11. 涙!
ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
銃弾の雨がガオジーたちオークに向け放たれた。そして、
そして、僅か二秒後には、三つの物言わぬ骸が新たに誕生した。
「どうして、どうしてだ!? 何も殺す必要があったのか? せっかく判り合えた、人なんだぞ! 相手は!」
メロンに向かって俺は怒りを叩きつけるように問い詰めた。俺自身、自分の感情を制御しきれていないのは自覚している。それでも言わずにはいられなかった。
メロンは、物言わぬ骸に向かい、慟哭をもって弔いの祝詞を唱えているように見えた。
メロンは泣いていた。
「幻滅したやろ? うちは、こんな女なんよ。こんなだまし討ちみたいに殺しをするような、酷い女。自分の秘密を守るために、いっしょに闘った相手でも簡単に殺してしまえる。元々敵だからって、簡単に殺しをしてしまえる、そんな女なんやよ」
泣きながら、そんな懺悔をしていた。
「なぁ、ノーラさん。こんなうちの秘密を、一緒に守ってくれへんやろか? 前にも言ったように、バディになって、うちと一緒に地獄の道連れになってもらえへんやろか? 虫のいいこと言ってるのは判ってる。こんな小汚い性格の女が何言ってんだって、自分でも思うんやもん。でも、それでも、うん、って言って欲しいんや。うん、って言ってくれないと、うちは、ノーラさんも殺さなあかん!」
とんでもねぇ告白をさらっとしてきやがった! 俺完全に詰んでるぅ!?
「でも、うちは……うちは……ノーラさんのことを殺したくないっ!」
そう、独白するメロンの顔は、捨てられた子犬のようだった。そう考えたら、手を差し伸べない選択は無い訳で……
でも、そんな彼女だからこそ、これははっきりと聞いておかなければいけない。
「メロン……お前、そんな風に感じているなら、殺したくないならなぜ! 何故! そんな命令に縛られて黙っていやがる!」
今、俺は完全に自分の感情が制御できていない。追い打ちをかけて傷付けることを理解していながら、それでも感情をメロンにぶつける事を止められない。こういう性格がモテない理由だというのも理解できる程度には大人だった筈なんだがな……
「ノーラさん……」
「俺はお前が優しい女の子だって知ってる! 俺みたいな得体の知れない足手まといを、抱え込むのを理解していながら森の中で彷徨っていた俺を保護してくれたのも、目つきの悪いウサギを殺せなくて悶絶してたのも、沢山の骸の山を見て、涙が止まらなかったのも、メロンっていう優しい女の子だ!」
だが、否定するように、ムキになってメロンは俺に言葉を叩きつける。
「うちは、そんな風に言ってもらえるような女の子やないっ! 本当は利己的で、残酷で、今までにも、沢山敵を殺しとるっ! ガオジーが言ってたオークの骸なぁ。あれ、一年前に殺したの、ほとんどうちなんや! この村の人たちだって、うちが、一年前にもっと早く、間に合っていれば死なずに済んだ命なのに……そう思ったら涙が止まらなかったんや。言ってしまえば、うちは、この国の為の【兵器】や! だから、この国の人を守れないなら存在意義がないって、常に言われて育ってきたんや! それなのに、いつもいつも間に合わへん。なんの為の兵器なんやら! 結果として敵も味方も殺してしまうポンコツや! それ以上でも、それ以下でもあらへん! 結果的にはうちが関わった方が常に被害が大きくなっとる。敵も、味方も、うちの所為でみ~んな死んでしまうや!!」
そう言ってメロンは涙を流しながら力無く笑みを浮かべた。
! 俺は気づいてしまった。最初から、判っていたんだと。この娘の中にある絶望と諦観が、彼女のパーソナリティを形作っているピースであることを。
そうだ。彼女はこんなにも若くてきれいで、はつらつとして、人懐っこい感じを常に作っていた。なのに、俺がいた川崎のドヤ街に住んでいた同室のジジイ共のように、全てを諦めたような目をしていた。
そして、それはあそこを逃げ出した時の俺と同じ目だったんだ。
もしかすると、ここへ来た時の俺もおんなじような目だったのかも知れない。深刻度はメロンの方がずっと上だったかも知れないが。
「なぁ、だったら、どうして最初に出会った時に俺を殺してしまわなかったんだ? ここまでの間だって、いくらでもチャンスはあったはずだ! 夜になると、二人でくっついて一緒のポンチョの中で震えてたじゃないか! どうしてあの時、殺してしまわなかったんだ!? いや、殺すなんて手間かけるまでも無い。ほっとけば良かったはずだ!」
「それは……」
「それは?」
「うちの事を知らない人に、甘えようとしてたんやろうなぁ。ぐすっ、これでも、うちは都では有名人やから、うちのことを知らない人と0から良い関係をもちたくて、いいえ、無条件で甘えられる人を求めて飢えてたんやと思う。訓練中にハイエルフさんのトラップに嵌って森の奥地に転移して、丸々3日たった一人で誰かを求めて彷徨っていたんや。森の中で妄想しとったんやで。王子様、うちを早くみつけて! って。
そんな中で初めて会った人がうちと同じような目をしてた。ビビッときたんやよ。ああ、この人と一緒ならどんな地獄の中でも、笑って、手を繋いで、歩いて行けるかもって。きっと、生まれて初めて【一目惚れ】したんやわ! そんで、その……」
うっわーっ! チョーはずかちー! 俺、今、どんな顔して聞いてるんだろ!?
そんで、その、って、もじもじと最後を濁した所為で彼女の気持ちがストレートに伝わってくる。
あっちぃ! やべぇー! すんげーかわいいっ! 今、まともに顔みせられねー!
俺は、メロンを抱きしめると、顔が見えないように頬どうしをくっつけて、メロンの垂れてへにょんとなっている耳に向かって語り掛けた。
「わかった。それ以上、自分を貶めるような事を言うな! 俺も、本当は誰かと一緒に居たかった。おまえさえ良ければ、俺も一緒に居たい。自慢じゃないが、俺だって寂しいと死んじまうウサギさんなんだぞ!」
「ふふっ、あんだけウサギさん殺しておいて仲間呼ばわりされたら何か言いたくて化けて出るかもね」
茶化すなよ、と一言言ってから俺はメロンの髪を撫でつつ続きを決心して言う。
「そんなウサギさん二人でも、支え合えば何とか生きていける! そんで、笑いあって、手を繋いで、一緒に歩いて行きたい。俺の腹も決まったぞ! 俺はおまえを守る! 軍だろうが、戦場だろうが、一緒に行っておまえを守る! おまえを泣かすような全て、一緒に背負ってやる! だから、もう、何も心配するな!!」
「あ、ありがとう。ノーラさん。大好き!」
そうして、しばらく二人で抱き合って泣いた。
その後、二人して余りの恥ずかしさに悶絶したのは、チョー内緒だ。




