04 お前ら誰ぞ?
屋上に続く扉の鍵は壊れていたため、私は難なく寝床を確保することができた。下がコンクリートだから快眠とまではいかなかったけど、あれから数時間くらい眠らせてもらった。もう頭痛と吐き気も催さないし、体調は回復したみたいだ。
「あー」
にしても良く寝たなぁ。数十分眠れれば満足だと思ってたのに、昨日は夜遅かったっけ? ……いや、記憶が無いのに覚えてるわけないか。
ま、せっかくの晴れ晴れとした天気だ。教室に戻る気なんてさらさら無いんだし、まったりここで時間を潰そう。早退してもいいけど、まだ会ったこともない家族に迷惑を掛けるのも気が引ける。
それに息が詰まるんだよな、教室って。あの四面楚歌状態がキツイ。
何時間目かの始まりor終わりのチャイムが鳴ってしばらくすると、屋上にぞろぞろと男四人と女一人のグループがやって来た。
チッ、私の貸し切りだったのにぃ! と歯ぎしりするのも束の間、グループの中に赤髪男を発見し、こりゃまずいと直感が騒ぐ。
うわ、どないしましょう。嫌な予感しかしない。
私はそそくさと彼らの目に入らぬようフェンスに沿って逃亡を試みるが、五人いるうちの一人、眼鏡を掛けた見るからに知的な美男子が目敏く私を発見した。その瞬間、ギラリとそいつの目が光った錯覚を見てしまったよ。
「これはこれは、お久しぶりですねえ。安曇さん?」
季節は春だと言うのに、額に汗が滲み出そう。あなた、見掛け通り知的な口調なんですね。キャラに忠実なんすね。そんで、きっとお腹は真っ黒なんでしょうね。意外性がなくて、それはそれでオイシイと私は思うんだ。
にこやかな表情で吐いた若干の棘がある知的美男子の言葉に、その他四人(例に漏らさずみんな美形)がそれぞれ反応する。
「テメェ、なんでここに……! つかやっぱり仮病かクソ女! 授業サボって屋上とはいい身分だな! さっさと出てけ!!」
最も早い反応を見せたのはもともとのつり目をさらに吊り上げた赤髪。
つーか仮病じゃないし。気持ち悪かったのは本当だし。保健室が馬鹿な男女のせいで使えなかったんだよ!
「俺様たちのテリトリーに無断で足を踏み入れるなんて、いい度胸じゃねぇか」
続いて一番手前にいた偉そうな男が鼻を鳴らす。
自分で自分のことを俺様とか言っちゃってるよ。ちょっと痛い子だよ。将来、黒歴史間違いないだろうからせめて一人称は俺だけにした方がいいって。
「俺……お前、キライ……」
端っこに佇んでいたぼんやりくんが呟く。
どストレートだねきみ! 私に1,000のダメージ! 言う方はさぞ痛快だろうけどな。
「ひっ! な、なんでここにぃ……?」
と、紅一点の女の子。
目に涙を潤ませる顔は可愛いけど、その悲鳴は私に向けられているものなのかな。え、そうなの? 何故怯えてるんだ彼女は。
私は無害だよ~アピールのためにへらっと笑うと、あの知的美男子が彼女を背後に隠すように前へ出てきた。表情はやや不機嫌。笑顔の仮面が崩れかけてる。
「志穂を見ないでください。汚れます」
けが……うおい、私は視線で人をどうこうできる超人じゃないぞ。汚れるって何だよ。私が汚物だとでも言いたいのかこの野郎。ならこっちだってお前のことをこれから眼鏡って呼ぶからな。腐れ眼鏡だからな。
「あ、ありがと……」
「当然のことです。僕は大切なあなたを守りたいだけなんですよ、あの女から」
「理人くん……嬉しい」
二人がとんだ茶番劇を始めたが、よし私は無視しよう。ピンクのオーラをびゅんびゅんに飛ばす彼らを視界からシャットアウトする。
けれど私以外の残りのやつらは見るに耐えなかったらしく、間に割って入っていた。
「おい! 理人テメェ、抜け駆けしてんじゃねーよ!」
「俺様を差し置いてっ」
「……ずるい」
と、三者三様に。
何なんだこいつら。全員この子に惚れてるのか? すごいな、リアルハーレムだ。メイドさんに続いて生きているうちに生で見られて良かったよ。第二の人生でだけど。
彼らがわちゃわちゃ揉めているうちに、私はそぉっと足音立てずに屋上の扉へ向かう。取っ手を握ったところで赤髪男に見つかったが、ここまで来ればこっちのもんさ。ということでさらば、厄介事たちっ!
「待ちやがれクソ女!!」
出てけと言ったり待てと言ったり、発言が矛盾していることに気付いてるのだろうかあいつは。
背中に叫び声が届いたものの深追いする気はないらしく、私は無事に逃げ切れた。
▽ぼんやりくんによる1,000のダメージ!
安曇の精神HP ■■■■□□
▽まあまあの攻撃だったようだ。