしてるのは俺の里で使ってるローカル文字なので気にしないでください」
と、巻物のようになったスキル表を手渡した。
「ふむ。信じられないことだが、間違いなく全て取得可能となっているようだ。それにしても、今まで見たこともないスキルも多いようだが、何か心当たりが無いかね?」
うーん、一般的なスキルばかりではないとは思っていたが、どう説明したものか?
「俺の故郷に居た戦士のスキルや、かつて見たことのあるスキルが多いようではあります。どれも特殊な状況において使われる技なので他のスキルの補助が必要となるようですね」
「ふむ。例えばどういったものが?」
「例えばこの『ライダーキック』なんかは、恐らくこっちの『ハイジャンプ』と『空中回転』を持っていなければ再現できません。威力自体は恐ろしく強力ではありますが……」
「なるほど、そうなるとスキルの取り方次第では最強と呼べる存在になるし、下手を打つと役に立たないでくの坊になる可能性もありそうだな。これは責任重大であるな」
「ええ、ですから、まず最初に取得したいスキルがあるんですよ」
「ほう、伺っても?」
「それは、『鑑定』です。これを最大レベルで取得したいと思っております」
「ふむ。なかなかどうして最近の若者にしては、地味なスキルの重要性を知っている感心な若者だな」
「いえ、実の所、地元ではこういったスキルのことを大事にするようにという逸話が沢山あるので、普通にそんな考え方をするようになっていったといいますか……」
「ほう。最近では入隊していきなり『ファイヤーボール』を覚えたい、とか言い出す馬鹿者が多いのでな。今度その逸話とやらを教えて欲しいものだな」
「ええ、近いうちに是非。それで、実際にスキルを取得するにはどうすればいいのでしょうか?」
「うむ。それにはまず、一般ステータスでは見ることの出来ない隠しステータスを見ることのできる上級ステータス閲覧権限を持つ鑑定士にステータスを操作してもらうのだ。各々のステータスには取得に必要とされるコストが存在する。そのコストが体内にどれだけ溜まっているのか確認して、そのコストの量の分新たなスキルを取得できるという訳だな」
「なるほど、その鑑定士の方というのは?」
「吾輩だよ。こういった仕事は年配の、それも一度リタイヤした者が受け持つ方が結局うまく行くことが多いのでな。かくいう吾輩も、若いころ一等兵で一度退役して民間に就職した後、定年まで勤めた後に軍に再雇用されてこの仕事をしているのだよ。再雇用の際一階級昇進させてもらえるので年金も有利になるし、吾輩みたいな者をまだ社会に必要だと言ってくれる、生き甲斐をくれる、いい制度だよ」
なるほどねぇ。天下りも相手によりけり、職種によりけりだな。
「無駄口が多かったな。それじゃあ、始めるとするか」
「よろしくお願いします」
「それじゃあ、書類の方はメロン嬢、記入宜しくお願いする。その間に先ずは『鑑定』のスキルを上げられるだけ上げてしまおうか。意外と時間がかかると思うがお付き合い宜しく頼むよ」
「はい。宜しくお願いします」
「書類の方は任されたで~」
頼まれたランカー(兄)が持ってきた水晶の付いた魔道具をいじりながら、俺に水晶に触るよう促す。
俺はこれに触れると体の中を何者かに覗かれているような感覚を感じた。なるほど、『鑑定』によって他人を丸裸にする仕事な訳だから、既に社会からリタイヤした人に任せるのは理に適っているな。
「これは驚いた。きっとコストの方も多く蓄積されているとは思っていたが、正にLV9まで上昇させるだけあるとは」
素晴らしい。LV9まで上昇させられるとは。……ん? そんだけ?
「あのう? 『鑑定』だけLV9に上げるだけしかコスト無いんですか?」
「ああ、端数位は残るが残りで取れるスキルは精々LV1程度が関の山であるな。勿論LVを一つ下げれば残りのコストで色々と取れるであろうが。それで、どうするかね? LV8で止めておくかね?」
「……いいえ。予定通りLV9でお願いします」
「それはよかった。実のところ最高のLV9まで上昇させる機会は多分一度きりだろうからな。一度諦めたら取得機会は二度と来ない所だったのだよ」
うわお! あっぶねーっ!
「それで、一応、このスキルについて説明させて貰って構わないかね?」
「はい。お願いします」
「このスキルは任意の人物、物体、魔物などを鑑定するスキルだ。一度使用する毎にMP1を消費して鑑定が出来る。各LVでの鑑定効果はこのようになる」
曰く、
LV1 鑑定品目の名前が判る
LV2 鑑定品目のステータスを見る事ができる
LV3 特殊効果や独自の習性を暴く
LV4 弱点や破壊方法、隠しステータスを暴く
LV5 鑑定品の制作方法を暴く
LV6 魔物の使役条件を暴く
LV7 鑑定人物の本質を暴く
LV8 鑑定人物のスキルを操作する
LV9 鑑定物のステータスを操作する
と、いうことであった。
「つまり、ランカー上等兵殿はLV8のスキル持ちでありますか?」
「まあな。ここまで育てるのに40年掛かってしまった。君はこの歳で吾輩を超えたのだ。ひとかどの人物に違いないのは確かだよ。それと、君のスキルにはナチュラルに所有しているスキルもあるようだね。絶対無い事ではないが、非常に珍しいことだ。或いは出自が関係しているのかも知れないが、それ以上は吾輩の管轄を超える。多分雲の上の方から何かお達しがあると思うので楽しみにしていなさい」
「ちょっ! 何ですか? 雲の上って!」
こえー! ちょーこえー!
いずれにしても、結構長い時間を費やしてしまったので今日はお開きとなった。ランカー氏は今日は非番だったのに付き合っていただいたのだから文句は言えない。この後細君と食事に行くのだとか、なので、奥様に『ご主人を突然お借りして申し訳ない』と伝言をお願いして事務所を後にした。多分明日か明後日には俺に辞令が出るそうで、そうすれば晴れて軍人生活のスタートである。
さて、時間も夕闇が迫る時間となり、今日の所は0011小隊の隊舎にあるゲストルームに泊まることとなったので、他のみんなと合流することになった。
「それにしても、ほんま凄いわ~ いきなりLV MAXのスキル持ちになるとか、みんな聞いたら腰ぬかすで~」
などとメロンは言っていたが、実際は腰を抜かすのは俺の方だった。到着早々マロンが恐ろしい宣告をしやがった。
「ふふん。あんたもこれで年貢の納め時ね。これから、うちのパパと連隊長、それに国王陛下があんたの取り調べをしにやってくるそうよ! ザマァ!」
エ! いきなり雲の上と、ごたいめ~ん!?




