第135話 ファンタジーセッ〇ス
時間を持て余した俺たちだが、やることはいくらでもあった。
特に俺は、荒井剛太から手に入れたスキルがどんなものかを検証せねばならず、そのために拠点に籠ることが多くなった。
『全盛期』『不老』『超回復』『魔力の泉』エトセトラエトセトラ……。
どれがどの程度役に立つスキルなのか分からなければ、怖くてそのままにしておけない。
『再生』による欠損部位の回復は、果たして傷口が塞がってからでも可能なのかとか。
自分で指を切り落とし、傷口を治癒術で塞いでから『再生』を試してみるようなサイコな感覚は持ち合わせていないので、そこらへんの魔物を適当に弱らせて実験することになった。
「ぐぇ、気持ち悪い」
「これも研究のためだから。ティムはもっと実践訓練しろ。ほら、足を一本だけ残した蜘蛛とバトルだ。時間が経つにつれて足を快復させるんでよろしく」
足をもぎとって胴体だけで暴れる岩蜘蛛の足を生やす実験だ。
ただ生やすだけでは飽きるので、ティムに魔物をけしかけたりして検証していった。
『再生』のスキルはおおむね想像通り、どんな不具からでも元通りに再生されることがわかった。
欠損少女のニィナに希望が見えたが、怒った岩蜘蛛にセメントのような岩糸を噴きかけられてティムがコンクリ漬けにされてしまった。
胸から上と、尻から下が自由だが、胴体が固められて動けなくなっている。
これが制服少女だったら壁尻にエッチなことをするビデオを再現できたのに!
悔しい!
とりあえず身動きの取れないティムにはおしおきで、ショタ好きのニニアンを呼んできて、ちょこんと飛び出した鹿尻尾と六歳のケツをいじくられる刑に処した。
犯しても可。
「あ、アタシもちょっと触っていいかしらん?」
カマロフが嬉しそうに参加したが、ティムはすでに生贄に捧げられている。
魔物相手の戦闘で試すことも多かった。
『鉄壁』と『障壁』が物理攻撃と魔術攻撃をどれほど無効化するのか、とか。
「よっしゃ、これから実験します。危なくなっても助けなくてよし」
「にゃんでー?」
「さっき説明した」
試しに岩蜥蜴の群れに徒歩で向かっていったら、齧られても歯が食い込まず、体当たりも幼児に突進された程度の衝撃しかなかった。
自分で腕を触っても、誰かに触られても特に変わらずぷにぷにしているというのに、物理攻撃判定が出た場合にのみ『鉄壁』は作用する。
それまで触っていたら『鉄壁』発動時に弾かれるのかとかいろいろ実験してみたが、ゲーム的な融通の利かないスキル効果ではなく、割と自分の好き嫌いで防御できることがわかった。
腕だけは噛まれてもOKと念じると、普通に噛まれた。
岩蜥蜴の口には毒があるから、すぐに治癒魔術をかけた。
『障壁』も同じく。
「にゃー。蜥蜴のお団子だったにゃ。ミィニャだったら食べられてる?」
「ややー! やー!」
ミィナが言うには、岩蜥蜴が何十匹もまとわりつき、こんもりしたお団子状態だったそうな。
蜥蜴の生臭さが嫌だったので殴る蹴るで撃退したが、半泣きのマルケッタに心配されてしまった。
『鉄壁』『障壁』『再生』だが、衣類には効果がないようで、引き裂かれたり牙を立てられたりしてボロボロになった。
「あー! マジふざけんな! ぼくの服だぞ! 弁償しろよ!」
実験後に拠点に戻ったら、カードゲームをしていたクェンティンにマジギレされた。
それよりも遊んでないで祝福の泉までの道のりを掘り進めなさいよ。
次に、『超回復』は細胞の活性化による修復作業の高速化である。
細胞は活性化することで血肉を新しく作り出し、古いものを老廃物として排出する。
その繰り返しが段々と弱まっていき回復が遅くなることを老化とよぶが、では『不老』とはなんなのだろうか。
摩耗、あるいは活性化の機能的衰弱を失くし、常にエンジンが回り続けている状態を『不老』と呼ぶなら何も問題はない。
問題は、細胞の活性化をそもそもしないよ、現状を永遠に固定し続けるのが『不老』だよー、というのだとしたら、それは細胞を活性化させる『超回復』と競合してしまっているのではないかと思うわけで。
『鑑定』のスキルによって詳細に見ようとすればある程度は読むことができるので、ひとつひとつ慎重に調べた。
結局、『不老』と『超回復』の相性の良さを知るに至る。
というか『再生』と合わせたらもはや『不死』じゃん、と思うわけで。
皮膚や爪、髪など代謝によって伸びたり生まれ変わったりは普通にしているが、生まれ変わった細胞が前回の細胞とほとんど変わらないというわけだ。
スキルの付け外しをすることで老化は調整できるが、では若返りはどうだろうか?
『不死スキル』のコンボスキルを老人に張り付け、一年経過を見るというのもありか。
いや、『全盛期』のスキルを付けて若返り、『不死スキル』のコンボスキルを全身の新陳代謝が終わるまで張り付けておけば、体内の細胞を若返らせて、スキルをすべて外しても若返ったまま、とかになるだろうか?
荒井剛太から『全盛期』のスキルを外したら子どもの姿に戻ったことから、この発想はムリそうだな。
そんな感じで数日が過ぎた。
掘削作業は続けられ、土砂でクェンティンが一度埋まったようだが、なんとか引っ張り出されている。
ミィナとマルケッタは新参の黒騎士キルリと『隠匿』スキルを持つニコラを連れて、岩枝道で狩りを始めた。
定期的な間引きをしなければ、どこからともなく家畜場や居住区、拠点に侵入してくるのだ。
豚魔物が何匹か喰われ、冒険者がふたりほど足を噛まれている。
食べられそうな魔物だったら狩った分だけ食料になるので、ミィナも俄然ヤる気になっている。
ヴィルタリアが付いていったので、四人で彼女のお守りをすることになるだろう。
はしゃぎすぎて奈落の底へ落ちなければいいが。
木偶人形から解放された男たちはいま、汗水流して祝福の泉までの道を掘り進めている。
男たちの舟歌はなく、汗臭い野太い声が飛び交っていた。
カマロフやボン坊は積極的に、クェンティンやティムは嫌々ながら参加している。
泥と汗にまみれて、筋肉痛でひぃひぃ言っていた。
夜の生活の方は、実を言うと芳しくない。
マリノアは安定期に入るまでは性行為禁止。
ニニアンは小さい姿の方がいいとヘソを曲げ、十歳のミィナは身体が小さすぎて受け入れられない。
自然、マルケッタが夜のお相手となった。
少年の小さい体では色々と不便だったが、青年の姿になってケンタウロスの体高よりも背が高くなり、ジャストフィットすることから捗ることが増えた。
ナニが捗るのか、詳しくは言えない。
ノクターン以外では言ってはいけない決まりなのだ。
マルケッタはいつの間にかマリノア公認となったので、一緒の天幕に寝ることになった。
いや、マリノアの許可を取る必要はないのだが、なぜか彼女のお眼鏡に適うかどうかが必要事項になっている。
順調にハーレムメンバーが増えていくが、ニニアンのように距離を置く場合もあり、あちらを立てればこちらが立たずという現状である。
ニニアンがそっぽを向くからではないが、まだ子ども姿を楽しみたい俺としては、『全盛期』はひとまずそこらの石に移しておこうと考えていた。
冒険者たちと別れてからになるので、『全盛期』を完全に外すのは迷宮を出てからの話だ。
スキルを移し替えるにしても、ニニアンからもらったアミュレットくらいしか適当なものがない。
まだ何も込めていないものがいくつかあるとのことで、不機嫌なニニアンから三つほどもらった。
「物は試しで」
場所は冒険者たちが入ることを許していない俺たちだけの居住区。
『隠匿』の二コラの気配がないことも一応確認した。
アミュレットの台座に鉱石が嵌っており、その周辺を蔦が絡んだような細やかな細工の施された一点物の銀細工を手に、『ステータス管理』を発動。
無事、アミュレットの中に『全盛期』のスキルが刻み込まれた。
と同時に俺の体がしゅんと縮んでしまった。
ニニアンが「やっぱり小さい方がいい」とご満悦なようだが、すぐに自分に『全盛期』を移して青年モードになる。
ニニアンは目に見えて落ち込んだ。
「そんなに落胆しなくても、ふたりきりになったら戻るよ。いまは他の連中もいるからこの姿じゃないとまずいんだ」
「絶対だから」
ニニアンはジト目をしつつ、サラサラの金の髪をかきあげた。
怒っていても美人である。
尻を包むパツンパツンの短パンが相変わらず肉感的でエロい。
少年モードの方がニニアンの受けがいいので、何かお願いごとがあるときは必ず少年姿になろう。
「アル。ミィニャね、お願いがあるの」
「ん? なに?」
「ミィニャも子作りしたいの。ミィニャもアルのお嫁さんだから」
「ほ、ほー? でも体格差とかあるから、大人の体だと無理かな」
「小さいアルがいいの」
濡れた目で見つめられたらどんな人間でも断れない。
猫耳の少女の願いは、その夜果たされることになる。
エルフと猫と少年のめくるめく3Pであった。
更に数日後、むさい男たちの頑張りにより泉までの通路が開通した。
玉座は見る影もなく打ち捨てられており、あなぐらの王様の盛衰をなんとなく思わせた。
まぁ、石の玉座なんてげしっと蹴飛ばしてやるんですけどね。
「アル様、そういうのよくないですよ」
「迷信とか? お墓荒らしちゃいけないとか」
「いえ、単純にお行儀が悪いなと」
「さよけ」
獣人に霊感的な迷信はないのだ。
力こそすべて、という盲目極まったルールしかない。
――祝福の泉。
それは願ったものに祝福をひとつだけ授ける奇跡の泉。
この世界の根源とも呼ぶべき魔力の源泉は、とある神学者が論じるに、精霊というファクターを通して世界の一部をヒトの体で取り込むうんたらかんたら。
難しい話をクェンティンが語り出したが、要するに精霊水でオケ。
しかしその泉はいまや、水がなくなった状態で底が見えていた。
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!」
膝を突いてクェンティンが叫んだ。
「君らが暴れるからだよ! 地面に亀裂が入って流れ出してるよ! どーしてくれるんだよぉ、僕の夢が叶わないじゃないか! 怪獣大決戦なんかやってるからこうなるんだよぉぉぉぉ!」
「ないものは仕方ないであります」
クェンティンの恨み節を、ボン坊が残念そうな顔をして慰めている。
泉の水に執着のないボン坊は、割と冷静で狼狽えなかった。
息子のティムのほうが衝撃を受けたような顔をしている。
「いや、あるよ。あそこに水溜りができてる」
俺が指差す先、ゴツゴツした泉の底の岩肌の窪みに、わずかばかりの水たまりが残っている。
海なら小魚やカニがいそうな潮溜まりだ。
蜂蜜のような粘りとオイルを浮かべたような虹色がかった色彩で、すぐにわかった。
「お腹壊さないでありますか?」
その心配もわかる。
すでに経験済みで体に害はないのだが、いかんせん美味しくない。
何かを飲み込もうとしている異物感があって、腹に落ちたと思ったら望んだものが湧いてくるような感じだ。
「まぁ、ここまで来たんだから、飲まなきゃ損損♪ 僕から先に行かせていただきまーす♪」
クェンティンが足取りも軽く、手にした木製のマグで泉の水を汲む。
「魔物と意思疎通できる力くださぁい! 神様精霊様!」
別に口には出さなくていいと思うが、願掛けなのだろう、ぎゅっと目をつぶりながらクェンティンは飲み干した。
クェンティンのステータスを『鑑定』で視ていると、寂しいスキル欄に『魔物言語』というものが追加された。
「もう喋れるかな。マルちゃん、何か言ってみて」
「ややー」
「え? マジ? そんなふうに? うわ! あ、うわー」
「ややー、やー」
「うわわ! え、うそ! そうなの? なんだぁ」
「やー」
「ああ、そんな感じ! うわー! うっわうっわ!」
「やーや」
「あーもう可愛い! うっわー! やっべ、うっわ!」
「いい加減にしなさいよん」
興奮冷めやらぬ尻をカマロフが尻をむんずと掴むと、クェンティンはキュッとなって押し黙った。
「落ち着くであります。で、成果は重畳でありますか?」
「すげー! わかる! もう全部わかるよー!」
「なんて言ってるの?」
「やーって言ってる」
「馬鹿野郎か」
ド突いたろかと思った。
クェンティンは待って待ってとばかりに汗を垂らしつつ手で押しとどめるポーズ。
「いや、違くて。僕がなんでもいいって言ったから、マルちゃんは「やー」って言ったわけだ。普段やーやー言ってるけど、その意味までは僕らにはわからないよね。でもいまの僕には、その「やー」は「あー」とか「わー」とかに聞き分けられるわけだ。「あー」って言ってのフリで「あー」って返すようにちゃんと「やー」って言ってるのが分かるんだって。最後の「やー」やは「お父さん、興奮しすぎです」、ってたしなめてくれたのが言葉としてわかるし。というかお父さんって! お父さんって言ってるよ! 僕のことをお父さんって思っててくれたんだぁ。ほわわわわぁー」
「不肖の父親だよな。俺ならどこに出しても恥ずかしくて呼べないわ」
「いつか父親になったらわかるでありますよ。父の背中を大きく見せるのは大変なのであります」
ボン坊の顔に哀愁が漂っている。
どうでもいいが。
「本当に理解されているのですね。では私も同じ祝福にしますわ」
「我輩は『獣人化』がいいであります」
「あん、それアタシもよん。でもちょっぴり、くーちゃんとスフィちゃんがくんずほぐれつするように仕向けてみたいなって心残りがあるのん」
「やめろよ! そんなことになったら舌噛んで死んでやる!」
「冗談よん」
大人たちはあっさりと決まった。
目的というか欲望に忠実なところは共通しているため、あまり悩まない。
「ミィニャはどうしようかにゃ」
「わたしはヒト族になりたいと思って――」
「ダメ!」
「とアル様が言われるので、望むものは特にはないのですが。強いて挙げるならば、大事な家族がみんな健康でいられることでしょうか」
「無欲!」
「いえ、そうでもないですよ。わたし、いっぱい子ども産みたいですし、アル様に見向きもされない女になりたくないので、いつも美しくありたいと思っていますし」
マリノアの目がじっと俺を捉えている。
目の中にハートマークが浮かんでハァハァしだしたら立派なメス犬の完成だ。
そんなに期待しなくても、望む限り何度でも孕ませてやるつもりだ。
マリノアは特に母性本能が強そうだから、獣人村のナンバーワン超乳のミル姉さんから色々と母親の心構えを学んでほしい。
「ややー」
「マルちゃんはニィナとオルダの怪我と病を治したいんだって」
馬娘のマルケッタの通訳が楽しいのか、クェンティンは誰に頼まれたわけでもなく嬉々として翻訳している。
本人が納得しているならそれでいいが。
ニィナとオルダの治療だが、現状は俺では失った足を生やせるほど治癒魔術のレベルが高くない。
『再生』のスキルでなんとかニィナの方は展望が見えたが、オルダの鍛冶神の恩寵に匹敵する短命の呪いを剥がす方法がいまのところないのだ。
妹のリエラには治癒魔術のセンスがあり、ミィナの失った腕を魔力だけで再生させたというし、聖なる力で呪いまで浄化するかもしれない。
聖女と呼ばれるのももっともな話だろう。
「ニィニャ、歩けるようにしたい」
「ややー!」
「オルダも元気になってほしいって、マルちゃんが」
ニィナはミィナの妹で、目と片足を奴隷時代に失っている。
折られた片腕が歪んだまま固まってしまったので、ものを掴むのも不便で、まともな日常生活は絶望的だった。
それこそ奇跡の力に頼らなければ元通りにならないくらいに。
オルダは『鍛治神の恩寵』を生まれたときに授かったのだが、副作用で『短命の呪い』を刻まれてしまった。
オルダが衰弱して死ぬだけでなく、幼い彼女を媒介にして死に至る疫病が蔓延するほどの呪いだった。
治療を拒んだ閉鎖的な村がひとつ死に絶えたほどだ。
「神の親切大きなお世話」である、マジで。
現状はオルダに毎日治癒魔術をかけることで病魔の進行を遅らせてはいるが、治癒が滞ればオルダはまた呪いに蝕まれるし、このままでは鍛治の本領を発揮する年齢まで生きられるかもわからない有様だ。
最近は顔色も良くなったが、保護した当初は虚ろで生きているかも怪しい状態だった。
解呪の手立てがないため、オルダこそ奇跡に縋るしかない状況といえよう。
このふたりを何とかしたいと、俺も思っている。
可愛い妹分たちだ。
『解呪』と『欠損再生』の効果を持つ『完全治癒』のスキルがあれば、あるいは治せるかもしれない。
ネックなのが、魔力消費量が莫大だろうということだ。
絶大な効果があれば、それに並ぶ代償も必ずある。
なんでも治してしまう世界最高の治癒魔術は、普通の魔術師ならば、起動した瞬間に体内の魔力が一瞬で吸い取られて枯渇するだろう。
命もことごとく魔力に変換された挙句に不発、ミイラになって死亡、という結果を招きかねない。
そういうお伽話がこの世界にはあるのだ。
「未熟な魔術師」という絵本がかつて邸にあった。
分不相応の魔術を使おうとして、自爆するお話である。
この世界の絵本はちょっと過激だ。
しかし俺にはその心配は無用かもしれない。
魔力量の対策として、転生者から奪った『魔力の源泉』がここで役に立つというわけだ。
「ふおぉぉおぉ! 耳が生えたでありますぞ!」
「アタシはツノがあるわん! 立派なオスになっちゃったわん」
ミィナとマルケッタの祝福で悩んでいる間にも、ボン坊とカマロフは願いを叶えたようだ。
空のマグをぶつけ合って喜ぶふたりは、その姿が少し変化していた。
ボン坊は頭に生えた肌色の三角耳をしきりに触っている。
窮屈そうな尻をゴソゴソしているかと思えば、後ろを少しずり下げて、隙間から肌色の細い尻尾を引っ張り出した。
カマロフは人耳のあったあたりから茶色い牛耳が生え、耳の少し上に湾曲した角が存在感を放っており、まるで闘牛のようだ。
『種族変化・獣人』のスキルを取ったようで、なんの獣人になるかはランダムなのだろうか。
本人にもっとも近い獣人ということであれば、まさにといった姿だが。
「いやいや、ミノタウロスとオークじゃん。想像通りだよ、まんまだし」
クェンティンの指摘は、悲しいかな的を射ている。
「ブフッ」と吹き出し、マリノアが横を向いてしまった。
獣人と人型魔物を同列に扱うのは本来ならタブーだが、野性味のまったく感じられないふたりが獣人になったのはマリノアの笑いのツボを強く刺激したようだ。
どこか魔物に見えなくもない、と思ってしまうのは、単純に体格がイメージ通りだからか。
筋肉質の逆三角形なミノタウロス。
腹が突き出て二重顎のオーク。
獣人というより魔物であるが、野性味より品の良さが出てしまうところに笑いのツボがある。
じゅるり、と涎を啜る音がミィナの方から聞こえた気がしたが、深くは考えまい。
順当にヴィルタリアも『魔物言語』を理解するに至り、クェンティンと同様に興奮していた。
しまいには困惑するマルケッタや、なんだかわからなくてもとりあえず楽しそうな雰囲気に乗っかるミィナを巻き込んで、手を繋いでその場で円になって跳ね回り始めた。
あっちは極力見ないようにしよう。
ティムも隅っこの方でマグを傾け恐る恐る飲み始めている。
「お先に」
悩んでいる俺を追い抜き、ニニアンが先に動いた。
すくい上げた虹色の水を躊躇なく飲み干す。
一瞬目を閉じ、そして開いたニニアンは、何かを感じたのかお腹を撫でさすった。
「これで妊娠できる」
「本気だったか……」
ニニアンの体に、『女性機能』が追加されたようだ。
悪いとは言わない。
それがニニアンの望みならば、望み通りにすればいいと思う。
孕ますのは俺だけど。
それは少し前のこと――
マリノアとニニアンとミィナとマルケッタは珍しく四人揃って女子部屋にいた。
部屋の中で、妊娠とはどういうものかの講釈が繰り広げられている。
男子禁制である。
マリノア先生のお堅いが的確な説明に、生徒のニニアンとミィナ、マルケッタは浮かんだ疑問を端から聞きまくるといった感じだ。
「白い子種が中に入ると赤ちゃんににゃるの?」
「適齢の女性……つまり生理が始まった女性で、生理期間から外れていれば、胎の中で結ばれるんです」
「それは、尻でも可能か?」
「……あの、尻……お尻で性行為をして、妊娠するということですか? 普通に考えて無理じゃないでしょうか」
言い難そうなマリノアと違い、ニニアンは本気で聞いている。
そしてムリと聞いてしょぼんとなっている。
赤裸々な内容が飛び交っており、いま男の入室はノーセンキューだ。
特にニニアンの質問は、子が欲しいのにできないことを告げられて心を抉られるものだ。
ニニアンは体つきから心まで女性だった。
悲しいかな下腹部のみが男を象徴してやまないだけで。
生産性のない分、気遣い不要とばかりに楽しんでいる少年とは違った観点をどうやらニニアンは持っていたようだ。
「ミィニャせいりきた?」
「股から血が出なければ生理は始まったことにはなりません。だからミィナはもう子どもを産めます。ですが、身体が発育途中なので、いまのミィナの体で妊娠することは、発育の負担になってしまうでしょう。わたしも話を聞いただけですが、お腹の中で赤子が死んでしまったり、未熟なまま赤子が産まれ出てきてしまったりするようです」
「マリノアは大丈夫なの?」
「不安はあります。でも、アル様が傍に付いていてくださいますから」
マリノアは柔らかく微笑んだ。
十四歳で母になることに、なんの後悔もない。
しかしミィナはまだ十歳で、産める体にはまだ早い。
そういう話を夜通ししていたという――
「ニニアンは女になったの?」
「ううん。男のまま、産めると思う。そうなったんだとわかる」
「ぶら下がっていながら、穴もあると!」
さあ、下衆くなって参りましたーと、俺はウキウキ顔である。
生まれてこの方BLには毛の先ほども興味はなかったが、まさか伝説のやおい穴をリアルに拝める日が来るとは……。
ニニアンはその場で短パンの上から指をなぞらせ、下半身を確認し始めたので、それを見ていた男たちは気まずそうに目を逸らした。
スラっとしたモデルのような美形のエルフが、熱っぽい目で股間を触っている姿は破廉恥である。
青少年の股間がムズムズするのはしょうがない。
「穴はお尻しかない。でも妊娠できるのはわかる」
異世界ファンタジーはここに極まったようだ。
やおい穴はなかったが、お尻で妊娠できるらしい。
挿入穴(本来は排出口)が一個で妊娠とはこれいかに。
男の娘を孕ませるとか、それなんてエロゲー?である。
「両性具有? になるのかな。ファンタジーじゃなきゃ一生お目にかかれないよな」
「愛を育むのに垣根なし。いまからする?」
「もうどこに突っ込んだらいいのやら……」
「ここじゃないの?」とニニアンが早速物欲しげに見てくるが、違うのだ。
下ネタでなくツッコミの方だったのだ。
しかしニニアンが妊娠したいとか、種族、年齢、性別、価値観を跨いでよくここまでこれたなと思う。
愛ゆえにとはいちがいに言えないのが俺たちらしいところ。
「もう子ども作る?」
「今夜のベッドでね」
ニニアンの口元がわずかに緩んだ。
R-18版のリンクを下に貼っています。
今回はミィナとニニアンとの3P。
ニニアンが妊娠するのはもっと先の話。
https://ncode.syosetu.com/n3632fb/3/
(2018.12.2)




