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異世界旅行は落ち着かない  作者: 多真樹
第二部 少年時代 一章 大平原の獣人
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第25話 男の友情?(獣人愛好会編)

 陸大亀の上はいままでになく獣臭くなってしまった。

 千人も乗らないので、幼い獣人や年老いた獣人、傷ついた獣人や、それらを世話する女獣人を背に乗せ、若く逞しい獣人は陸大亀の周囲を護るように移動した。


「みゃーみゃー」

「うるぅぅぅぅ」

「きゅん! きゅん!」


 幼い獣人は猫ちゃんと同じくらいの子から、マリノアくらいまでいる。

 種類も、解放して増やすたびに増えていく気がする。

 ここは獣人の一大テーマパークではないだろうか。

 陸大亀の上は、ちょっとした獣人の保育園になっている。


 マリノアとミル姉さんが保母さんみたいになっていた。

 ミル姉さんの包容力と慈愛に満ちた眼差し、ハンパねえ……。


 横になると幼い獣人たちが代わる代わる擦り寄ってきて、とても幸福感がある。

 ああ、俺、獣人大好きです……。


 猫ちゃんは小さい獣人たちと一日中遊んでいるが、ときどき俺の元に駆け寄ってきては、頭を擦り付けてきた。

 俺はボンボン公爵との会議中であったり、獣人たちに身体強化術を習得させる訓練中だったりもしたが、猫ちゃんはお構いなしである。

 話している最中に頬にグリグリと頭を押し付けられても、いや、気持ちいいんだけど、猫耳の肌触りとか最高に気持ちいいんだけどさ! おいおいちょっと待ってくれよと思うときもあるわけで。


 ベタベタしてくると思ったら、すぐまた何処かに行ってしまう。

 こっちが触りたくなった頃に満足してしまうため、非常に欲求不満だ。

 さすがは猫である。

 気ままに生きている。


「あ、あの……触りたいのであれば、わたしでも……」

「え? いいの?」

「やっぱりダメです」


 マリノアはツンデレか。


 獣人が増えたので何か暇つぶしを作ろうと思い立ち、小さい獣人たち用に、陸大亀の背中の甲羅を加工して滑り台を作った。

 頭の上あたりからスタートして、甲羅を時計回りに一周し、左前足のあたりから階段で登って来られるようになっている。


 落ちたら危険なのは甲羅の上にいる以上変わらない。

 彼ら獣人族は基本性能が人族よりも高いので、それほど気にしてはいない。

 猫ちゃんも三日に一度は落ちかけているが、なんとかなっている。

 そこはまぁ、自己責任ということで。


 これが思いのほか好評で、滑り台の終着点にチビ獣人たちが団子状に渋滞することがしばしば起きた。

 猫ちゃんも朝から晩まで遊んでいる始末である。

 おかげで作成直後は俺へのコミュニケーションがなくなった。

 調子いいなと思う。


 ノコン将軍を解放し、あれから平原を縦横無尽に移動しているうちにふた月が過ぎていた。

 俺がこの平原に飛ばされてから、四か月が過ぎたことになる。

 そろそろ潮時かな、と思わなくもない。


 あらかた東軍を食い尽くしたところで、公爵の領地がある北側に向かいつつ、東国軍を撃破していく予定だ。

 たぶん、すべての獣人を解放するには至らない。

 もっと何年も本腰を据えて計画する必要があるだろう。

 とりあえず千人以上の獣人を東国軍の従軍奴隷から解放した。

 いまはそれで満足しなければならない。


 彼らの中で、故郷に戻りたいものには、ボンボン公爵からいろいろ用意される。

 そのために一旦、ボンボン公爵の領地に入る必要があった。

 獣人の故郷へは、東国を横断する形で移動するので、また東国に拉致されるかもしれないという不安はあった。

 ならば我が領地で! とボンボン公爵は、獣人専用の村を作ると息巻いている。

 故郷に帰る者、新天地の新興村に入る者、戦場が好きでボンボン公爵の軍に入る者。

 療養を必要とする者や幼い獣人は、すべて領内の新興村に入れる予定だと言っていた。

 さまざまな受け入れ窓口を、ボンボン公爵は用意していた。

 そろそろ終わりも近いようだ。


 俺は兼ねてから考えていたことをボンボン公爵に相談することにした。

 西国に獣人を伴って、妹に会うため村を目指すという話だ。


「獣人を連れたままでは街にも入れますまい。たとえ街に入れたとしても、巡回兵に見つかれば拘束を余儀無くされるでありますぞ」

「なんでこの国って人族至上主義なんですか? おかしくないですか?」

「一度侵略に遭ったのですぞ。あわや国の滅亡という国の存亡を経験して、国王が人族以外を拒んだのですぞ」

「公爵はそれに真っ向から反対してるわけですけど……」

「もう二百年も昔のことでありますからな。法も改正して形骸化しておりますので、我輩なんかは国境付近の辺境に逃げることで非難の声をやり過ごしておりますぞ」

「それでもいい目では見られないと思うんだけど」

「我輩は変わり者で通っておりますれば」


 獣人を愛してやまない変人か。

 蔑視されることを覚悟なら、なんでもできるよねってことか。


「それにしてもアル殿は羨ましい。青豹種の猫族と灰狼種の犬族を連れてられているとは。レア中のレアではありませんか。全くもって羨ましい!」


 あ、こいつとはこれ以上仲良くできないな、と思う一線があるなら、今まさに俺はボンボン公爵に対し、一線を引いた。

 猫ちゃんとマリノアはすでに身内も同然である。

 レアとか言われたくない。

 いや、ちょっとはさ、コレクターの血がざわざわするけどさ。

 でもそーいうんじゃないんで。


「あ、もういいです。そういう話はお腹いっぱいです」

「さようでありますか?」


 残念そうにされても。

 心は古式ゆかしい日本人なんで。

 言わないし顔にも出さないけどさ。

 ようするに、ドン引いた。

 東国の貴族たちとは別の意味で危険を感じた。


 俺が魔剣をコレクションしたいと思っているように、ボンボンは獣人をコレクションしたいと思っているのだろうか。

 あかんて。

 ボンボンを見た感じ、インドアでアニメが大好きな大きいお友達の雰囲気がある。

 獣人たちと並んで酒飲み勝負をするくらいの豪快さもあるが。


 鑑賞して愛でるだけだろうか。

 オイタとかしないのだろうか。


「ちなみに獣人には手を出してるの?」

「当然ですぞ。この国の法律で亜人は正妻にはできませんので、愛人として三人は囲っておりますぞ」

「それハーレムって言うんじゃ……」


 俺がやりたいことをすでに実現していた。

 なんだか負けた気分……。

 じゃなくて、普通に獣人好きが性欲に回っている。


「息子が三人と、娘が四人おりますが、いずれも獣人のハーフですぞ!」

「本妻置いてけぼりじゃん」


 ボンボンは痛いところを突かれたような顔をして、横を向いた。


「……食指が動かない時もあるのですぞ」


 勃たないんだろうな。

 何がとは言わない。

 言っているようなものだが、男としての矜恃がそこにはある。


 でもまあ、獣人相手にはお盛んなのだから、生粋の獣人愛好家なのだろう。

 それが行き過ぎて、東国から奴隷解放させるまでに彼を突き動かしている。

 彼がハーレム増強のために獣人解放を狙っているのだとしたら、ちょっと待てとストップをかけざるを得まい。

 結局はそこかと。


「獣人とのハーフは、基本的に母親側の血が色濃く出るようでしてな、我輩の子供たちもみんな耳と尻尾が生えておりますぞ」


 ちょっと羨ましい。

 にゃーにゃー鳴いて擦り寄ってくる娘……ありだな。


「ちなみに、公爵にとって獣人とは?」


 先ほどまで笑顔を絶やさなかったボンボンの顔が、キリッと鋭くなった。

 心なしか眉が太く鋭角になり、彫りが深くなったような錯覚を受ける。

 ボンボンとしばし無言で見つめ合う。


「愛でるために神がこの地に遣わしたもうた天使たちですぞ」


 しばし見つめ合う。

 そしてどちらともなくニヤリと笑った。

 そして、ガッと手を結ぶ。

 先ほどはえんがちょと思ったが、彼とは認識に重なる部分が多い。


「理解者に会えたようで嬉しいですよ」

「我輩、アル殿を一目見たときにピンときていましたぞ。獣人を愛する者に悪い人間はいないのでありますぞ」

「俺だって何から何まで助けてもらって、公爵には本当に感謝してるんですから」

「友情は、見返りを求めないものでありますぞ」


 ボンボン公爵がとてもいい顔をした。

 なんというか、友達として誇らしいというか。

 感動して胸が熱くなったね。


「猫ちゃんをレア扱いして気持ち悪いなこのデブとか思ってごめんなさい」

「我輩、き、気にしないですぞ……獣人を愛する同志ならば、わかっていただけると思ってたのですぞ」


 冷や汗を掻きつつ、ボンボン公爵は頷いている。

 まあ、猫ちゃんとマリノアに手を出そうとしたら、制裁が待っているからな。

 そこら辺は同志であろうと、越えてはいけない一線だ。

 容赦しないぞ?

友情は、見返りを求めない。

好きな言葉です。有言実行したいものですなあ~

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