15. テケ車でテケテケ!
こうして、俺とメロンは、「メロン捜索隊」こと第0011小隊と合流を果たしその保護下に入った。
小柄な軽戦車に荷馬車を引かせ、拠点代わりにメロンを捜索していた彼女らのおかげで復路は道なりに戻るだけとなり、徒歩で一週間程の道程を二日に短縮して首都へと帰還する手筈となっている。
そう、戦車なんてものがあるのである。話によると、地球のエンジンとは違って魔法を媒体とした魔道エンジンとかいうものを利用して走行するのだとか。詳しくは軍事機密ということで教えてはもらえなかったが。ともあれ、複座式の軽戦車と後ろの荷馬車に残り四人が乗って帰還の途についた。ドライバーは予想通りマロンであった。おかげで移動中は命を狙われる事なく心安らかでいられた。
その道程の合間にメロンが行方不明となった経緯についてようやく聞くことが出来た。と、いうか、今の今までこちらの話は聞いて貰っていたのに彼女の事情を聞くのを失念していた事に気が付いた。俺って奴は、つくづくモテる要素の無い男である。
かいつまんで説明するとこういう事である。
【大森林】内での軍事教練で2泊三日のキャンプを張っていた0011小隊は、その二日目の行軍演習時に偶然発見したハイエルフの集落跡地で二組に分かれての紅白戦を行っていた。
メロンとレイジィ、ひなこ組VSマロン、マルティ組での戦闘中、集落内にまだ生きているトラップを発見。魔道機械操作技能を持つマロンがトラップの解除を受け持っていた。しかし、そのトラップ解除に失敗した結果、テレポートの罠が発動、解除を受け持っていたマロンではなく、周囲警戒をしていたメロンがその餌食となり、無作為転移をしてしまったという事である。
転移したメロンは、【大森林】の最深部という極めて危険な地域に転移してしまった。キマイラのような剣呑な魔獣が多数生息しているその地域を単身突破することはほぼ不可能であるため、普通の者ならばほぼ詰みとなる訳であるが、そこは強力な戦力となるマグダランを駆るメロンである。
取りあえず、マグダランを召喚したメロンは、かのゴーレムの肩に乗り、危険地域からの緊急脱出を試みた。丸三日かけて無数の魔獣を狩りつつ最深部を踏破した所で魔力が尽きて行き倒れていた所、香ばしい匂いに誘われて俺と邂逅したということらしい。
ちなみに、マグダランの倒した敵の経験値はメロンには入らないらしい。だから俺と出会うまでの間にレベルアップはしていない。確かに自分で仕留めた猪の経験値でレベルアップしてたっけ。
マグダラン自身はゴーレムらしいが、彼にも意志のようなものがあり、ステータスがあるのだそうだ。で、双子のマロンはそのマグダランの得た経験値を使い、改造をしたり、ステータスをいじることが出来る人材らしい。結果として、彼女の魔改造によって、あのキマイラをも一撃で粉砕できるスーパーロボットになってしまったらしい。デザインは納得いかないが。
「お姉ちゃんの役に立つ人材になりたかったから必死に勉強してマギテックになったのよね~」
とは、マロン(乳無い国産)一等兵の証言である。
そういえば、彼女は、最初こそあのように俺の命を取ろうとする程険悪な感じであったが、メロンが俺をバディとして指名して以来どうやら諦めたのか、対応が普通程度までは軟化した。昨夜のうちに、話し合って説得したのだとかなんとか。
「大丈夫。パパが反対してこいつを亡き者にするまでの間だから」
なんか、剣呑な言葉が聞こえたような気がするが、気の所為だろう。
ともあれ、容姿は極一部を除いてメロンにそっくりな少女、マロン。セミロングの青い髪がまた美しく、メロンよりもキツめの目つきと相まってクールな印象を与える美人さんである。一部の人にとっては御褒美な目つきとすっとんの持ち主で、メロン同様に食いしん坊キャラなのだとか。二人で隊のエンゲル係数を上昇させているらしい。(ひなこ談)しかし、二人の体重差は5kg程あるとか。何が? それは言わぬが花である。
せっかくなので、他の隊員の紹介もしてしまおうか。
現状、この隊の最上位者、マルティ伍長。栗色の癖のあるショートカットがキュートなちっちゃロリっ子。幼女にしか見えないが、優秀な猟兵でスナイパー。何気に軍歴も一番長いらしい。
もっとも、使用する武器や道具に対する要求が厳しすぎるため、他の部隊で煙たがられて左遷同然でこの小隊に配属されたとか。魔道技師のいるこの小隊は彼女にとっても都合が良かったらしく、奇跡的に馬の合ったマロンとバディを組み、実績も向上しているのだとか。とはいえ、他のメンバーは全員下級兵士ばかり。事実上この隊の戦績は、彼女一人で稼いでいる現状だということである。
そして、レイジィ=ストルム一等兵。エルフだと思っていたが、ハーフであるらしい。ただ、容姿はエルフの血が濃く出ている為、なかなかこれまた美形である。しかし、明らかに適性違いの失策という盾騎士をやっている。語尾に「~であります」と、つけて喋る残念ケロロであり、どうにも初対面から「残念」という枕言葉を付けて語りたいツッコミ所のデパートである。ただ、基本性格は明るくていい子なんだよ。盾役をやっているのも、理由があっての事らしいのだが、その点に関してはにこりと笑みながら言葉を濁すのみであった。
最後にひなこ。ひなこはひなこ。禅問答ではなく、ひなこという種族だということ。見た目は普通の人間だが、精霊の一種らしく、現在では生息数が激減してしまった為、絶滅危惧種として保護されている身分だとか。そんな彼女が何故軍人やってるか? といえば、彼女は【家】に憑く。そういう性質を持っている種族である。座敷童とかに近いのだろうか。で、彼女は0011小隊という【家】に憑いて、0011小隊という家族を幸せにするという目的を果たす為にがんばっているのだそうだ。いわば、0011小隊のおかんである。
こんな五人が現在の0011小隊の面々である。あと三人の入隊枠があり、上官の面接があるものの絶賛隊員募集中だそうで、メロンの強烈な「押し」があればほぼ入隊決まりであろうとの事である。
「女性限定じゃないんだ」
と、聞くと、
「……軍は、学校じゃない。必要に応じてフレキシブルに組織を改変出来る」
との答えであった。そういうことなら、もう、メロンのバディをやると決めたのである。ここに草鞋を脱ぐのもいいのではないか? と、思う。
そして、合流翌々日の昼、遂に【大森林】を抜けて、開けた視界の先に、今まで見たことも無い美しい風景を発見して心が高鳴るのを感じた。
「ノーラさん。あれが、うちらの住む首都【ブエナビスタ】や!!」




