●追い込まれた彼女の暴走の巻 その3
意外だった。でも、すぐにそういえばと思い出す。
彼は初めてわたしを問い詰めたときも怒っていたけれど、こうも言っていた『話くらいはきいてやろうかと思って』と。
しばらく沈黙が続いて、彼女が呟いたのはこんな言葉だった。
「じゃぁ。日を改めます。頭、ちょっと冷やして考えてからにしたい」
ふらりと踵を返してさっさと去っていく彼女に、ぽかんとする。
(え? 何がどうなったの??)
ギャラリーも、突然の彼女の変わり様に、唖然としている。
その隙に、とんずらしようという魂胆なのか、「とりあえず、歩いて。ここ離れるから」と、まだ状況が良く分かっていないわたしの腕を取ると、彼は足早に歩き出した。
そして、そのまま、無言で歩き続けると、ふと路地裏に入ったあたりで彼が足を止め、こちらに向かって深々と頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ。……良かったですね、と言っていいんでしょうか?」
「たぶん、大丈夫です。途中から、話を聞いてくれそうに見えたので。最初は、思わず怒鳴りそうになったけど、顔が見えて雰囲気が分かれば、勢いで突っ走ってるのか、話が通じない人間なのかくらいは分かります」
急に、敬語で話しかけられると、戸惑う。
彼の中でも、どう対応したらいいのか迷う立場にいるのだろう。
距離が出来る分、余裕は作れるけれど、勢いがなくなるせいか、どのタイミングで話を切ろうかお互いに探ってる感があって、なんだか心地悪い。
「じゃ、わたし帰るので」
……ここは、大人なわたしが切り出すのが道理だろうと口を開くと、彼はホッとしたように再度頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
それに軽く会釈をして、帰る方向へと足を進める。
ああ、これで話することもなくなるんだ、と思う。
(女子高校生との話し合い、上手く行くといいなぁ)
一瞬、去っていった高校生の顔を思い出す。
最近の子は、可愛い子が多いと思っていたけれど、例外なく、さっきの子も可愛かった。
肌もちもち、髪つやつや。何より、若い。
……羨ましく思った自分が、ちょっと切なくなったものの、今度こそ、接点はなくなるのだと思っていたのに。