●勘違いで追い込まれるの巻 その3
「? 訳わかんないんだけど」
「お天気雨になると、虹探しません? 雨雲と空の境目を探したり、太陽がこっちにあるから、虹が出るならこっちかなぁ、とかって。で、そのとおりに虹が見えたら、見えただけで嬉しいし幸せな気分になるというか。それと一緒で、見かけるだけで、つい勝手に幸せになってたんですけど。……よく考えたら、自分の知らないところで誰かが自分を探してるって、怖いですね。ごめんなさい」
口にしながら、似合わないことを言っていることに気が付いて、俯く。
けれど、相手は全く気にしていない様子で、別にいいよ、とかなり投げやりに答えを返してきた。
「それくらいなら、慣れてるから」
(……あ、そーですか)
その一言で、彼がかなりモテることに慣れていることがわかる。
っていうか、わたしのような行動を取ってる子は何人も居るってことだろう。
その中で、一番ストーカーみたいな行動を取ってると勘違いされる要素がわたしにあったから、目に付いただけなんだと思う。
(しかも、わたしばっちり老け顔だしねぇ)
20代前半までは「大人っぽい」と称された顔立ちが、だたの老け顔になる20代後半。50代向けのアンチエイジングのアンケートを渡されて、ショックを受けたのはついこの間だ。
最近、友人がバタバタと結婚して、独りで過ごしている寂しさも、思いつめてそうな雰囲気を感じさせていたかもしれない。
「じゃ、まぁ、誤解も解けたってことで、いいですか?」
まだ落ち込んだままの青年に声をかける。
「え? あ、ああ。本当に、すみませんでした」
最後の最後で敬語になったのは、わたしの歳を考慮したのかもしれない。
「いえ。じゃぁ、失礼します」
わたしもその敬語を聞いた途端、道端で道のりを尋ねられただけのような距離を感じて、サッと感情を塗り替える。
(ここから、何かが始まるなんて、妄想の世界だけの出来事よねぇ)
もし、ここにいるのがわたしじゃなければ、そういうこともありえるのかもしれないけど。
するりと踵を返して、駅に向かう。
しばらくは、行動範囲も別の場所に移した方がいいかなぁ、とか、そういうことを考えていたのに。
「…………」
家のポストに投げ込まれた『彼と別れて』『彼と別れて』『彼と別れて』という手紙。
最初は、彼と話をした次の日に。またその翌日に。そして、かれこれ10日間ほど続いている手紙攻撃。
ああ、これが彼を悩ませているストーカーかと思いながらも、あの日の出来事を観察しているなら、彼女じゃないことくらいすぐにわかるはずだと思って、あまり気にしていなかった。
そのうち止むだろう、と放っておいた矢先に届いた次の手紙の内容に、わたしは思わず絶句した。