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異世界旅行は落ち着かない  作者: 多真樹
第二部 少年時代 五章 ダンジョン&ドラゴン
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第122話 地神龍の住処

 五歳のとき、母親は病気を患ってあっさりと息を引き取った。

 保護者として面倒を見てくれた。

 それだけは感謝している。

 ドブで体を洗うような環境に浸かっていたおかげで、前世の人生で得た倫理感をきれいさっぱり洗い落としてくれたことにも感謝だ。

 人生すべてに感謝。

 変態趣味のおっさんに尻穴を血だらけにされても、皺だらけのババアに臭い場所を舐めるように強要されても、死にたくないという一念でなんとか乗り越えることができたのだから。


 天涯孤独になったことで、足枷はなくなっていた。

 スラムに早々見切りをつけ、すぐさま平民街に潜り込んだ。

 同い年くらいの子どもを騙して衣服を奪い、家宅に侵入して身を清めたり食を確保したりするのは造作もなかった。

 ちょっと賢い少年を演じて冒険者ギルドの下働きを始めたのは、成り上がるきっかけを探してだった。

 五年ほど働いていたが、その日は待っていればやってくるものだ。


 ある貴族が依頼を募った、迷宮探索の仲間募集の貼り紙。

 その迷宮というのが、小耳に挟んだ情報を繋げると、大平原と呼ばれる場所に存在し祝福の泉というなんでも願いを叶えてくれる奇跡の源泉が最奥にあるのだという。

 これまで雌伏してきたことを祝福するような話ではないか。

 一か八かの賭けでもあったが、どこかで大きく出ないと見返りは少ないとも思っていた。

 これは飛躍のチャンスであった。


 百名からなる大規模パーティに、潜り込むことができたのは僥倖だった。

 場所が場所だけに到着まで十日はかかる計算で、迷宮探索にはその倍を要する予定であった。

 大規模な調査団を組織し、冒険者たちを雇い入れるよう冒険者ギルドに依頼したパトロンは、七十間近の女貴族であった。

 見た目は萎びた根っこのような老婆だ。

 若返りを求めて祝福の泉を目指すらしく、そこにありったけの財産を投じたようだ。

 自分はそのおこぼれに預かれればいいだけで、ババアの悲願など関係のない話だ。


 オリエント王国から出発した二十の馬車は、途中に補給も兼ねて大小の都市を経由しながら、魔物の跋扈する大平原に向かった。

 自分は馭者に収まっており、馬の世話も楽々こなした。

 冒険者ギルドで働くうちに馬の扱いは覚え、世話することも難なくできるようになっていた。

 子どもの身体では荷運びとして参加することも至難で何組かのパーティには相手にもされなかったが、生活能力の乏しそうな三人組のパーティが拾ってくれたのでなんとかなった。

 男ひとりに女ふたりの三人組だ。

 驚くことに三人で交際しているハーレムパーティだったが、彼らは戦闘職で、いずれ死ぬに違いないと思えば我慢できた。

 しかし死線を潜り抜けた日の夜は、天幕にこもって励みだすのが多大なストレスだった。

 うんざりなので馭者台で身を丸めて眠るようにした。

 同じように男日照りでイライラした冒険者は多かっただろう。

 後ろから刺されないように気を付けた方がいい。


 集めた傭兵は五十名ほど。

 馭者や荷運び人といった雑用が三十名。

 老貴婦人とその護衛と身の回りの世話で二十名。

 道中は過酷で、大平原に踏み入れた途端に襲い来る魔物に馬車ごとやられることもあった。

 魔物に喰われたり、怪我が原因で落命したりと、到底楽な旅とは言えなかった。

 迷宮に到達できたとき、戦闘要員は十名ほど減っていた。

 非戦闘員の被害は少なかったが、馬車が二台失われていた。

 小便をするために隊列を離れた際に運悪く魔物に喰われた荷運び人がいたので、生きているだけで幸運なのだろう。

 普通なら途中で引き返すだろうが、募集を呼びかけた老貴婦人の執念が途中棄権を許さなかった。

 加入したパーティの三人も、しぶとく生きている。

 たぶん、この旅が無事に終わったら、女ふたりはめでたく母親になっているだろう。



○○○○○○○○



 魔物の襲撃はそれから三度あった。

 壁を這って近づく大量の子蜘蛛と、直径五メートルを優に越える親蜘蛛の魔物が前後左右を包囲してきたり。

 蝙蝠のような姿をして、顔は犬に近いとんがった鼻の魔物が崖下から飛んで迫ってきたり。

 粘性を持ったアメーバ状の魔物――ご存知スライムが頭上から大量に降ってきたり。

 割と厄介な魔物が多かったが、危うい場面は特になかった。


 強いて挙げれば、クェンティンが蜘蛛の糸に足を取られて崖から落ちそうになったり。

 ヴィルタリアが蝙蝠の足に引っ掛けられ喜声を上げて空を飛んだり。

 頭上から降ってきたスライムに直撃して全身粘液塗れでティムが悪臭を放っていたり。

 いずれも些細なことである。

 ティムは臭いから近づくなよ。

 マリノアが鼻を押さえて距離を取るほど獣人には酷な臭いらしく、さすがにティムも泣きべそかいていたので仕方なく浄化を使った。

 自分の身も守れないくせに俺を睨むなよ。


 縦穴を下り続けて、半日は経ったろうか。

 途中で全員が座り込めるうろになった場所で休憩を挟んだが、もはや最初の元気もなく、襲い来る魔物を作業のように撃ち落している。

 相も変わらない景色に辟易する。

 壁面に沿って延々と下っていたが、唐突に道が途切れて下り道に終わりが見えた。

 右手側は相変わらずの断崖で、少し遠くの壁で大量の地蜘蛛と犬蝙蝠が熾烈な生存競争を繰り広げていた。

 これはゲームではないので、魔物同士の生存競争も起こり得る。

 ヴィルタリアが指を咥えて混ざりたそうな顔をしていたので、カマロフとマルケッタががっちりと左右を固めていた。


 マリノアが確認したが、下に降りられそうなとっかかりはまったくなく、代わりに左手側に横穴が開いていた。

 この他に道らしい道はない。

 横穴はこの中でいちばん大柄なカマロフが腰を屈めて歩く高さしかない。

 一本道ならば、進むだけだ。

 点々とする青水晶に導かれるように、マリノアを先頭に横穴へ入っていく。

 もちろん、マリノアは臭いで待ち伏せされていないかの警戒もしている。

 襲われるとしたら、狭隘(きょうあい)の身動きがとりづらい場所だろうから。


「はぁはぁ、まだ続くの?」

「道のりは長いであります。そして狭苦しいであります……」

「中腰だから腰が痛いわねん」


 後ろからは文句がぶつくさと聞こえてくるが、取り合うだけ疲れる。

 マリノアが鼻をスンスンと鳴らして安全を確認しつつ進み、ついに横穴を抜ける。


「もう着いた?」

「まだですよ。むしろここからが本番みたいです」


 能天気なミィナに、マリノアは気を引き締めて答える。

 隘路を抜けると、今度は途方もない広さの大空洞に出た。

 天井を見上げようにも、いくら目を凝らそうと暗がりしかない。


「すげえ……」

「ややー……」


 俺とマルケッタが感嘆を漏らしてしまうくらいには、異様な光景ではあった。

 いまいる場所は、超巨大な大空洞に、無数にある針のような穴から顔を出した状態だ。

 下を覗き込んでも暗がりしかない。

 左右はいくら目を凝らそうとも突き当たりが見えず、向かい側の壁は目を凝らしてようやく微かに見えるほどに遠い。


「ぎゃー、何この広さ! 大声出したら気持ちよさそう!」

「魔物が大集合だからな。やったらクェンティンを囮にして逃げるからな?」

「ティム、見るであります。土の下にこんなに広い場所があるでありますよ。父は足が震えて動けないであります」

「どうやったらこんな場所ができるんだろう……」

「ところで魔物はどこにいるのかしら?」


 各人、驚き、目を瞠り、いつもどおりにキョロキョロする。

 観光地を散策している気分である。

 大空洞は、青水晶がほのかな明かりとしてそこら中に点在していて、暗闇の世界にもなんとか視界が確保できている。

 城塞がまるまる一個収まってしまいそうな、想像を絶する広さだ。

 特徴があるとすれば、空洞内には張り巡らされた蜘蛛の糸のような、岩石でできた空中道である。

 土管に針で穴を開けたような自分たちの足場にも、ちゃんと岩枝道がどこかへと伸びている。

 岩の道は空中でぶつかり、曲がりくねり、どこかへと通じている。

 それが見渡す限り、立体の蜘蛛の巣のように無数に続いている。


「これを進むんでありますか? 落ちたらどうなるかわかっているんでありますか? 正気ではないであります」

「頭がおかしくなくちゃここまできてないよ、ボンさんや」

「クーちゃんは欲に目が眩んでいるだけだと思うわん」


 岩枝道は三車線で往来できそうなほど幅は広いので崩れる心配はないだろうが、端は丸みを帯びていて足を滑らせればそのまま闇へと落ちていく。

 枝の上にいるような心許なさがある。

 空中でいくつも枝分かれしているその道は、最奥に到着するまでにどれほどかかるのか気が遠くなるばかりだ。

 幸い魔術師の直観か、向かう先はなんとなくわかるからいいけれども。


「こんなに広い空間は、ちょっと怖いです……」

「世界にはびっくりする景色がいくらでも転がってるってことだね」


 こんな景観は前世にはないだろう。

 何者かが意図的に蜘蛛の糸のように壁と壁に石橋のアーチをかけているようにしか見えない。

 俺の横に寄り添ったマリノアが、ぶるりと震えた。

 手を差し出すとぎゅっと両手で握ってきて、マリノアの細い指が絡んでくる。

 熱を求めているようにひんやりしていた。

 ふんわりとマリノアの体臭が香ってきて、股間がむずむずしたのは内緒だ。


「ティムは落ちにゃいように気をつけてね」

「ややー」

「わ、わかってるよ! 落ちるわけないじゃん!」


 十歳のミィナが六歳のティムにお姉ちゃんぶっている。

 年下キャラのミィナだけに、貴重な姿だ。

 対するティムは見栄っ張りなので可愛くない反応だ。

 ニニアンがポンポンとティムの頭を撫でたが、嫌そうに逃げていた。


 辺りを見回していた俺は、深淵のような闇に目を向けた途端、ゾクリと背中が粟立った。

 闇全体が動いたような気がしたのだ。

 すぐにそれは見間違いでないことを知る。

 大地が動いているのかと思った。

 それはあまりに巨大すぎて、陸王亀ですら手毬のように蹴り転がしてしまいそうな存在で、すぐには気づけなかった。

 そう、それは途方もない存在だ。

 大地と同化したような龍がむくりと起き上がった。

 数百メートルは離れているだろうに、起き上がっただけで風圧が頬に感じられた。

 突然動き出した超巨大生物に、一行は途端にパニックに陥った。


「きゃー! なんですの! あれはなんですの!」

「ヴィルさんをすぐに押さえて! 特に口!」

「わ、わかったわん!」

「むーむー!」

「全員、撤退! 洞窟に戻って! 離れないで集まって!」


 全身から冷や汗が吹き出た。

 足が絡まりながらもなんとか全員洞窟に飛び込む。

 かつて遠目に見た大霊峰の銀龍もまた、似たような本能的な恐怖を刻み込んできた。

 それと同等、近い分だけこちらの方が肝が冷える。

 眼下で巨大すぎる龍が活動を始めたのだ。

 首をもたげる間にも、蜘蛛の糸のように張られた石橋がパキパキと砕けていく。

 たとえば目の前の龍が、戯れに俺たちのいる場所を猫手でちょんと突くだけの可愛らしい動作をやったとしよう。

 全滅、あるいは俺かニニアンが生き残れるかどうかの瀬戸際になる。

 もはや存在が災害級だ。

 そんな生ける伝説級の龍が動き出した。

 相変わらずバキバキと石橋をいくつも壊しながら、とんでもない大きさの頭が数百メートル先に持ち上がる。

 距離があるからと安心できるものではない。

 龍にしてみればそんな距離は首を動かすだけで埋まってしまうのだ。

 ゾウとアリが自分たちを比較するのにちょうどいいかもしれない。

 岩石のようなゴツゴツとした体表で、こちらに気づくこともなく大空洞を悠然と歩き出した。

 地揺れで足を取られた。

 そうでなくても勝手に膝が震えた。


「ク、クェンティン殿ぉ! しっかりするでありますぞー!」

「ぶくぶくぶくぶく」


 クェンティンが泡を吹いて卒倒しかけているのを、ボン坊が必死で支えていた。

 父親の横に立つティムも顔を真っ青にして、棒立ちで膝が生まれたての子鹿のように震えている。


「大きな声を出さないで。お願いだから少しでも刺激になるようなことはしないで」


 マジでビビっている俺である。

 龍をステータスで視ようとして、俺は目を抑えた。

 魔力の色が濃すぎて、視界が塗り潰されたように一瞬でホワイトアウトしたのだ。

 太陽を双眼鏡で見ようとするのに近いかもしれない。

 ちっぽけなイカロスの翼のように溶けてしまいそうだ。

 目が焼けたように痛くなるが、すぐに痛みは消えた。

 わずかに視えたのは、地神龍という名前のみ。

 翼はなく、四足歩行の龍である。

 顎がブルドーザーと大型レンチを足して二で割ったみたいに凶悪な形をしていて、のそりのそりと動くだけで大地が揺れる。

 勝てるわけがない。

 そもそも勝負にならない。

 戦おうと言う気概すら愚かであった。

 たとえば陸王亀を蜂の巣にできる最高魔力を込めた岩弾丸を乱射しても、地神龍に通じるヴィジョンが視えない。

 表面にペチペチペチと当たって終わりそうだ。


「ふにゃあ、でっかいにゃあ」

「ややー」

「危ない。猫、馬、下がる」


 この世界には神も龍も存在するのである。

 人の手では決して敵わない次元の違う生き物と境界を接しているのだ。

 チビりそうになりながらも、心のどこかで感動に打ち震えるのを感じた。

 人が頂点に立てない弱肉強食の世界だが、しかし同時に、神話の世界の幻想的な生物たちとも共存するファンタジー世界である。

 ヴィルタリアではないが、背筋がゾクゾクとしっぱなしなのに、口元で笑っている自覚がある。


 龍は一度もこちらに目を向けることもなく、ゆっくりと背中を見せて悠然と歩いていく。

 ときどき「グルグル……」と地の底から這い上がる音が聞こえるが、どうやら地神龍が喉を鳴らしている音のようだ。

 体表はどこもかしこも岩石のようにゴツゴツしており、陸王亀の何十倍はあろうかと言う威容は山が生きて動いているかに思えた。

 ときどき気まぐれに口を開け、壁をこそぐように噛り付いた。

 プリンにスプーンを入れるように柔らかそうに削られた部分は、遠目に見ても城一個分はありそうだ。

 巻き込まれれば一巻の終わりというやつだ。

 尾の先端に瘤のようなものが付いていたが、あれで叩かれると思うと災害級の被害である。

 現にふらふら揺れる尻尾が枝のように伸びた石橋を叩き、パスタの乾麺を折るようにパキパキと崩壊させていた。

 あまりの轟音と地響き、それと巻き上がる粉塵に目をやられ、俺たちは身を伏せねばならなかった。


「なんて奇跡! 奇跡ですわ! 私たちは奇跡を目撃したのですわ! こんなことってあります? あぁ、ゾーラにも見せてあげたい! まるで生ける神話と対面したようですわ。いまなら羽根が生えて飛んでいけそう!」

「危ないから跳んで行かないでねん? 真っ逆さまだから」


 ヴィルタリアの言うように、確かに俺たちは神龍に遭遇した。

 近づくことも、ましてや触れようと考えることも俺にはできなかったが、カマロフに押さえつけられていなければ飛んで触りに行きそうだったヴィルタリアはある意味尊敬する。

 神龍が遠くへ行くまで、俺たちは息を潜めていた。

 安全になったことを確認しても、まだ心は浮かれ、地に足がついた気がしなかった。

 俺たちは落ち着くために食事休憩を挟んだ後、石橋の道なりに地神龍とは逆側に進んだ。

 ヴィルタリアだけが後ろ髪を引かれているようだが、男連中はちんちんが竦み上がってしまったのかすっかり大人しくなって、気持ち急ぎめに移動している。

 あれほど疲れたと嘆いていたクェンティンでさえ足がよく動いた。

 地神龍の近くには魔物が寄り付かないのか、離れると途端に魔物に遭遇する回数が増えた。

 アルマジロのような哺乳類っぽい魔物がごつごつの岩肌で突撃してきたり。

 かと思えばハサミを持ったヤドカリみたいな魔物が岩に擬態していたり。

 石橋を張り巡らせていた張本人と思われる数十メートル以上の巨躯を持つ岩石蜘蛛が、こっちに見向きもせず、膨れたお腹の先からせっせと石橋を生み出していたり。

 かと思えば枝分かれした石橋から岩蜥蜴の群れが襲ってきたり。

 とにかく気を抜けば餌食になりかねない魔物に次々と遭遇した。

 縦穴を下っていたときよりも、明らかに強さが上である。


 戦う場所も問題だった。

 いくら道に幅があるからといって、足を滑らせたら暗闇に真っ逆さまだ。

 端にそれほど近づけない。

 ひとりなら助けられるが、同時にふたりはちょっと手が回らない。

 俺だって好き好んで暗闇にダイブしたくないので、魔物を発見したら即断で先制攻撃して道から蹴落としていった。

 勿体なさそうな顔をする三十路女は無視である。


「いやあ、すごい経験だったね。地神龍なんてさ、誰でも会えるような魔物じゃないよ」

「一生の思い出にするであります」

「ミィニャもミィニャも」

「ややー!」


 ビビっていたのがウソのようにテンションが上がりまくっている。

 ハイになる気持ちはわかる。

 触れようとは思わないが、会えてよかったと思える存在だった。


「ニニアンはいままでに龍を見たことあるの?」

「世界樹にも似たような龍はいる。守り神の風神龍」

「へぇ。いるところにはいるんだね」

「この世界にはたくさんいる。エルフですら手も足も出ない強さの生き物」

「次元が違うんだな」

「そう、言い得て妙。次元が違う。触れられそうで触れられない存在。ちっぽけな存在力では霞んで消えてしまうほど」


 ニニアンは珍しく饒舌だった。

 よく見れば頬がほんのり赤らんでいる。

 憧れのアイドルを一目見たファンのような静かな喜びが見て取れる。


「でも地神龍は苦手。土の龍だから」

「まだそれ言う。ドワーフと縁がありそうな龍だけど。オルダを連れてこれなかったのは残念かも」

「土臭いからいなくていい」

「こら。そうやって除け者にしてたら学級会で議題にされちゃうんだからね。ニニアンちゃんがオルダちゃんと仲良くできませんって。吊るし上げられちゃうんだよ」

「別に構わない」


 この場合より傷つくのは加害者より被害者の方という理不尽。

 より孤独を深めるというか、晒し者にされて惨めさが強調されるというか。

 俺に小学校のトラウマなんてないけどね!

 ともあれオルダの方は誰かを嫌いになるほど好き嫌いの感情が育ってないので、もう少し大きくなるまでにニニアンの感情をなんとかしたい。

 ニニアンとともに吸血巨大蝙蝠の群れを吹き飛ばしながら、幼いドワーフの顔を思い浮かべるのだった。

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