●勘違いで追い込まれるの巻 その2
「先週の水曜日、輸入ショップに居たのは?」
「友人が、あそこの雑貨屋さんで仕入れているキャラクターが好きなのでプレゼントを買おうと思って。わたしも、あなたを見かけてます。確かレジが終わってすぐにお店を出て行くとこに、わたしが入っていったんですよね」
(そのときは、ラッキーとしか思わなかったんだけど)
用事もないのにふらりと立ち寄るような店じゃないから、つけられたと思ってもおかしくないかもしれない。
「金曜日に合鍵を頼んだ後に、店員に声をかけていたのは?」
「合鍵? ……ああ、鍵を頼んでいたんですね。わたしは、修理に出した靴を取りに行ったんです。あそこ、靴の修理もしてるでしょう? 常連なんです。靴底ってすぐにダメになっちゃうから」
(これまた、わたしはラッキーくらいにしか思ってなかったんだけど)
鍵なんて頼んだ後に声かけている姿を見れば、確かに気になるかもしれない。怪しいと思っていれば余計に。
「今週月曜日の夜に、ジムの前で待っていたのは?」
「? 今週の月曜は、さっき話した友人にプレゼントを渡してご飯をご馳走になって家に帰っただけですけど」
「…………友人の家って、どこにあんの?」
「空ヶ丘です。駅まで歩くと遠いからバスに乗って帰ったんですけど。あ、ほら、行列の出来るシュークリーム屋さんの入っているビルの辺りに友人の家があって」
そこまで言うと、彼は諦めたようにため息を付いた。
「そのシュークリーム屋さんの入っているビルの3階にジムがあるんだ。……そっか、離れたところに立ってたのは、バスを待ってたからだったのか」
何かに納得したかのような声に、ああ、とわたしも頷く。
「…………バス、しばらく来なかったから、待ち伏せしてるように見えたかもしれないですけど。」
(……最初の2つは、わたしも相手がいることに気付いていたけど、最後のは全くの偶然なんだけどなぁ)
自分でも、行動パターンが似ているだけにしては、偶然が多すぎるような気もするけど。
まだ、信じてもらえないかと、下から恐る恐る視線を合わせようとすると、いきなり彼はしゃがみこんで顔の半分を手で覆った。
「……悪い。完全に、人違いだ」
明らかに、落ち込んだ様子の彼に、理由もなく慌てる。
「いや、わたしの話だけで完全に人違いするのも、どうかと……」
「じゃ、今からあんたの妹とか、友人にアリバイ確認してもいい?」
「え? それはもちろん」
「即答するってことは、本当ってことだろ。受け答えに不自然さもないし」
はぁーっと、ため息をついて、ちくしょーと呟く姿に、何か慰める言葉はないかと探す。
(わたし、そういうの得意じゃないんだけど)
「まぁ、わたしも、カッコイイなぁって、見かける度に思っていたし、何度か見かけた場所に行くときには、いないかなぁっていつもより周囲を見渡したりしてたから、勘違いされてもしょうがないかなって思うし」
「何それ。恋愛は面倒くさいんじゃなかったの?」
語外に、俺を好きってことじゃないのか、という言葉が見え隠れする。
随分、自信家だと思うけれど、この顔じゃ仕方がないかもしれない。
「恋愛は面倒くさいですよ。でも、あなたは、虹? みたいな存在で……」
さくっと、気負わずに読める作品を目指して書きました。
昼・夜のそれぞれ12時に更新の予定でしたが、一気にアップしちゃいました。