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●現れた恋愛の幕開けの巻 その1

 「こんばんは」


 数ヵ月後、最寄駅の入口で肩を叩かれて振り向いた先に居たのは、笑顔を浮かべた彼だった。

 驚きながらも、無視をするのも変な気がして、対応する。


 「こんばんは。今お帰りですか?」

 「まぁ、そうです。……最近、この辺りではお見かけしないですね」

 「え? ああ、ちょっと仕事が忙しくて歩き回る暇もなくて」


 嘘だった。実は、行動範囲をちょっとだけ変えたのだ。2つ先の駅前付近に。

 だって、関わったら好きになりそうな気がしたから「見るだけに徹していた」のに、関わってしまったら、もう二度と見つめているだけなんて出来なくて。けれど、どうこうするような行動力もなくて。


 (しかも、見ていることが相手にばれているなんて、恥ずかしくて今まで通りにこっそり顔を拝むなんて出来るわけない)


 なんだかんだ範囲内での行動が彼とよく被るのだ。きっと普通に生活していても1週間に最低1回は顔を合わせるような気もした。


 (だから、顔を探さなくても良いように、と思って)


 彼からすれば、視線がひとつ減ったところで、気にするようなものではないと考えていたのだけど、さすがにあれからすぐに見かけなくなれば、不自然だったかと思う。

 それでも、上手く誤魔化す受け答えをしたと思ったのに。

 「先週末、2つ先の駅前付近のカフェで見かけましたよ」

 「?!」

 「一昨日は、2つ先の駅前付近の映画館で見かけました。ちょうど上映後にあなたが入ってくるところだったので、声かけられなかったんですが」

 「あ、あの?」

 「この前は、2つ先の駅前付近で信号待ちしながら空を見上げてるのを反対側の歩道から見てました。視線があまりにもおかしな方向を向いているから、どうしたのかと思ったら、虹が出ていて」

 「…………」

 「行動範囲、本当に似てるんですよね。避けられてるのかなと思って、じゃ、俺も万が一にも会わないように行動範囲を変えようと思ったら、変えた行動範囲が被っていたみたいで、頻繁に見かけるんですよ。あなたのこと」

 

 いないものだと思って、探しもしなかった。

 むしろ、似たような人がいても、気のせいだと思うようにしていた。

 (だって、恋愛は面倒くさい。見てるだけでよかったのに)

 よほど、困った顔をしていたのかもしれない。自信の塊のような彼が、眉を下げて、それでも追い詰めるようにわたしをじっと見つめたまま言葉を続ける。


 「もう、俺は、あなたの『虹』のような存在ではなくなった?」

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