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異世界旅行は落ち着かない  作者: 多真樹
第二部 少年時代 二章 大森林のエルフ
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第46話 ジェイドの魔宮⑥ お魚くわえた愛猫

ちょっとだけエロ描写アリ。

消されるかもしれない不安に怯えております。

 三階層――そこは発光石がいたるところに存在し、地底湖を淡く薄青色に照らす幻想的なエリアだ。


「にゃはは!」

「ほれ、猫、水だ」

「わぷ……うー、お返しにゃー!」


 幻想的な世界の中で、裸の女の子たち? が水を掛け合っている。

 足首ほどの浅瀬が、地底湖に十メートル四方くらいの大きさで存在していた。

 深いところにいるオピオンフィッシュは手が出せないので、ちょっとしたバカンス気分である。

 すっぽんぽんの猫ちゃんが、頭から水を滴らせて、きゃっきゃと逃げ回っている。


 一方で、同じくすっぽんぽんの後ろ姿は、美女に見紛うニニアンである。

 長い髪をほどいて、癖のない金毛を背中に流している。

 白人女性を思わせる、理想的なプロポーションだった。

 華奢な肩は思わず抱きしめたくなる。

 くびれた腰は、男が腕を回すのにちょうどいい。

 それとは反比例するかのように、張りのあるお尻やふとももは指が沈みこみそうなくらいにむっちりとしている。

 存分に撫で回したい。

 あのお尻を掴んで、後ろからガンガンと攻め立てる自分を想像した。

 くびれた腰からうなじにかけて、紅潮し汗ばむ背中。

 金糸のようなサラサラなヴェールの向こうに、喘ぐように持ち上がるつんと澄ました顎が見えるのだ。

 潤んだ水の雫のような瞳が、横目で俺を捉えてもっともっとと求めてくる。

 息遣いまで聞こえてきそうになった。


 股間がいつの間にか存在を主張していて、思わず前屈みになった。

 モデルのような頭身に、引き締まっているくせに細い手足。

後ろから見たら完璧な女性だった。

 むしろ性別など些事のように感じる。

 穴があって、合体できて、お互いに貪り合えれば、すべて解決じゃね?


 猫ちゃんとの水掛けにひと段落ついたニニアンは、金糸を思わせるプラチナブロンドを掻き上げた。

岸に上がり、水に浸した手拭いで首筋からうなじにかけて拭っていた。

 その後ろ姿はフェロモンが漂っている。

 少し近づけば、男を刺激する女の香りを漂わせている。


「ん? なんだ? アル」


 声は鈴を鳴らしたような澄んだ音となって、耳朶を打つ。

 俺の視線に気づいたのか、ニニアンが振り返る。

片腕を上げ、脇から腰までを拭っている。

脇は綺麗なもので、剃った様子はない。

元から生えないのだろう。

 鼻梁の通った美人がそこにいた。

 唇は厚ぼったく、艶めいている。

 無気力にも思える重たい瞼の奥で、澄んだ湖と同じ色の深みが垣間見えた。


「どこからどう見ても美人だよな……」

「……それは、どうもありがとう」

「そんなに浮世離れしていれば、道中では男に良く声を掛けられただろ」

「発情したオスに良く迫られた。いまみたいに」


 気づけば俺は、手を伸ばせばニニアンの髪に触れられる距離にいた。

 腰を引いているが、ニニアンは股間の膨らみに気づいている様子だ。


「そ、そういうときは、どうしたの?」


 声がワントーン上がる。

 体を許してきたのか。

 むしゃぶりつきたくなる女の体を持つが、同時に股間にいちもつを持つニニアンだ。

 いや、それでもいい。

 むしろそれがいいと迫る男だっていただろう。


「どうしたと思うか?」


 ニニアンの手が、股間をさわりと撫でた。


「あう……」


 俺は腰を更に引いた。


「臭い男は嫌い。臭くなかった男は、いままでいなかった」

「ということは?」

「私は男を知らない肌」


 「おまえ男じゃん」と言いたい。

 しかしその瞬間、機嫌を損ねるだろう。


「へ、へえ……」

「知りたい?」

「な、何を?」


 含んだような目で見つめてくるニニアン。

 機嫌を損ねた様子でないのは、雰囲気からもわかる。

 終始無表情だが、どこか嬉しそうでもあるし、年端のいかない子どもをからかっているようにも見える。

 つまり、完全に遊ばれている。

 生まれたての小鹿のようにこの世界の道理を何も知らないくせに、いっぱしの女のような顔をするから侮れない。

 男なのに。


 不意に、口に指が置かれた。

 俺とニニアンとの間にあった熱っぽい空気は、一瞬で霧散した。

 まるで夢から覚めたように、俺は強制的に素面に戻された。


「そういうアルも、子どもにしては可愛い。中身は人族の中年だけど」

「余計なお世話だ」


 ニニアンが立ち上がって、膝を曲げないまま引き締まった腿から足首までを拭い始めた。

 こちらに突き出されるお尻。

 触ってくださいって言っているのかしら?

 据え膳喰わぬはというやつだろうか。

 しかし逡巡している間に、ニニアンはくるりと振り返った。

 ぱおーん。

 体の前面を向けてきたことで、俺の目に飛び込んでくる雄槍。


 くびれた腰。

 可愛らしいへその窪み。

 淡い金色の茂みは、産毛程度にしか生えていない。

 しかしてそれらを差し置いて目を惹くものが鎮座していた。

 師匠の大きさにちょっと劣りながらも、人族の成人男性よりも逞しい肌色の棍棒。

 性欲が薄いエルフの性質からか、ふたつのお袋さんは小っちゃくて見えない。


「ニニアンは、女性らしさを褒められるのは嬉しいの?」

「嬉しい」


 こくりと頷く。

 裏表のない、真っ直ぐな返事だった。

 でも男でしょ、と股間を注視しながら思う。

しかし安易に言えないのが、空気を察してしまう日本人の奥ゆかしさだ。


「キスは男としたいわけ?」

「男であればいいというわけではない。けど、女とはキスしようとも思わない」


 これは予想だが、ニニアンは心が女性なのに身体が男として生まれついてしまった、稀有なパターンなのかもしれない。


「お、俺なんかも射程範囲内?」

「範囲内」


 屈託なく言われて、俺はドキッとしてしまった。

 あかん。

 この流れはあかん。

 抱かれてまう。

 お嫁にいけなくなってまうー!


 エルフはなまじ魔力の保有量が高い。

身体の成長を意図的に操れることができるので、成長とともに女性らしさが際立っていったのだろう。

 エルフに美男美女が多い、最たる理由だ。


 いきなり横合いから猫ちゃんがすっぽんぽんのままでどーんとぶつかってきた。

 最近は健康的な肉が付いて、肌がむちむちしてきた猫ちゃんである。

 水を滴らせながら、ぐりぐりと頭を擦り付けてくる。

 よしよしと、頭を撫でた。


 男の娘美女と、獣人幼女のコラボ。

 微妙に興奮していいのか、判断が難しいところだな。

 興奮した瞬間、変態の謗りは免れないけどな。

 でも興奮するけどな、変態だから。


 ニニアンは俺と猫ちゃんを見下ろしながら、気にした風もなく体を拭っている。

 その体のどこから老廃物が出るのだと疑いたくなるほど綺麗な体を、更に磨いている。

 手拭いは股間から可愛らしく凹んだおへそ、肉付きの薄い本当に女性かと見紛うほどの胸元へ、俺に見せつけるように動いている。

 気のせいか、可愛らしいピンク色の乳首が、ツンと立っているようにも見えなくもない。

 だが男……。

 ニニアンの胸板は薄く、微乳と言われても信じてしまいそうだからいけないのだ。

 俺は人知れず苦悩していた。


「アルも遊ぶー! 来てー!」

「うーん、くそー! 行くよー!」


 猫ちゃんは尻尾をふりふり、お尻もふりふり、俺をぐいぐいと引っ張ってくる。

 そんな中行かないという選択肢はなかった。

 というか腰を引いている状況である。

悶々とした気持ちを振り払うために駆け出さずにはいられなかった。

 ニニアンが微笑ましそうに見ていたことなど、俺は知らない。

 獣人幼女と水のかけっこをして遊んだ。

 思いのほか楽しかった。


 軍隊が二階層の巨人エリアで苦戦していることなど露知らず、俺たちは三階層の地底湖の傍に拠点を構えていた。

しばらく腰を落ち着けて、こうして遊んでいる次第である。

 それというのも、足場の悪いこの地形や陸生の魔物がいない条件が猫ちゃんを鍛え上げるのに適していたから、じゃあ三階層では環境を意識した戦闘に慣れようという次第である。

 ガーゴイルは一体いれば、百体は呼び寄せる。

 だがその数を最初のうちに俺とニニアンである程度駆逐した。

 いくらガーゴイルが援軍を呼ぼうが、数体しか飛んでこないようになった。

 仲間を呼んでも数匹しかこなかったガーゴイルは、自分に呼び寄せるカリスマがないことを悲しんでいるようにも見えた。


 散発的なガーゴイルの出現に落ち着くと、つるつるした足場の不安定さを活かした特訓の開始である。

 猫ちゃんにとって敵だけを見ていればいいわけではないという状況は、視野を広げるまたとない機会である。

 組手は毎日のように行っているが、何度も足を滑らせて痛い経験を積むことで自然と環境に適応したスタイルになっていくはずだ。

 言わずもがな、俺も気を抜くとよくこけた。


 唯一、ニニアンだけはどこ吹く風でバランスを崩すことはなかった。

 超然としている。

 細くて棒っ切れのような四肢をしているのに、なぜか風に吹かれようが倒れない、芯の強さを感じた。

 足に吸盤が付いているんじゃね? と本気で悩んだほどだ。


 日数にして丸二日。

 今日も今日とてオピオンフィッシュのステーキにかぶりつく。

 食事は豪勢だ。

 いくら食べても際限がない。

 種類が単一なのはこの際目を瞑ろう。

 味付けもシンプルなものしかないが、それを補って余りある白身の旨味が出ていた。


 猫ちゃんが魚の誘惑にド嵌りした。

 一日地底湖のほとりで過ごし、荷物をまとめてさて「移動しようか」と言ったその後の、猫ちゃんの抵抗ぶりは見ていて微笑ましかった。

 断固としてこの拠点を動きたくないのか、岩にしがみついて離れようとしない、という姿勢。

 しかしこのエリアの岩石は光沢があり、そしてよく滑った。

 まるで殻を剥いたゆで卵の表面くらいに滑らかだった。

 猫ちゃんが岩に張り付いて頑張って踏ん張ろうとするのに、ニニアンが襟を引っ張ると、つるんと岩から滑り落ちるのだ。

 可愛い。

 岩に縋りつこうとする本人はどこまでも本気で、魚が食べられなくなると思い込んでいるのか、目や鼻や口から汁と飛ばしながら「いにゃあいにゃあ」と抵抗する。

 しかしニニアンが軽く引っ張ると、ちゅるんと岩から離れてしまう。

 やめてあげればいいのに、ニニアンも猫ちゃんが岩に引っ付くたびに引き剥がすし。


「ここに住むー! ミィニャ、ここに住むのー!」

「私は無理だ。いつまでもここにはいられない」


 ぐずった子どもの言い分なんてその場だけのものなのに、ニニアンは真に受けて返している。


「君はどうする? わたしはここには住めない」

「わかってるってば。そうだなー、魚を飽きるほど食べてからでも遅くはないかな」

「ほんとう?」


 そう言って、ようやく猫ちゃんの抵抗とも呼べない抵抗は終着を見た。

 「ほんとうにほんとう?」と涙目で必死に縋りついてくる様に、ちょっとだけドキドキした。

 俺の心が和んだので良しとしよう。

 そういう経緯があって、さらに二日も過ごしている。

 はっきり言ってガーゴイルの件は後付けだ。

 軍隊が三階層まで降りてくるのが先か、猫ちゃんがオピオンフィッシュに飽きるのが先か。

 どちらかというと急ぐ旅ではあるが、こういう足止めがあってもいいだろう。


 夜、猫ちゃんが俺の膝の上で何やら遊んでいた。

 自分の尻尾を揉んだり、尻尾の先を自分の鼻にこしょこしょしていただけだった。

 鼻がくすぐったいのが面白いらしく、ときどきひとりでクスクスと笑っている。

 可愛い。

 あどけない一面を見ると、ほっこりする。


 ひとり遊びばかりの猫ちゃんが、いつか妹やファビエンヌの三人でおままごとをする姿を想像してみた。

 姦しいことになるに違いない。

 ファビエンヌが主導権を握ろうとして、リエラがそれになんとか合わせようとし、猫ちゃんはルールを無視して好き勝手に遊ぶ。

 噛み合っていなさそうで、きっと仲良くやるだろう。

 無邪気に笑い、友達に囲まれる猫ちゃん。

 その光景を後ろから眺めるだけで、俺は幸せになれそうだ。


「アルもー」


 物思いに耽っていた俺に、顔を寄せろとばかりに猫ちゃんが服を引っ張ってくる。

 猫ちゃんに顔を近づけると、尻尾でこしょこしょされた。

 くすぐったく、柔らかい毛先が鼻を撫でる。

 猫ちゃんが「にゃはは」と笑っている。

 俺は口を開けて、パクリと猫ちゃんの尻尾を咥えた。


「あー!」


 猫ちゃんが途端に慌て出す。


「アルがミィニャ食べたー! ミィニャの尻尾食べたー!」


 顔を押し返そうとするが、岩のように尻尾を咥えたまま動かない俺。

 猫ちゃんの尻尾をちうちうと吸ってみた。

 口の中に毛が広がっただけだった。


「ミィニャ食べちゃダメー!」

「もぐもぐ、むしゃむしゃ、ごっくん」

「ミィニャ食べられちゃった……」


 猫ちゃんが涙目になる。

 からかうのもこれくらいでいいだろうと思い、口を離す。

 そこには先端が湿っただけの尻尾があった。

 尻尾はなんと、食べられていなかったのだ!

 猫ちゃんは素早く自分の尻尾を咥え込んだ。

 渡してなるものか、という意思が伝わってくる。

 ジト目である。

 でもまあ、間接キスなんだよ。

 それはご褒美なんだよ、チミ。


 よしよしと猫ちゃんの頭を撫でる。

 髪を指で梳いてみたら、そこそこ伸びているのがわかる。

 切るより伸ばして、女の子らしくしてあげたい。

 下心の中からたまに顔を出す、親心という奴だ。


「ツインテールにしようかな」


 髪を指で束ねて、猫ちゃんの頭の両側にふたつの束を作ってみる。


「かわいすぎた……」


 尻尾をちゅうちゅう吸っている仕草と相まって、幼さの輝き具合がすごい。

 幼ければ幼いほど似合ってしまう髪型である。

 猫耳、尻尾、おしゃぶり、ツインテール。

 そのどれもがふつくしい……。

 俺は心を奪われた。


 しばらく髪を梳いていたが、ぴくぴく動く耳に食指が動く。

 耳をカリカリすると、尻尾を咥えたまま、気持ち良さそうに目を閉じた。

 膝の上で喉を鳴らす愛猫である。


「うにゅ~」


 おしゃぶりを咥えた赤ん坊みたいだ。

 下心がどこかに消え、親心が胸中を独占してしまう。

 可愛さ余ってどうにかなってしまいそうだ。

 不意に手を押し退けられた。

 猫ちゃんからの拒絶かと思ってドキッとするが、違った。

 さっきまで膝の上に乗せていた頭が、小さなお尻に変わっただけだ。

 有体に言えば、膝の上に座られた。

 尻尾がちょろちょろと目の前を動き回るが、猫ちゃんが背中を預けてきたので、尻尾は猫ちゃんの足元に逃げてしまった。


 背中と言っても、身長は大して変わらないふたりである。

 むしろ最近の成長具合から、猫ちゃんの方が背が高いという認めがたい事実もある。

 猫ちゃんのうなじあたりが、俺の額の位置に来る。

 ちょっと背を伸ばせば、猫ちゃんの髪の匂いは嗅げるだろう。

 猫ちゃんは俺の両手を掴むと、自分のお腹に回した。

 体のいいシートベルトになれ、と猫姫はご所望だ。

 俺を座席が何かだと思っているのだろうか。

 いいだろう。

 もしかしたらお尻を突き上げる特殊機能が発動してしまうかもしれないが、全身全霊で椅子を演じよう。

 と人知れず意気込んだが、猫ちゃんは鼻歌を口ずさみ、ご機嫌で足をぶらつかせている。

 俺の邪気をものともしない。

 しょうがないのでペタペタと、猫ちゃんの体をまさぐった。

 ときどきくすぐったいところに触れるのか、猫ちゃんが喜びながら身を捩る。

 手が滑って未性徴の胸にも伸びた。

 ちゃんとフニフニできるくらいには、柔らかかった。

 これが少しずつ大きくなるのかと思うと、感慨もひとしおである。

 是非、毎日の日課として成長を両掌で確かめたい所存だ。


 猫ちゃんは安心しきっているのかだらしなく寄りかかってくるので、段々と頭の位置が下がってくる。

 飼い猫が甘えてくるみたいで嬉しいが、何分体格が俺より大きくなってしまった。

 猫は猫でもチーターか豹である。

 確か猫ちゃんは青豹族と言っていたっけ。

 俺の鎖骨あたりに、猫ちゃんの後頭部が置かれた。

 かなり無理な体勢である。

 俺の腹筋がプルプルする。

 なにこれ、新手の苦行ですか?

 と思っていたら、突然膝から飛び降りた。

 猫ちゃんはトコトコと、ニニアンが石を削っているのを眺めに行ってしまった。

 本当に自由気まま。

 猫ちゃんを抱え込んで離さないのは、たぶん無理だろう。

 猫ちゃんは自由でこそ猫ちゃんであるように思えた。


 翌朝、荷物をまとめて背負った。

 猫ちゃんの背中の荷物は、オピオンフィッシュの燻製でパンパンに膨れていた。

 猫ちゃんが納得するだけの魚の燻製を作ったが、相当甘やかしている自覚があった。

 まあ八歳で旅に同行させて、果ては迷宮攻略のために戦力として鍛え上げているのだ。

 いくら獣人族の基本スペックが高いとはいえ、いまは九歳になった女の子に強いることではない。

 だから、普段は超絶に甘やかしているのだ。

 これも反動なのだ。


 地底湖は、最初の想定通り、オピオンフィッシュを一匹釣り上げて魔力を流しテイムした。

 陸大亀よりも比較的あっさりテイムできた。

 やはり体の大きさがネックだろう。

 魚の背に乗って地底湖を移動する。


「あ、そうだ」


 俺は後ろを振り返り、地底湖の真ん中にまっすぐ伸びる岩の道を作っていく。


「なんで後ろに道を作る?」


 ニニアンが首を傾げている。


「帰り道にまたテイムするのが面倒だから」

「道を作るほうが面倒だと思う」


 納得いったようないっていないような顔をしていたが、深くは追求してこなかった。

 それよりも、水面に手を伸ばして水を掻いている猫ちゃんの方に興味が移ったようだ。

 身を乗り出しているので、落ちないか心配だ。


「あ」


 とか言っていたら、魚が進路を少し変えた途端、猫ちゃんがぐらりと前のめりになった。

 ニニアンが寸前で背中の荷物を掴むと、猫ちゃんは水面ぎりぎりで宙ぶらりんになった。

 この子は相変わらず見ている人間をひやひやさせる。

 襲撃してくるオピオンフィッシュを撃退していると、向こう岸が見えてきた。

 その先に、ガーゴイルの群れがいる。

 ステータスを視ると、一体だけレッドガーゴイルと名の付く一回り大きな個体を見つけた。

 あれが三階層のフロアボスだろう。


「“雷砲”」


 まずは挨拶代りの一撃を見舞ってやろう。

 ニニアンは弓弦をすでに目いっぱいまで引いているし、猫ちゃんも高身体強化の魔力を練っている。

 このパーティは、いまのところ危うげがない。

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