第42話 掘り出し物
飛ぶと言っても、足の裏にジェットエンジンをつけて空を駆け抜けるようなものだ。
一歩一歩がとにかく大きいのはご愛嬌。
重力で落ちてくれば、爆発的な推進力をその都度生み出すのだ。
止まるときにちょっとコツがいる。
これで失敗して、何度も錐もみに転がったのは記憶に新しい。
最初のほうは足の骨を折ったり、岩に体を打ち付けて重傷を負ったりもしたが、それも治癒魔術の訓練と思えば笑って忘れられる。
俺ってホント自分を虐めるの好きだよな。
潜在的なマゾかもしれない……。
冬の身を切るような寒さを、火魔術と風魔術を同時展開して外気との間に壁を作ることで乗り切った。
足裏のジェットエンジン魔術との同時展開なので、かなり集中力を要した。
三時間ほどの空の旅。
空は曇っていたおかげで、最速で移動しても鳥か何かに間違われるだけで騒がれないだろう。
高度五百メートルくらいを維持すればいいかなと、適当に飛んでいる。
最初は何の頼りもない飛行は震えるほど怖かった。
何度か師匠と練習すると、直に慣れた。
いまではスカイダイビングの楽しさを知る、ひとりのバードマンである。
広大な空間をひとり占めしているような感覚が堪らないね。
ごっそりと魔力を使ったが、片道切符にならずに済みそうだった。
魔力槽は師匠との訓練の間に、確実に容量を拡大してきている。
町の手前で着地し、人目に触れていないことを確認して町に入る。
通行証は前回で作ってある。
番兵に通行証を見せてすり抜ける。
番兵を鑑定スキルで覗いてみると、
名前 / トール
種族 / 人間族
性別 / 男
年齢 / 三十六歳
職業 / 村人、下級兵士、裁縫師
もっと才能とかスキル、数字化したステータスが見られると面白いのだが、精霊はそこまで便利ではないみたいだ。
しかしトール、男だが裁縫に才能があるらしい。
番兵などやらずに才能を活かせばいいのに。
もしくは自身の才能に気づけないのかもしれない。
天職というやつだ。
そういうこともあるのかもしれない。
町は冬支度の最後の賑わいを見せていた。
俺はなんとか、行商が町から出て行く前に滑り込めたようだ。
早速武器の露店を見て回る。
剣が籠いっぱいに突っ込まれている。
そのほとんどが見た目通りのなまくら剣だ。
武器・剣 / 鉄の剣-2
属性 / なし
スキル / なし 錆が浮いて切れ味の落ちた剣。
武器・剣 / 鋼の剣-3
属性 / なし
スキル / なし 刃が潰れて切れなくなった剣。
いや、誰もいらないでしょ。こんな剣。
値段を見ると一本につき銅貨十枚。
近くの露店で買った鳥串焼きが一本銅貨二枚だから、破格の値段というのがわかる。
しかしここまで酷いと、溶かして打ち直せないくらいなのだろう。
探す時間はたっぷりある。
根気よく行こう。
八歳の少年が身の丈に合わない剣を矯めつ眇めつ見ている姿を、店主は冷かしだと思ってるのか近づいてこない。
俺としても好都合なので、存分に鑑定させてもらう。
武器・槍 / 鉄の槍
属性 / 土
スキル / 丈夫 破損しにくい。
「お」
今日初めて見る属性付きの武器だ。
何の変哲もない槍だが、他と比べると心なしか綺麗だ。
三件目にしてようやく鑑定に引っ掛かる。
銀貨五枚。
ダメだ。
格安だが、それなりに値はしている。
叩き売りの中で奇跡の一本を見つけるのが今日の趣旨だ。
四軒目、五軒目と回るうち、辛気臭い店構えの露店を見つけた。
店主は顔を半分以上フードで隠し、奥の椅子に腰かけて動かない。
商売する気がないのだろうか。
興味を惹かれて武器を鑑定してみる。
「な!」
思わず声が出た。
武器・剣 / 吸血の剣-8
属性 / 闇
スキル / 吸血 使用者の血を吸い取る。
斬った敵の血を吸収するのではなく、剣を握った所持者から血を抜くとか、誰得?
触るだけでもヤバそうだ。
血の気の多い人向けなのだろうか。
武器・剣 / 破滅の剣-6
属性 / 闇
スキル / 腐敗 斬ったものを腐らせる呪いがかかっている。
ひどいな。
ある意味強いかもしれないが、これを喜んで使える人間は頭のネジが何本か飛んでいる。
だいたい鑑定したものはこんな感じで、特殊な武器ばかりで普通の剣が見当たらない。
そして掘り出し物もな……いや、あった。
樽の中に突っ込まれた三十本あまりの剣に、埋もれるようにして突っ込まれていた抜き身の剣。
魔力が滲み出ているが、その色は暗褐色だ。
武器・剣 / 魔剣ラウド+8
属性 / 闇
スキル / 魔力吸収 魔術を断ち、対象の魔力を著しく奪う。
精神干渉・混乱 対象の精神に混乱を与える。
気力減退効果 対象の気力を著しく下げる。
掘り出し物キター!
対魔術師用の剣のようだが、混乱させて尚且つスタミナを下げるあたり、持久戦に適した武器だ。
こんな剣を持った相手とは戦いたくないなという剣そのものだ。
樽の中から、恐る恐る抜いてみる。
吸血の剣みたいな効果はなかったから、別段恐れる必要もないが。
魔剣ラウド。
全体的に汚れているが、柄はシンプルで握りやすい作りになっている。
刀身は一メートルほどで全体的に黒ずんでおり、血が酸化してこびりついたように見える。
しかしどこか妖艶な月下美人を思わせる美しい剣だ。
「その剣を買いなさるのかい?」
店の奥から声がした。
今まで黙っていた店主が、しわがれた声を出したのだ。
「えーと、はい」
一瞬迷ったが、頷いていた。
剣はどうにも身の丈に合っていないが、成人したら申し分なく振れるだろう。
「そうかい。その樽にあるやつは、銅貨五十枚だよ」
格安だった。
しかし店主の意味ありげな笑みが気になった。
これの性能を知ってて笑ってる? いやまさか。
鑑定で店主を見てみる。
名前 / エリフィス
種族 / 魔人族
性別 / 男
年齢 / 二〇七歳
職業 / 武器職人、武器商人、魔族の英雄
「え?」
名前 / エリフィス
種族 / 人間族
性別 / 男
年齢 / 四十八歳
職業 / 武器職人、武器商人
一瞬目を疑ったが、よく見ると何の変哲もないステータスだ。
おかしいな。
何度目を凝らしても人間族で普通の武器商人である。
俺は納得いかないまでも剣の代金を支払いし、ついでに勧められた鞘も購入。
合わせて銅貨八十枚。
「またおいで。今度来たときには面白い武器を入荷しとくよ」
背中に声を掛けられたが、意味ありげなその言葉の真意を見抜くことはできなかった。
通りに出て、最後にもう一度店主を鑑定する。
名前 / エリフィス
種族 / 人間族
性別 / 男
年齢 / 四十八歳
職業 / 武器職人、武器商人
「…………」
やっぱり変わらない。
店主と目が合った。
その店主の目が、きらりと赤く光った。
なんだかその後も買い物を続ける気にならず、俺は急いで町を発った。
名前 / アルシエル・ラインゴールド(阿部聡介)
種族 / 人間族
性別 / 男
年齢 / 八歳(三十五歳)
職業 / 魔術師、戦士、殺人者(異界の住人)
アル君のステータス。
( )内は転生者阿部聡介君独自のステータスです。
鑑定を使った師匠には、( )内のステータスが隣の文字と重複して見えています。




