●追い込まれた彼女の暴走の巻 その2
(……まさか、あなたと勘違いされて、責められてましたとは言えないよなぁ)
どうしたものかと彼を見上げ、ぎょっとする。
その顔つきは、前回見た「警察に任せたら、自分で制裁が加えられないのが我慢できない」という顔だった。
(いやいやいやいやいや、相手狂っちゃってるけど、制服着てるよ?! 女子高校生ってやつじゃないの??)
慌てて、ガシッと腕を掴むと、彼が一瞬こちらに目を向ける。
(お、落ち着こう! ほら、ちょっと思い込みの激しい高校生v って感じでしょ? 思春期にありがちな感じの! 大人の粘着質な好意とは似てるけれどちょっと違うような気がしない??)
(ふざけんな。逐一行動監視される程度ならまだしも、干渉されんのは我慢ならないんだよ!)
(ちょーっと、アプローチの方法間違っちゃっただけかもしれないよ! 落ち着かせて話を聞く方が得策だってば!)
(……それは、そうかもしれないけど)
口にしないものの、そんな会話がアイコンタクトで交わされてる間に、彼女はふらりふらりと近づいてくる。
「わたしの方が、ずっと好きなのに」
「わたしの方が、ずっと見てたのに」
「わたしの方が…………」
うわごとのように繰り返す彼女が、なんだかいたたまれなくなってくる。
(本気で好きなだけなんだよね。100歩譲って、好意的に考えて)
一瞬、彼女に意識を向けていると、掴んでいた腕を振りほどかれる。
それにハッと顔を上げると、彼はわたしを安心させるというよりも、自分を落ち着かせるように、わたしの肩をぽんぽんと叩いた。
とりあえず、落ち着こうという気持ちはあるらしい。
(……まぁ、険呑な雰囲気は薄まってるから、大丈夫かな)
暴走したら、相手を陥落させるまで罵りそうな勢いは治まったようなので、ちょっと離れて様子を伺う。
彼女も、彼が自分の方を向いたことで、足を止める。
「悪いけど、俺はあんたのこと好きじゃない」
(ええー? いきなりそこ? そこいっちゃう??)
あまりにも直球ストレートな口切に、おろおろと彼女を見ると、彼女は悲しそうに顔を歪ませた。
「どうして?」
こんなに好きなのに、どうして。
それは、彼女の単純な疑問だ。
「あんたは、俺を見てないから。自分しか見てないから」
(ああ、確かに)
彼女の意識は、「自分」に振り向いてくれない彼を見ていて、どうして「彼」がそう思うのかは抜け落ちている。
(まさに、恋に恋して空回り、みたいな)
「恋愛したいなら、ちゃんと最初に俺の前に姿現せよ。見てるだけなら、見てるだけに徹しろ。迷惑だ」
ちょっときつい言い方かもしれない。
けれど、自分から向き合おうとしない人まで相手にしていられないんだろう。彼は。
(うん。きっとそうだ。アプローチしてくる女の人、たくさんいそうだし)
「……向き合ったら、わたしを見てくれるの?」
「向き合ったからって、好きになれるわけじゃないけれどな、少なくとも、話くらいはしてやるよ。面倒だけど、そうじゃないとわかりあえるもんもわかりあえないって知ってるから」
「…………無視しない? 電話や手紙を無視したみたいに」
「一方的に送りつけたり、人の居ない時間に電話してきたりするんじゃなければちゃんと読んだし、電話にも出たよ。ちゃんとあんたが自分のことを名乗ったり、話をしようという気持ちがあったならの話だけど」